やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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こんにちは、シェイドと申します。
特に俺ガイルクロス二次創作、まあ八幡単体を他作品に送り込んでみた系が多いですが、そんな感じの作品を書いております。
大体は個人的な趣味です。たまに友人に頼まれて書いたりもします。
想像を膨らませる時間や活字となった自身の妄想を読み直すのが好きです。変な奴と言われては返す言葉がありません。

さて、この作品はよう実の世界に俺ガイルの八幡をぶっこんでみた作品です。八幡の入学前スペックを見る限り、Dクラス、よくてCクラスだなーなんて考えておりましたが、全体的にこの二つの作品のクロスオーバーはBクラスが少なめだし、Bクラスの話を書きたいなーとも思いました。
戸塚と入学前に知り合っていることにして、少しだけ基本スペックを向上させ、無理やりBクラスに入れることに。

まあ、自分の妄想さえ文章化できればそれでいいので続きを書くかは未定ですが、読んでくれる方がいると嬉しいです。
ちなみに自分のよう実最推しは坂柳です。
ですが八幡のヒロインではないので悪しからず。
綾小路や坂柳、龍園と八幡を絡ませてみたかっただけです。葛城や堀北、櫛田辺りも面白そうです。

まあ、その前に八幡にヒロインがいるのか微妙なのでそこらへん未定です。
戸塚いるし。



入学~中間試験
八幡「…嫌な奴」 有栖「聞こえていますよ?」


 突然だが、俺の出した問いを読んで、その答えを考えてもらいたい。 

 

 

 青春は嘘であるか否か、悪であるか否か

 

 

 それに対しての俺の答えはこれだ。

 

 

 青春とは嘘であり、悪である。

 

 

 理由は簡単だ。

 青春を謳歌する者達は皆、常に自己と周囲を欺いているからである。

 

 例を挙げよう。万引きや集団暴走、賭け事、脅迫という犯罪行為に手を染めてはそれを「若気の至り」だと呼び。

 試験で赤点を取れば、学校は勉強をするためだけの場所ではないと言い出す。点数が良ければ「学校は勉強するところだ」などと周囲に言い散らかすだろうに、だ。

 彼らは青春という二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げて見せる。彼らにかかれば嘘も秘密も、罪科や失敗でさえも単なる青春のスパイスでしかないのだから。

 

 そして彼らはその悪に、その失敗性に他人とは違うという特別性を見出す。

 自分たちの失敗は遍く青春の一部分。許されるものであり必要なものであるが、他者の失敗は青春ではなく、ただの失敗にして敗北であると断じるのだ。

 

 それは正しいことなのだろうか。いや、正しいわけがない。

 仮に失敗することを青春の証であるとするならば、友達がいない人間もまた、青春のど真ん中にいなければおかしいではないか。

 

 だが彼らは認めないだろう。何のことはない、特別なことは何もない。

 

 全ては、彼らのご都合主義でしかない。

 なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾されるべきものだ。

 では何故、そうならないか。

 人が、社会が不平等なもので、平等な人間など、同じ人間など存在しえないからだ。誰もが自分の身を可愛いと思い、誰もが自分を優先させるからだ。

 結論を言おう。

 

 ……学校行きたくねぇ、って問いの意味ねえじゃねえか。

 

 

***

 

 

 東京都高度育成高等学校。

 希望する進学、就職先にほぼ100%応えるという全国屈指の名門校。

 そんな超がつくほどの名門高校に、俺はどうしてか分からないが合格することができ、今日入学することになっていた。

 

 ……しかし今現在、部屋のベッドで、まるで炬燵の中丸くなった猫のように体を縮こまらせている。

 

「家から出たくねえなぁ…。なんなら自宅に永久就職も有りか」

 

 俺が今日入学することになっている東京都高度育成高等学校、略して東育は、全国に存在する数多の高等学校とは異なる特殊な部分が存在している。それは学校に通う生徒全員に、敷地内にある寮での学校生活を義務付けていることと、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じていることだ。

 たとえ肉親であったとしても、学校側の許可なく連絡を取ることは許されていない。

 当然の如く、許可なく学校の敷地から出ることも固く禁じられている。

 

 つまり、である。

 

「小町と三年は会えなくなるとか、耐えられるわけねぇんだよなぁ…」

 

 愛する妹、小町と別れることになるのだ。

 パンフレットに書いてあることを何故今更嘆くのかと言えば、気づいたのが昨日だったから。小町に『入学したら放課後電話するわ』と言ったら、『え?お兄ちゃん明日から連絡取れなくなるよね?』ときょとん顔で言われたのである。

 急いで配布されたパンフレットを読み返せば、しっかりと書いてあり血涙を流す勢いで項垂れたのはいい思い出だ。

 

 いや?お、俺は寂しくなんかないけども?小町は寂しがるだろうなって……すいません痩せ我慢しました本当は凄く凄く寂しいです。

 今生の別れではないとしても、今まで13年間付き合ってきた妹だけあって、やはり寂しいものは寂しいのだ。

 

 俺が小町との思い出に耽っていると、唐突に部屋がノックされる。

 ノックした主は俺が返事していないにも関わらず、勝手に部屋に入ってきたかと思えば俺から布団を奪い去った。

 

「お兄ちゃん何してるの?うわ、目の腐りいつもよりすごーい……じゃなくて、今日の入学式遅刻するよ!」

 

「悪いな小町。お兄ちゃん、ここから動いたら死ぬ病気なんだ」

 

「もう、それはどこのながっぱなの狙撃手なの?変なこと言ってないで、さっさと起きる!」

 

 俺から布団を奪い取った人物、妹の小町は俺をゴミを見るような目で見ている。やだ、そんな目を向けられたら八幡新しい属性に目覚めそう!

 …って、俺の目そんなに腐ってるの?でも小町ちゃん?いつもよりすごいって、日常的に俺の目って腐ってるのかな?お兄ちゃんそう思われていた事実に泣きそうだよ。

 

「お兄ちゃんがあの超名門校の東育に進学することになって、お父さんもお母さんも泣いて喜んでたんだよ?」

 

 いや、親父なんて「これで小町に近づく蝿が減った!最高だな!」とか言ってたし、母ちゃんも「学費も全額負担なのよね。一人分の生活費も浮くし…どこか旅行行かない?」とか言ってたぞー。

 相変わらず家族内カーストすら最下位である俺である。なんなら飼い猫のカマクラより俺と親父の位は低い。世の中こんなもんだと今では諦めているが。

 

「とりあえず制服着てから降りてきてね!朝ごはん出来てるから!」

 

「おう」

 

 小町は伝えることは伝えたとばかりに、部屋を出てパタパタと一階に降りていく。

 あの様子だと俺よりもかなり早く起きて朝食の準備をし、俺がなかなか降りてこないから遅刻しないように起こしに来てくれたんだろう。なんとできた妹なのだろうか。ホントいつ嫁に出しても恥ずかしくないレベル。

 ま、誰にもやるつもりはないけど。親父も見ていて相当な親バカだが、こと小町に関しては俺もあまり変わらないので何も言えない。さすがに実の兄を疑うのはどうかと思うが。

 合格発表を受けてから届けられた制服に袖を通し、必要最低限の物だけを持って一階に降りる。

 リビングに着くと、すでに小町は俺の分の朝食を運んでいるところだった。

 

「いつも済まないねえ、小町さんや」

 

「もう、それは言わない約束でしょ?」

 

 軽く掛け合いをしながら席に着き、食べ始める。

 こんな風に小町と朝食を食べたり、話したりするのも次は三年後なのか、などと考えつつも目玉焼きを口に運ぶ。

 

 うん、美味いな。

 

 向かいに座る小町を見れば、ジャムを塗ったくったトーストを片手に熱心にファッション雑誌を読んでいた。

 『三高はもう古い』だの『普通の男性の基準は星○源』などという事柄の記事を見ては、うんうんと頷く小町。どこに共感してんのお前。特に後者、女性の普通の男性像絶対にハードルおかしいからな!

 静かな朝食の時間はあっという間に過ぎ去り、そろそろ家を出なければ電車に間に合わない時間となってきた。

 

「……じゃ、行ってくるわ」

 

「あ、待って待って!小町もついてく!」

 

 どうやら駅まで見送りしたいらしい。いそいそと残りのトーストを口に放り込み、軽く身支度を整える小町。

 くっ、なんてかわいい妹なんだ!やはり俺と離れるのが寂しいんだな。うんうん、まだ小町も今年中ニになったばかりだし、兄離れ出来ないだろうなぁ。

 

「言っとくけどお兄ちゃんが心配なんじゃなくて、お兄ちゃんが駅に置いていく自転車を回収しないといけないからだからね?」

 

 前言撤回、コイツ全然可愛くないわ。どうやら自転車よりも俺の立ち位置は低いらしい。

 ついに物にすら負け始めたのか。だが自転車どうするか考えてなかったし、むしろ助かったまである。もし置きっぱなしなら盗られてた可能性もあるし…。

 

「おい、口にジャムついてっぞ」

 

「え?ジャムってる?」

 

「お前の口は自動小銃なのかよ。じっとしてろ」

 

「んっ………」

 

 近くにあったティッシュを取り、小町の口についているジャムをぬぐってやる。

 ……こういったことも、次は3年後になるのか。

 本能的な部分で寂しいと感じているのだろう。気づいたら自然と体が動いていた。

 

「…ありがと。さ、レッツゴー!」

 

「お、おう」

 

 小町ちゃん朝からテンション高くない?何、この日のために日々テンションためてたりしたの?秘伝書でテンションを次の戦闘に持ち越してたの?ドラクエネタではあるがなんて伝わりにくいネタなんだっ!……俺もテンション高かったわ。

 玄関を出て自転車に跨ると後ろに小町が乗る。ぐいっと俺の腰に腕を回してしっかりと抱きついてきた。

 自転車の二人乗りは道路交通法で禁止されているが、今日ばかりはご容赦してもらいたい。

 

 ……あ、これだと俺も青春を謳歌している奴らと大差ないな。駄目じゃん。

 家を出発し、最寄りの駅に向けてスムーズに住宅街を走っていく。朝早いためか人通りは少なく、あっという間に駅に辿り着いた。

 そうして駅の駐輪場に自転車を止めて降りる。

 不意に、後ろから先程までの二人乗りの時よりも強く、ギュ、っと抱き着かれた。

 

 首を少し捻り、視線を後ろに向けると、小町は顔を俺の背中に押し付けていた。その体は若干、震えているようにも見える。

 

 

 ――――ああ、小町も。

 

 

 俺と同じ気持ちを抱いてくれていたのかと。

 離れたくない、普段から「お兄ちゃん小町のこと好きすぎてキモい」とか言ってくるが、コイツもそれなりにブラコンだ。

 ちなみに、俺は断じてシスコンなどではない。ただ妹が好きなだけだ。

 こうしている時間がずっと続けばいいなと思うが、そろそろ電車が到着する時間のはずだ。この便を逃せば遅刻確定、入学早々ボッチが確定する。間に合ってもそうだって?ほっとけ!

 

「あーなんだ、全国屈指の名門校なんて俺ごときが生き抜けるなんて思わないし、すぐ退学して戻ってくるかもしれんし…」

 

「退学したら一生口利かない」

 

 即答かよ。確かに「お前の兄ちゃん、名門高に進学したけど落ちぶれて退学したんだって?」なんて言われたら嫌だろうしな。俺も嫌だ。

 よし、退学しないぞ!小町が言うならそれは絶対である。俺、小町のこと好きすぎるだろ。

 しばらく黙ったまま抱き着いた状態だった小町だが、どうやらそろそろ電車が来ることは分かっていたようで。

 

「……よし、お兄ちゃん成分は摂取したから小町は大丈夫!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「最後のがなけりゃあな……」

 

 小町は俺のお兄ちゃん成分たるものを摂取していたらしい。

 ほんと、俺には勿体ない妹だ。

 最後に一段と強い力で抱き着いてきた後、小町は俺から腕を離した。

 

「じゃあ、いってらっしゃいお兄ちゃん」

 

「おう、いってくる」

 

 小町に自転車を預け、駅に向かう。

 これでしばらく愛する千葉ともお別れか。全然実感が湧かないもんだな…。

 

 

***

 

 

 電車に揺られること1時間、目的の駅に辿り着いた。

 ええっと、確か駅前から出ているバスに乗れば着くとか…。

 ポケットを探り、高度育成高等学校までの行き方が書かれた紙を見ると、バスの出発時刻と駅の中にあった時計の時刻が同じだということに気づく。

 

「やべっ」

 

 ついさっき小町に退学したら一生口を利かないなんて言われたばかりである。入学式に遅れたから即退学、ということはないだろうが、超名門であることを考えれば必ず悪い印象を与えてしまうだろう。さすがにそれは避けたい。

 しかし、俺が乗らなければならないバスは無情にも目の前で発射してしまった。

 

 ……え、マジで?

 もしかしたら止まってくれるのではないかと手を振ってアピールしてみるものの、気づかれなかったのか気づいてて無視したのか、バスはどんどん遠くに行ってしまった……。

 

 

 ――――終わったな、俺の高校生活。

 

 

 一度諦めがつくと、人間はどうにでもなれと感じるもんだ。

 走ったところでバスには追い付けない。なら、ゆっくり歩いていこうが走ろうが変わるものではないだろう。そうに違いない。

 

 内心ため息を付きながらも学校を目指す。

 後ろから走ってきた黒いリムジンが俺を追い抜いていく。あの中にはお金持ちのご令嬢とかいるのだろうか……いや、金持ちのおっさん説もあるな。後者の場合がほとんどなんだろうが、改めて考えると誰得という感じである。

 

 どちらにせよ、俺には一生縁がないことだ。

 高級車ばかりが行き交う中、一人歩き続ける。

 遠くの方をぼーっと見ながら進んでいると、再び後方からリムジンがやってくるのに気付いた。

 今日はよくリムジンを見る日だなぁ……もしかしなくても高度育成高等学校関係者だったりするのだろうか。今日入学式だし。

 が、何故だろう。ちょうど俺の斜め前辺りでそのリムジンは止まった。

 近くで見れば、まさにどこぞの御曹司やお嬢様が乗っていそうな、お金持ちの車である。

 ま、俺に関係ない……と、通り過ぎようとした時、リムジンの後部の窓が開いた。

 思わずといった感じで中を覗いてしまう俺。そこに見えたのは銀髪の美少女。

 

 

 ――――目が、合った。

 

 

 その瞬間、俺は冷たい汗が背中を流れていることに遅れて気づく。

 値踏みしている……?関わってはいけないと俺の中の理性が強く訴える。警報が鳴りやまない。早く逃げろと理性が叫び始める。

 少ししか見えていないが、美少女と呼べる容姿だった。だが、何故だろう…近づいてはいけない気がする。

 よし、ここはさっさと逃げるのが最適解だな。

 

「そこの癖毛が一本飛び出している方。行先は同じようですし、乗っていきませんか?」

 

 声をかけられ、辺りを見渡すが俺以外に人はいなかった。

 

「……へ?」

 

 どうやら、神は俺を見捨てたようである。いや、見捨ててないのか。遅刻はしないで済みそうだ。

 

 

***

 

 

 リムジンの中は想像していた以上に広かった。

 さすがにアニメとか漫画でよくある「明らかに見た目と車内の広さが合っていない」ようなものではないが、それでも伸び伸びと過ごせるくらいには広かった。

 運転手に一言挨拶をした後、対面に座る銀髪の美少女の方を見つめる。

 杖を手に持っている少女は俺と同じ制服を着ているため同じ学校の生徒であると推察できる。入学してから三年は外部との接触は例外を除きできないため、新入生だろうが。

 つまり同級生というわけだ。入学式前に美少女と同じ車に乗るなんて、これなんてラノベ?と言いたくなる状況であるが、目の前の少女はそんなチャチなもんじゃないだろう。

 

「まずは自己紹介を。私は坂柳有栖と申します。先天性心疾患を患っているので、このように杖を携帯しています」

 

「……比企谷八幡だ」

 

「………」

 

「………」

 

 沈黙。いや、どうすればいいのかしら?何か話すのが普通だったりする?八幡こんな状況初めてだからどうしたらいいか分からないよ!

 坂柳の方は何が面白いのか俺の方を見ては微笑んでる。有栖という名前と見た目から不思議の国のアリスを想像したが、アリスはアリスでも走れないアリスだろうな。多分、身長もそこまでない。中学生と言われても信じるだろう。

 美少女が微笑んでる姿は絵になるなーなどと少しばかり見惚れながら思っていると、坂柳に尋ねられる。

 

「それで、どうして学校の方向へ歩いていたんです?バスを使えば早く着くと思うのですが」

 

「俺も乗るつもりだったが、乗り損ねたんだよ」

 

「なるほど。ですが歩いていましたよね?あの速度だと入学式には到底間に合わないのではないでしょうか」

 

「……バスを逃した時点で俺の遅刻は確定してた。走ろうが歩こうが遅刻なら、無駄に体力を消費する必要はないと思っただけだ」

 

「……もし、遅刻した時点で退学だったらどうしたんです?」

 

「潔く千葉に帰る」

 

 なんなら今すぐにでも帰りたいほどである。いや、ここ希望したのは俺なんだけどね?小町に会えないことを考え始めると帰りたくなってくるのだ。

 思えば、コミュ力皆無の俺が東育に受かることが出来たのは、勇気を出して職員室に行ったのが良かったのだろう。『内申書を書ける範囲で最高にしてくれないでしょうか?俺虐めとか受けたりしてるんですけど…』と、教師らが見逃しているけど絶対に把握しているだろう事実に触れつつ頼みに行ったら、大量に汗を掻きながら快く快諾してくれた。

 コミュニケーションのなさもある意味クラスで話題となっていたことで、少しは良さげに書けたのだろうしな。

 もしかしたら俺が教育委員会などに訴えることを怖がったのかもしれないが、そんなめんどくさいことをするつもりは全くなかった。だってめんどくさいに決まってるだろ?今こうして入学出来たことを考えれば、むしろ感謝しているまである。

 俺の分の学費が浮けば、小町の進路や目指せる道が増えるからな。千葉のお兄ちゃんとしての責務は全うしなければ!

 

「ふふ、面白いですね、貴方。その眼も特徴的ですし」

 

「そんなにDHA豊富に見えるか?」

 

「ええ、とっても」

 

 少しばかり笑いながら坂柳は言う。

 今のでだいたいわかった。こいつ多分あれだ、ドSだ。加えて人をおちょくるのが好きなタイプな気がする。

 関わると面倒なタイプだ。

 

「妹には朝から目が腐ってると言われたがな」

 

「妹さんがいらっしゃるので?」

 

「ああ。俺に似ず、かわいい妹だ。ほんっと俺に似なくてよかったと思ってる」

 

「比企谷君に似た女の子がどんな子なのかに若干興味はあったのですが……それにしても比企谷君はシスコンという部類の人間なのですね」

 

「ち、ちげぇよ。シスコンじゃない、ただ妹が大好きなだけだ」

 

「それを世間一般ではシスターコンプレックス、シスコンと言うんですよ」

 

 正論返されてあえなく撃沈。

 世間様を出されればボッチの俺では対抗できない。世間一般の中にボッチという人種は含まれていないからな。

 まず普通って定義からおかしいよな。俺からすれば普通のことでも、例えば坂柳からは普通じゃないことかもしれない。誰を普通の基準にするかで普通の意味合いは変わってくるし……屁理屈言ってすんませんした!

 

「比企谷君はどうしてこの学校を選んだのですか?やはり就職や進学率ほぼ100%保証の点からですか?」

 

「まあ、そうと言えばそうだが、そうでないと言えばそうじゃないな」

 

「どっちなんですか」

 

「……そうです」

 

「ふふ、素直な人は嫌いじゃないですよ」

 

 自然と坂柳の質問に答える俺、の構図が出来上がってしまっている。

 でも君、俺とは初対面だよね?どこかで会ったっけ?いや、俺がこんな美少女を忘れるとかあり得ない。

 それにしてはズケズケと人の心を荒らしにくる奴である。

 相手が不快にならない最大限の範囲で言葉を投げているイメージが分かりやすいだろうか。まあ、乗せてもらってる身だからどうしたって答えないわけにはいかないんだけどね!

 

 高度育成高等学校が誇る、希望する就職進学100%応えるというキャッチコピーは嘘ではない。

 実際に数多の分野でここの卒業生が世界的な活躍をしていたりするため、その点で疑うことはないだろう。

 まあ、俺みたいな生徒が入学できる時点でどれだけ厳しい授業が待っているのか想像するのも嫌になるがな。

 新たな環境で人間関係をリセットできる……実際は少し違うのだが、そのことがメリットだとしても、就職進学100%を誇る高校なんて不安がないと言ったら嘘になるし、むしろ不安しかないまである。

 いや、だって考えてもみろよ。目の前にいる坂柳は、リムジンに乗っているところからしてもいいとこのお嬢様だろう。それに比べて俺は一般家庭の長男でおまけにボッチときたもんだ。

 勝てる要素が全くないだろ?これで同級生なんだぜ?

 

「ちなみに将来就きたい職業は?」

 

「……専業主夫か、普通のサラリーマンだな」

 

 ほんと金持ちの美人さんと結婚して養ってもらいたいものである。

 サラリーマンに関しては、毎日死んだ目をして夜遅くに帰ってくる親父を見ていると、俺も将来こんなになるのか……と思わないでもない。

 親父の小町好きは異常で気持ち悪いとしか思えないが、仕事に対する姿勢は見習いたいものだ。社畜お疲れ様です。

 

 坂柳はパチくりと俺の方を見ては驚いた表情をしていたが、すぐに元のニヤニヤ顔に戻った。

 

「専業主夫が夢だと目をドロドロさせながら語る人を初めて見ました。普通夢ならばキラキラしながら語るものではないですか?」

 

「いや、俺が目をキラキラさせて、『専業主夫になりたいんです!』って語ったら、お前絶対笑うだろうが」

 

「何を当然のことを。出来るのなら動画として撮っておきたいくらいですよ」

 

「…嫌な奴」

 

「聞こえていますよ?」

 

 聞こえるように言ったんだよ。なに?コイツどうしてこんなに相手を辱めながら笑ってるの?むしろ嗤っているとかの方が合ってる気がするのは俺の気のせいなのだろうか。

 

 まあ、こんな笑みを向けられるのはいじめられっ子の宿命だ。ソースは俺。小学生の時、「カエル!教科書よこせよ!」とか言ってきた田中君は、俺が先生に教科書がないことについて怒られていると、「カエル!お前教科書食べて消化したんだろ!」とか言って笑いやがったからな……おかげでクラス中からカエルと呼ばれる始末である。

 ヒキガエルって言うのがめんどくさくなってカエルって呼ばれることも、教科書を奪われたことも未だに根に持っているんだぞ!俺の絶対に許さないノート筆頭な田中君である。

 

 坂柳にそんな気はないんだろうけどな。なおさら質悪いじゃねーか。

 

 そんなこんなでどうでもいい話をしていると不意に車が停止する。

 窓から外を見ると、天然石を連結加工したであろう門があった。生まれてこの方ここまで立派な門は見たことがないが、この門こそ東京都高度育成高等学校の入り口であり、一度踏み入れば三年は出てこられない。

 運転手に一言お礼を言った後、先に降りて坂柳に手を差し伸べる。

 一方の坂柳は一瞬きょとんとしたものの、すぐに意図に気が付いたのか手を取ってリムジンから降りる。

 

「ありがとうございます」

 

「…気にすんな」

 

 先天性心疾患ともなれば程度に差はあれど運動はほとんど禁止なはずだ。加えて坂柳が杖を常時携帯している時点で相当なもののはず。ならば手くらい差し伸べるのが人間として、そして同級生として当然の行動ではないだろうか。

 ……はい、すいません強がりました。送ってもらったことをチャラにしたかっただけです。まあ、ならないだろうけど女の子に優しく接するというのは小町から仕込まれた行動でもあるから自然と手を差し伸べていました。た、他意はないんだよ?ハチマン、ウソ、ツイテナイ……。

 あとなんで男と女ってだけで、こんなに肌の質感が違うんだろうな。びっくりするくらい肌触り良くて思わず顔が赤くなっているのが実感できた。

 そんな俺を見ながら、「ふふっ」と笑った坂柳は門に向かって歩き始める。

 俺は恥ずかしくなり、坂柳の姿が見えなくなってから入ろうと思っていた。でも、スロープを上がっていた坂柳は俺が動いていないことに気づいたようで。

 

「それでは一緒に行きましょうか」

 

「えぇ…」

 

 え、一緒に行くの?それなんて拷問だよ…絶対男子生徒から睨まれるだろうが。『なんで凄い美少女とあんな奴が!?』とか思われるに違いない。

 

 

***

 

 

 俺はBクラスだった。

 坂柳はAクラスだったのでお別れである。やったぜ!

 正直な話、坂柳と会話することが嫌というわけではない。リムジンでの会話が少し楽しかったのは認めたくないが事実だ。何せ小町を除けば去年の六月以来の女子との会話である。坂柳を普通の女子にカテゴライズしていいかは微妙なところだが。

 しかし、奴は確実に危険人物だ。関わったら死ぬという気さえ感じさせる。いや、さすがに学校で死ぬことはないだろうし、現時点で関わってしまっているからどうしようもないのかもしれないが……。

 

 会話中、観察するように見ていた俺の目線に気づいていた。気づいててそのまま弄ってきていた……ん?俺かなり舐められてね?

 とにかく、坂柳有栖という少女にこれ以上関わると確実に俺の学校生活は崩壊すると、理性が訴えているのだ。これからの学校生活で顔を合わせないようにしたいものである。

 

 Bクラスの教室はすぐに見つかり、できる限り目立たないように教室に入る。

 おいそこの女子、俺を見た瞬間「ヒッ!」とか言って顔を背けるのはやめてくれよ。そんなに俺の目ってヤバいの?小町の言ってた目がいつもより腐ってるっつーのは事実だったようだ。坂柳が特段気にしていないようだったから大丈夫かと思ったが、俺の目を特徴的と言ってきたのは奴が初めてなので、坂柳の感性がおかしいのだろう。知らんけど。

 

 どうやらクラスメイトと思わしき人物たちは、すでに数人で固まっておしゃべりに興じているようだ。

 えー、コミュ力高くない?もしかして最近の高校生ってこれが普通だったりするの?

 どうやら俺は入るクラスを間違えたようである。いや、そうであれ。

 

「比企谷君!」

 

 席に着くと同時に俺を呼ぶ声が。

 だ、誰だ!?俺に知り合い、まして友達など―――

 

「えへへっ、一緒の学校に通えることが分かった時もうれしかったけど、同じクラスだなんてね!」

 

 いた。

 いや、友達かどうかは微妙なのだが……。

 俺の目の前で嬉しそうにはにかむ一見美少女――でも美少年――戸塚彩加とは学習塾で出会った。

 正確に言うと俺と戸塚が通っていた学習塾近くのコンビニだが。

 

 コンビニ前でどこかの頭悪そうな高校生にナンパされていた戸塚を、たまたまコンビニにいた俺が助けたことがきっかけだ。

 それ以来、少し話すようになった間柄であり、戸塚が行こうとしていたのがここ、東京都高度育成高等学校だったのである。

 テニス部だった戸塚は部活も勉強も頑張れるようにこの学校を希望したらしい。その話を聞いている内に少し興味が湧いたのと、学費免除、中学の連中と同じ高校に通いたくない思いから俺はこの学校を選んだ……というわけだ。

 

 もちろん、合格するなんて思わなかったから未だに心が整理できていないのだが。

 

「そうだな」

 

「うん、改めてよろしくね、比企谷君!」

 

 握手を求めてきた戸塚に応じる。

 先程の坂柳と変わらないほどの質感、やわらかな手の感触に思わず顔に熱が灯るのがわかる。

 戸塚が男じゃなかったらこのまま告白して玉砕しているところである。振られちゃうの前提かよ。まあ振られるだろうけど。

 それから数分経って、始業を告げるチャイムが鳴った。

 ほぼ同時に、スーツを着た一人の女性が教室へと入ってきた。多分この人が担任だろう。

 

「はーい、新入生の皆さん。私はBクラスを担当することになった星之宮知恵です。この学校は学年ごとにクラス替えが行われたりしないから、三年間ここにいる全員で過ごしていくことになります!よろしくねー!普段は保険医をしてるから授業とかで関わる機会は少ないかもだけど、学校で困ったことや相談したいことがあったら遠慮しないで言ってきてね。さてと。あと一時間ぐらいしたら入学式が体育館で行われるんだけど、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配るねー。前に入学案内と一緒に配布したものなんだけど、もう一度確認します」

 

 前の席の人から渡された資料を一つ手元に置き、残りを後ろに回す。ちなみに俺の席は、廊下側ではない方の窓側から二列目の四番目だ。微妙な位置である。

 この学校が他の高等学校と異なる点は主に二つ。一つは在学中は外部との連絡を特例を除き一切禁じていること。このルールのせいで小町と連絡が取れないのである。なんてルールなんだ……俺と小町の間に引かれた赤い糸をぶった切りやがって。さすがに今のはないか、ないな。

 それともう一つ。Sシステムの導入である。

 

「今から学生証のカードを配りまーす。その学生証一つで敷地内のすべての施設を利用したり、売店とかで買い物出来たりするから大切にね。それにタダでは使えないで、ポイントを消費することになるから注意してね?学園内にはポイントで買えないものはないから、ポイントがあるだけ使えるよー」

 

 学生証端末と一体化しているポイントカード?クレジットカード?まあどっちでもいいが、現金の代わりみたいなもんだ。

 現金を持たせることを嫌ったか、はたまた学生証自体の仕組みで各自の残りポイントを把握できるようになっているのか……其処ら辺は定かではないが、何かしら意味があるのだろう。これからキャッシュレスの時代になっていくだろうからその練習か?

 

「それから、ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる仕組みになっていて、皆にはすでに10万ポイントが支給されているから確認してみてね。もちろん、1ポイントにつき1円の価値があるよ」

 

 星之宮先生の言葉にクラスが一瞬ざわつく。そりゃ突然10万なんて大金を簡単に渡されると誰だって驚くはずだ。

 あーでも、坂柳とか対して気にしてなさそうだな……お嬢様だろうし。

 さすが日本政府が関わってる学校だ。金のかけ方から違うな。八幡びっくりだよ、ほんとに。

 

「びっくりしたー?この学校は実力で生徒を測るから、入学した皆にはそれだけの価値があるってことだよ~。じゃあ最初のオリエンテーションは終了です。三年間よろしくね」

 

 そう言って、星之宮先生は教室を後にした。

 途端、ざわめきの声が大きくなっていく。

「入学式の後ショッピングしに行かない?」「なあなあ、これって何にだって使っていいんだよな!」「10万円……本当にここ、すごい学校なんだな」「月10万とか太っ腹だわ~」「ゲーム買いに行くか!」

 

 ……月10万と言っていた奴がいたが、それは本当なのだろうか。生憎記憶力だけはいいので星之宮先生の言ったことを思いだしてみる。

 『ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれる仕組みになっていて、皆にはすでに10万ポイントが支給されているから確認してみてね』とかだったはずだ。

 

 ……よくよく考えてみればおかしな話だ。学校を疑うわけではないが、研ぎ澄まされたボッチはどうしても相手の言葉の裏を探ってしまう。

 毎月一人一人に10万、このBクラスだけで40人分で400万。年間で4800万だ。他クラスが3クラスあり、三学年あることを考えたら…えーっと、どれくらいだ?6億しないぐらいか?ダメだ、暗算苦手なんだよな。というか数学全般苦手なまである。

 

 この学校に入るために、数学は戸塚にだいぶ教えてもらったりしたがそこまで伸びていないし。

 国が力を入れている学校で5億……ま、あり得ない話ではないかもしれない。だが、ただの高校生に対しては程度が過ぎるのではないだろうか。この学校を卒業すれば就職にしろ進学にしろ、同じような金額を得るには時間がかかるはずだしな。歳上の既に働いているキャリアウーマンと結婚して専業主夫になるのなら分からんけど。

 

 それに、もし無駄遣いなんて覚えてしまったら、卒業後小町に、「お兄ちゃん……変わっちゃったね」などと涙ぐまれながら言われるところまで想像出来てしまう。俺の最後にもらった小遣いを思い出せば話が早いだろうか。確か、月1000円か?いや、少なすぎるだろ俺の小遣い。絶対小町の方が多いはずだ。

 ボッチお得意の考え事をしていたとき、ふとどこからか視線を感じることに気づく。

 辺りを見渡すが、特にこちらを見ているクラスメイトはいない。何それ悲しい……ま、まだ初日だしね!これから友達が増えていくんだよ!(フラグ)

 なら、上か?

 

「お、おおう……」

 

 ついうめき声が出てしまったが、頭上には監視カメラと思わしきブツが。

 さすがというべきだろうか。ここまで徹底するとは思っていなかったが、完全管理のような方針かもしれんとは思ってたし、意外というわけではない。けどこれで授業中寝れないじゃねーか。どうしてくれんだよ。

 数学の時間が拷問の時間に変わった瞬間だった。爆睡決め込む気満々だったのになぁ……。

 

 さてと、ボッチはボッチらしく、早めに入学式の会場にでも行きましょうかね。

 ぶっちゃけるとこのクラスにいるのがつらい。誰も彼もリア充です!みたいな成りしてるもの。

 もしかして顔面偏差値とか試験に関係あったりしたのだろうか?ふっ、やはり俺の顔は目を除けば美形であるということが証明されたな。

 相も変わらず一人でうんうんと自身の容姿についての考察を続けていると、一人の女子がパンパンと二回手を叩いた。

 音のした方へ目を向けると、ロングヘアのスタイルが良い美少女がいた。

 やっぱこの学校容姿が基準なんだろうと思いつつ、どうしても胸の方に目が行ってしまう。結構でかいな…っていうかこれまで見てきた女子の中で一番でかいかもしれん…

 

「私は一之瀬帆波って言います。このクラスで三年間一緒に学んでいくことになったけど、まずはお互いのことを知ることが必要だと思うの。だから今からみんなで自己紹介できたらなって思うんだけど、どうかな?」

 

 どうかな?と言いながら首を傾げる一之瀬。その仕草は反則だと思うんです。あれを可愛くないと思うやつは極度のB専か、ホモだけだろう。

 お、俺はプロのボッチだからうっかり惚れたりして告白して振られたりはしないが、勘違いし易い男子ならイチコロだろう。

 ソースは俺。中学二年の時の俺なら即座に告白して速攻振られているところまで行くな。振られちゃうのかよ、あと振られることに関しては今も変わんねえのかよ。悲しすぎんだろ。

 

 一之瀬の意見に否定的な意見は出ない。逆に「いいよー!」「さんせー!」といった意見ばかりだった。

 まあ、むしろここで「自己紹介とか意味不明なんですけど??」とか言う奴が珍しいだろう。言った時点でそいつはクラス全員を敵に回すだろうし、そんな度胸のあるやつは中々にいないものだ。

 俺?ばっか、俺ぐらいになると自己紹介など朝飯前だ。ボッチ舐めんな。

 

 一之瀬からスタートした自己紹介は滞りなく進んでいき全員の自己紹介が終わった。そろそろ入学式のために体育館に行かないとな。

 え?自己紹介?思いっきり噛んだから恥ずかしくて仕方がない。数人の女子はクスクス笑っていたし、運動神経高そうな男子はぶふっ、って噴き出していた。戸塚が「頑張れ!」みたいな感じで握り拳を作ってくれていたことだけが救いだな。可愛かったぜ…。

 

 入学早々死にたいと思うなど、いったい誰が想像できただろうか。いーや出来たね、いつから俺が自己紹介を噛まずに行えると錯覚していた?そんなわけないだろ、噛むに決まってる。伊達に小中9年間ぼっちしてないからな!

 いくら戸塚と会話をしていたとしても、まだまだ大人数の前で話すには力が足りなかったようだ。くそ、俺にもっと力があれば……!

 

 

***

 

 

 入学式は他の学校と大差なく、お偉いさんの話を聞くだけで終わった。唯一退屈じゃなかったのが生徒会長の話だったな。完全な実力主義ってのが明日からの学校生活をかなり不安にさせたが。

 すでに解散の時間となり、大多数のクラスメイトは買い物へと向かったようだ。戸塚も話せる相手ができたのか、わざわざ俺のところにまで来て俺も一緒にと誘ってくれたが断っておいた。

 だって初対面の相手とかボッチには無理だ。もし戸塚が途中トイレとかで抜け出したら二人きりだぞ?絶対気まずいわそんなん。

 

 そういうわけで全員が出ていくのを待ちつつ読書をしているのだ。だって出て行く時が被ったら、『あ、えっと……どうぞ』『う、うっす』なんて会話が行われることが簡単に想像できる。ソースは中一の頃の俺。あの時はこういった会話から恋が始まるとか考えてたなー。

 

 それに、一人になった後少し職員室にも寄っておきたい。聞きたいことあるし。

 

 普段なら絶対に職員室など自分から行かないが、この学校は謎が多すぎる。情報が少しでもほしい今は、行きたくない感情より利を優先しなければ有意義なボッチライフに支障をきたすのだ。

 全員がクラスから出たのを確認した俺は、文庫本をしまって教室を出る。

 そのまま職員室へと向かい、中を覗き込んでみると星之宮先生を見つけたので職員室の扉をノックする。

 

「失礼します、星之宮先生に用があってきました」

 

「どうぞー」

 

 よし、珍しく噛まずに言えたぞ!

 そのことに少しばかり感動しつつ、俺は星之宮先生の元へと向かう。

 星之宮先生は鏡の前で自分の顔をチェックしているようだった。美人である人は陰で努力をしていると言うが、なんというか、最初に持ったイメージ通りだな。

 鏡から視線を外した後、俺を認識したのか近くの椅子を持ってきて座るように促してくる。

 座った俺を上から下までジロジロ観察するように見つめてくる星之宮先生。

 

「うちのクラスの比企谷君、だよね?入学早々どうしたの?あー、もしかして友達ができなくて独りぼっちとか!」

 

 何故だ、一発で当てられたんだが。

 相談というか質問をしに来たので、友達がいないことを揶揄されても特にダメージはないのだが、こう、最初に聞かれることがそれだと心にグサリとくる。結局ダメージ食らってるじゃねーか。

 

「ま、まだ学校が始まったばかりなのでこれから作るつもりです!」

 

「う、うん、なんかごめんね……」

 

 俺がそう答えると、星之宮先生は居た堪れない感じで視線を逸らしてきた。

 どうやら俺の態度から入学ボッチであることが悟られたようである。それにボッチであることに対しての反応で一番心に響くのが星之宮先生のような反応だ。

 『残念な奴だな』とか『これからがんばれよ!』などならまだ問題ないのだが、『あ、なんか地雷踏んだかも……』という態度が余計に虚しさを感じさせるのである。

 星之宮先生は「んんっ」と一つ咳ばらいをする。どうやらなかったことにしたらしい。

 

「うーんと、なら、彼女はいるの?」

 

 なら、ってなんだよ、友達がいなくて彼女がいたらそいつどんな奴だと聞きたいものである。

 

「今は、いないですけど」

 

 これからに期待を込めて今という部分を強調しておく……なんて虚しい気分になるんだろうか。

 

「じゃあ私を訪ねてきたのは彼女の作り方?残念だけど、まだ自分のクラスの女子とも仲良くなってないから紹介はできないな~、ごめんね?」

 

「い、いえ、おかまいなく……」

 

 星之宮先生は男子高校生を常時彼女募集中の獣だと思っているのだろうか。そりゃあそういうことに興味がないわけではないが、現在のところ俺にそんな気はない。

 ……勘違いはしないと心に決めたのだ。二度とあんな経験してたまるかっつーの。

 

「でも私が同じクラスだったら放っておかないけどなぁ~、比企谷君、面白そうだし」

 

「俺のどこが面白いんですか。自慢じゃないですがこれまで小中9年間面白いと言われたことないですよ。むしろつまんないとすら言われないまである」

 

「そういうところ~」

 

 何が楽しいのか笑いながら星之宮先生は人差し指で頬を突いてくる。それに顔を赤くする俺。さらにツンツンを多めにしてくる星之宮先生。さらに顔が赤くなる俺。

 ついに限界値を超えたのか声を出して笑い始める星之宮先生。

 あれかな、この学校美人は性格悪い法則とかあったりするのかな。それにこの人あれだ、もし学生だったら男子に好かれて女子に嫌われるタイプだろう、多分。

 

 要はあざとい、初対面の男子にここまでするとかこれまでどれくらいの男と遊んできたのだろうか。もしくは男子で、遊んできたのかもしれないが……。

 すると少し真面目な表情を星之宮先生がするので、ようやく本題に入れるのかと口を開こうとする。

 しかし……

 

「そうそう、それで目のことで相談だっけ?」

 

「そうなんですよね、この目を見たクラスの女子には悲鳴を上げられたので…って違いますって。そのことじゃなくてですね」

 

「既に悲鳴上げられた後だったかぁ…ほんと面白いね!」

 

 期待を裏切らないねー、と言いながら笑い続ける星之宮先生。く、くそ、このアマ、真面目なふりしておちょくる気満々だった。

 今も満足そうにむふふ~と表情を変えている星之宮先生。想定外過ぎてつい同級生に接する態度で反応してしまったが、この人先生というより年上のお姉さんという感じが強い。

 ふと、視線を感じたので辺りを見渡せば、他のクラスの先生だと思われる人たちがまるで『ご愁傷様』と言わんばかりに同情の目を向けてきていた。同情するなら助けてくれ!と思い視線を向けると、もれなく全員から逸らされた。えぇ…なに、この人アンタッチャブルな存在だったりするの?

 ひとしきりからかって満足したのか、星之宮先生は笑うのをやめて話を聞く姿勢になる。ようやく本題に入れる、多分。

 多分ってなんだよ、話聞いてくれるのが100%じゃないのかよ。

 

「……あの、質問なんですけど」

 

「うんうん、何でも聞いてね~。あ、先生のスリーサイズとかは駄目だよ?」

 

「あ、駄目なんすか。って、違いますよ」

 

 もし入学初日に担任のスリーサイズを聞きに行く生徒がいたら見てみたいものだ。絶対ヤバいやつに違いない。

 き、気を取り直して……先に本題に入ればおちょくられはしないはずだ。

 

「今日、ポイントが10万入ってる端末を渡されたじゃないですか」

 

「うん、皆に対する入学祝いみたいなものだよ?」

 

「大金すぎて怖いですけどね。あの時、星之宮先生は毎月ポイントが支給されると言ってましたよね?そのポイントっていくらですか」

 

 俺がそう言った瞬間、先ほどまでのルンルンな顔はどこにいったのか、星之宮先生の目が面白いものを見つけたような色を宿す。加え、職員室全体の空気も少し重いものになったのを感じる。

 

 

 ―――――どうやら当たりのようだ。

 

 

 普通に聞けば毎月10万振り込まれると思うだろう。実際、俺もそう思った。が、クラスの奴らが話しているを聞いてから自身の記憶と合わせると、まあ随分と回りくどすぎる言い方だとも思ったのだ。

 それに星之宮先生のように緩いしゃべり方をする先生なら「毎月10万ポイント振り込まれるようになってるよ~」ぐらい言いそうなものである。

 もちろん俺の勝手な想像だから、実際どうかは知らんけど。

 

「へぇ…比企谷君ってばやっぱり面白いね」

 

「ってことは毎月10万ポイントじゃないんすね?」

 

「毎月ポイントは振り込まれる、としか言えないかな~」

 

 つまるところ毎月10万とは言えないが、答えも言えないってことか。先生のほうにもいろいろ事情がありそうだな。

 なら他のことを聞くまでだ。この件がはぐらかされるとしたら気になることはたくさん出てくる。

 

「先生はさっき教室で『この学園でポイントで買えないものはない』って言ってましたよね?」

 

「うん、言ったよ」

 

「それって一体どういうことですか」

 

「ん~?」

 

「いや、もし飲食とか日用品の購入だけなら『この学園内の施設でポイントで利用できないところはない』とか『この学園内はポイントで全て物の購入などが出来る』とか、言うのかなーなんて思うんですけど、随分と回りくどく言うもんだと思いまして」

 

 『この学園でポイントで買えないものはない』と言われれば、普通なら飲食店や服屋でポイントを使って買い物ができると取るだろう。

 しかし、ここはさすがボッチの俺である。この学園で買えないものはないと聞いて友達とか買えたりするんだろうか?もしかして彼女とかも?なんて考えていた。

 いや、だってポイントで買えないものはないんですよね?受け取り方によってはそうとってもいいんですよね?最近読んだラノベが、そんな感じのカラクリを使って、武器チートを駆使してハーレムを築き上げるものだったのでついついそんな妄想をしていたのだ。

 

 先程の毎月の支給ポイントの件が毎月10万であれば考えすぎかと思っていたが、どうやらこの学校、一筋縄ではいかないようだしな。まあ、全国屈指の名門校であるからにはそんじょそこらの高校とは違うとは思っていたけれども、想像より遥かに大変な学校のようだ。

 星之宮先生は何を考えたのか、再び俺の頬をツンツンしてくる。そして赤くなる俺……いや、こればっかりは無理です。美人な女教師にほっぺツンツンされるとか経験ないんです。むしろあったほうがおかしいかもしれないが、少なくとも恥ずかしいことに変わりはない。

 

「まあ、言葉通りだよ~」

 

「そ、そうですか」

 

「そうそう~♪」

 

「……あの、そろそろツンツンするのやめてくれませんか?とてつもない羞恥心に襲われるので……」

 

「でも嫌がらないってことは満更でもないんでしょ~?先生に惚れちゃったのかな~?」

 

 先程までの俺を探るような態度を一変させ、ニヤニヤしながらいじってくる星之宮先生。くっ、こんな辱めを受けるくらいならいっそ殺してくれ!男のくっ殺ほど需要ないものはないな。

 でもな、いつまでもやられてばかりな俺だと思うなよ!

 

「ええ、先生美人ですから」

 

「知ってる~比企谷君もかっこいいよ?」

 

 即効で反撃を無効かされた挙句、ほっぺをいじられながらさらなる攻撃を受け、つい心が躍る俺氏。駄目だ、まったく反撃のビジョンが浮かばない。これはもう受け入れるしかないな(白目)

 なんかもう美人と話せてることが得だと思おう。そうしないとやってられん。

 

「俺だって顔はそこそこ良いほうだと思いますよ。目を除けばイケメンなのにと妹にも言われますし」

 

「う~ん、確かにその目は人によって好き嫌い分かれるだろうね~。私は好きだよ?」

 

 好きだよとか言われると返す言葉がないからどうしていいかわからなくて困る。俺とそのような言葉は無関係であるからだ。これまで好きと言われた経験は『いやー、ナルが谷虐めるのほんと飽きないし好きだわー』ぐらいである。今思えば、ほんとに俺の少年時代悲しすぎるだろ……。

 星之宮先生は俺の顔を見てはうんうんと色々な角度から見ていたが、突然引き出しを開けたと思えば、その中から眼鏡を差し出してくる。

 

「これ、つけてみてよ。少しはその目が緩和されると思うんだ」

 

「そ、そっすかね……」

 

 とりあえずかけてみる。あ、これ伊達か。光の反射的にあれだな、ブルーライトがカットされてるっ!ってやつだな。どこのハズキルーペだよ。

 

「おお~想像以上!これなら友達も彼女も作り放題だね!」

 

 いや、友達はともかく彼女作りまくったら駄目でしょ……。

 鏡を差し出されるので、手に取り自分の顔を見る。

 確かに目が隠れたことにより、そこには冴えないイケメンがいた。おお、俺はやはり顔は悪くなかったんだなと思うと同時に、目を隠すだけで薄気味悪い陰キャが薄気味悪い少しイケメンかなと思えるまで変わるのかと、なんとも言えない気持ちになる。これなら俺は友達ができたのだろうか。…いや、どっちにしろ俺の行動は変わらなかっただろうし、それはないか。

 

「はい、比企谷君ちょっと近づいてね~」

 

「は?ちょ、ちょっと……」

 

 鏡に集中していたせいでまったく気が付かなかったが、気づけば星之宮先生が真横に来ていた。

 べ、別に豊満な胸の感触をもう少し味わいたいとか思ってないですし?せ、先生に逆らうことは良くないことだと思うのでこの状況も仕方がないんです!あーあ、仕方ないなー(棒)

 

「ほらほら~カメラの方に視線向けて~」

 

 パシャ。

 

 カメラ特有の写真を撮った音が響き、星之宮先生は楽しそうに写真を見る。

だが、途端に頬を膨らませて俺の方を見てくる。

 

「もう~視線はカメラにって言ったのに」

 

「……あざとい

 

「うふふ…何か言ったかしら?」

 

「ヒッ!?い、いえ、なんでもありません!もう質問はないので失礼します!」

 

 ついに耐えられなくなった俺は星之宮先生の魔の手から逃れ、眼鏡を外して机の上に置いてから即座に職員室を出る。

 正直なところ他にも聞きたいことはあったのだが、これ以上はもう耐えられない。つい我慢できずにあざといと口に出てしまったが、星之宮先生の目がまったく笑ってなかった。怖すぎた。

 べ、別にチビってなんかいないんだからね!背中に冷たい汗が流れただけなんだから!結局体が恐怖を感じてるじゃねぇか。

 

「またね~」

 

 手を振る星之宮先生を尻目に職員室から離れるように早足で歩く。

 あー男子高校生、強いてはぼっちには拷問のような時間だった。男に対しての最終兵器みたいな先生である。

 ぶっちゃけ刺激が強すぎた。終始顔が赤くなって仕方がなかった。なんだろう、今日は碌なことがないな。こんな日はMAXコーヒーを飲むに限る。

 

 よし、そうと決まれば早速行動あるのみだ。

 俺はMAXコーヒーを買うために、玄関へと向かうのだった。

 

 

***

 

 

「随分と面白い生徒がいたものだな、チエ」

 

「やっぱりサエちゃんも興味ある~?」

 

「当たり前だ。初日で毎月10万支給されるわけではないと気が付き、更には教師に確認を取りにくる生徒がいるとはな」

 

「まあ、気づくだけなら誰でも出来そうなものだけどね~。それにSシステムの全貌を看破できたわけでもないみたいだしね。どちらにしてもこれからの行動が注目なのは言うまでもないんだけど…それより彼さ、私をずっと冷めた目で見ていたんだよ」

 

「ほう……?」

 

「そりゃあ頬っぺたツンツンしたり、胸に触れてる時は年相応の反応をしてたけどさ~わかっちゃうよね、凄い警戒心。それも多分、意識してるの半分、無意識半分ってとこかな?どんな人生送ってきたら、あんなになるんだろうね」

 

「お前の見てくれに騙される奴は多いからな。まさかお前が生徒に直接あざといなんて言われるとは思わなかったが」

 

「うるさいよサエちゃん」

 

 そう言いつつ、星之宮は手元の比企谷八幡の資料を見つめる。

 その顔はこれからの八幡の行動に期待するからか、単に面白そうだからだろうか。笑みを浮かべていたのだった。

 

「今年のBクラスは面白くなりそうだね」

 




高度育成高等学校学生データベース

氏名:比企谷八幡
クラス:1年Bクラス
学籍番号:S01T004679
誕生日:8月8日

評価
学力:C+
知性:A-
判断力:B+
身体能力:C
協調性:E+

面接官からのコメント
小学校の段階から成績は良かったものの、孤立気味であった。また、中学校の成績表では文系科目がとても優秀ではあったものの、やや理数系が苦手であることが窺える。協調性に欠ける部分があるためCクラス配属予定だったが、面接時の意気込みや態度から、これからの学校生活に期待が持てるため、Bクラス配属とする。

担任メモ
頭は良いけれど、考え方が捻くれていてちょっと心配な子です。積極的なのか消極的なのかよく分からないけれど、これからは眼鏡効果も駆使して協調性を高めていって欲しいかな。
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