やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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感想ありがとうございます!やっぱり返信する時が一番楽しいですね……。
さてさて、今回は四人組の夏休みと葛城との絡みです。

相変わらずの駄文ですが、楽しんでいただければ幸いです。


康平「苦労しているんだな」 八幡「お前もだろ」

 星之宮先生と別れた後、部屋に戻ると彩加が夕食の準備をしてくれていた。

 

「あ、八幡!おかえりなさい!もう少しでご飯できるから待っててね!」

 

「……おう」

 

 いつもの俺なら舞い上がるところだろうが、生憎、今はそんな気分になることが出来そうもなかった。

 ……戸塚彩加。中学の時に通っていた塾で知り合った、そこらの女子よりも可愛い男子。それが自身のコンプレックスのようで、本人は男らしさをもっと身に着けたいと願っている。

 俺は、彩加とどう接するのが正解なのだろうか?

 高校に上がる前までの俺なら、部屋に上げたり、まして泊まりだなんて絶対にすることはなかったはずだ。

 拒絶して、あるところで線引きして、一定以上の距離を保っていたはず。

 だがこの学校に来て、Bクラスに配属されてからはどこか浮ついていた。

 担任といい、クラスメイトといい、皆仲良くを本当に実現できる、想像上でしかありえないような、そんな甘い夢を一瞬見かけてしまった。

 

 そんなこと、ありえるわけないと心が叫び出す。

 

 それに俺は、一度そんな関係を求めることを拒んだ。

 そんなものは馴れ合いに過ぎないと。ただの欺瞞で、嘘で、偽物で。

 お互いに嫌われないように気を遣いながら、周りの顔色を窺い続ける関係。

 もちろん、そんな関係ばかりではないのだろう。言いたいことを言い合える関係も存在しているのだろう。

 けれど、俺にはそれが―――――――――――――酷く、物足りないと感じるのだ。

 

「八幡!今日は肉じゃがだよ!……八幡?」

 

「……ん?あ、ああ。ありがとう彩加。美味そうだ」

 

「もう、ボーっとしすぎだよ?じゃ、食べよっか」

 

「おう」

 

 彩加の作ってくれた肉じゃがは、とても美味しい。実際に前に食べた時は、最後の晩餐には彩加の肉じゃがとマッカンがいいなと思ったほどだ。

 しかし今は、どうしてか味を感じられなかった。

 

 

***

 

 

 お互いに他愛ものないことを話しながら……まあほとんど俺は聞き専だったが……順番に風呂に入り、歯を磨いて寝る支度をする。

 寮の部屋は一人用に考えられているため元々ベットは一つしかない。

 

「だからといってこれは……」

 

「……すぅ、すぅ……」

 

 俺と彩加は同じ布団で眠っていた。

 最初は俺が床で寝ようと思ったが、彩加がそれを拒否。だからと言って彩加を床で寝せるなどもってのほかだ。

 そしたら彩加が、『八幡……い、一緒に寝ない?』なんていうもんだから承諾してしまった。

 うん、彩加が可愛すぎるのが悪い。

 

「はあ、寝れる気がしねえな」

 

 彩加が隣で寝ていることも寝付けない原因ではあるのだが、やはり一番は星之宮先生だ。

 

 

『君はそんなつまらない子?』

 

 

 あれは何を意味していたのだろうか。俺がつまらないのは元からだが、そういうことを言っているわけではないことぐらい、さすがにわかっている。

 俺は何を求めているのだろう……本物なんて、あるのか。

 考えれば考えるほど、深い闇の中を彷徨っているような感覚に陥るのを感じる。

 今までの会話が楽しくなかったとは言わないし、言えない。むしろここまで会話する人間が増えたことは喜ばしいことだ。

 

 それでも……薄ら寒いと感じてしまうのは俺が歪んでいるからなのだろうか。

 彩加を始め……一之瀬、白波、神崎、柴田、綾小路、椎名、堀北……話す人間は確かに増えたし、交流も多くなったと自覚している。

 だがこいつらに……俺は何を求めて……いや違う、俺が求めるもの。それは……酷く独善的で、独りよがりで、我がままでしかなくて。

 そうだとしても、俺が求め、欲するもので。

 

「あ……はち、まん……」

 

「さ、彩加……?」

 

「僕はずっと……はちまんの味方だからね……」

 

「寝言かよ……全く」

 

「えへへ……」

 

 可愛すぎてつい頭を撫でちゃうだろ。

 どうして彩加がそこまでして俺に関わってくれるかは分からない。

 味方するなんて言っても、ただの口頭での言葉だ。それが上っ面だとしても本気だったとしても俺には分かりえない。

 ただ、彩加とはこれからの関係は、俺の望む様なものに―――――――

 

 

***

 

 

「……谷君」

 

 ……?なんだ……?

 

「……企谷君」

 

 うるさいな……もう少し寝かせてくれよ……。

 

「比企谷君!!」

 

「……なんでいんだよ」

 

 目を開けて真っ先に飛び込んできたのはドアップの白波の顔。

 ……は?ち、近くない?目の前に瑞々しいピンク色が……え?

 

「ちょ、ちょっと千尋ちゃん!近すぎるよ!」

 

「あ、ごめんね比企谷君……あれ、一之瀬さんその反応はもしかして……?」

 

「な、なんでもないよ!ただ、千尋ちゃんと比企谷君がキスをしそうでびっくりしちゃっただけで……」

 

「き、キス!?わ、私が比企谷君と!?」

 

 こいつら……勝手に侵入してきやがって……いや、彩加が入れたのかな?なら良し!

 朝からドキドキ体験とかどこのラブコメだ。

 

「あ、おはよう八幡。目が覚めたんだね?もう少しで朝食出来るから待っててね!」

 

「おう、おはようさん……」

 

 さ、彩加がエプロンしてる!!か、可愛い!永久保存版間違いなしだ!

 

「……」パシャパシャ

 

「(す、すごい……いつもだるそうにしている比企谷君が真剣そのものだ……!)」

 

「(うんうん、分かるよ比企谷君。私も一之瀬さんのエプロン姿何十枚も撮ったからね!)」

 

 並みの男子高校生なら堕ちていたと断言できる危険行為をした白波が、いい笑顔でサムズアップを向けてきた。

 俺もそれに応じてサムズアップを行い、何故か俺たちの行動をみた一之瀬までサムズアップをする意味不明な空間が出来上がったところで、彩加が朝食を並べはじめた。

 

「比企谷君、顔と手を洗ってきなよ。戻ってくるまで待ってるからさ」

 

「お、おう……」

 

 今何時だ……8時?早すぎだろ、ほんとならあと二時間は寝れてるのに……悲しいかな、すでに部屋の実権を握られていてはどうすることも出来なさそうだ。ここ、誰の部屋だっけ?

 顔を洗い、手を洗ってからリビングに戻ると、ちょうど三人が全員分の朝食を並べ終わったところだった。

 

「おっ、グッドタイミングだね!」

 

「それじゃあ、いただきます!」

 

「「いただきまーす!」」

 

「いただきます」

 

 前に購入した低めの机を取り囲むように四人で座り、朝食を食べ始める。

 ちなみに音頭をとる人間は各食作った人間が行うことになっているため今回は彩加だ。相変わらず可愛い声だな……いつまでも聞いていたい。

 朝の献立はご飯に味噌汁、焼き鮭にサラダと至ってオーソドックスだが、彩加の手作りというだけで付加価値が凄まじいものになる。

 うん、美味い。

 

「彩加、毎朝俺に味噌汁を作ってくれないか」

 

「もう!今食べてるじゃん!変な八幡!」

 

「す、すまん、美味しくてついな……」

 

「ありがと!そう言ってくれると嬉しいよ!」

 

「(このやり取り何回目だろう?いつも見てる気がするんだけど……比企谷君は愛の告白を日頃からしすぎ!軽い男の子に見え……ないね?)」

 

「(いいなぁ……私も一之瀬さんにそう言ってみたいけど……勇気が出ないよぉ……)」

 

 いつもながら。他愛もない話をしながら朝食を取り終わり、俺は食器を洗い、他三人は勉強の準備を始める。

 基本、料理をこの三人に任せっきりにしてしまってるようなものなので、食器洗い等の雑用は俺が積極的にやることになっている。というよりやらなければ本格的に専業主夫への道が閉ざされてしまう。それは避けなければ!

 洗い終わってから服を持ってリビングを出て、洗面所で寝間具から着替える。

 普段なら女子二人は、朝から勝手に部屋に突撃してこない。基本はリビングで着替えるのだが、さすがに今着替えるわけにはいかない。別に露出狂でもないし……もし着替え始めたらすぐさま通報されそうだな……白波に。

 ここ俺の部屋なはずなんだけどなー……シェアハウスをする気分とはこんな感じなのだろうか?

 着替え終わり、やりたくもなければ見ることすら嫌な数学の教材を取り、他の三人同様机に向かう。

 

 ※以下勉強中の会話抜粋

 

「ねえねえ八幡、ここの文法ってなんでこう解釈できるの?」

 

「それはだな、前の文に注目すると……」

 

「一之瀬さん、ここの化学式ってなんでこうなるのかな?」

 

「えっとね、まず酸素が……」

 

「すまん、数学さっぱりわからん」

 

「もう八幡ったら……あれ?ここって確か一之瀬さんが教えたところじゃ……」

 

「え、えっとですね……」

 

「そっかー?比企谷君は戸塚くんが教えると覚えられるのに、私が教えると覚えられないんだー?……ネエ、ナンデナノカナ?」ウツロナメ

 

「ごめんなさい俺の記憶力が並の人間以下なだけです!もう一度教えていただけませんでしょうか一之瀬様!」

 

「そこまで言うならいいけど……ツギハナイヨ?」

 

「サー、イエッサー!」

 

 ……まあ色々あったにはあったが、午前中は集中力が続く限りそれぞれ復習予習に取り組み、一之瀬によって設けられた二時間に一回の質問時間でお互いに教えられるところは教え合った。

 最近一之瀬の俺に対する扱いが厳しくなっていてるのは気のせいかな?気づいたら人を殺せそうな目で俺を見つめてるんだよ?……はい、俺の理解力の問題ですねわかります。

 時刻は12時半、ちょうど昼時だ。昼飯は何にするのだろうか?

 

「お昼ご飯何にしよっか?」

 

「うーん、材料的にはチャーハンか野菜炒めとかかな?」

 

「あ、あの、ラーメン食べ行きたいで「一昨日、『月一回の無料の三品買ってなかったわ』って今日が消費期限の野菜を買ったのは誰だったかな~?」はい、すみません、なんでもないです」

 

「朝炊いたご飯も残ってるし、チャーハンが無難かな」

 

「よし、じゃあ作ろう!」

 

 俺のラーメンを愛する心を一瞬で蹴散らし、三人でわいわいと献立を決め、調理をし始める。

 朝は彩加が作ったから、昼は一之瀬と白波が作るんだろう。今日の夜は女子会なるものがあるらしく、彩加も友達とご飯を食べに行く予定らしいので、夜にラーメンは食べに行こう。

 今日の分のノルマ(一之瀬作の数学基礎問題集)を終わらせたため手持無沙汰だ。特に考えることもなく学生証端末を開き、今の所有pprやチャットの会話、電子掲示板をチェックしていく。

 

「八幡、今プライベートポイントいくら?僕はこれぐらいなんだけど……」

 

 俺と同じく手持無沙汰であった彩加も同じようにpprの確認をしていたらしい。彩加の端末には146723pprと表示してあった。

 

「俺も似たようなもんだな」

 

 俺の端末には149811pprと示されてある。これは中間考査時の彩加の退学話を10万pr払うことによって一点を購入した際、彩加が自分のせいで迷惑をかけているのだから全てをクラスの貯金から出させるわけにはいかないと、半分を自身のpprから出したことによるものだ。それでもあんまりクラスメイト達と変わるもんではないのだから、彩加が節約できていることが理解できる。

 むしろここまで差がないのは、俺が無駄遣いをしていることを示しているのだろうか?あ、ボイスレコーダーの有無と、最近買ったゲームのせいか。

 

 そういえば一之瀬のポイントはどれくらいになっているのだろうか……クラスメイトからの徴収ポイントだけで確か320万あるから……彩加の点数に使ったり、Dクラスの手助けに使ったりしたとはいえ、一之瀬自身のポイントを考えれば……330万あるかないか、それぐらいだろう。

 日頃の情報収集(ボイスレコーダーを常時展開)によれば、次のクラスポイントが大きく変化しうるのは皆が楽しみにしているバカンスの内容であることにほとんど間違いはない。上級生は下級生に試験の内容を教えることが出来ない等の制約があることもすでに把握済みで、上級生に頼るといった行動は出来ない。

 ……ま、試験の内容次第だし、今警戒しすぎるのも気の張りすぎか。

 

「じゃーん!出来たよ!私と千尋ちゃんの力作チャーハン!」

 

「うん、今回のは良い感じだった!」

 

 どうやら出来上がったらしい。いい匂いがする方を見れば、各皿に配分された美味しそうなパラパラチャーハンが机に置かれていた。

 何故ここまで俺と三人で料理のレベルが違うのか……専業主夫希望が一番レベル低いって中々だよね?もう専業主夫(料理を除く)を目指すことにしようかな。

 

「「いただきます!」」

 

「いただきます!」

 

「いただきます」

 

 作ったのが一之瀬と白波であるので二人同時に合掌しているのだが……白波さん?嬉しかったのは分かるけどもうちょっと抑えよう?顔が凄いことなってるよ?可愛すぎるんだが……あーあかん、この空間は俺の精神を試しているのかな?

 彩加が可愛いのは宇宙の真理、一之瀬は上級生も気に掛けるくらいには有名な美少女、白波はBクラスの中では積極的ではないので目立っていないが、普通に可愛い。うん、これ俺が顔面偏差値下げてたりするのかな?ごめんね?

 

「美味しいよ二人とも!」

 

「ありがとう戸塚くん!」

 

「良かった、いい出来でほっとしたぁ……」

 

 確かに美味しい。正直店で出てきてもおかしくないほどには美味いな。

 ……これどうするのが正解なのかな?一之瀬はさりげなく感想を求めてきているのだが、白波が釘を指すかのようにジト目で見つめてきている。俺はジト目成分欲してる遥君とは違って、ただ気分が落ち込むだけだからね?

 仕方ない、さりげなく褒めつつ、なおかつ他人事のように……どうして料理一つ褒めるだけでここまで考えないといけないんだろうね。

 

「……ま、美味いんじゃねーの?」

 

「捻デレだ!」

 

「そっか、美味しいんだね」

 

「八幡は素直じゃないなぁ~」

 

「うっせ……って、何が捻デレだ。誰がそんな造語作ったんだよ」

 

「星之宮先生」

 

「奴かよ……今度とことん俺への認識について話し合わないといけないみたいだな」

 

「(うーん、何度頭の中で想像しても、星之宮先生に比企谷君が手玉に取られることしか浮かばないんだけど……)」

 

 まったく、あの教師は何勝手に変な造語を作ってんだか。茶目っ気ありすぎだろ、やっぱ純情派お姉さん系ビッ……純情美人お姉さんなところが生徒とのコミュニケーションを円滑にしているのでしょうか。星之宮先生見てくれだけ……中身も見た目が素晴らしいからな、いやホントに最高だしな!……断じて毎回身体を襲ってくる寒気にビビったわけじゃない。ホ、ホントダヨ?

 おそらく関わり度だけで考えれば、クラス担任であり昼休みを一緒に過ごしていることから俺がダントツであるはずだが、一体いつ生徒にいらん言葉を教えたりしてるんだろう?八幡、気になります!

 

 しばらく談笑しつつ食事をし、全員が食べ終わったことで食器を洗っていく。その間に三人が俺の部屋にあるゲームを準備していた。

 結局、金に困っていたであろうDクラスの生徒(誰かは知らないし顔も知らない)や上級生(こちらも面識なし)の使わなくなったゲームを購入したことにより、我が部屋は理想郷へと一歩近づいていた。

 あと必要なものは本棚と本だが、こればっかりは手を出さなくても図書館に揃ってるのでこれ以上理想郷と化すことはないだろう。嬉しいような悲しいような……。

 

「何するー?」

 

「スマブラやろうよ、スマブラ!」

 

「いいね!なんか久しぶりだなー、ゲームするの」

 

「この学校に入学してから色々あったからねぇ……すごく短く感じたよ」

 

「だね!」

 

 楽しそうで何よりです。これが父親の気持ちなんだろうか?キッチンからワイワイしている三人を眺めていると……なんとも表現しがたい感情が浮かんでくるもんだ。

 食器を洗い終わったので俺も参戦する。

 

「一之瀬がピカチュウで白波がプリン、彩加がネス……なんかしっくりくるな」

 

「八幡はスネークを使うんだね」

 

「負けないからね!」

 

 いいじゃんスネーク。横スマ当てたら大体撃墜できるし……当てんの難しいけど。

 友達と対戦なんてしたことがなかったためか、今回の四人での対戦プレイは結構ワクワクする。

 CPU相手にひたすら戦うか、小町と対戦と言う名の接待プレイしかやったことがない俺だが、このメンバーなら勝てる気がするぜ。

 

 

***

 

 

~三時間後~

 

「やった!これで10勝目!最下位の比企谷君への命令は……私たちが帰るまでこれを付けること!」

 

「……はい」

 

「「わ~!新鮮!!」」

 

「八幡!写真撮ろうよ!」

 

「……お、おう」

 

 あれから三時間、少しばかり休憩を入れたりキャラを変更したりしているのですが、一度も勝つことが出来ないでいた。

 いや、こいつら上手すぎ……一之瀬と彩加は交友関係が広いから経験もあるんだろうが……まさか根暗とまでは言わないしても、どちらかと言えば陰の部類になるだろう白波まで強かったのは計算外だった。

 プリンにボコボコにされるおっさんの図が何回目の前で再生されたことか……。

 

 加えて途中からは『ただ勝敗をつけるだけじゃ面白みに欠ける』とか言い出し、一位になったものが四位に何かしら命令できるとかいう王様ゲームの亜種がスタート、俺の22敗目の罰ゲームは猫耳を頭に着けて過ごすこと……一之瀬さんなんでこんなの持ってるの?さては大の猫好きだな!?そういやたまに『にゃにゃ!?』とか『~だにゃ?』とか言ってるしな。

 でもそういうのって、一之瀬が可愛いから許されるのであり、これが性格悪いブスがやると途端に攻撃対象になったりするんだよね。今までクラス内でのカーストや立場、しぐさなんかを観察してきたから八幡知ってるんだ!

 

 この学校に来てからというもの、すり減らしていたであろう神経に気を遣わなくてよくなったためか、妙にテンションが高い三人。

 次々と命令権を手に入れては無茶ぶりしてくるし……綾小路の部屋に行って『俺、実は男に興味があるんだよ』って宣言するとか鬼畜過ぎるだろ。いや、確かに彩加に興味はあるしつきそうにもないのは事実だが、あれは絶対誤解されただろう。綾小路も『は……?』なんて茫然としてたからな。

 白波の黒い笑みが……くっ、もっと俺が強ければ……!

 ちょっと本気でスマブラ練習しようとした瞬間だった。

 

「あ~遊んだ遊んだ!久しぶりにゲームをした気がするよー」

 

「そうだね、夏休みに入るまではちょっと気を張り続けてたし……いい息抜きになったよ」

 

「比企谷君が弱すぎることにはちょっと驚いたけどね」

 

「うっせ、ボッチは対戦相手なんてCPUぐらいしかいねえんだよ……はぁ、綾小路の誤解はどう解こうか……」

 

 こうして、夏休み二日目の計画を全うし、一之瀬と白波は女子会へ、彩加はテニス部の友達と飯を食べに行くために部屋から帰っていった。

 すぐに綾小路に連絡をし、ラーメンを奢ることで誘い出すことに成功。道すがら罰ゲームであることを説明し、他人に変なことは言わないようと釘をさす。

 

「いつも一緒にいる、見た目が女子のような男子は当てはまらないのか?」

 

「何言ってんだ。彩加は彩加だぞ。それ以上でもそれ以下でもない。当てはまらないな」

 

「そうか」

 

「……で、最近俺が図書館を利用するたびに、堀北を嗾けていたのは何かしら目的でもあったのか?」

 

「嗾けた?……ああ、前に比企谷がBなのに堀北はDなんだな……って煽ってみたら想像以上に効果抜群で、『彼が本当にBクラス足りえるのか見極めに行くわ』とか言ってたな……」

 

「原因はお前に変わりないだろ……ま、堀北は実際、能力だけみれば優秀だから、言いたいことは山ほどあるだろうし……」

 

「しかしあの性格がな……」

 

「ああ、ものの見事にすべてを台無しにしてしまっているな」

 

 堀北トークで盛り上がる陰キャ男子二人組。傍から見たらモテない男子による女子格付けだとでも思われてそうだな……。

 

「正直者過ぎるというか、真っすぐすぎるというか……難儀な性格だよ」

 

「オレのように事なかれ主義を貫けばいいのにな」

 

「事なかれ主義の割には堀北のサポートをしてるよな……」

 

「脅されてるから仕方ないんだ。堀北が怖いのは、比企谷も分かるだろ?」

 

「ああ、前に『コイツぼっちだ!』って心の中で思っただけで睨まれたし」

 

「それは比企谷が分かりやすいだけと思うけどな。オレからでも、そうとうわかりやすいと思うからな」

 

「マジかよ……あ、そういえばDクラスには堀北と対照的なのがいるよな」

 

「誰だ?」

 

「櫛田」

 

「まあ、コミュニケーション能力なら完全に真逆だが……」

 

「いや、違う違う。堀北は何事にも真っすぐだが、櫛田は張り付けた仮面で周囲を欺いているだろ?」

 

 お、珍しく綾小路の目がギリギリ視認できるぐらい見開かれた。これはやっぱり裏の顔があるんだろうな……あーやだやだ。

 

「……気づいていたのか?」

 

「俺はまず人を疑うところから入るからな……あんな『いかにも男子受けしそうなしぐさ』をした奴、気持ち悪く感じてな……でも気づいてる奴は気づいてるはずだろ」

 

「例えば?」

 

「高円寺」

 

 高円寺が前に櫛田のことをプリティガールと呼んでいた。それはある意味『おやおや、そんな可愛らしい演技をしてどうしたんだいガール?』的な感じかと思うと、お腹が痛くなってくる。なんつー嫌味だ。

 まあ、何も関係なくてきとうに呼んでいるとは思うけどね。俺だったら……ゾンビボーイかな?自分で言ってて悲しくなってきたわ……。

 

「高円寺か……確かに自由人過ぎる性格さえ除けば、能力は凄いからあり得ない話ではないな」

 

「お前と一緒で力を出さないから、明確には分からないけどな」

 

「比企谷はオレのことを買い被りすぎだ。オレは高円寺や堀北の足元にも及ばない平均的な人間だ」

 

「いや、今さっきの発言ではっきりした。高円寺の能力を大体把握できれば、大抵は化け物と言うはずがお前は凄い、ぐらいのレベルだ。俺はあれを凄いって言葉だけで片付けられるほど強者ではないんでね。むしろ雑魚なまである」

 

「(……やっぱ比企谷は面白いな……)」

 

 こじつけが過ぎたか?結構無理矢理ではあるが……少なくとも高円寺のスペックは規格外すぎる。それを凄い程度で見れる綾小路……うん、この二人が本気出したら負ける気しかしない。やる気出すんじゃねーぞ!

 

「純粋にオレの語彙力のなさだと思わないか?」

 

「あー……わり、国語満点のつもりで話してた。すまん」

 

「謝るのか煽ってるのかわからないぞ、ヒキガエル」

 

「おい、地味に昔の渾名で呼ぶんじゃない。お前がそう呼ぶ所為で、堀北にヒキガエルと認識されてしまったじゃねーか」

 

「なんだ?堀北のこと好きなのか?」

 

「いや、全然。お高く留まってる系女子は好きじゃないが……まあでも、少しだけ憧れている部分はあるかもしれん」

 

「……?」

 

「どうした?」

 

「いや、堀北のことを憧れているとか言う奴がいたから、コイツ本気かと疑ってな……」

 

「おいやめろ、すべての面で憧れてるわけじゃねーから。ただ……俺が遠い昔に捨て去ったものを貫いているところを見ると、重ねる部分があってな」

 

「そんなもんなのか?」

 

「ああ、そんなもんだ」

 

 堀北鈴音とは、多く関わったわけではない。せいぜい図書館で会ったときに会話するか、もしくは椎名に誘われて食事(支払いは俺持ち)するときぐらいしか会話なんてしない。

 それでも、同じようにボッチ道を歩んできたもの、歩むものとして……自分を曲げずに生きていることに、少しばかり憧憬を抱いてしまうのだ。

 俺には持ちようもないあの姿勢に。

 

「綾小路は……なんでこの学校に入学したんだ?」

 

「いきなりだな……理由か、特にないな。たまたまだ」

 

「そんな奴いたのか……俺も似たようなもんだけど。たまたまきっかけがあって入学したが、特にやりたいことも目標もない」

 

「Aクラスに興味ないのか?」

 

「正直ねえよ。ただ、クラスが目指すっつーから乗っかってるだけだ」

 

 やはり綾小路と会話をするのは面白い。少なくとも気分が楽だ。多分、純粋に気を遣わなくていいと感じられているからだろう。綾小路はそういうのを気にせず話せるところが八幡的にポイント高い!……小町元気にしてるかな?

 

「……そこに誰かいるのか?」

 

「え?」

 

「いや、さっきから何もないところで手を動かしていたから、オレには見えない何かと交信しているのかと……」

 

「へ?」

 

 な、なんだと!小町愛があふれ出してしまったせいか急に会いたくなったせいか……想像の中で小町の頭を撫でていたら現実でもしていたようだ。ただのヤベエ奴じゃねーか……。

 

「す、すまん……ヤベエ奴と幻滅したか?」

 

「元々おかしな奴だと思ってたし、今更だ」

 

「ちょっと?俺って普段からおかしいやつ扱いだったの?」

 

「気にするな。オレは前から気にしていない」

 

「ひ、ひでえ……」

 

 綾小路に変人扱いされてるのは……え、俺の認識って高円寺と同じなの?あそこまで我を出してないつもりなんだけどな……?

 あ、そこじゃない?ソウデスカ……。

 

 

***

 

 

 翌日の夏休み三日目、俺と彩加はテニスコートを借りていた。

 前々から彩加とはテニスをやらないかと話していたものだが、思っているよりも彩加がテニス部で忙しかったり、俺が怪我を負ったり、俺が数学出来なさすぎたり……大体は俺のせいで先延ばしになっていたのだが、夏休みにせっかくだからとやることになったのだ。

 

「八幡、今日はありがとね!僕のわがままだったのに聞いてくれて!」

 

「気にするな。俺も運動はしないといけなかったし、好都合だった」

 

「そっか!じゃあ楽しもうね!」

 

「おう」

 

 その花の咲いたような笑顔が最高です。ごちそうさまでした。

 彩加といるだけで心が安らぐなぁ……昨日の夜は呪われていたから、なおさら癒されていくのを感じる。

 昨日、俺がよく利用しているラーメン屋で食事をとり、切れていたシャンプー類を買うために綾小路と別れたのだが……坂柳一派に遭遇、カフェへと連行され四人分の支払いとバカンスで行われるであろう特別試験の協力(強制)を求められたのだ。

 俺の頑張り(接待に土下座、俺のプロフィール公開)により20枚の写真を取り返したものの、なんとなくだが、前より写真が増えていたような気がするんだよな……奴隷になる日が近そうで怖い。

 

 うん、あんな悲しい出来事なんて忘れよう。

 

 彩加がラケットを二つ所持していたので一つを借り、ラリーを始める。

 テニス部である彩加が撃ち返しやすいところにボールを返してくれているため、なんとか返すことでラリーが続いていく。

 テニスに関しては、中学のときに体育の時間で壁打ちをしていた経験しかない。これが人生初のラリーである。

 まさか相手が彩加とはな……『俺の初めては彩加とだった』なんて表現すると、なんかちょっとエロく感じるな……ゴクリ。

 

「八幡テニス上手だねー、前にやったことあるのー?」

 

「中学の授業でー、超壁打ちしてたー、テニスは極めたー」

 

「それだけでこれだけ打てるのすごいねー!だけどー、それはテニスじゃなくてー、スカッシュだよー」

 

 伸び伸びの声を出しながら、俺と彩加はラリーを続ける。

 なんだろう、このカップルみたいな光景……ここが天国でしたか。

 時々休憩をはさみつつ、また、彩加にスライスやサーブを軽く習いつつ、ラリーを続ける。

 一生この時間が終わらなければいいのにと思っていたが、すでに始めて三時間が経ち、コートを借りていた時間の終わりが見えてきてしまった。

 惜しい気持ちが盛りだくさんではあるが、彩加がネットの道具を片付けている間、俺はコートを整備していく。

 

「終わっちゃったねー。時間が経つのもあっという間だったなぁ」

 

「……また来ようぜ。いつでも休日なら借りられるだろうし」

 

「うん!ありがと八幡!今度は一之瀬さんと白波さんも誘ってみようかな?」

 

 いつもの面子だと俺だけ疎外感が半端じゃないんだよな……見た目の。

 前に星之宮先生から買った伊達眼鏡かけておけばなんとかなるだろうか?

 

 

***

 

 

 コート整備を終えた俺と彩加は管理局に道具を返却し、コンビニで軽くお昼を済ませる。

 今日のメインはテニスではなく昼飯後に行くところなのだ。

 

「ここだね。八幡は初めて来たんだっけ?」

 

「ああ、前から鍛えていたわけではないからな」

 

 昼食を取り、一休みした俺たちが向かったのがトレーニングルームだ。

 この学校では部活生用のトレーニング室と一般生徒用のトレーニング室があり、部活生はどちらも使用でき、運動系部活に所属していない生徒は一般用しか使うことが出来ない。

 一学期ですらCクラスに暴力を振るわれたのだ。二学期、三学期ともなればさらにクラス間での競争は激しくなるだろうし、二年も三年もあるのだ。少なくとも自衛をこなすために、最低限の肉体を手に入れたいと考え、俺は彩加とともにここを訪れていた。

 

 受付の人に使用料のpptを払い、二人で中に入る。

 中はルームランナーやウエイトマシンをはじめ、数多くの器具が備え付けられていて、休憩室やシャワー室も完備していた。

 俺たちの他に人は……一人だけいるな。

 アイツは……ああ、Aクラスの葛城だ。髪がないのは全頭無毛症を患ってるからだとか。もちろんソースはボイスレコーダーである。

 

「八幡、僕は一時間ぐらいしたらテニス部での活動があるから帰るけど、それまでは一緒に頑張ろうね!」

 

「おう!頑張ろうぜ!」

 

 むしろ彩加がいてくれるだけで頑張れるまである。彩ちゃんマジ天使。

 

「最初は軽くルームランナーからやっていこうか」

 

 彩加に案内されるがままに、器具の使い方を教わってはそれをこなしていく。七月からは部屋でも鍛えてるから結構いけると思い、途中から強度を高めにしてみたが……現実はそんな優しいものではなかった。

 

「し、死ぬ……」

 

「八幡!無茶したら駄目だよ!めっ!」

 

 強度を上げすぎたのは失敗だったが……彩加にめっ!ってして貰うためだと考えたらおつりがきそうだ。

 ……すいません痩せ我慢ですめっちゃきついです。

 

「あ!もうこんな時間!八幡、今日はありがとね!楽しかった!」

 

「おう、ここまで付き合わせて悪かったな。部活頑張れよ」

 

「うん!じゃあ、また明日ね!」

 

 彩加を部活へと見送り、一度休憩しようと休憩室に入る。

 そこには既に先客がいた。まあ、葛城なんだけど。

 

「すまなかったな、ちょっとうるさかっただろ?悪い」

 

「いや、無心でするにも限界があった。気にしなくていい」

 

「助かる」

 

 休憩室に設置されている自販機はすべて無料となっていた。多分だがここに入るときにポイントを取ったから、そこから出しているのだろう。

 監視カメラも設置されているため、迷惑行為をすればすぐに学校側に話が行くようになっているのではないだろうか。

 スポーツドリンクを一つ購入し、葛城が座っていない方のベンチに座る。

 いや、だって初対面の相手の隣に座る勇気がボッチにあるとでも?

 だがこれは好機だ。葛城とは少し話をしてみたいと思っていた。

 主に、坂柳について。

 

「なあ、お前は1年Aクラスの葛城で合ってるよな?」

 

「……そうだが、おまえは?」

 

「俺は1年Bクラスの比企谷だ。これからここを使う頻度が多くなると思うから、よろしくな」

 

「わかった。よろしく比企谷」

 

 よかったー、噛まずに言えたぞ!この学校に入っての一番の成長は、あまり人前で噛むことがなくなったことかもしれない。キョどるのは相変わらずだけどね。

 

「Bクラスか……比企谷、例のバカンスについてどう考えている?」

 

 おおっと、葛城の方から話を振ってきたか。

 

「十中八九、何かしらクラスポイントが変動するようなことが起きるだろうな」

 

「ほう、中々頭がキレるようだ。試すような真似をしてすまなかった」

 

「いや、別にいいさ。ああ、俺も聞きたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「坂柳有栖について」

 

「……」

 

 Aクラスの坂柳と葛城が仲が悪いのは有名な話だ。坂柳派と(嬉しくない)交流があるせいか、坂柳の思考の向きは大体わかっている。ドSな性格もあるのかもしれないが、とにかく攻めるのが好きな坂柳派。この派閥と争っているとなれば、葛城は逆……守りに重点を置くタイプだと推測できる。

 現状ではそこまで差がないものの……坂柳派が優勢であることは軽くAクラスを調べるとすぐにわかった。ま、本人曰く『バカンス時の試験で葛城派を追い込む』らしいから、二学期からは坂柳の完全体制になるのは想像に難くない。

 

 だからこそ、俺は葛城に頑張ってもらいたいのだ。

 

 現実的に、今のBクラスがAクラスに上がろうとするなら、大規模なポイント変動が起きない限り相当厳しい戦いになる。また、その大規模なポイント変動時にも苦しい戦いが待っているのは明らかだ。

 その際、坂柳の一党体制だとAクラスに付け入る隙が消滅してしまう。Bクラスには坂柳に既に無力化されている俺がいるのも痛い。あいつ、絶対写真更新してるからな……ちくしょう(泣)。

 Aクラス内での派閥争いに関して、坂柳は暇つぶしの遊戯だとしか思っていないだろうが、それでも葛城が対抗を続けるだけ、Bクラスにチャンスが起こる

 

「坂柳のやり方は俺の望むところではない……Aクラスであるのだから、わざわざ危険に身をさらす必要はない、と俺は考えている」

 

「坂柳はドSだからな。あいつ、面白半分で人の黒歴史を平気で弄ってくるぐらいだし……少しでも痛い目見ればいいのに」

 

「……坂柳と面識があるのか?」

 

「不本意ながら、だけどな。ちょっと弱み握られてて……」

 

「そ、そうか……既に他クラスにまで手を伸ばしているとは……」

 

 葛城は少しだけ目を逸らしながら答える。やはり、坂柳のやり方はAクラスに認知されていると見ていいな。あまり表立った行動をしていないから、葛城が知らないなら情報売って抵抗させようと思ったのに……残念だ。

 

「俺はトレーニングを再開するが、比企谷はどうする?」

 

 葛城は飲み終わった容器を捨て、トレーニングに戻ろうとしている。

 ……葛城の肉体的に、かなり鍛えてるだろう。ならば、トレーニングを教えてもらうのはありではないだろうか。筋トレ初心者が一人でやるより、日ごろから取り組んでいる人間に教わった方が……俺にはプラスになると思えるし。

 

「一緒にやらせてもらっていいか?この貧相な体を見ればわかると思うが……最近になってトレーニングし始めてな」

 

「構わない。雑談でもしながらやろう」

 

 こうして、俺と葛城は一緒にトレーニングに励むことになった。

 今日は家に誰も来る予定がないため、時間を気にせずに取り組むことが出来る。本格的に弟子入りしてみようかな……?

 

※以下トレーニング中の会話抜粋

 

「比企谷、姿勢が悪くなっている!もっと腰に力を入れて踏ん張るんだ!」

 

「う、うっす!」

 

「比企谷、まだ10回しか出来てないぞ。へばるのは少なくとも100回やってからだ」

 

「う、うっす!!」

 

「比企谷、そうじゃない。もっと呼吸に合わせて連続で繰り返すんだ」

 

「うっす!!!」

 

「誰が休んでいいと言った!まだ10回残ってるぞ!罰として追加100回だ!」

 

「すみません教官!!!」

 

 ……教官と生徒のような関係になってしまっているが仕方がない。って、最後教官言っちゃってるし。

 だって葛城君、手抜き一切なしなんだよ。声出さないとやってられないくらいにはきついし、苦しい。

 明日は筋肉痛だろうなぁ……明日の予定ってなんだっけ?俺家から出たくないんだけど。よし、明日は引きこもるぞ!

 

 適度に休憩も取りつつ、葛城の筋トレを見学しつつ、筋トレを見てもらうことを繰り返していると、気づけば夜19時を回っていた。

 のめり込むと時間って一瞬だよな。今日一日すさまじいスピードで過ぎていった気がする。

 

「今日はここまでにしておこう。次回も今日と同じくらい、張り切ってやろうではないか」

 

「お、おいっす」

 

 葛城の奴、途中から楽しんでなかった?教官役を楽しそうにしていた気がするんだけど……Aクラスを引っ張るリーダーの一人だし、納得と言えば納得なのだが。

 

「時間も時間だ、今日は外食でいいだろう。比企谷、一緒に食べないか?」

 

「いいぞ。俺も外食する予定だったし」

 

 こうしてトレーニングを終えた俺たちはそれぞれシャワールームで汗を流した後、葛城が利用するという飲食店に向かった。

 穴場的スポットなのか、幸い、他の生徒はそこまでいなかった。

 

「ここのお勧めとかあるか?」

 

「肉類が美味いぞ。トレーニング後はいつもここで肉を食べている」

 

 葛城ワイルドかよ。葛城が一発芸で『ワイルドだろぉ~?』ってやったらウケそうだ。坂柳を呼吸困難に陥らせれば……いや、表情一つ変えず『だからどうしたんですか?』とか言いそうだな……イマイチツボが分からん。俺の黒歴史ネタでは笑うのだが……。

 葛城はAクラスなだけあって高めのWステーキセットを、俺も少しがっつり食べたい気分だったのでハンバーグ&ステーキセットを頼んだ。

 少しお冷を喉に流していると、葛城が話題を振ってくる。

 

「比企谷、失礼を承知で聞くが……その目は何かの病気か?」

 

「……いや、デフォルトだ。病気でも、特殊メイクでもない」

 

「……すまない、気を悪くしただろう」

 

「別に構わないさ。クラスメイトにも入学時には怯えられたし、大抵の人間が目について聞いてくるから慣れているしな」

 

「苦労しているんだな」

 

「お前もだろ」

 

「何……?」

 

「全頭無毛症なんだろ。たまたま耳にしてしまってな。気を悪くしたら済まないが……」

 

「ああ、既に割り切っているから構わない」

 

「……あれだ、小学校や中学校の時、同級生から弄られたりしただろ?」

 

「そんなこともあったが……お前もか?」

 

「ああ。ま、俺の場合は存在事だったけど。知ってるか?『比企谷菌』ってバリア効かないんだぜ?」

 

「悲しい過去を何故自ら明かしていくのだ……理解できん」

 

 葛城には自虐ネタはよくないみたいだな。生徒会に立候補するぐらいだし、生真面目な性格なんだろう。どことなく堀北と似ている部分があるのではないかと感じている。

 坂柳は盛大に笑ってたのに……ツボまで逆とか言わないよね?

 

「すまんすまん、つい癖でな。葛城は中学校はどうだった?生徒会とかやってたのか?」

 

「中学では生徒会会長だった。この学校でも生徒会に入ろうとしたが、落とされてしまってな」

 

「葛城が落とされるなら誰が入れるんだよ……知ってるか?うちのクラスの一之瀬も落とされたんだよ。生徒会の基準どうなってんだ」

 

「今年の一年は誰も生徒会に入ってないからな。相当珍しいことらしい」

 

 次から次へと質問に答えてくれる葛城。確かに俺は得たい情報を得れているから構わないが……大丈夫か?今日初対面の他クラスの生徒信頼しすぎじゃない?

 俺がBクラスの戦力になるなんて思ってもなさそうだな……ま、実際戦力にならずむしろ足を引っ張っているが……主に数学とか?

 

 料理が運ばれてきてからもそこそこ会話をした。

 生徒会長として中学は大変な思いをしたのではないかと聞いてみたが、案外そうでもなかったらしい。

 ……俺も目や陰キャであったことでいじめや弄りを受けていたため分かるのだが、中学生ぐらいなら他人の身体的特徴を馬鹿にする奴は結構いる。小学校でも顕著であることは違いないし、高校生でも頭が弱い奴らはするかもだけど。

 葛城なんて絶対『禿』とか言われてただろう。それでも全く気に留めていなかったらしい。それも堂々と学校生活を送っていたんだとか。

 俺との違いは何だろうか。陰キャだったのが悪かったのか?まあ、それにしても……やっべー、マジ葛城さんリスペクトっしょー!……うざっ、誰だこいつ。

 

 よし、これからはトレーニングの師匠として、人生の手本として教官と呼ぼう。葛城も気に入っている節があるし大丈夫なはずだ。

 

「教官、坂柳なんてぶっ飛ばしてくださいよ!」

 

「ああ、次の試験で、アイツの出る幕はないことを証明して見せる」

 

 食事を終え、特に用もないため二人で寮へと向かう。

 葛城とはトレーニングの相談などもしたかったので、連絡先を交換した。

 5階につき、葛城と別れ自分の部屋に入り、買いためていたマッカンを飲みながらふと今日のことを思い返す。

 ……思っていたよりも葛城がいい奴だったのが印象的だった。坂柳と関わりすぎたせいで、坂柳と敵対している奴はヤバい奴という方程式を頭の中に思い描いていたが、そんなことなかった。実際のところ、真面目で熱血な教官だった。

 

 だが……最後のはフラグな気がするんだよなぁ……葛城に幸有らんことを願いつつ、俺は夏休み三日目を終えたのだった。

 




夏休みの原作設定がバカンス→夏休み少しって感じで、葛城と双子の妹の誕生日が8月29日であることから前回の話も少しだけ時系列弄りなおしました。
夏休みがバカンス含めたら一ヵ月超えるけど……い、いいよね?

次は夏休み4~6日目+プール回です。プールに関してはアニメに沿って行こうと考えておりますが、一年生のプール使用期間をバカンス前までとして時系列を入れ替えます。
南雲はまだ出さない方が……今後の展開的にいいんですよね。原作4.5巻の内容で行くと、絶対八幡が一之瀬に釘をさしちゃうからなぁ……ボイスレコーダー最強説を唱えたい。

それを置いていても、本当に一之瀬の扱いに困るな……誕生日とかどう描写したらいいんでしょう?
……戸塚の誕生日はまあ、学校の制度が驚きに満ちて知らなかったでも通るでしょうが、白波がいる時点で一之瀬の誕生日を知らないわけがないんだよなぁ。

7月20日、ぼーなすとらっぐ!的な形で書くかな……。
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