やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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飽きもせずに二日連続投稿となりました。明日は無理です、ちょっと無理しました。
ルーキー日間ランキングに乗っていて嬉しかったです。感想評価ともにくれた皆さんありがとうございます。

それと少しだけお願いというか……評価をつけてくださった方には必ず評価のお礼を送っております(たまに忘れたりするのは許してください)。評価をくれるということはそれだけしっかりと読んでくれたことに変わらないと思うので、きちんとメッセージを送りたいのです。
たまにメッセージ送れなかったりするとなかなか悲しいので受け付けてくれると嬉しいです。もちろん私のエゴですけど。

それでは二話目です。前回より内容が薄いのは私の力不足ですので。それでも読んでくださる方がいると嬉しいです。

……あと、戸塚のデータベース結構迷いました。これでよかったのかな?


清隆「…おはよう」 八幡「…うっす」

 学校を出た俺は、自販機を探して学園内を歩く。

 お目当ては自販機に売られている缶のMAXコーヒーである。ペットボトルもあるにはあるが、なんとなく邪道な気がするのだ。マッ缶こそが正義。中身は変わらないからペットボトルもおいしいけどね。邪道だけど。

 自販機はすぐに見つかり、早速マッ缶を購入しようと商品を見ていく。

 

「マッ缶、マッ缶と……マッ缶が売られていない、だと……?」

 

 悲報、マッ缶が売られていない。

 い、いや、たまたまだろう。きっと次の自販機でマッ缶が俺を待っている。待ってろマッ缶、俺は必ずお前を迎えに行くからな!

 

 俺のマッ缶愛を舐めてもらっては困る。産湯の代わりにMAXコーヒーに浸かり、母乳代わりにMAXコーヒーで育ったと言っても過言ではない生粋の千葉っ子である俺が、MAXコーヒーを諦めるわけがないだろう。たとえ地の果てであっても俺はMAXコーヒーを求めて必ず辿り着いて見せる。いや、さすがに関東圏離れたら諦めるけど。

 地の果てどころか日本国内でも辿り着かないのかよ……。

 

 幸いにも、目に見えるぐらいの距離に他の自販機があるので、そちらに向かいマッ缶を探す。

 しかし、ジョージア系列のコーヒー、午後の〇茶などがあるというのにマッ缶だけない。普段なら微糖で妥協するところだが、俺の身体はすでにマッ缶でしか満足できなくなっている。

 朝からバスを逃すわ、坂柳と知り合うわ、自己紹介で噛むわ、星之宮先生におちょくられるわと全くいいことがない。いいことなんて坂柳と戸塚の肌の感触がそれはそれは柔らかかったことと、星之宮先生のお…ゲフンゲフン、立派なモノの感触を味わったくらいである。あれ?結構得してる?

 

 い、いや、落ち着くんだ比企谷八幡。坂柳に弄られるわ、星之宮先生に辱められるわ……うん、強く生きよう。こんな俺に優しくない世界の中でも、コーヒーくらい優しく、甘くていいと思うのだ。

 

 その後も、学校案内のパンフレットを見ながら学園の施設を回っていきつつ、自販機を見つけてはマッ缶を探すもとことんない。

 マッ缶がなくて自動販売機を名乗るなんてふざけてんのかよ。ふざけてるのは俺ですね分かります。

 

 結局、午後の時間を数時間使っても全く見つけられなかった。ああ、どこへ行ってしまったんだマッ缶。俺はこんなにも、お前を愛しているというのに……マッ缶は俺のことが嫌いなのだろうか。ついに無機物にまで嫌われ始めてしまったのだろうか。

 今朝方自転車よりも社会的地位が下がっていたからな……頷けない話ではないのが悲しいことである。

 

 ……仕方ない、か。どうしても行きたくなかったのだが。

 

 実はだが、学校で早めに見つけた自販機をわざと見逃している。

 なんとなく、そこにはマッ缶がありそうではあったのだが、何せ場所が場所である。こういう時の嫌な予感は大体当たる。ソースは俺。小学校の時、「あ、今日リコーダー必要なんだっけか。ま、学校に置いてあるし」と思いつつも念のため朝からロッカー確認しようとしたらゴミ箱にあったからな。確率100%かよ、俺に希望はないのかな?

 

 だが背に腹は変えられない。今はマッ缶の確保が最優先だ。

 それに、別に会うと決まってるわけではないのだ。会わない会わない、なんなら明日からも会わないまである。無理か、担任だしな。

 

 そう、その場所こそが保健室裏。穴場的スポットであり、星之宮先生に遭遇しそうな場所だ。

 俺はごく自然に、早くもなく遅くもないスピードで保健室に近づいていく。目線だけで周囲の様子を伺うが、人の気配はない。チャンスだ!

 

 おっ、あったあった。やはりここに…悲しいというかなんという偶然か。一日で飲むわけではないが、念のために三本買っておく。

 加えてマッ缶が一つ90ptだったのである。これは通わざるを得ないな。さらに、本日マッ缶探しという名の学園探索をしていた中で見つけていたベストプレイス候補の中でも、ここは一番の条件が揃っている。グラウンドを見渡せつつ、なおかつ昼休みを有意義に過ごせそうな教室からの距離感。

 駄目だ、これは罠だ、絶対罠に決まってる。もちろん根拠などない。

 三本を鞄に仕舞おうとして、改めて周囲の気配を探る。よし、完璧だ。俺は勝ったのだ!

 

「あれ~?比企谷君どうしてこんなところにいるのー?先生に会いたかったの?」

 

 ……知ってた。うん、分かってたんだよ、世の中、俺のこと嫌いなんだってな。

 声のした方を見れば星之宮先生が書類の束を持ちつつ、どんどん近づいてくる。おいおい、俺はちゃんと周囲を確認してたんだぞ?ど、どこから現れた?

 でも、どこから現れても不思議とおかしくないと思ってしまうんだよなぁ、この人。

 まるで強化外骨格でも纏っているような、深く関われば確実に火傷どころでは済まされない、とでも言ったような。危険人物二人目はこの人だな。もちろん一人目は坂柳だよ?

 とは言え先生に変わりはない。受け答えはしなければ。

 

「い、いえ、ここの自販機に用があったもので……もう帰ります」

 

「え~いけずだなぁ。せっかくだし職員室の時と同じように雑談しない?」

 

 何がいけずで、何がせっかくなのか全くわからないし、理解したくもないのだが、どうしてもペースに乗せられてしまうところがある。その場の雰囲気を自身の思い通りに持っていく、といえばわかりやすいだろうか。

 星之宮先生は、俺の懐にあるマッ缶に気が付いたのか指摘してくる。

 

「それ、MAXコーヒーでしょ?学園内でここの自販機にしか売ってないからかもしれないけど、だーれも買ったところみたことなかったんだけど、比企谷君は好きなの?」

 

「マッ缶は千葉の水と言っても過言じゃありませんから」

 

「でもそれ甘すぎじゃない?一回だけ買ってみたけど匂いから甘ったるいよー?」

 

 マッカンの素晴らしさを知らないとは……人生の1割は損してるぞ。

 ……全体の半分もねえのかよ、そこまで損してないじゃねーか。

 

「ま、糖尿病にならないように気を付けなよー?今日はまだ仕事があるから、また明日ねー」

 

 どうやら仕事がまだあるらしい。ふー、助かったぜ。

 星之宮先生が保健室に入っていくのを尻目に寮のある方向へと歩き出す。災難続きの今日ではあったが、マッ缶を確保できただけでも良かったと思おう。

 

 しばらく歩き、俺は今日から自分の家となる寮に着いた。

 寮の管理人に402と書かれたカードキーと、寮でのルールが書かれたマニュアルを受け取り、エレベーターに乗り込む。

 目的の階に着き、エレベーターを降りて自分の家となる402号室に入る。

 中は八畳程のワンルームになっていて、最低限生活できるようにキッチンやトイレに風呂、冷蔵庫なども揃っていた。二つのマッ缶を冷蔵庫の中に入れ、マニュアルをテーブルの上に置く。残しておいたマッ缶を飲みながら大雑把に把握していく。

 

 ゴミ出しの日や時間について、周囲の迷惑になるような騒音は起こさないことなど集団生活における基本的なルールが書かれている。また、電気代やガス代には基本的に制限はないようだ。過度に使うのは控えるようにと書かれているが、正直、ポイントから引かれると思って節約生活を覚悟していたのでここら辺は素直に嬉しい。

 

 男女共用の寮になっていることには驚いたが、階が明確に分かれているのと、女子の階に男子は午後八時までしか立ち入ることができないなどのルールがあるため、そこまで問題はないのだろう。高校生にそぐわない恋愛はするなとも書かれているが、俺はまず恋愛などできるのだろうか。

 べ、別に恋愛なんてしたくないんだからね!…どう考えてもモテない男子の言い訳にしか聞こえてこない。

 

 けっ、リア充は爆発しろ!!

 大体のことを把握したと同時にマッ缶を飲み終わる。やっぱりマッ缶は最高だぜ!あー、今日あった嫌なことを一瞬で忘れられるな。さすがはマッ缶である。

 現在の時刻は午後五時すぎ。まだ時間的に余裕はあるし、部屋には家具くらいしかない。

 日用品でも買いにいくか。

 

 

***

 

 

 俺は寮から一番近いと思われるコンビニにやってきていた。

 いや、雑貨店とか俺にはレベルが高すぎる。幸いなことにコンビニには日用品類はかなり揃っているし、何も問題はないだろう。

 シャンプーにボディソープ、歯ブラシにコップに……と、必要なものを片っ端から買い物かごに入れていった中、妙なものを見つけた。

 

「無料商品?至りつくせりだなこの学校」

 

 隅の方に置かれた、一部の食料品や生活用品。それが無料と書かれ、さらに『1か月3点まで』と但し書きまで添えられている。コンビニの中にありながらも異質なコーナーであると思われた。

 大手のスーパーには『もったいないコーナー』などと書かれ、消費期限や賞味期限が今日中や翌日のものなどが安く売られたりすることはあるだろう。俺だって見たことくらいはあるし、極稀に買ったりしていた。

 しかし、この学園は入学初日に10万などといった他の学校とは違うほどの好待遇を与えられるのだ。大多数の生徒は気にも留めないだろうな。

 

 ―――――毎月ポイントが与えられる、としか言えないかな。

 

 ああ、なるほどな。だから無料商品が中途半端に減ったりしているのか。

 つまり、()()()()()もありえるということなのか。確証はないがあっても不思議ではないし、一応の筋は通っている。

 俺は先程かごに入れたばかりの最新型の歯ブラシを戻し、代わりに無料の歯ブラシを入れる。これからはポイントはなるべく使わないようにしよう。今日の昼は総菜パン二つで済ませたが、自炊しないとまずいかもなぁ……これも専業主夫への修行だと思えばいいか。

 10万もあるし、テレビとゲーム、本も買おうと思ったが諦めよう。プリキュアを見れなくなるのは残念だが……本に関しては図書館を利用すればいい話だしな。もしかしたらプリキュアのDVDも借りられて視聴室とかで見られるかもだし。

 うん、少なくとも5月に入ってから考えよう。ポイントは支給されると言ってるし、そのポイント次第で今後の買い物は決めていくか。べ、別に貧乏癖で高いものを買う勇気がないんじゃないんだからね!

 ……ラーメンくらいは良いよな?

 

 

***

 

 

 結局、昨日はラーメン屋で700ポイントも使ってしまった。だが後悔はない、昨日のラーメンにはそれだけのポイントを払う価値があったからな。なんならリピーターになるまである。ってそんなことしたら瞬く間にポイント使い切るじゃねーか。やはり自炊しか手はないのだろうか……。

 

 ついに今日から授業が始まる。あの希望する進路・就職先に100%叶える高校の授業……サボりたい。でも入学早々サボりとか絶対にマイナスに決まってる。

 それに、昨日の『マッ缶探しの旅~星之宮先生からは逃れられない~』の際に学園内を探索したが、まあ、どこもかしこもカメラだらけだ。監視する気満々である。って、なんだこの売れないラノベみたいなタイトル。恐ろしいにもほどがあるだろ。

 どんな過酷な授業が待ってるかは知らないが、自ら入学した学校だ。真面目に受けないと両親はともかく小町に悪い。

 

 ドアを開けて外に出て、カードキーでドアを閉める。

 同時に、隣の部屋の奴も部屋から出てきたようである。タイミング良すぎだろ…。

 だが平穏なボッチライフを過ごすためにも、お隣さんがどんな奴なのか気になるな。

 エレベーターに向かいながらちらっと視線を向けると、相手もこちらを見たところだった。

 ……き、気まずい。

 

「…おはよう」

 

「…うっす」

 

 相手側も俺と同じように気まずいと思ったのだろうか。少しの間を空けて朝の挨拶をしてくる。それに対し、なんとか答える俺。

 駄目だ、ボッチにはどうやってこんな場面を切り抜けるのが正解かが分からない。多分、絶対にこれが正解だよ!なんて答えはないんだろうが。

 この微妙な空気に耐え切れなくなった俺は、隣の部屋の主を素通りしてエレベーターに向かおうとする。が、ここで予想外のことが発生した。

 

「なあ、これも何かの縁だから、一緒に登校しないか?」

 

「……え?」

 

 

***

 

 

 オレは学校に登校するために部屋を出る。

 ドアを開けると、隣近くでドアが閉まる音がする。どうやら、隣の奴もちょうど出てきたようだ。

 お隣さんというのは3年間、ずっと隣で暮らしていくのだろうから挨拶でもしてみようか。

 いや、まずはどんな奴かを見極めないとな。須藤みたいな奴なのか、それとも平田のような奴なのか。

 エレベーターに向かうようだし、顔だけでも見ておこうか。視線だけをソイツに向ける。

 すると相手もこちらを見たのか、ちょうど目が合ってしまった。

 ……なんて間が悪い。とりあえず、朝の挨拶をしておけば自然か?

 

「……おはよう」

 

「……うっす」

 

 昨日は堀北に人付き合いが上手くなさそうと言われたものだが、隣のコイツも咄嗟の返事から判断するに、人付き合いが上手くないのだろう。

 ……これは友達を作るチャンスじゃないのか?

 しかし、隣の奴は気まずくなったのか、オレから視線を外してエレベーターの方に歩き出す。

 ここを逃したら次はいつになるか分からないな。昨日の時点でクラスメイトですら怪しいのだ。

 たとえ他クラスの奴だろうと知り合って親しくなれば立派な友達……だよな?

 

「なあ、これも何かの縁だから、一緒に登校しないか?」

 

 

***

 

 

 俺は寮から学校までの道を歩いていく。

 寮から学校までそこまでの距離はないが、少し話すぐらいはできそうな距離だ。

 今までと変わらずボッチ登校だと思っていたのだが、何故か今は寮の隣人、綾小路という男と共に登校していた。

 

「……」

 

「……」

 

 だが、エレベーターを降りたところから会話がない。エレベーターでは他に乗ってくる生徒がいなかったこともあり軽く名前とクラスを教えあった。

 そして感じる、綾小路の並々ならぬボッチ感!いや、実際にはぼっちというよりも、何もかもが普通に思えもするのだが、それはそれで不気味な気配を醸し出している。

 少なくとも部屋の前では、俺と同じく対人関係が苦手なんだろうとは思った。しかし、奴はイケメンである。目立たないようにしているのか、冴えないイケメンと言ったほうがしっくりくる。ま、まあ俺も昨日星之宮先生に「眼鏡かけたらイケメン」って言われましたし?

 ぜ、全然負けたとか思ってないんだからな。こ、今回は引き分けってことで手打ちにしてやるよっ……。

 

「……比企谷」

 

「お、おう、どした」

 

 突然こちらを向いた綾小路が尋ねてくる。

 

「その目、どうしたんだ?」

 

 はいはいわかってましたよ、絶対触れてくると思ってましたよ……眼鏡の購入本気で考えようかな……。

 

「この目はやりたくてやってるんじゃない。気が付いた時にはこうなってた」

 

「そうなのか。まるで疲れ切った社会人のような目をしていたから、何度も見間違えだと思ってたぞ」

 

「ねえ、ひどくない?一応初対面だよね?俺そんな社畜のような目をしてたの?」

 

「オレはDクラスだし初対面だな。なんていうか、入社10年目くらいの副部長がやってそうな死んだ目をしているな。もちろん今もだ」

 

 随分と目のことを具体的に言いやがるな……反論できる点が全くないのがつらいところだ。

 どうでもいいが俺は猫背で、綾小路はいたって普通の姿勢である。ほんとにどうでもいいな。

 

「俺の目のことは置いておこう。どうせ治らないんだしな」

 

「あ、ああ。そうか……なんか悪い」

 

「気にするな。いつものことだ」

 

「何かあったのか?」

 

「……昨日、初めてクラスに入ったときに目が合った女子から悲鳴をあげられた。加えて担任にかなり目のことを弄られたんだよ」

 

「お前も苦労してるんだな」

 

「も、ってことは綾小路も何かあるのか?」

 

「オレ、クラスに友達いないんだよ」

 

「安心しろ、俺もだ」

 

 俺たちは友情を深めあうかのようにお互いの目を見て頷く。互いにクラスは違えど同じような環境に身を置いていることで互いに頑張っていこうと鼓舞する。

 なんだこの悲しい組み合わせは……。

 

 学校にはすぐ着いたので綾小路と別れ、Bクラスの教室に入る。今日からは授業なのだ。寮の隣人問題は特に起こらないだろうし、一先ず授業に集中しよう。

 授業初日ということもあってか、ほとんどの授業が今後の進め方についてだけだった。先生たちは星之宮先生程ではないにしろ、進学校とは思えないほどフレンドリーに接している。多くの生徒は拍子抜けしたかもしれないが、やはりこの学園を希望するだけあり、皆真剣に授業に取り組んでいた。

 俺?普通に授業を受けたに決まってんだろ。一つ言いたいことがあるとすれば、先生方全員が俺に気づいたら同情の目を向けてくることだ。これは星之宮先生に目をつけられていると思ったほうがいいのだろうか。むしろ昨日の時点で目を付けられないわけがない、か。

 

 頭上に監視カメラがあるせいで下手に寝たり不注意な行動ができない。音声まで拾われれば碌に喋ることも出来ない。

 つまりこの学園はボッチ最強と……またしてもボッチ最強説を唱えてしまった。俺に勝てる人間はいないのか、敗北を知りたいものだな。

 

 俺はボッチであることと負けることに関しては一家言持つ男である。まったく自慢にならない一家言だった。

 授業はスムーズに消化されていき、ついに学生の待ちに待った昼休みの時間が訪れる。

 

 ボッチである俺は教室にいると不必要に目立ってしまうため、すぐさま教室を出る。まあ、付け加えるならあのリア充雰囲気に耐えられない。結局は自分のためだ。

 一人惣菜パンでも買うかー、と、どこで食べようかを考えていると背中にちょんちょんとつつかれた。

 俺に用がある人間なんているのか――――と思いつつ振り返ると右頬に指がぷすっと刺さる。

 

「あはっ、ひっかかった」

 

 そう言って可愛く笑っていたのは同じクラスであり、知り合い?である戸塚彩加だった。

 えー何このラブコメみたいな展開。超心臓バクバクしてるんですけどー。ホントに男じゃなければ告白して即振られているところである。やっぱ振られるのかよ。

 

「……どした」

 

「比企谷君さえよければ、一緒にお昼どうかなーって」

 

 こ、これが伝説のリア充イベント、『お昼のお誘い』なのか!?これが女ならどんなラノベだと言いたくなるところだが、残念なことに男である。しかし男(可愛い)だ。なら俺の答えは決まっている。

 

「おう、いいぞ」

 

「ほんと!!えへへ、比企谷君ともっと仲良くなりたかったから、嬉しいや……」

 

 俺はラノベの主人公でも何でもないので、戸塚が小さい声で言ったことも聞き取れてしまった。俺と仲良くなって何の得があるのかは知らんが、もちろん悪い気はしない。

 戸塚は食堂に行きたいらしいので、共に向かう。その途中にちらりとDクラスを見ると、こちらを見ていたであろう綾小路が、何か衝撃的なものを見てしまったような顔をしており、印象的だった。

 すまんな綾小路、ボッチはボッチでも俺は誘われたぜ!

 

 

***

 

 

 食堂は昼休みということもあってか多くの生徒であふれていた。だが授業終了後すぐにきたこともあり、まだまだ席に余裕がありそうだ。

 

「比企谷君は何食べるか決めた?」

 

「そうだな……」

 

 メニューを見れば値段順にメニューがあり、一番高いスペシャル定食なんて炭水化物てんこ盛りの好きなおかず全部詰めました!みたいな定食だった。もともとそこまで食べるほうでもないのでこの定食だけは食べることはないだろう。それなりに高いし。これを食べるなら昨日のラーメン屋に行きたいとまで思う。

 下に書いてあるほど物ほど値段は下がっていき、一番下には無料の山菜定食があった。無料定食なんてものもあるのか。ますます0ポイントという存在が浮かび上がってきたな。

 

「無料だし山菜定食にする。戸塚はどうするんだ?」

 

「うーん、和風ハンバーグ定食にしようかな」

 

 どうやら決まったようなので券売機でそれぞれポイントを払い、定食を受け取る。俺は0ポイントだからそのまま受け取ったが。

 窓際の二人席を取り、食事を開始する。山菜定食はその名に違わず野菜ばかりではあるが、ヘルシーと言いかえることもできるだろうし、味だって食べられないと思うほどではない。美味しいかと言われると頷くことはできないが、これで無料なら破格の定食だ。

 一方、俺の目の前でハンバーグを食べている戸塚は一口食べては美味しそうに笑顔を弾けさせている。あれだな、戸塚定食とか売ってないのかな。今の笑顔だけでご飯三杯はいけるぞ。

 

 食事を進めていると、戸塚が話しかけてくる。

 

「この学校ってなんか不思議だよね。昨日なんていきなり10万円も渡されちゃったからびっくりしちゃったもん」

 

 もんって男が使う言葉なんだろうか。俺ってかっこいいんだもん!……キモいに決まってますね。戸塚だから許されるな。可愛い。

 

「そうだな。まあ、来月に貰えるポイントが10万とは限らないから、何かあるとは思うが」

 

「え、5月に支給されるポイントって、10万ポイントじゃないの?」

 

「……ここだけの話なんだがな」

 

 そう言って、俺は星之宮先生から得られた情報を若干ぼかしながら伝える。実際5月にならないとホントかどうかわからないし、10万振り込まれるかもしれない。だが、そうとも言い切れないことが食堂にきて更に強まってしまった。

 少なくとも無料の山菜定食や自販機で売られている無料のミネラルウォーター、限定品の無料の商品とかを見るかぎり、0ポイントだとしても生徒が最低限生活できる環境が整っている。

 

 それに戸塚は気づかなかったかもしれないが……この席に来るまでの間、上級生と思われる生徒の飯を見ていると、山菜定食を食べている人がいたのだ。

 それも複数である。これで女子が一人だけとかならダイエットしてるのかもと思ったのだが、大柄な男子生徒でも山菜定食を食べていたことには少し驚いた。

 野菜好きな人が多いと言われればそこまでの話だが、どうもおかしい光景に映ってしまう。

 

「……やっぱり、比企谷君は頭いいね」

 

「やっぱり?俺が頭良いときあったか?むしろ戸塚に数学や理科で迷惑ばかりかけていた記憶があるんだが……」

 

「ううん、勉強とかじゃなくて。洞察力というか、推察力というか…よく周りを見て考えてるんだなーって」

 

 そりゃあ、ボッチには必要不可欠なスキルだからな。

 例えばだが、悪ガキの大将に目をつけられたらどんな目に合うか分からない。常に周囲を探り、やっかいごとに巻き込まれないようにするのは大切なスキルである。目をつけられたら……受け入れてしまうほうが精神的に楽だ。経験則的にだけど。

 会話もそこそこに、残りの食事を片付けにかかる。どんどん生徒が増えていくので長居しても申し訳ないから、と戸塚が言ったからな。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 二人とも食べ終わったので食器を片付け、食堂を出る。さてと、これからどうするかなー。まだ授業まで時間はあるし、図書館にでも行くか。

 

「戸塚、これからどうするんだ?」

 

「比企谷君は?」

 

「俺は図書館に行こうかなって」

 

「なら僕もついて行っていい?」

 

「お、おう……」

 

 くっ、やはりふとした時の表情と仕草が女子としか思えん。もし今制服じゃなかったら、男だということを忘れそうだった。顔を赤くしているところがまた可愛い……戸塚は俺の天使だな。

 くだらないことを考えつつも、図書館に向けて歩き始める。昨日の探索の成果で、この学校の大体の地理はつかんでいる。

 戸塚は何かを言おうとしては、やめることを繰り返していたものの、どうやら言うことに決めたようで俺の方を向いてくる。

 

「ちょっと比企谷君にお願いがあるんだけど……いいかな?」

 

「お願い?」

 

「うん、僕、テニス部に入るつもりなんだけど、放課後の部活動説明会、一緒に行ってくれないかな……?」

 

 そう言えばそんなこと、さっき食堂で聞いたな。校内放送で全員に伝えられたものだったが、確か17時に第一体育館に集合だったか。

 戸塚は俺の答えを慎重に窺っているのか、上目遣いになってこちらを見ている。

 俺がそんな面倒ごとに行くわけがないだろ、ボッチ舐めんなよ。

 

「俺でいいなら……」

 

「ほ、ほんと!ありがとう比企谷君!」

 

 うん、ボッチだからこそ無理に決まってんだろ。それに戸塚のお願いだぞ。俺が聞かないわけがない。

 不安ながらに窺っていた戸塚の表情は、一変して笑顔に溢れたものになった。あー癒される~。

 その後は他愛もない話をしつつ、図書館で借りれるだけ本を借りて教室に戻った。

 クラスに戻ると、いつの間にそんなに仲良くなったのか、数人のグループでまとまって食事をしていたり、談笑していた。……君たち仲いいね。学校っていつから始まったっけ?なんなの?コミュ力お化けなの?

 

 

***

 

 

 放課後になると、多くの一年生が第一体育館に向かっているのか、大人数が同じ方向に進んでいた。純粋に部活に入る気なのか、それとも楽しそうだからなのかは分からないが、大体はそのどちらかなのだろう。俺も戸塚と共に第一体育館へと向かう。

 

 体育館に入るときに部活動のパンフレットと思われるものを渡され、俺は後ろの方から見ようと思ったのだが、戸塚が前の方に行くのでついて行く。やはり近くで説明を聞きたいからだろう。俺は特に部活動に入るつもりはないが、今回は戸塚の付きそいなので戸塚に従う。

 周囲を見渡せば思ったよりも人数が多いという印象を受ける。俺なら帰宅部一択だし、戸塚がいなかったらまずこの説明会にすら来ていないだろう。元々そうするつもりだったし。

 戸塚がテニス部のページをじっくり読んでいる中、俺も暇つぶしにパラパラと各部活動のページを軽く読んでいく。

 

 やはり高度育成高等学校と名前も相まってか、部活動もそれぞれ全国トップクラスの成績を収めていた。だが野球やバレーなどは各地の名門校に一歩劣るといった感じである。

 しかしすべての部活動が実績を残してるとか凄まじいな。改めて俺がこの学校にいることが場違いな気がしてくる。小町、お兄ちゃん、すごいとこに来ちゃったよ……。

 司会の生徒会書記だという女先輩から説明会の開始が伝わり、壇上には各部活動の主将と思われる人物たちが順に部活を紹介していく。

 順に降りては、簡易テーブルに着く。どうやらそこで募集するようだ。

 

「比企谷君、行ってくるね」

 

「おう」

 

 戸塚はテニス部に入りたいって中学の頃から言っていたし、今日も言っていたから入部は当然か。

 一人残された俺は他の生徒の邪魔になるな、と思い後ろの方に移動していく。決して一人で中央にいるのが嫌だったわけではない。ただの優しさだよ?

 最後尾辺りまで来た俺は、寮の隣人である綾小路と美人な女子生徒という奇妙な組み合わせを視界にとらえた。

 綾小路、お前昼休みに俺を「えー……」みたいな目で見ていたくせにリア充だったのかよ。

 

「がんばってくださ~い」

 

「カンペ、持っていないんですか?」

 

「あははははははっ」

 

 俺がこっそりと綾小路に妬ましい視線を送っていると、周囲が俄然騒がしくなる。

 何があったと壇上を見れば、一人の男子生徒――先輩には間違いない――眼鏡をかけた見るからに頭良さげな人物がマイクを前にして無言で佇んでいた。

 って、よく見たらあの人入学式の日に話をしてた生徒会長だな。

 

 一年生の多数は色んな野次を飛ばしていたが、壇上の先輩はすべてを無視しつつ、俺たち一年生を見下ろしていた。

 最初は笑っていたやつも、「なんだあの先輩?」といった具合で呆れるように。

 不気味なのは壇上に立つ会長である。どんな一年の声にも無言、無言である。もし俺が壇上に立っていたら耐えきれずに噛みまくるか、逃げ出すかのどちらかだろう。だがその人は一切の行動をみせなかった。

 

 次第に体育館の空気が変わっていくのを感じる。誰も彼もが騒いでいた状態から、今は一言でも喋ること自体が禁止であるかのように恐ろしい静寂に飲み込まれていく。

 こんな状況を生み出したのは壇上に立つあの男だ。

 そんな静寂が30秒くらい続いたのち、ゆっくりと一年全体を見た男は演説を始める。

 

「私は、生徒会会長を務めている、堀北学と言います。生徒会もまた、上級生の卒業に伴い、一年生から立候補者を募ることとなっています。特別立候補に資格は必要ありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者がいるのなら、部活への所属は避けて頂くようにお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは、原則受け付けていません」

 

 口調は柔らかいが、肌を突き刺すような緊張した空気を感じる。これは堀北会長が生み出した空気だ。空気創造能力とか持ってるの?化学変化も逃げ出すような場の変わりようだ。

 

「それから―――私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ、歓迎しよう」

 

 淀みなく演説を終え、真っすぐに壇上から降りて体育館を出ていく。

 誰も言葉を発せない状態だったが、司会の先輩の言葉により再起動する一年生達。

 戸塚を待つ間、少しだけ体育館から外の廊下を覗く。そこには堀北会長とその後ろをついて行く司会の女先輩が確認できた。

 堀北会長は圧倒的だった。その存在感も、場を支配することも、何もかも。あれがこの学校の三年生であり、生徒会長……あのような人材がこの学校を代表する人になっていくのだろう。

 それに比べ、俺はどうなのだろうか……特別大きな夢もなく、専業主夫かサラリーマンにでもなれればいいと思っている。俺がこの学校で身に着けるべき力はなんなのだろうか。

 ふと、そんなことを考えたりもした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして4月を終え、5月を迎えた俺は―――――実力至上主義の世界に身を投じることになるのだった。

 




高度育成高等学校学生データベース

氏名:戸塚彩加
クラス:1年B組
学籍番号:S01T004673
部活動:テニス部
誕生日:5月9日

評価
学力:B
知性:C+
判断力:C+
身体能力:C+
協調性:B

面接官からのコメント
小中ともに成績は平均的であり、面接時の対応も丁寧なものであった。身体能力は平均を少し上回るぐらいであり、協調性も高いことが窺える。そのことよりAクラス配属候補ではあったが、少し自分に対し自信を持っていないことが窺えるため、改善すべき点であると言え、Bクラス配属とする。

担任メモ
最初見た時は女の子にしか見えないほど可愛く、今でも混乱しちゃうくらい可愛い子。先生的にはそのまんまの君でいてもらいたいな。
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