刻まれる軽快なリズム。
モノアピスの朝礼放送(尚不定期らしく行われない日も何故かある)ではなく、J-POPで私の今朝は始まった。
どうやら隣室の藍さんからの音の様だ。
焦ったように扉を叩く音がしたので、私はベッドから起き上がりすぐに扉を開けた。
「あの…ごめんなさい糸針クン…。部屋に置かれてたコンポを押してみたら音が止まらなくなっちゃって…。」
藍さんとは自己紹介して以来会話をしていなかった。その為か藍さんは私の顔をチラチラと見ながらも酷く怯えている。
「大丈夫ですよ〜!」
そう言いながら私は藍さんの部屋へ向かう。
コンポを見るがスイッチがいくつもあり、下手に押すと壊れてしまうかも…。大丈夫と言ったはいいものの、私もどうしていいかわからなかった。
「こ、このまま止まらなかったらボク達眠れなくなっちゃうよぉ…ごめんねぇ……!」
「いえ……それはないと思いますが…た、多分このスイッチですかね〜?」
「おい、どうしたんだ。」
「うるさいよさっきから…。なに?」
ドアを開けっぱなしだったからか、コンポの音と私達の会話が聞こえたのかわらわらと皆が集まってくる。
「えーと、コンポの音を止めるスイッチが分からなくてですね〜…。」
「……ハーキマークオーツには直感力という意味があります。」
1番早く着いた美尽さんが宝石を差し出しながら口を開いた。彼も話すのは自己紹介以降だ。
「直感力、ですか?」
私の問いに美尽さんは微笑んで頷くと、手を伸ばしコンポのスイッチを1つ押した。
そのスイッチが正解だったようで、J-POPは途端に止んだ。
「わぁ!止まりました〜!」
「あ…ありがとう月陰クン。」
美尽さんは私達に少し満足気な表情(恐らく)でまた微笑んだ。彼はいつも微笑みを絶やさない。
…でも宝石の意味から察するに直感だったのだろうか。やっぱり不思議な人だ。
「あ!止まったみたいだね!」
皆の間をくぐりながらどこからかモノアピスが現れる。
「あまりにも長い間流すからいんちょーが直々に使い方を教えてあげようと思ったけど必要なかったかぁ!」
「部屋って防音じゃないんですね。」
「この状況を見る限り、お隣の部屋には漏れてしまうようです♡」
「そんな完全防音なんて贅沢言わないでよ〜!隣の部屋には音漏れあるかもしれないけど、普通に使う分には十分でしょ!もし大声出したかったり、出しちゃうような状況を作りたいなら音楽室でも行ってね!じゃ!」
ひなのさんとカルテさんに言葉を返すと、モノアピスはパタパタと走っていってしまった。
それに続くようにして皆もそれぞれの部屋へと帰っていった。もう一度美尽さんにお礼を言い(主に藍さんが部屋を掃除するとちょっとよく分からない泣きべそをかいていた。)私は楼さんと厨房に向かった。
勿論プリンを作る為。冷やす工程もあるので、早めに作っておくことにしたのだ。
厨房の中はかなり広く、食材のジャンルごとに丁寧に分けられている。調理器具の揃えも良い。また食材は自動で追加されるらしい。一般家庭より遥かにいい設備だ。認めるのは少し悔しいけれど。
教えながらだったので2時間半くらいかかっただろうか。
楼さんと一緒に作るプリンはいつもより楽しかった。
お目当てのオムライスを食べた後、プリンを持って中庭に向かう。食堂からまっすぐいって、玄関ホールを抜けると中庭は広がっている。緑の芝生が綺麗で風の通りがいいから、ピクニックにはうってつけだろう。
「お待たせしました〜!…あら?やっぱり私達だけだったんですね〜?」
中庭には約束をした4人しかいなかった。
「ううん、志々水ちゃんも行くって言ってたんだけど…用事ができたみたいで。」
「にしては遅いよなぁ。急用にしても後で向かうって言ってたし…。」
「迷っていたりしてないかな?心配だなぁ。」
どうやら、志々水さんもピクニックに参加する予定だったらしいがまだ集まっていない様だった。
「海老塚は中庭の場所がホールをつっきったところだなんて知らない可能性があるな。」
「私達で迎えにいきませんか?手分けして志々水さんを探しましょう。」
「そうですね〜!」
私達が志々水さんを探しに行こうと思い、腰を上げたその時、それは鳴り響いた。
『死体が発見されました。繰り返します、死体が発見されました。場所は海老塚志々水さんの病室です。生徒はすぐに向かってください。』
___死体発見アナウンス
ドキリと心臓が跳ね上がるのがわかる。
そして私たちは互いの顔を見合わせ思わず口走った。
「え、志々水さんの病室…?」
「まさか…。」
「でも今死体って…!」
「おいまじかよ!?」
「…今は急ごう。」
私達は不安な気持ちでいっぱいのまま、志々水さんの病室まで向かった。
迅さんを先頭にして進む。早く辿り着いてほしい。いやでも辿り着かないで。あぁ、お願い誰も死んでないって言って…そう、モノアピスの悪戯でしょう?
心臓は鳴り止まない。嫌な想像だけが頭をよぎり、早める足に呼吸が追いつかず苦しい。
「月羽さん…?大丈夫ですか!」
志々水さんの病室の前には月羽さんが座り込み、私達の顔を見ると震えながら病室の中を指した。
「る…るうが……開けた時……には…。」
『しじみもおとーさんみたいなハカセになるのが夢なの!』
夢…夢だといっていたのに………
そんな………。
昨日までピンク色の頬をしていたなんて思えないほど、海の様に深く青い顔色。
輝いていた瞳に光はなく、目玉は上をひん剥き。
そして乾かぬ大粒の涙。口からは泡を。
明るく無邪気で、常に皆を癒してくれた志々水さんは、苦悶を浮かべた表情で死んでいた。
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