やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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おひさ~ですぅ。
今回は少し短め。加えてクオリティが低下しました。
高円寺と櫛田難しいんですけど……私ごときじゃ全然書き表せられなかった。

それでもいい方は読んでいただければ。



六助「最高だね」 八幡「…そうだな」

 部屋に戻ってきた彩加、神崎、柴田に温泉に行くことを告げ、俺は一人部屋を出る。

 せっかくの豪華客船だ。温泉くらい行っておきたい。

 時刻は午後6時を示しており、生徒たちは皆、まだまだ思い思いにこの客船でのクルージングを楽しんでいる。

 温泉といっても、かなりの数がある。

 生徒たちに人気なのは、効能がついた温泉か、はたまた混浴可能な温泉だ。理由が露骨すぎてどうかと思うが、水着をレンタルしていることから、かなりの生徒が満喫しているらしい。

 そんな中、俺が向かったのは……

 

「誰もいないな……」

 

 特に効能もなければ、混浴もない、生徒があまり利用していない温泉である。

 だって人が群がっているところにわざわざ行くわけがない。むしろ誰もいないようなところでひっそりと黄昏るのが俺である。

 

 早速男性用の暖簾をくぐり、服を脱いでいざ中へ。

 湯気でホカホカとしていた中を俺一人が動き、頭を洗い、身体を磨き上げ、浴槽に浸かる。

 

「ああ~……癒されるわ~」

 

 気持ちいいと感じられるのちょうどいい温度。窓から見える夕日を眺めながら、一人で最高の時間を味わう……これだよ、これこそがバカンスだよ!……違うけどさ。

 他にもジェットバスや壺湯、泡風呂にサウナ……ここあれか、普通の温泉なのか。

 せっかくの豪華客船でのバカンスで、普通に温泉に行きたいと思う奴は……確かに少ないだろう。

 そのおかげで一人でのんびりできるのだからプラスに考えるか。

 

「あ、なんか眠くなってきた……ふわぁぁぁ……」

 

 朝から早く起き、今日一日も色々あったからか、身体に疲れがやってきた……

 

 

***

 

 

「んあ?俺はいったい何を…」

 

「起きたか比企谷」

 

「その声は……教……官?」

 

「そうだ、お前の筋トレを手伝っている葛城教官だ」

 

「え、は?」

 

「お前の眼鏡を参考にしてな。目を眼鏡で隠すのなら……俺は鬘で隠してみたんだ」

 

「な、なるほど……」

 

「ほら、眼鏡だ」

 

「あ、どもっす」

 

「これでお揃いだな」

 

「う、うっす…そうですね教官……」

 

 

***

 

 

「はっ!俺はいったい何を……あ、夢か?」

 

 どうやら壺湯で寛いでいたら、いつの間にか眠っていたらしい。幸いまだ夕日が見えるから、そこまで時間は経っていないだろう。

 つーかなんださっきの……教官に髪があったぞ。鬘だとか言ってたが……俺の眼鏡を見てお揃いだなとか言ってる葛城を思うと、なんか物凄く虚しい気持ちになってしまった。

 教官には今度、トレーニングの後にマッカンを送ろう。

 

「あ~……気持ちいいなぁ」

 

「うーん……最高だね」

 

「…そうだな」

 

「人が少ないのもいい。私の肉体美を見てしまえば温泉どころではなくなってしまうだろうからね」

 

「そうだなー……って、高円寺?」

 

「ほう、私の美しさが君にも届いていたのか……やはり私は美しい!」

 

 なんか起きたら高円寺が隣の壺湯にいたんだが……いつの間に現れたんだコイツ?全く気配を探知できなかった……。

 しかも一人じゃねーか。

 なんだ、ただのボッチか。なんか仲良くなれそう……いや、無理だな。我が強すぎるし住む世界違う気するし……

 

「私は君に興味がある」

 

 ん?俺何かしたっけ?高円寺と直接会話するの、今回が初めてなんだが……

 

「まさか相手がティーチャーだとはねぇ、驚かされたものだよ」

 

「は?」

 

「前に二人でデートをしていただろう?それを目撃してしまってね」

 

「な、何のことだか……」

 

「誤魔化したいのは理解できるが、私は他の人間に言うつもりはない。私もデート中だったからねぇ」

 

「あー……あの店か……」

 

 マジかよ。あの時相当な変装してて、一之瀬や白波すら気づかなかったのに……簡単にバレちゃって変装した意味が……

 

「安心したまえ。私は君とティーチャーの関係を無闇に壊す気なんてないさ。むしろレディを大事にする者としてシンパシーを感じていたところでね」

 

「お、おう」

 

 結局誤解されたままだが…高円寺だけは誤解されたままの方がいいかもしれない。

 だってさ、高円寺の奴見かけるたびに違う女性連れているんだよ?Dクラスでポイントも少ないだろうに、女性は嫌な顔一つしていなかった。

 紳士的で女性との付き合い方を熟知しているからこそ……あれ?それって俺が紳士的だったってこと?

 

「しかしだ!君は大事にしている部分があるが、女性を蔑ろにしている部分もかなりある。年上の女性に目を向けているのは共感出来るが、紳士としては最低ランクだ」

 

「そ、そうか…」

 

「ここで会ったのも何かの縁なんだろうねえ。今から君にレクチャーしていくから、彼女を悲しませないように頑張りたまえ」

 

「うっす……は?」

 

「では早速体を見させてもらおう」

 

 そう言って高円寺は俺を壺湯から持ち上げ……ってこいつ力強っ!痛い、脇が痛い!

 

「ふむ……平均より少し筋肉があるくらいか。トレーニングはしているかい?」

 

「ああ。と言っても、始めたのはこの学校に入ってからだ」

 

「卒業するまで頑張り続ければ……私には劣るだろうが美しい肉体を手に入れられるだろう。しっかり続けたまえ」

 

「あい……」

 

「それに、立派なものを持っているではないか。私に少しだけ劣るが、これなら相手の女性を喜ばせることができるだろう。私の経験上だがね」

 

 だから痛い!降ろせ!トレーニングはちゃんとやるから!!

 ……マジか。こいつマジか。俺、ここだけは負けない自信があったんだけど……それに童貞の前で経験済みとか言うんじゃねーよ!羨ましいだろうが!

 

「顔も悪くはないが、やはり目がネックだねぇ。私は味があって好きだが、多くの女性は怖がるだろう」

 

 高円寺が俺を壺湯に戻したと思えば、顔をジロジロと見られる。

 高円寺ほどの美形が悪くないというくらいに、俺の顔はいいらしい。やっぱり俺は目さえ除けばイケメンなんだよ!…虚しいな。

 

「一本飛び出している癖毛はチャーミングポイントだ。有効に活用しないと勿体ない」

 

 ジロジロと観察を続ける高円寺。こいつ、もしや男もイケる口か?

 

「生憎、私は男には興味がないのでねぇ。今回はただの気分さ」

 

「…だからなんで心読んじゃうのかな」

 

「よく言われるだろう?君はわかりやすい。もう少しポーカーフェイスを磨いた方がいいと思うくらいにはねえ」

 

 高円寺に言われると本当にそんな気がしてくる。バカンスから帰ったら練習すっかなぁ……綾小路の部屋でやらせてもらおう。俺の部屋だと三人と鉢合わせして気まずい雰囲気になる気がするし……。

 

「おや、他にも生徒が来たようだねえ。話の続きはサウナでしようじゃないか」

 

「……うっす」

 

 笑いながらスタスタと歩いていく高円寺に、追随する俺。今しがた入ってきた生徒達は、俺と高円寺を見て若干引いた後、身体を洗いにシャワーの方へ向かっていった。

 普通なら即座に帰る俺であるが、サウナには行くつもりだったし、ついでに高円寺から話を聞くのはありだろう。温泉で癒されてだいぶ疲れ取れたしな。

 ……高円寺と関わりを作っておくのは将来、役に立つだろうから。

 

 

***

 

 

 あれから高円寺先生により女性との接し方講座を受け、風呂から上がった後もディナーに誘われテーブルマナーを教えられた。

 テーブルマナーで唯一知っていたのはナイフとフォークの置き方ぐらいで、それ以外は初めて知った。何故ナイフとフォークの置き方を知っていたかといえば、『ウオミー可愛い』で通じると思う。

 今日を通して分かったことは、やはり高円寺コンツェルンの御曹司は伊達ではなかった。博識であり、なおかつ教え方も上手い。ところどころ自慢を入れてくるところが玉に瑕だが、それに目を潰れるくらいには有意義な時間だった。

 別世界だと思っていた光景が目の前に存在しているのに対し、マナーをしらないから入れないといった事態にもなりかねなかったからな。

 これで明日は彩加と一緒に高級店に入れるぜ!

 

 高円寺にお礼を言ったら、笑いながら「気まぐれさ」と言ってどこかに去っていった。自由人という評価は本当だと思いつつ、気まぐれに感謝して船のデッキをほっつき歩く。

 こうして夜の景色を眺めながら一人黄昏る……俺カッコいいなんて思ってないよ?ホントナンダヨ。

 

「……待って」

 

 生徒の姿もちらほらとしか見なくなったと思えば、進行方向に櫛田と……

 

「(綾小路?)」

 

 綾小路と思わしき背中に、抱き着くようにくっついている櫛田。

 その表情は見えないが、この二人がそんな関係だった……わけないよな。

 

「警戒してるんでしょ」

 

「……」

 

「私、分かるんだ、そういうの」

 

「……」

 

 櫛田の声低すぎだろ。本当の同一人物かと疑うくらいの変わりようだ。……これが櫛田の本性なのか?

 

「ごめん、急に一人きりになるのが寂しくなって」

 

 声の変わりようよ……あ、櫛田が離れたせいで綾小路がこっち向いた。

 

「比企谷?」

 

「え!?比企谷君!?」

 

「あー……えっと、たまたま通りがかったんだが……邪魔したわ」

 

「ちょ、ちょっと待って!比企谷君!」

 

 華麗にその場を後にしようとした俺に対し、すぐさま追いかけてきた櫛田。

 ……さっきのを見てしまったから、なおさら関わりたくないというのに。

 

「あのね、私と綾小路君はなんでもないの!だから、その……変に誤解しないで欲しいっていうか……」

 

 自然と身体を寄せてきながら、上目遣いで俺を見つめてくる櫛田。

 確かに可愛い。一般男子ならコロッと惚れて告白して振られるんだろう。

 だが俺はボッチであり……この手の女子が一番嫌いだ

 だから……

 

「あざとい」

 

「……えっと~あはは、酷いなぁもう!比企谷君そんなこと言うなんて」

 

 駄目だ、コイツと会話しているとイライラが止まらない。自分の感情を制御できる感じもしない。

 入学当初に話しかけられたときは胡散臭いとは思ったが、こんなにも気分が悪くはならなかったというのに。

 

「(……ああ、そうか)」

 

 俺は、Bクラスに馴染みすぎてしまった。いや、変えられてしまったのだろう。それが良い方向なのか、悪い方向なのかは分からない。

 だが、櫛田を見ていると嫌になる。

 本物なんてないと、否定されている気がして。

 俺の求めるものなど、ただの虚像だと言われている気がして。

 

「……お前、それやめてくれないか」

 

「え……?」

 

「その気持ち悪い上っ面。吐き気がするんだよ。俺みたいな奴にそんな態度で接して楽しいのか?」

 

「……さっきの会話聞いてたんだ」

 

「少しだけだがな。ま、お前のことは気色悪いと思ってたから案の定って感じだったが」

 

「……もしかして綾小路君に聞いたの?」

 

「綾小路?お前綾小路にもバレているのか。……使えない仮面だな」

 

「……るさい」

 

「なんだ?」

 

「うるさい……うるさいうるさいうるさい!!アンタに何が分かるっての!?」

 

「何も分かんねえよ……つーかいいのか。他の生徒にバレるぞ」

 

「ッ!」

 

 少し煽りすぎたとは思うが、ここまで感情爆発させるとはな。幸いにも周りに生徒がいなかったから良かったが……いや、いたほうが本性知られて櫛田の立場をなくせたかも?

 

「……ついてきて」

 

 どうやら他の生徒から見られないよう、人が寄り付かない場所に移動するらしい。俺としても好都合だから、素直についていく。

 櫛田が止まったのは最下層あたりのフロア。ここは音が響きやすく、誰かが来た時に分かりやすい。加え、音漏れをするようなこともないので密会などにはぴったりの場所だ。

 

「んで、何の話をするってんだよ」

 

「アンタ、このことを誰かに言ったりしたら許さないから」

 

「お前が許さなくても俺は生きていける。手に入った情報は有効活用しないとだろ」

 

「なら、アンタにレイプされそうになったって言いふらしてやる」

 

 ……なんとなく、掲示板で「いつかやると思ってた」とか書かれそうだからやめてもらいたい。ってかそれって……

 

「冤罪だろ。いくら俺の目付きが不気味だからって、でっち上げにもほどがある。誰も信じないと思うぞ。いくらお前が証言したとしてもな」

 

「大丈夫」

 

 そう言って櫛田は俺の手を取り――――――自身の胸を触らせた。

 おおう、柔らか……ってこれ指紋ついちゃったやつですね……。

 

「アンタの指紋、べっとり付いたから。証拠もある」

 

 でもな櫛田。武器があるのは何もお前だけじゃない。

 胸から手をどかした俺は、懐から相棒を取り出す。

 

『んで、何の話をするってんだよ』

 

『アンタ、このことを誰かに言ったりしたら許さないから』

 

『お前が許さなくても俺は生きていける。手に入った情報は有効活用しないとだろ』

 

『なら、アンタにレイプされそうになったって言いふらしてやる』

 

「お前!」

 

「俺だって冤罪は困るんだ。さすがに胸を触ったことに関しての罰は下されるだろうが、お前も道連れだ」

 

「寄越して!」

 

「嫌だ」

 

 櫛田との身長差を生かし、ボイスレコーダーを取られないように抵抗する。

 その際に胸やら何やらが当たってくるが……あれー、下半身が嫌な感じがするなぁ。バレたら面倒だ。

 しかし、櫛田も気づいたようで…。

 

「はぁ?気持ち悪いとかなんとか言ってた割に身体は素直じゃない?避けてる女によられてもこうなるなんて、相当の変態にしか思えない……あ」

 

 俺だって男だから身体が反応しちゃったんだよ。部屋のっとられてるせいで処理も何も出来ていないのだ。

 それより櫛田が怪し気に笑っているんだが……あ、こいつ、ボイスレコーダー作戦の弱点に気づいたか?

 

「きゃあ!や、やめて比企谷君……そんな無理矢理!!」ガタッ

 

「待って、おい、マジで止めろ。……分かったから、言わねえから」

 

「……ほんとに?」

 

「ああ」

 

 俺が脅しに使ったり証拠として使うボイスレコーダーの弱点は、なんでも記録してしまうことだ。高性能なものを買ったせいか、些細な音でもしっかりと記録するタイプであるため、相手の声もしっかりと記録できる。

 すなわち、利用されると今のように逆にこちらがピンチになる。編集で消せばいいのかもしれないが、そんなことをすれば違和感が出てしまうし、元々ボイスレコーダーは証拠品として弱い。

 だから坂柳も撮影させる手を使うのだろう。撮影する内容はどうかとは思うけどね。

 今、櫛田のことを言いふらせばカウンターを受け、俺もそのカウンターを放つも、俺の方が罪が重くなる可能性が大だ。先程の声を参考にされてしまうと一発アウトの可能性もあるだろう。

 

「お互いに困るだろ。お前は本性をバレたくない、俺は冤罪を受けたくない。利害は一致している。それに、俺のボイスレコーダーを提出したところで、どっちにも罰が下されるだろうからな」

 

「……そう、わかった。信じるよ」

 

 信じる、ねぇ。

 こいつの信じるなんて言葉ほど信じられるものではないが……少しの間は櫛田の動向に気を付けておくか。

 

「……ねえ、アンタは何で分かったの?」

 

 もう帰ろうかと思っていると、櫛田が話しかけてくる。

 

「何がだよ」

 

「私がアンタの言う、仮面を着けているってどうして分かったの」

 

「……初対面でお前、全クラスの生徒と友達になりたいって言ってただろ」

 

「それが?」

 

「いや、俺は中学までは彩加を除いて自分から話しかけてくる奴なんていなかったからな。その大半の理由がキモイ、暗い……まあ、お前も思っているであろうことだが」

 

「それがどう関係するの」

 

「分からないか。俺みたいな奴に進んで話しかけてき、なおかつ友達になろうなんて言ってくる奴……出来すぎだろ。どこの漫画に出てくるヒロインだって話だ」

 

 入学してからそこまで時間が経っていないというのに、他クラスの美少女が自分と友達になりたいって連絡先の交換を申し込んでくるなんて……明らかに出来すぎている。

 学生として誰もが妄想してしまうであろうシチュエーション。加え、相手が美少女と来ている。これ以上ない出来事だ。好感度も爆上がり間違いなし。

 もちろん、それを見て訝しむ人もいるだろう。それでも実際に友達と仲良くしているところを見るなり、めげずに声をかけてくれたら大概の人間は櫛田を信じる。

 ……この形容しがたい気持ち悪さを感じる奴か、初対面から美少女に話しかけられるのはもう罠と決めつけている俺には効きはしないがな。

 

「……」

 

 櫛田は何を考えているのか、黙りこんでしまった。

 ……俺には、どうして櫛田が仮面ををつけて自己を偽り、友達を欲しがるのかは分からない。いや、友達が欲しいってわけじゃないか。

 承認欲求。人間として生まれたら必ず大なり小なり持ってしまうもの。俺にだってもちろんあるし、一之瀬にも、白波にも、彩加にも、少なからずあるだろう欲求。

 

「要は……お前はただ、チヤホヤされたいだけなんだな」

 

「は?」

 

「誰も彼もが櫛田に集まり、櫛田を中心に物事が動く。そうなりたいだけなんだろ?」

 

 わざわざ嫌いな相手や気持ち悪い男子にも笑顔で接する。それはただ、『皆の櫛田桔梗』になりたいだけ。どうしてそんなことをするかと考えれば……自分の欲求のためだとしか考えられない。

 マズローの欲求階層説によれば、社会的欲求に分類される承認欲求は、集団に帰属するだけではなく、他人から「認められたい、称賛されたい、尊敬されたい」と願うもの。

 多分、それが櫛田は人より何倍も強い。

 

「……チヤホヤされたくて何が悪いの」

 

「……誰も悪いだなんて言ってないんだが」

 

「うるさい!!」

 

 理不尽だな。でも感情を出させるように仕向けたのは俺だし、悪いのは俺か。だが……少しだけ櫛田には興味が湧いた。

 他人の好かれたいと信用されたいと願う……櫛田の気持ちが、俺には分かる気がしたから。

 

「……お前はなんでそこまでする。本性をバラされたくないからって好きでもない男に普通胸を触らせるか?」

 

「別にアンタには関係ない」

 

「そうだな、確かに関係ない……でも」

 

「なに?」

 

「……お前がどうして、そこまでするのか。教えてくれないか」

 

「……」

 

 俺は知りたい。櫛田桔梗という少女が何を思って、あんな仮面をつけて生活しているのかを。

 人付き合いにおいて相手に好かれたいと思うのは普通のことだ。俺だって万人に好かれてたらぼっちなんてやってない。

 だがそれはただの虚像。自分を偽ってまで仲良くなれたとしても、それは自分とは呼べないから。

 本当の関係とは呼べないから。

 

「……言いにくいんだったらあれだ、ストレス発散と思えばいい。あんな八方美人してたら嫌でもストレス溜まるだろ。男なんて気持ち悪いし、女だって裏で何考えてるか分からない」

 

「……録音する気でしょ」

 

「しねえよ。ほら、ボイスレコーダー出しとくから」

 

 俺は懐から二つボイスレコーダーを取り出し、櫛田に見せるように持つ。

 何故二つかと言えば、要所要所で使うためのものと、常時録音しているもので分けているからだ。

 櫛田は確認とばかりに俺の身体をあちこち触るが、特におかしいと感じなかったのか離れた。

 

「……アンタ、馬鹿じゃないの?」

 

「そうかもな。けど……お前のことが知りたい」

 

「ッ!」

 

 しばらくして、櫛田は口を開き、語り始めた―――――――

 

 

***

 

 

《仲良しぐるーぷ②(3)》

 

『……朝の画像、見た?』

 

『うん』

 

『可愛いって八幡言ってたね』

 

『あんな目を私してたんだねー。全然実感がなかった』

 

『私とか目が真っ黒でびっくりしたよ!』

 

『さっき写真を覗き見てきた柴田君にヤンデレって言われちゃったんだけど、どういう意味か分かる?』

 

『……千尋ちゃん』

 

『分かってるよ一之瀬さん』

 

『えっと……僕まずいこと言っちゃったかな?』

 

『いやいや、戸塚くんは何も悪くないから安心して』

 

『でも今日の写真で良かったかもね』

 

『うん、危なかったけどなんとか今日の写真に変えたあとだったからセーフだった』

 

『あの写真はねー……誰かに見られたら困るもんね』

 

『私、男の子苦手だったはずなのに……』

 

『あれはね……今でもたまに見てニヤけちゃうよ』

 

『私もだよ……ハートマークなんて付けちゃったから』

 

『頑張ってみないようにしてるんだけど…見ちゃって羞恥心に襲われてを繰り返してる』

 

『ほんとだ、千尋ちゃんがベットでゴロゴロしてる』

 

『あはは、八幡みたいだね』

 

『や、やめて!明日顔見れなくなっちゃうから!』

 

『僕は同じ部屋だけど…バレないように気を付けないと。もしバレたら八幡逃げ出しそうだし』

 

『あ~想像できるね~』

 

『でも、私や戸塚君はまだいいとしても……一之瀬さんが見られると一番面倒になりそうだよね』

 

『噂に証拠を足しちゃうようなものだしね』

 

『あ、そういえば二人はどんな文字を入れたの?僕は「チャリできた」と「一生友達だよ!大好き!」なんだけど……』

 

『私は「同士同盟!」と「これからも……」二つ目はちょっと駄目!』

 

『……あのー、言わなくてもいいかな?』

 

『他人に言えないこと書いたんだね……白波さんも大概だけどそれよりってことなんだ……』

 

『戸塚君が何気に酷い……あ、一之瀬さんの見ちゃった』

 

『千尋ちゃん!!』

 

『戸塚君、一之瀬さんは「二人は友達」と「一緒にいt』

 

『……一之瀬さんが止めたのかな。あ、僕はこれから八幡探しにいくから落ちるね』

 

『うん!私のは間違いだから気にしないでね!』

 

 

***

 

 

「……ってわけ。どう?これで満足?」

 

「……」

 

 私は目の前にいる男……比企谷八幡に自分のことを話した。

 中学の時に起こした事件は伏せて、私の幼少期からの思いと今の私の比企谷が言う仮面をつけている理由だけだけど。

 普通ならこんなこと言ったりしない。誰だって本当に信用できる相手なんかいないし、私の本当の姿を見た人間はみんなして恐怖するか、騙されたと言い出し言い寄ってくるかのどちらかだ。

 それが分かっているのに、分かっていたはずなのに、彼に話してしまった。

 

 録音されていないと信じられるから?――――違う。

 自分の本性が見破られたから?――――違う。

 ストレスを少しでも誰かにぶつけたかった?――――少しあるけど違う。

 

 なら、どうして私は……

 

「櫛田、俺はお前を尊敬する」

 

「……は?何馬鹿なこと言ってんの?キモいんだけど」

 

「辛辣すぎるだろ……お前は凄い奴だから、なんだが」

 

「はあ?」

 

 この男は何を言い出すのだろう。私の話のどこにそんな要素があったのだろうか。

 私は自分が一番でないと嫌だ。小さい頃は勉強も運動も人より優れていたけど、すぐに周囲と同じようになってしまった。

 だから信頼を得ることを求めた。誰よりも信頼されている自分。他人が秘密を教えてくれるほど心を許してくれている自分。誰からも愛される自分。

 

 そのために、私は良い子の振りをし続けている。

 

 それを、尊敬?凄い奴?何を言い出すのかこの男は。

 

 一人でいる姿を見て話しかけた入学して間もないころ、簡単に連絡先の交換に応じて私に夢中になると予想したこいつは……ただ、冷めた目で私を見つめてきていた。

 その時にはもう分かっていたのかもしれない。こいつには私の外面が見破られていると。

 

 でも何も言われなかった。言ってこなかった。だから無視していた。

 だから、今も……混乱しているんだと思う。

 

「……俺はさっき、キモいとか暗いとか言われてきたって言ったろ」

 

「それが?」

 

「まあ聞け。お前の話を聞いたからには俺も話さないとフェアじゃないだろ」

 

「……」

 

「俺は幼少時から『いーれーてー』が言えない子でな。幼稚園時代からハブられ続けてきた。小学校でも、中学校でも、それは変わらなかった」

 

「……」

 

「もちろん、友達を作ろうとしたこともある。誰かが話しかけてくれるかもと期待しては落ち込んだり、俺に話しかけてきた女子なんかには『俺のこと好きなんじゃね?』なんて勘違いしたりしてな」

 

「……」

 

「要はだな。……お前のそれ、普通なことだと俺は思うんだよ」

 

「え……」

 

「俺だって誰よりも一番になりたいって思いはあるし、信用されたいし信頼されたい。みんながみんな俺を見てくれるんだとしたらなんて最高だっても思う。難易度高いけどな」

 

「……」

 

「だから、お前は凄い奴だ」

 

「は、はあ?」

 

 何なの……コイツ本当に何なのよ……。

 

「俺にはできなかったことだ。誰かに合わせて、皆の理想のような自分を作り出して、接して、信頼されるようになる。それはもう……凄いことだって俺は思うぞ」

 

「あ……あれ、なんで」

 

 私、どうして涙なんて……こんな奴に、泣き顔なんて見せる意味も……それに、勝手に頭撫でやがって……

 

 ――――――――ああ、そっか。

 

 私は誰からも信頼されたかった。誰からも信用されたかった。

 誰よりも一番に、愛されたかった。愛される人でいたかった。

 

 それでもどこかで感じていた。

 『みんなの櫛田桔梗』は私本来の櫛田桔梗じゃない。だからストレスも溜まってた。

 それは信頼が足りないとか、秘密を知ることが出来なかったからとか、演技するのが嫌だってことじゃなくて。

 

 ――――ありのままの自分を、誰かが受け入れてくれたことがなかったから。

 

 ずっと心の奥底に闇が溜まっていくのを感じていた。

 誰かに負けるたびに、劣るたびに、私はそれが我慢できなかった。

 でも仕方がない。何でも完璧にできる人間なんて存在しない。

 だから、一番信頼される人間を目指した。

 誰からも頼られる自分が、他人の、人には言えない秘密を私だけが知ることが出来ることが、とてつもない快感を与えてくれた。

 ただ、それだけを求めていた……さっきまでは。

 

 でも、今は少し違う。

 

 少しだけ、救われた気がした。

 

 闇が、消えたような気がした。

 

 これからも私は変わらないだろう。『皆の櫛田桔梗』として笑顔を振り撒き、信頼を得て、秘密を握る。その凄まじいまでの優越感を浸ることはやめられないだろう。やめるつもりもないしね。

 だけど……

 

「もし、ストレスが溜まったら俺にぶつけてくれ。俺もお前に本音をぶつける。どうだ?」

 

「…………そんなことしてアンタに利益はあるの」

 

「利益じゃねえだろ……それに、ここまで踏み込んだらお互いに裏切れないだろ」

 

「……じゃあ、二人の秘密ってことね」

 

「そうなるな」

 

 少しだけ、この目の腐った男で休憩をするのは、悪くないかもと思う自分がいた。

 

 

***

 

 

「八幡!朝だよ!」

 

「うーん……」

 

「八幡ってば起きて!」

 

「もうちょっと寝かせてくれー、小町~」

 

「わっ!」

 

「おい、どうした戸塚……悪い、邪魔したみたいだ。神崎、少し外に出ていようぜ」

 

「何を言い出すんだ柴田……ああ、分かった。外に出よう」

 

「待って待って二人とも!これは八幡の寝相が……」

 

「小町~」

 

「ッッ~~~!!」

 

 

***

 

 

 目を覚ますと、既に三人は身支度を終えていた。

 

「悪い、俺を待っていてくれたのか」

 

「あ、ああ……」

 

……八幡の馬鹿///

 

 何故か目を合わせてくれない三人。彩加に至っては俯いているが……まず用意をするべきだな。

 制服に着替え、三人の元に行く。

 

「すまん、遅くなった」

 

「まだそんなに遅くないから気にすんなよ。んじゃ、どこ行く?」

 

「あまり生徒の多い場所は遠慮したいな」

 

「それなら、いい店知ってるぞ」

 

「比企谷について行くか」

 

 三人を連れ、昨日高円寺と共に夕食を取った高級レストランへと向かう。

 店は完全な個室タイプであるため、他の生徒を気にする必要もない。

 

「モーニングを4つで」

 

「かしこまりました」

 

「……なんか、比企谷慣れてるな」

 

「高級店に行くイメージはないが……」

 

 高円寺のことは……話した方がいいな。ただでさえ坂柳派との接触と葛城との接触でクラスメイトから訝しまれているのに、ここで正直に伝えなければ、何か後ろめたいことがあったんだと思われるかもしれんし。

 

「昨日、高円寺の気まぐれに付き合わされてな」

 

「高円寺って、Dクラスの?」

 

「ああ。ひたすら自慢を加えた話を聞かされながらの食事だったんだが、マナーなんかも教えてもらってな」

 

「……嬉しい気まぐれなのかつらい気まぐれなのか微妙なところだな」

 

 雑談をしながらも朝食を取り、店を出た俺たちは彩加の案で展望台に行くことにした。

 しかしここで、船内にアナウンスが流れてきた。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。まもなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧いただけるでしょう』

 

 突如として流れてきた奇妙なアナウンス。

 三人も展望台に向かっていた足を止め、四人で向かい合うようにする。

 

「どうする、デッキに集合だってよ」

 

「時間があれば、だけどな」

 

「え、えっと……じゃあデッキに向かおうか?」

 

「いや、生徒で溢れている中、今から島を見ることは難しいだろう。それに気になる箇所もある」

 

()()()()()()、だろ?神崎」

 

「そうだ。意義なんて言葉を普通は使わないだろう。島というのはペンションがあるという島だろうが……」

 

「ってことは……あれか?一之瀬が前に言ってた……」

 

「バカンスでの何か、に関係してるってことだね」

 

「そうだろうな。比企谷、お前はどうするべきだと思う」

 

「……展望台に行くのがいいんじゃねえの。他の生徒はデッキに集まるだろうし、違う視点から見られるからな。一之瀬達がデッキで見てくれていれば、情報は増える」

 

「よし、そうしようぜ」

 

「決まりだな」

 

「うん、行こう!」

 

 俺たちは生徒たちに逆らい、展望台に向かうのだった。

 

 

***

 

 

 展望台についたときには、すでに近くに島が見えていた。

 おそらく、ここのペンションで……いや、ペンション自体が見えないな。

 それに……

 

「結構早い速度で島の周りを回ってるな」

 

「八幡、これって……」

 

「……何かしらの意図があってのことだろうな」

 

 島には至る所に洞窟や小屋が見え、川も流れているようだ。あ、滝もある。

 島を一周し終えた時、再びアナウンスが流れてくる。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れずに持ち、デッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようにお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

 既におかしいことに皆は気づいているだろうか。

 ペンションでバカンスを楽しむだけなら、私物の持ち込みを禁止にする理由が分からない。百歩譲って環境のためだとしても、ジャージで決められた鞄と荷物を持って集合……怪しさ満載だ。

 確実に何かあるな。それに、俺の想像していた競争なんかではないものが。

 

「戻ろうぜ。遅れたら何かしら罰が下されるかもしれねえしさ」

 

「そうだな」

 

 四人で部屋に戻り、ジャージに着替え、荷物を持つ。

 トイレも行っておけと言っていたな……トイレも済ませ、デッキに集合する。

 

「あ、神崎くん達だ。こっちだよ~」

 

 デッキに辿り着くと、クラスごとに整列を始めていたところだった。

 俺たちを見つけた一之瀬が手を振っているので、そちらに向かい、並ぶ。

 その際柴田が一之瀬と白波に笑顔で足を踏まれていたが……また何かやってしまったのか……痛そうだ。

 

「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りてもらう。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出し、下船するように」

 

 拡声器を持ったAクラス担任の真嶋先生の声で、生徒たちは順番に船から降りていく。

 Aクラスに続いて降りた俺たちは、デッキと同じように並び、星之宮先生からの点呼を受ける。

 ……星之宮先生のジャージって新鮮だな。つーか教師もジャージってどういうことだよ。

 Dクラスまで船から降り、点呼を終えたところで全クラスの前に真嶋先生が出てくる。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で1名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

 坂柳のことを言っているのだろう。あいつは学校側から許可されなかったって話だったはずだ。

 そんなことを思っていると真嶋先生は無言になる。だが生徒たちが騒めいている中、船から作業着に身を包んだ大人たちがテントを張り、作業をしていた。長机の上にはパソコンも見える。

 他の生徒もその異様さに驚き、空気が今までの夏休みエンジョイするぜ!みたいなのから緊張感のあるものに変わっていくのを感じる。

 真嶋先生もそれを感じたのか、もしくはそれを待っていたのか。冷酷な一言を発した。

 

「ではこれより――――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

「え?特別試験って?ど、どういうこと?」

 

 Dクラス辺りから声が上がるも、真嶋先生は気にせず続けた。

 

「期間は今から一週間。8月7日の正午に終了となる。君たちにはこれからの一週間、この無人島で集団生活を行ってもらう!」

 

 

 ………そっちかよ。

 




駄文注意とか通り越しているレベルでしたがどうでしたか?(笑)

櫛田については自己解釈です。二年生編二巻まで手に入れたのにまだ読み直しの途中なんで、少々おかしいと感じる方もおられると思いますが、そこらへんは優しく指摘してくださると助かります。

また、《仲良しぐるーぷ》に関しては二つのグループを作ってて、今回載せたのは八幡だけいないバージョンの方です。夏休み6日目に三人が何をしたのか、そして何を書いたのか……分かる方がいると信じてますよ。

次回は……三日目くらいまで進められればなと。

感想待ってまーす。それではまた次の話で。
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