必ず犯人を見つけてあげたい、そんな気持ちは大いにある。志々水さんの明るい笑顔に救われた人はたくさんいる筈だから。
でもどうやって?私は人形師である事を除けばただの高校生だ。
いきなり、殺人犯を見つけ出して下さい。なんて言われても…捜査の仕方がわからないのだ。
私がただ立ち尽くしていると、楼さんが言う。
「糸針、まずは遺体について調べないか?」
遺体…、そういえば昔の刑事ドラマで遺体を調べるなんてワンシーンがあったっけ…。
「…そうですね!とりあえず見てみましょうか!」
意気込んだはいいものの、いざ志々水さんの遺体を目にすると今にも泣き出してしまいそうだ。あんなに優しくて可愛らしくて…夢があって…どうして殺されなくちゃいけなかったの?こんな酷い姿になってまで殺人は必要…?否、私達全員には必要な動機がある。何が悪い?犯人?モノアピス?それとも世界?
遺体を捜査することから逃げるかのように今考えても仕方のない事ばかりがぐるぐると頭をめぐる。
「…糸針?大丈夫か?」
そんな様子に気づいたのか楼さんが私の顔を軽く覗き込む。
「すっすみません…。あまり人の死体を見るのは得意でなくて…ですね…。昨日まで生きていました…し、未だ信じられず…。」
「…そうだよな。わかった、俺が海老塚の遺体を調べる。お前は此処で待っているか、他の場所を捜査してくれ。」
「でっでも…楼さんだって辛いですよね?」
「俺は葬儀屋だ。こんなこと慣れてる。」
「あ…!」
楼さんは私の返事を待たず、志々水さんの部屋へと行ってしまった。これもきっと優しさだということはよく分かっている。でも慣れていても辛くないわけないじゃない。
本当にこれでいいの?
心の中の自分がそう問いかける。
“だって楼さんが見てくれるって…”
逃げていいの?
志々水さんが死んだことから目を背けて、大切なことを見落としてもあなたはそれでいいの?ううん、もう見落としてるんじゃないの?
ゆっくりと目を開け、私は頷く。深呼吸をする。心は決まった。
「楼さん…!やっぱり私も遺体の捜査をします…!」
病室に飛び込み思いを告げる。志々水さんの為にできる捜査を投げ出したくない。逃げたままじゃ私は何も変われない。
「無理はするなよ。」
楼さんはビックリした様に私の目を見たが、すぐに逸らすと何も聞かずぶっきらぼうに答えた。
遺体をもう一度見る。やっぱりちょっと心が痛むけれど、もう大丈夫だ。私なら大丈夫。
志々水さんの遺体で一番最初に目につくのは、口から吹き出した泡。
「楼さん、泡を吹くというのは…どういう事なんでしょう?」
「恐らくだがこれは薬からだ…見ろ、遺体の近くに薬が散らばってるだろ?…海老塚はこの薬で殺された。だから泡を吹いているんじゃねぇか?」
楼さんに言われ、志々水さんの遺体近くの床を見ると確かに小さめの薬が散らばっているのが確認できる。そういえばこの建物には薬品保管庫があったはず。犯人はそこから持ち出したのかもしれない。
「薬については…そうですね、後でカルテさんに聞いてみましょうか〜。」
彼女なら何か他の手掛かりを掴んでいるかも。
口元の泡を拭ってあげたい気持ちがあったが、死体を動かしてはいけないというドラマの入れ知恵でグッと堪え、私は目線を更に下に向けた。首には何故か絞め跡が残っている。しかも結構強く絞めたのか、跡はくっきり残り、食い込んだのか血が大量ではないが目視できるくらいには流れている。
でも何故首に絞め跡が…?1つ謎が浮かんだ。
次に体全体を見てみる。衣服は乱れてないが気になるところがあった。リボン真ん中のスカーフリングだ。
「志々水さんのスカーフリングってこんなにひびが入っていましたっけ…?」
「?いや…入っていなかったと思うが…。割れているな。」
そっと触れてみるとそのスカーフリングが開閉式になっているのを発見した。
「わ!このスカーフリング開けられるんですね…!…でも何を入れるのでしょう?」
何か物が入っているわけでもなく、それは空っぽだった。もしかすると志々水さんなりのお洒落な拘りなのかもしれない。
そして隅々まで調べる為、そっと靴下を脱がす。…このくらいは大丈夫だろう。何か証拠が落ちてはいないかと脱がしたものの、その足に明らかな異変がある事に気づく。
「足に…鱗があります…。」
「鱗、か?」
志々水さんの小さな足に張り付くそれは、紛れもなく魚の鱗だった。そしてそれは恐らく…
「これは志々水さんの病気の正体でしょうか?」
私は一度遺体から離れ、病室の中を捜索する。思いつく節があった。
ベッドの近く、引き出しの中。もし志々水さんが場所を移動していなければ…
「ありました〜、志々水さんのカルテです。」
そう、私たちには1人1つ病室の中に自分のカルテが配布されている。私はすぐ病室も探索していたので、それがどこにあるのか知っていた。
また、カルテとは病気の説明や進行状況が書かれているものだ。志々水さんには申し訳ないけれど少し覗かせて貰う事にする。
病気の名前は魚人病。原因は不明で、進行につれ足先から魚の鱗のようなもので覆われる病気らしい。どうやら視力も関係するようだ。鱗を除去する事で進行を一時的に止められるが激しい痛みが伴う、と書いてある。
どうやら足先の鱗は志々水さんの病気からなるもので間違いないようだった。
顔をあげ、壁を見ると大きな紙が貼ってある。
「あら…カレンダー…今日の予定に私たちとのピクニックが書いてあります。」
「あぁ、プールの日に約束を取り付けたようだな。」
ピクニックに来る事は元々決まっていたようだ。
私たちは病室を出て、第一発見者である月羽さんに話を聞く。月羽さんは気が弱くおとなしい性格だが、震えながらも口を開いてくれた。
「るうはランドリーに行こうと思ったんです……特にすることもなかったですし……そ、そしたら海老塚さんの病室の扉だけ不自然に空いていて………その時には海老塚さんは…っ。」
月羽さんは言葉に詰まってしまった。ショックだっただろう。私は月羽さんの背中をポンポンと叩く。
「…それで立ち上がれなくなってしまった時……操生さんがやってきたんです…説明するとアナウンスを鳴らす為人を呼んできてくれました……。やってきたのが仍仇さんです。」
「操生が来るまで、仍仇が来るまで、それぞれ何分くらいだったか覚えてるか?」
「えっと操生さんが来るまで2分ほどるうは動けませんでした…その後もですけど…すみません……ゴミですよね……あぁ、仍仇さんが来るまでは5分過ぎくらいはかかったと思います…。」
「ありがとうございます〜、当時の状況は何も変わらないままですよね?」
「そうです…仍仇さんが一度脈を測ったくらいで…あとはるう達何も触ってないですよ…。」
月羽さんから得た情報に頷くと、お礼を言い一度月羽さんと別れた。月羽さんは倉庫に行って凶器になりそうなものがないかもう一度調べてみるそうだ。
そして医療関係、薬に詳しい人物として、カルテさんのところへ向かった。カルテさんは海老塚さんの自室にはおらず、図書室にいた。
「カルテさん?看護師としてのあなたに少しお話を聞きたいのですが…。」
「…?緋巴銉ちゃんと楼くんじゃないですか♡頼って頂けて嬉しいです♡どうぞ、なんでも聞いてください♡」
カルテさんはマスクで殆ど顔が隠れているが、目を細めているので笑っていることが確認できた。
捜査中に話しかけても嫌な顔一つしない、カルテさんはとても心優しい人だ。
「遺体周辺に散らばっていた薬について聞きたいです〜。」
「看薬院なら何か分かるかと思って…。」
「あら偶然ですね♡ 私もそれが気になって調べていたところです♡うふふ、此方の薬はどうやら病棟のものではないみたいです♡」
「なるほど…。では此方は志々水さんの所有物なのでしょうか…?」
「うーん、私もちょっと見ただけなのでよくわかりませんが一般的に服用される薬ではないことだけは確かです♡ でも泡を吹くということは神経毒かもしれませんね♡」
「神経毒か…。」
楼さんが考え込んだ時、モノアピスの放送を告げるチャイムが鳴った。それを聞いてカルテさんは言う。
「そろそろ始まるようですね♡」
「え?」
「もう皆調べ終わったかな~~?ちょっと早かった?いよいよ学級裁判を始めるよ!…学級裁判でいいのか知らないけど。まっ中庭に集まってよ!」
これで決まるのだ、海老塚さんを殺した犯人が。そして勿論私達の生死も…。
そう、運命の学級裁判が始まる。