Pと青羽とアイドルと   作:パンド

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奈緒にしょうもないボケを見せてツッコミ入れて欲しい


『なんや、まーたやっとるわって感じです』

 

「青羽美咲さん。俺と、結婚を前提にお付き合いして貰えませんか?」

 

 

 男プロデューサー、一世一代の大勝負であった。

 就職難を乗り越え765プロダクションに採用され早6年、765ASのプロデュースで大きな成果を挙げ、今や『39プロジェクト』の総合責任者及び765 プロライブ劇場(シアター)──通称シアターの支配人となった彼は、満を待して想い人へと告白した。

 そして彼の想い人であるところの、シアター事務員を務める女性──青羽美咲は、彼からの告白を受け、困ったような笑みを浮かべると。

 

「いつもごめんなさいプロデューサーさん。今は仕事が楽しくて……恋愛とか、そういうのはちょっと」

「──そう、ですよね。アハハハ」

「あ、私このみさんに呼ばれてて、失礼しまーす」

 

 撃沈。

 まさにそう呼ぶ他ない結果に、プロデューサーは乾いた笑いを浮かべる。

 こうして、プロデューサーの恋は終わった。

 長年の想いは潰え、彼の業績は悪化の一途を辿り、その煽りを受けたシアターの経営も──「まてまてまて、なんやおかしいことになってません?!」

 

「どうしたんだ奈緒、急におかしな声を上げて」

「いやいや、おかしいのはプロデューサーさんの方ですって」

 

 なんてツッコミを入れたのは、入れずにはいられなかったのは、縦ロールのサイドテールが印象的な大阪からやってきた17歳アイドル──横山奈緒であった。

 先ほどから事務室のソファーでスマホをいじっていた奈緒は、耐えかねた様子で立ち上がると、プロデューサーへビシッと指を刺し。

 

「だいたいなんやねん一世一代の大勝負って、週に一度の定例行事と間違えてるやろ!!」

「そんなとこにまでツッコミを入れようとするんじゃない!! それに、流石に週一で告白はしてない……はずだ」

「そこは自信持って答えてくださいよ……」

 

 向けていた指が腕ごとヘロヘロ落ちていく。

 と、まぁ。

 このやり取りから察せられるように、プロデューサーが美咲に告白をしたのはこれが初めてでもなんでもなく、アイドル達からしてみれば。

 

「なんや、まーたやっとるわって感じです」

「なにがだ?」

「プロデューサーさんの告白芸が」

「人の告白を一発芸みたいに言うな、俺は本気なんだから」

「一発屋の芸人さんも本気やったと思いますけど。いうてこんだけしょっちゅう告白してたら、真剣味が感じられませんて」

「馬鹿な……溢れんばかりの青羽さんへの愛情が、裏目に出たっていうのか……」

「アカン普通に気色が悪い」

 

 まさかの指摘にワナワナと震えるプロデューサー、その姿に思わず身震いしてしまう奈緒であった。

 そしてやや経って、心が帰ってきたらしいプロデューサーはデスクの上から一枚のファイルを取り出し、ジト目でこちらを見る奈緒へ手渡すと。

 

「そういえば奈緒、これ次の仕事の資料な。明後日の午後一に打ち合わせをしたいから、今日明日で読み込んでおいてくれ」

「次の仕事ですか?」

「ああ、●▲区に新しい商店街ができるだろ? あそこのレポート、先方さんから元気でよく食べる子が欲しいって頼まれてな」

 

 その商店街のことは、奈緒も知っている。

 以前にもプロデューサーを含めた、自身の所属するユニットで話題に出たことがあったし、彼女は個人的にも気にしていたからだ。

 曰く、昭和の空気が味わえる商店街。

 東京都中から、あの独特の雰囲気を残したいという人達が集まり参加しているプロジェクトであり、大きな注目を集めている話題の場所だ。

 そんな場所だから、きっとこの仕事も相当苦労して持ってきたことも、奈緒はなんとなく察していた。

 

「えと、このお仕事……ほんまに私でいいんです?」

「当たり前だろ? 言ってたじゃないか、こういう場所でレポートができたら最高に楽しそうだって」

 

 確かに言った。

 奈緒は、確かにプロデューサーの前でそう言った。

 けどそれはあくまで皆んなとの会話の中で発した単なる願望であって、よくある例え話であって、現実になるとは思ってもみなかった。

 それなのに。

 

「お、覚えててくれたんですね。あん時のこと」

「まぁ、俺は奈緒のプロデューサーだからな」

「……はぁ、プロデューサーさんのそういうとこ、なんやズルイと思います」

 

 普段はあんな感じのくせに、本当に自分たちのことをよく見てくれている。

 そういうプロデューサーだから、彼女たちは安心して一緒に仕事ができるのだが。

 

「ありがとうございます、プロデューサーさん。まぁ美咲さんとのことも、陰ながら応援してますわ」

「おう、いつか青羽さんの承諾を得てみせる。待ってて下さい青羽さん、今行きます!!」

「1日に2度もフラれに行かんといてくださいよ、また日を改めればええやん」

 

 本人も満更じゃなさそうやし。と、心の中で付け足す。

 プロデューサーは毎度撃沈しているので知らないだろうが、立ち去る時の美咲を見る限り、脈なしとも思えないというのが彼女の評価であった。

 

「そういえばプロデューサーさん、1個気になることがあったんやけど。なんで美咲さんのことは、名前で呼ばへんの?」

「おいおい奈緒、俺がお付き合いもしていない女性を、名前で呼ぶような礼を失した男に見えるのか?」

「いてこますぞ、言ってる側から私を名前で呼んでますやん!! どんだけ美咲さんは特別やねん」

 

 妙なところで距離を保つ人だ。

 なにかしらの拘りがあるのかも知れないが、今の奈緒にはよくわからない。

 

「ははは、青羽さんの好きなところなら100個は余裕で言えるさ」

「ほんまですか〜? そんな大口叩いて、実際に言えてる人見たことないわ〜」

 

 すると、それを聞いたプロデューサーはスッと立ち上がり、冷蔵庫からお茶とプリンを取り出した。

 

「プロデューサーさん、このプリン思い切り『茜ちゃん』って書いてあるんやけど」

「大丈夫だ、今日のスケジュール的にどうせこの後麗花がきてプリンを食べていくところまでは読めてる」

「その理屈のどの辺に大丈夫があるんです?」

「そして茜がくる前に新しいプリンを用意すればなんの問題もない」

「なるほど、せやったら確かに──いや、そもそもなんでいきなりプリンやねん。ステーキやあるまいし」

 

 プロデューサーの意図が読めない奈緒がそうツッコミを入れると、待ってましたと言わんばかりに。

 

「そりゃあ青羽さんの好きなところを100個に絞るとなったら時間が必要だからな、まぁプリンでも食べながら聞いていってくれ」

「…………はい?」

「まず最初に────」

 

 

 

 ■ □ ■

 

 

 

「で、どうなのよ美咲ちゃん。実のところは」

 

 事務室のドア。

 その隙間からはプロデューサーのプロデューサーによるプロデューサーのための、青羽美咲の好きにならざるを得ない箇所100選が垂れ流しになっており、当の青羽美咲とシアター最年長アイドルにして自称セクシーお姉さん──馬場このみは入るに入れない状況になっていた。

 無論、このみとしては入っても全く構わないのだが。むしろ美咲の手を引いて乱入しようかなどと考えていたのだが。

 どうしようかと思いつつ、とりあえず顔を真っ赤にしてしまった歳下の事務員へ率直に質問してみることにした。

 

「プロデューサーさんのことは……えと、その……好きなんですけど」

「……けど?」

「私の好きは、頼りになるお兄さんって感じの好きで……たぶん、プロデューサーさんが私に言ってくれてる好きとは、違うのかなあって」

「なるほどね、これは先が思いやられるわ」

 

 どうやら、プロデューサーの恋の成就は当分先になりそうである。

 そう話を締めくくったこのみが見ている先で「あーこれ本気で100個言う流れや」と気がついた奈緒が、プロデューサーから逃げようとしていた。

 ちなみに茜はプロデューサーが買い足したプリンも全て麗花に食べられた。

 

 

 

 




始終こんなノリの話です、続きは思いついたら書きます

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