なお、エリちゃんは現在八歳。
生前なのでfate本編での角と尻尾はないと思って……え、アイデンティティ? 強烈なキャラと赤に決まってんでしょ(錯乱
エリちゃんの家庭事情についてめっちゃ色々調べたけど誤字脱字、想像と違ったらゴメンね。
「────エリザ、今日から彼がお前の家庭教師だ」
そう言ってお父様はあたしの前に奇天烈極まりない男を連れてきた。
ついにあんたもおかしくなったかー、とあたしはつまらなそうにお父様に一瞥をくれてやる。
目の前に現れたのは見たこともない服を着た優男。聖職者の格好かしら。黒いし長いし。うちのサタニズムのガボール伯父様の格好は参考にならないし。
「……神父の間違いじゃないかしらお父様」
「ん、いや。彼は我が領内でも爆発的な人気を誇っている名のある教師だ」
……なんだ、要するに領民(ブタ)の家庭教師じゃない。下手でも他の貴族から教師を選ばなかった父にイライラが募る。
お父様は横でニコニコと微笑みをたたえている男に『自己紹介を』と気の良さそうな雰囲気で告げた。
「感謝します、バートリー卿」
男は丁寧にお父様に礼をする。
「はじめましてエリザベート嬢。アヴェル=ミツィルワートと申します」
「……どうも」
興味なさげに生返事で返す。
「どうか気兼ねなく親しみを込めて、アベルと呼んでください」
……なーにが親しみよ。どうせ我がバートリ家の金や名声にでも釣られたのだろう、このブタめ。
まぁトーゼンよね! なんと言ってもあたしは貴族の中の貴族、そうノーブルofノーブル!
あなたのような豚に名前など結構。ブタで十分よ、ブタ!
「エリザ、書斎に案内してあげなさい。役立つ書物のたくさんある部屋だ。あとろうそくは棚の上に……六本だったか? 机は四つ。ヴァイオリンは二つ、椅子は全部で十六。本の総数は……」
「うっさいわ! そこまで言わなくても長いこと住んでるんだから分かるわよ! ……一階の突き当たりの部屋でしょう?」
耳障りに聞こえるくらい説明してくるお父様にアタシは癇癪を立てて怒鳴る。
『わかっているならいいんだ』、とお父様は言って腕を背に組んだ。相変わらず病気的に慎重だこと。
「ではよろしく頼むぞ」
「お任せください、バートリー卿。────────ではよろしくお願いします、エリザベートお嬢様」
お父様と別れ、アタシは彼を連れて書斎へと足を運ぶ。その間、彼をチラリと見ながら品定めをする。
見たことのない灰色の服に海のように蒼い髪。……まぁ顔も及第点ってところ。悪くない。
けど、正直乗り気がしない。勉強なんて自分でできるし、あたしに家庭教師なんて必要ないのだから。
彼は鬱憤ばらしのための道具として扱うことにする。のちに困り果てる様が見ものだわ。
「言っておくけど、あたしには教師なんていらないの。基本一人で全部やる。あなたはせいぜい壁の染みでも眺めてなさい、ブタ教師」
「ぶ、ブタ……」
彼を不機嫌にさせるようなあからさまな挑発をする。数秒後に返ってくるだろう彼の反応を待ちながらアタシは彼への罰を考える。
高名な教師様なら……いや。それなりの地位にいる者ならこれで不満や怒りを覚えない者はいない。
不満げな顔をするなら鞭を頬にくれてやろうか。はたまた、尻を鞭で裂いて罵倒を浴びせようか。
口答えをするならそれ以上のしつけが必要ね。
アキレス腱を切って頭を踏みつける必要がありるわ。どちらが雇い主で、どちらが上なのかを教えなくては。
これからの楽しみにあたしはゾクゾクと背中が強張るのを感じる。
「なに? なにか不服でもあるわけ?」
ところが返ってきたのは意外な反応だった。
……彼は苦笑いをして見せたのだ。
「いや、ブタどころが痩せた犬みたいだってよく言われるんですよ……はは」
「……はぁ?」
なんで不満一つあげないのよ?
思い通りにならず、つい貴族らしからぬ声をあげてしまう。
「……わかりました。僕は極力お嬢様の意思を尊重します。なにか助けになれることがあれば、いつでもお申し付けください」
「……そう」
アタシは書斎の扉を開け中に入る。痩せブタ教師もアタシに続く。
「……っ」
突然頭の先に、針に刺されたような痛みが走り手で押さえる。
「お嬢様、大丈夫ですか……」
「────ブタがアタシに触れるな!!」
手を貸そうとしたブタの手を弾く。
あぁ、余計に痛くなったじゃないの! どうしてくれよう。もう殺すしかない。本物の家畜みたいに屠殺するしかない!
「申し訳ありません、お嬢様」
「はぁ? もういいわ。もう遅いもの。クビよクビ。さっさと出て行くか、ここでアタシになぶり殺されるか選びなさい」
アタシは気晴らしも含めて持ち歩いている鞭を取り出し、しならせる。振り下ろされた鞭は小気味のいい音を出し足元の絨毯を縦に裂く。
「いえ、そうではなく。こめかみに怪我や痛みはございますか?」
「ないわよ。それよりもあなた、心臓と四肢の痛みの方を気にしたほうがいいわよ? 今から裂いて内臓を引きずり出してあげる。あと、ひとつ教えてあげる。ここ、防音なのよ?」
あなたがどうされようが悲鳴をあげようが誰も気づかれることはない。
たまにイシュトヴァン兄さまが使用人や客人をレイプする時にも使われている。
なるほど、と痩せブタ教師は顔をうつむかせる。……というか話聞いてる? 出てけってんだけど。
「そうですか……失礼」
すると痩せブタ教師は突然私のこめかみに拳をあてがいグリグリグリグr……ぃぃぃ────っ!?
「ちょっ!? ぁぁぁ触るなって言ったでしょ! 両腕を斬り落とされたい!? ────ぁあああぁあっ!?」
「少し痛いかもしれません」
「それやる前に言うことじゃない!? ぎゃぅぅっ!」
しばらくして奇行種ブタ教師は私のこめかみから手を離す。
「きょきょきょ、極刑っ!! あなた極刑よ! 今すぐにお父様に言いつけてさらし首にしてやるわ!」
「落ち着いてください、お嬢様。マッサージをしただけです。ところで……頭痛の具合はどうです?」
「……? あ、あっ……あれ?」
そういえば少し痛みがマシになったような。
「頭痛にも種類がございますが……それでもこめかみなどの特定の経穴……ツボを押すと痛みが和らぐ場合があるんですよ。東洋医学の知識です」
「……っ。そ、そうなの」
こ、こいつ……意外に博識ね……。
……先ほどよりはマシになったけどやはり痛い。こうイラつく事があるとこの頭痛がもっと酷いことになる。
「……く、ぐぐぐ……っ」
この胸のムカムカは苛立ちか怒りか。
アタシは気を紛らわすために棚からイギリスから取り寄せた小説を取り出す。
「……ふぅ」
うん、落ち着く。やっぱり物語は文明が産んだ至高の嗜好……うわ、あたしとしたことがつまんない洒落。けど、ロマンス最高。
ハラハラと本をめくり好きなシーンを読む。
この本は訳されていない英語の原作本。
基本的にラテン語を使うあたしたちには英語は未知のもの。
辞書も用意してあるから半分は読み解けているけれど、あたしのラテン語は、読み書きの方に関してはまだ完璧ではない。
演奏家を呼びつけヴァイオリンを弾かせながら優雅に読むのはまことに……。
あたしはたまたま棚にあった楽譜本を取り出し痩せブタ家庭教師を無視しながら演奏を思い出す。
「好きなのですか? 音楽」
彼は驚きの表情を浮かべてアタシに尋ねる。まぁ、何かを尋ねられるのは嫌いではない。
普段、このあたしにかけられる言葉は侍女が粗相をしたときの謝罪か、お父様の賞賛のみだった。余計な雑談が入り込む隙など一切ない。
……思えば、誰かに必要な要件以外で話しかけられるのは生まれて初めてかもしれない。
あったかもしれないけど、それすら忘れてしまうほどに久しぶりだった。
あたしは気まぐれに彼からの質問に返答を返した。……これはほんの気まぐれだから。次はないわ。
「気が紛れるのよ」
「……そうですか。とても素敵だと思います」
「……」
あたしの高貴な趣味への理解に内心少しウキウキしていたが、それを露わにしてこいつの機嫌を良くするのも嫌だ。
ふん、と鼻で笑う。
あぁやっぱり気に食わない。なにがおかしくてにこやかに笑っているのか。
なにをどうやってあのブタがお父様に取り入ったかはわからないけれど、こいつを自発的にやめさせる方法はないものか。
アタシは彼の顔をチラリと見る。
まぁマジで体型や顔が豚みたいなやつが来たら肉を削ぎ落として、豚肉にして食卓に並べる……いや粗大ゴミ行きだ。そんな肉食べたくないし。普通にブタから食うし。
そうしたいところだけれども。顔はまぁまぁな方だからその点は文句は言えないわ。ニンジンみたいにガリガリでもないからそこの点もオッケーだ。
ある程度来てマシな部類な家庭教師だが……アタシの様な高みにいる大貴族とブタの教育なんて比較にならない。
というか、庶民に! よりにもよって豚にまで教育を施すとかなにを考えているのかしら、こいつ。
きっとお父様はそれを阻止するためにアタシのもとへこいつを運んだのか。領民に余計なことを吹き込まれては厄介だから。
ブタになにを教えたってムダということがわからないのかしら。あぁ、まぁこいつも痩せブタだからね。豚同士お似合いよ。
ブタはブタ同士仲良くブヒブヒ教えあってなさいな。……ん? 教える……?
教える……教える……待てよ。……家庭教師。
────────そうか! エリちゃんいいことに気がついたわ! さすが私! 天才だわ!
「ちょっと痩せブタ教師」
「はい、なんでしょうか?」
アタシは書斎にあるヴァイオリンを指す。
「アタシ、音楽にはとても厳しいの。お父様からうかがってるわ。あなた、ブタ教師のわりにはとても優秀なんですって?」
「……はは、まぁ人並みには努力してきましたから」
あえてブタとか余計につけてるのに否定も突っ込みもしないわね、こいつ。
「試しに弾いてみてちょうだい? あぁ気に食わなかったら二階の窓から放り出してあげる。感謝なさい」
「さすがにそれはいやですね。がんばらせていただきます」
がんばる、ねぇ。ふふ、できなかったときの言い訳でも考えておくといいわ。
痩せブタ教師は椅子に座り一丁前に伸びをする。
「じゃあアンタには────」
「この曲でよろしいですか?」
「っ!? え、えぇ……」
アタシがこれから弾かせる曲を指定する前に、彼は心を読んだかの様に言い当ててきた。
「先ほどからずっとそのページを見ていたので。その曲が好きなのかなと思いました」
……。へぇ。
まぁ、好きな曲というのは当たっている。けれど弾けるものもあたしを含めてほとんどいない。一度、天才的な演奏家に弾いてもらったのを何度も思い出していたのよね。
それがすごく綺麗な音色だったから。いつかは自分でやってみたいと思ってた。
「……ふん。見る目はあるようだけれど腕がなくちゃ意味がないわ。さぁ、あなたの手にはヒヅメがあるのか指があるのか見せてもらおうじゃない」
選んだのは他の楽譜に比べ音符の数が圧倒的に多く、指遣いの難しいところが多い。
あまりの難しさにあたしもイラついて匙を投げたほどの。
数秒も経たないうちに、ヴァイオリンから流れるような音色が溢れてきた。
「ぇ、ひぇぇ……?」
存外、めちゃくちゃ上手かった。
耳障りな音や弾き間違えも一つもなく。
指がまるで別の生き物のように動き、川が流れるように滑らかで綺麗な演奏。
それにあたしは感服するしかなかった。
「……いかがでしたでしょうか」
「……へ? え、あ、あぁ! まぁまぁね! うん、まぁまぁ!」
「ならよかったです。ではエリザベート様、席にどうぞ」
「……え゙っ」
え、ちょ。うそ。
「な、なんであたしが弾くの? え? 同じやつを?」
「はい。エリザベート様がどれほどの腕かを知っておきたいので」
こ、こいつ……!!
腹がかき混ぜられて煮えくり返る思いだわ……!
頭が爆発しそう!
「え、えぇ、えぇ。わかったわ。じゃあそこにでも座って見ているといいわ。あたしの、完膚なきまでに、かんっぺきな演奏を!」
ゔ、ゔーぁ、ぁぁぁあああっ!
なんで自分でハードル上げるのぉあだしぃ! 憎い、こんな時に情けないこと言えない貴族の名が憎い!
自分でもできないパート弾かせるんじゃなかったぁ!
けど負けない。絶対に負けてなるものですか。
あたしはバートリ=エルジェーベト。またの名をエリザベート=バートリー。
ハンガリーの大貴族にして天才児……っ!
筋書きはこう。唐突に音楽の才に覚醒したあたしは神の調律にも等しい演奏を披露。
そして減らず口を叩いたこのブタを、ほれ見たことか、とこき下ろし処刑!
あぁっ、かんっぺきじゃない。さすがあたし。
それがあまりに非現実的なことを除けば────!
****
予想通り、うまく弾けませんでした。
「……なるほど」
うん、うんと彼はうなずく。
「な、なによ!! 楽器ができないからってなによ!! そこ以外のとこなら弾けるんだから! それに別にヴァイオリンなんてできなくたっていいでしょ!? そうよ、綺麗ならいいんだもの! ブサイクが優雅にヴァイオリン弾いても、でもなぁって一言つくでしょう!?」
あたしは早口でまくし立て自己弁護と情けない言い訳を始めた。あぁ、我ながらすごい情けない。ハンガリーの大貴族たるあたしがこんな恥知らずなことを口走るだなんて。
すると男はくすりと嘲笑ではなく、純粋には晴れやかな笑みを浮かべる。
「美人が席について打ち鳴らすように弾くのも、でもなぁ、と思われますよ」
「うっさい! 口答えする気!?」
────あたしは綺麗だからなんでも許されるのよ(暴論)!
「ここの指運びを、こう」
突然、彼は私の手を引いて正しい指の運び方を身体を持って学ばせる。
彼のつける白手袋越しに体温が伝わってくる。
「えっ、ちょっと!?」
「ここのパートで苦労しているようでしたので。ここをこうすれば、ほら。綺麗に弾けると思いますよ」
な、なんてバカなの。極刑よ。極刑物よ。
あたしの肌に触れるなんて。て……手袋ありだから許すけど、素手で触ってたらその腕を切り落としているところよ。
「……こ、こう?」
「はい、上手です。あともう少し練習をしてみましょう」
「え、えぇ……」
彼の言うとおりに続けて弾く。すると今まで弾けなかった楽譜の部分が驚くように容易に弾けた。
「お嬢様は後自分で不得手と言っていましたが、そんなことはありませんよ」
彼の中性的な声が響く。
「楽譜はほとんど見ていませんでした。もうすでに頭の中に入ってはいるものの、指が追いつかない。そんなふうに思えました」
あたしの黙る様子を見て彼はそれ以上は失礼と思ったのか、言葉を止める。
「……」
「……無礼でしたか?」
「いいわ。まだ言いたいことがあるのでしょう? ……もっと言いなさい」
あたしは演奏を続ける。彼に教わった指使い。あたしにとても合っていたのか、今まで覚えるだけで自分では弾けなかった曲が流れるように弾ける。
「……今なら音で遮られているからあたしには聞こえないわ。聞こえない無礼は無礼でなくてよ」
「はい、わかりました」
ちらりと横を見ると、彼はニコニコと子犬のように微笑んでいた。
***
「……どうかしら」
「はい、大変素晴らしい演奏でした。エリザベートお嬢様」
よっし!! どうよ、あたしの手にかかれば演奏なんてほんの少しでプロレベル……さすがあたし。
「エリザベート様は非常に熱心に物事に取り組まれるのですね」
……?
「……お世辞なら聞かないけれど」
「いえ。本心からの言葉です。たぶん、お気づきになっていないかと思いますが」
すっと彼は部屋の時計を指す。
「もう三時間も経っています」
「……へぇっ!?」
う、うそ。三時間も。やるはずだったラテン語の勉強やハンガリー史の勉強、算術、世界史、それから、それから……!
「慌てずに、落ち着いて」
「!? だって、まだやることがあるじゃない!? ラテン語のお勉強だって……!」
「落ち着いて。お嬢様、僕はたぶん、お嬢様にはこの方法があなたに合っているかと存じます」
「は……?」
なに言ってんの? まだヴァイオリンしかやっていないじゃないの。
今まで来た家畜の餌のような教師でさえ、ノルマに届かなければ食事の時間を抜いてまでもやらされたのに。全員同じようなことを言って。
「エリザベートお嬢様は、基本的に一つの物事に集中して取り組むタイプ。ですので、一日に全て半端に詰め込むよりも、一つのことに集中して、一日にて極める方がいいと思ったのです」
その方が上達が早くなりますしね、と。彼は言った。
「……まぁ確かに癇癪持ちのあたしにはぴったりだけど」
なかなかうまくならないとイラついてしょうがない。
けど彼があたしの才能を見込んでわずかな時間で一つずつ技術を極めてくれるなら……その方が一週間単位で考えたら勉学にかける総時間は変わらないし、むしろ時間の節約になるか。
「……わかったわ。それでいきましょう。今日はもうこれでおしまい。もう少しで夕飯の時間だから」
「了解です。エリザベートお嬢様」
……。我ながら呆れ返るわね。
「待ちなさい、痩せブタ」
彼はどうしました、と振り返る。
「エリザでいいわ。痩せブタ。また明日もここに来なさい。────ただし、様は忘れずにつけなさい!」
────追い出すつもりだったのに、また来なさい、なんて。
「了解です、エリザ様」
「えぇ、また明日」
おかしくなったのは、こんな変なやつを連れてきたお父様ではなくきっと、あたしのほうね。