《七海side》
「う、ううん……」
窓から差し込む日差しに、鳥が鳴く声がする。目を開けた私は、上半身を起こそうとして……動きを止めた。
「ナナ姉え……」
「ふみゅぅ……」
「えへへ…お姉ちゃ~ん」
私の愛しの義妹たちが、私の身体に抱き着いているのを見て、顔を綻ばせる。
その後義妹たちの手を優しく解き、ベッドを降りて洗面所に向かう。
「…………」
部屋を出る直前に、部屋に置いてある机に置いてある
あの戦いから一週間、いろんなことがあった。
~一週間前、フィーネとの決戦後~
私たちが振り下ろしたデュランダルは、黙示録の赤き龍を撃破。倒れるフィーネを確保することに成功した。
「う、うう……」
「起きたか、了子くん」
「弦十郎くん?なぜここに……?」
私たちはフィーネの様子に、疑問符を浮かべた。だってそうだろう。これだけの被害を出したのに、それを憶えていないか素振りを見せているのだ。
私たちの油断を誘っているのだろうか?だが、装者たちはいつもの了子と同じだと言う。実際彼女はネフシュタンの鎧も纏っていない。
この時、全員がフィーネに集中し過ぎたのがいけなかった。
『ナナ姉えッ!』
「どうしたのエ『後ろですッ!』ッ!クリスッ!避けろぉ!」
「はっ?……あ」
エルの通信に後ろを振り向くと、私の後ろにいたクリスに向かって、
私の声で気付いた数人が一斉に駆け出す。しかし、最初の油断のせいで誰も間に合わない。
数秒後に訪れるであろう痛みを察し、クリスは目を瞑る。そのままクリスは串刺しに―――
ザシュッ!
「あ……」
「大丈夫?クリス……ガッ…」
―――ならなかった。
投げかけられた声に、クリスは恐る恐る目を開け、見覚えしかないであろう姿に目を見開いた。
私も動揺していた。ここにいないはずのあの人が、クリスを守るなんて……。
「こく、よ…?」
「そーだよ。無事でよかった」
仮面ライダービルドハザードフォームの状態で、クリスの前に立つ姉さんにクリスが呆然として呟く。いつものような緩い言葉を発する姉さん。いつもと違ったのは
「あ、ああ……黒夜!」
「ちっ…失敗しましたか」
「ッ!てめえ…!」
声がした方を見れば、そこにはひび割れてボロボロになったネフシュタンの鎧を纏うアウラネルがいた。
「まあ、仮面ライダーを殺れただけでも良しとしましょう……動かない?」
「そんな焦らずにさぁ、どうせならお返しをもらって行きなよ」
《マックスハザードオン!》
《ガタガタゴットン! ズッダンズダン! ガタガタゴットン! ズッダンズダン!》
アウラネルはすぐさま撤退しようとするが、姉さんが自信を貫く鞭を掴んで離さない。そのままビルドドライバーのレバーを回し、鞭を思いっきり引き寄せる。
「ぬあッ!」
《オーバーフロー!》
「フン!
《ハザードフィニッシュ!》
「ぐああああッ!」
《ヤベーイ!》
引き寄せられたアウラネルに、姉さんはその場から動かず上段蹴りを叩き込む。黒い爆発が起こり、ネフシュタンの鎧が崩れていきながらアウラネルも吹っ飛ぶ。
「ぐあッ!……おのれ」
アウラネルはネビュラスチームガンの煙で、この場から逃走した。しかし問題はそれどころではなかった。
「あ………」
「黒夜!」
姉さんの変身が解除され、膝から崩れ落ちた。クリスが咄嗟に受け止めるも、おびただしい量の血が流れていた。
「おい…おい!嘘だよな?こんな、こんな……」
クリスの声が震えだした。弦十郎さんが医療班を呼ぶように言ってるけど、もうこれは間に合わない。
「クリス……」
「黒夜、大丈夫だからな…きっとすぐに良くなる。だから、無理に喋るな」
「ごめんね~。どうも、いっしょには居られないみたいだ」
「そんなことない!おっさん達がどうにかしてくれる。だから…だから、そんなこと言わないでくれ」
「私の身体は、ハザード、トリガーを無茶苦茶に…使ったせいで、身体は……崩壊を、始める」
「なんだよ…それ。なんだよそれ!」
まるで遺言のように話す姉さんに、クリスは姉さんを抱きかかえたまま俯いた。いや、実際遺言なんだろう。
その間にも、姉さんは話し続けた。
「クリス、貴方は…良い子だよ」
「…………」
「だから、私がいなく……てもきっと、大丈夫さ」
「……そんなこと、ない。良い子じゃなくていい。黒夜が離れないなら、悪い子で良い!やめてくれ!行かないで!あたしを置いて、いかないでよぉ……」
堰を切ったように、クリスの両目から涙があふれた。周りを見れば、他の装者たちも俯き涙をこらえていた。
「クリス……。貴方は、狂ってい、た私にとっ、て……き…っと、最後に残った…良心…だったんだ」
「なんだよ、それ……」
「……クリスがいた…から、私はまだ…”ヒト”で、いられた」
「何言ってんだよ……。お前は、十分人間だろうが……」
「クリス…これ……」
「これは……」
泣きじゃくるクリスに、黒夜は震える手で1つのフルボトルを渡した。クリスがそのボトルを受け取ると、そのままクリスの頭を撫でた。
「ああ……もうダメ…みたい、だ。お別…れだね~」
「いや、行かないで、ダメ、やだ、待って」
「ク…リス…ゆ……を…叶え……ん…よ……」
最後は文にならない言葉を残して、姉さんの身体は黒い粒子となって散った。
姉さんが最後まで腰に着けていたビルドドライバーとフルボトルが、カタンッと無機質な音を立てて落ちた。
「黒夜さん……」
「………ッ」
「くそぉ。何で、何でだよぉ……」
他の装者たちが姉さんの死に悲しんでいる中、私はクリスの傍に落ちているビルドドライバーとフルボトルを回収した。
「……おい、まてよ」
「何?」
「そいつを、どうするつもりだ…」
「決まってる。回収するんだよ」
「それは、黒夜のだ」
「その姉さんはもういない」
「ッ!お前は……ッ!」
クリスが私に掴みかかる。だけど、何かをするわけでもなく私の胸ぐらを掴んだまま、クリスは顔を歪ませるのみ。
だから私は、クリスを抱きしめた。
「ッ!?なにを……」
「クリス、姉さんはもう、いないんだよ」
「ッ!」
「姉さんはもういない……」
「あ、ああ…うわああああああああああああああああ!!」
姉さんの死のショックで、ギリギリまで堰き止められていたものが溢れ出たのか、クリスは声を上げ滂沱のごとく涙を流す。
やがて立っている気力すらなくなったのか、地面に座り込んだクリスに背を向け、キャロルとセレナを呼ぶ。
「キャロル、セレナ。帰るよ」
「ああ」
「……はい」
やはり長く生きていると、
しかしこれは仕方ない。この世界で、誰かが急に死ぬことは不思議ではない。みんながみんな、寿命で死ねるわけではないのだ。
そして、涙を流す装者たちと、拳を強く握りしめる大人たちを残し、テレポートジェムで家に戻った。
~三日後~
この日は、姉さんの葬式が執り行われた。遺体はない。粒子に消えたのだから。
といっても、転生者である姉さんに家族がいるはずもなく、小さいものになるだろうとは思ってた。行われないとは考えない。なんせ2課にはお人好しが多いから。
だから、その葬式に足を運んだ時は、思ったよりも大きいなと感じた。それに結構人がいた。
手早くお香を上げ、そこそこに広い廊下に出る。
「君は……七海くんか」
「貴方は……どうも。三日ぶり、ですね」
私に声をかけた人物、それは2課司令の弦十郎さんだった。葬式という場だからか、その筋骨隆々の巨体に似合わない黒いスーツを着ていた。
「君も来ていたのか……」
「ええ、まあ…一応」
何とも言えない雰囲気が広がり、お互い閉口していると唐突に弦十郎さんが近くの休憩スペースを指差した。
「少し、話しをしないか?何か奢るぞ」
「…そうですね」
誰もいない休憩スペースの椅子に座り、弦十郎さんからカフェオレをもらう。
「どうも」
「ああ……今日は一人なのか?」
「ええ、あの子たちも
キャロルたちは家に置いてきた。あまり大勢で行って注目を買うのもあれだろうと思ったからだ。
「俺は……君に謝らなければならない」
「………」
「あの時、一番周りを気にしなければならなかったのは俺だ。俺の不注意で、黒夜くんはその命を落としてしまった」
「別に謝る必要はないですよ。あの人が言っていた通り、ハザードトリガーの無茶苦茶な乱用によって、どうせ老い先短いと思いますし」
「君は、随分と冷静だな」
「もとは家族って言っても、仲が良かったわけではないですし」
そう言ってカフェオレに口をつける。「コーヒーとミルクそのものを追求した」が謳い文句のカフェオレは、確かにおいしかった。
甘さが癖になるという評判だと聞いたが、私の口の中には、ほろ苦さしか感じなかった。
その後もしばらく、弦十郎さんと話した。
まず、姉さんについて。
姉さんの死亡が確認されてからすぐに遺留品、特に研究データの押収がなされたらしい。
しかし、その肝心の研究データは一部を除き、全て消去されていたらしい。どうやら、姉さんの身に何かあった場合、自動で消去されるように設定していたらしい。
国のお偉いさんは、データの復旧を試しているらしいが、その消去されたデータも不規則に暗号化されており、解読と復旧には途方もない時間がかかりそうだとのこと。
実にあの人らしいとは思う。おそらくそのデータの暗号は、姉さんが本気で作ったはずだ。そうなれば誰にも解読は出来ない。できたとしても、私が潰しに行くだけだ。
そして敢えて消去されずに残っていたデータ。これはLiNKERの改善案だった。そのデータにより、天羽奏の負担が軽減するらしい。
しかしその改善案と言うのが問題で、なんと1からLiNKERを作り直しているのだとか。以前まで使っていた物とは全くの別物の為、それ以前まで使っていたLiNKER、そしてセレナが渡したという方も体内洗浄する必要がある。ただ使用していた量がばかにならないので、洗浄に時間がかかり、天羽奏はしばらくは裏方に回るらしい。
因みにセレナがLiNKERを作っていたことは、別に怒っていない。もしもに備えておくのはいいことだ。
そして2つ目。
フィーネもとい櫻井了子の処遇について。
彼女が行ったことは裏切り行為ではあるが、ハッキリ言って、こちらはほぼ無罪らしい。
というのも、櫻井了子がフィーネであることを知っているのは、2課の限られた人員、そして弦十郎さんの兄の風鳴八紘さんと父の風鳴訃堂さん、さらにその3人が信用した極一部の上層部だけらしい。つまり、根回しはほぼ完ぺきであり、更に匿名であるデータが送られてきた。
それらのこともあって、彼女に何らかの異変が起きていた、以降は2課の保護観察処分、この2つに収まったらしい。国としてもフィーネもとい櫻井了子の知識と知恵は、簡単に失いたくないのだろう。
因みに、データを送ったのは私だ。しかもばれてた。
フィーネとの決戦の最中、エルが計測していたデータでは、あの場でフィーネが扱った聖遺物以外の反応が観測できたらしい。そしてそれらの反応は、フィーネが発していた黒い靄から観測された。つまり彼女は、第3者によって操られていた、ないし何かしらの精神制御を受けていた可能性があるのだ。
まあ、私も気になることはいくつかあるので、調べようとは思っている。
この件については、弦十郎さんにすごい感謝された。
んで3つ目。
完全聖遺物について。
ソロモンの杖はデュランダルの一撃により消滅。デュランダルも同様、と言いたいところだが、実は私がこっそり回収している。
消滅したとばかり思われていたが、実はデュランダルの一撃を放った際の爆発で吹っ飛んだだけであり、こそっと回収しておいたのだ。色々と落ち着いたら、しっかりと封印作業を施すつもりだ。
そしてネフシュタンは、姉さんに破壊された。あの時、何故アウラネルがネフシュタンを纏っていたのか。おそらくデュランダルによる対消滅を運よく免れたものを、アウラネルが使用したのだろう。これにも疑問が残るが、情報が少ないのだ。仕方がない。
一応ネフシュタンの欠片は回収している。
それからもとりとめないことを話し、私は家に帰ることにする。
その際、弦十郎さんに協力関係を結べないかと打診を受けたが……。
「私もやることあるから……それが終わったら、かな。まあ、そっちは早く終わるだろうけど」
「そうか…!」
適当気味に返事を返したが、彼からすればその返事で満足らしい。
そのまま弦十郎さんと別れ、外を歩く。
特に何かを思うわけでもなく、ただただ外を歩いていく。
……姉さんの死に私は何も思わない、感じない。
そしてあの死に際の表情を、私は忘れることはないだろう。
粒子となって消える直前、私だけに分かるように浮かべた
今回の戦いで解決したことは少ない。むしろ謎ばかりが増えてしまったけど……。
空を見上げる。太陽がジリジリと私を照りつける。
この世界を、心火を燃やして生き抜こうか?
これにて無印編は終わりです。
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