パナケイアダンガンロンパ   作:ろぜ。

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(非)日常編 

「はいはい!いんちょーモノアピスです!ビッグなお知らせだよ!なんと!オマエラの為に3階のプールを開放したよ!明日の10時よっぽどの用事がない限り来るコト!だっていんちょー一生懸命作ったんだもーん!」 

ブチっという急いでマイクを繋ぐ音の後モノアピスが院内放送をかける。

 

この病棟にプールを作ってしまったらしい。全くこの院長は…と思うが今日は良い天気。どうやら明日も晴れにする様だし(ここの天気は外の世界と関係なしにモノアピスの好きに決められる。これはひなのさんから聞いた。)正直ちょっと冷たい水に足くらい入れたい。

 

「プールか…暫く入ってないな…!」

「明日の10時…ピクニックと少し被ってしまうな。」

「そうだね!うーん、どうしようかな?」

「ふふ、ではピクニックは明後日にしませんか?」

「賛成だよ、明日は皆でプールへ向かおうか。」

どうやら皆もプールに入ってみたいという気持ちがあるらしく、明日はプールを優先させることにした。

勿論私も賛成だ。

 

次の日私はほぼ皆と同じタイミングでプールへ向かった。水着は部屋に何種類か配布されており、気に入ったものを選べる仕様だ。私は泳ぐことができないので、せめて水場で遊べるようなワンピースを選んだ。モノアピスのチョイスなのかとても可愛い。服の趣味はどうやら合う…なんて少し気楽だろうか。

 

「わぁ!立派なプールですね!」

広がっていたのは本当に学校にある様なもの。高校生だがやはりプールと言われるとワクワクしてしまうものだ。

 

「わ〜い!プールなの!しじみ泳ぐのだいすきなの〜!」

志々水さんはラッシュガードに身を包み満面の笑みで水中を泳ぐ。手際良く髪をお団子へまとめた育さんが後ろから嬉しそうに見守っている。

 

美尽さんとひなのさんはプールサイドに腰を下ろし、会話こそ少なくともぼんやりとその空間を楽しんでいる様だ。

カルテさんはプールの中からプールサイドにいる无子さんへ話しかける。大人っぽいカルテさんのちらりとのぞく八重歯が可愛らしいし、无子さんの橙色の水着はとても似合っている。

 

気付けば皆プールを楽しんでいた。

 

どうやらピクニックの話から盛り上がっている様で、楼さんは雪雫さんと笑顔を浮かべつつ話していた。私はそんな楼さんの姿を見てほっとしつつ、1人プールの水に足を突っ込んだ。

 

 

 

小さな水飛沫をあげ、その粒が私の膝にかかる。浸かった足はひんやりとしていてパシャパシャ動かす水の感覚がとても心地よい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ひばりん気持ちよさそうだねぇ。」

そんな私に声をかけたのは現さん。意外にもしっかり水着を着てプールの中に全身入っていた。

 

「現さん〜!プールの中はどうですか?」

「とっても冷たくて良い気分だよぉ、ねぇうさぎちゃん?」

私は触れて良いのか分からず避けていた話題を、今2人きりのチャンスにかけて聞いてみる。

 

「あの…答えにくかったら答えなくて全然大丈夫なんですが〜、うさぎちゃんってどこにいるのでしょう?」

「あぁ、別に隠してる訳でもないしな。うさぎちゃんは俺の見ている幻覚だ。」

 

「…それは病気の一種なのでしょうか?」

「そうだな。…現実と夢の区別をつけなきゃいけないんだ。」

「現実と夢の区別、ですか」

「嗚呼、それをしないと人はすぐに飲み込まれる。逆に言えば全て自分次第なんだよ。」

現さんは分析心理学者。何が言いたいのか私にはよく分からず、難しくない様で難しい話を少しずつ噛み砕く様にうなずいた。

 

私は現さんとの話を一度切り、もう一度プール全体を眺める。私を含めてここにいるのは15人。

てっきり来ているのかと思ったが…。

超高校級の水泳選手、水波零さんがいなかった。

私は少し不安になり、先に戻る事を現さんや楼さんに告げた。

 

元の服に着替えた後すぐに病室へ向かう。幸い足しか浸かっていなかったので、すぐに更衣室を出る事ができた。

 

トントン

零さんの病室に軽くノックをする。 

「零さん?大丈夫ですか?」

暫く応答はない。

 

一瞬にして嫌な想像が頭をよぎる。焦ってドアノブを捻ろうとした時、ドアは開いた。

そこにいたのは車椅子に座る零さん。無事でいてくれた事は良かったが…

「どっ、どうして車椅子なんです…か?」

初めて会った日には普通に歩いていた筈。

 

「この前お話しした際に病に心当たりは無いと言いましたが、ここまできたらちょっと隠せないですね。…あまり心配をかけたくなかったのですが…僕は無痛無汗症でして。怪我しても何しても今まで気づかなかったんです。下半身の麻痺でやっと…です。車椅子はモノアピスから貰いましたが、自分で動かすのは慣れなくて。待たせてしまってすみません。」 

ぺこりと零さんは頭を下げた。私よりはるかに身長の高い零さんだが、その時はどこか小さく見えた。

 

「それでプールに来なかったんですね…。」

「とても…残念です。もし病気の進行が無ければ…此処でも泳げたのですが。」

零さんが羨ましそうに言う。水泳選手としての零さん泳ぎを私も見てみたかったし、何よりそのすこし切なそうな顔が辛かった。

 

私には何も言えなかった。

 

それから仲間想いの志々水さんが中心となって、零さんの生活をサポートすることとなった。

 

現さんに零さんの病気の話も積もり、私達が何を抱えているのか、改めてズッシリと感じさせたのだった。

病は常に進行している。私達を蝕んでいる。

 


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