やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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昨日の一之瀬誕生日記念の話から二話連続投稿となりました。
今回で無人島サバイバル編は終了です。読んでくれた皆さんに感謝を。
案の定長くなりましたが、後悔はしていません。

……俺ガイル3期2話で「ガハマさーん(泣)」となってしまった影響か、ちょっと自己解釈のシーンが多いと思われます。

それでも良い方だけ、どうぞ。


彩加「無茶したら駄目だよ…」 八幡「…悪い」

 Aクラスの拠点を離れた俺と彩加は、本来の目的である食料調達に精を出す。

 だが、やはり五日目ともなると、かなり収穫されているのだろう。あまり量が集まらない。

 一度、拠点に戻って魚の方を見てみるか。

 

「彩加、一度帰って他の班の報告を聞こうぜ。闇雲に探しても見つかりそうにない」

 

「それがいいかも。もしかしたら、他の班は多く採れる場所を見つけているかもしれないし」

 

「そうだな」

 

 彩加も同意したところで拠点へと戻る。

 拠点に着くと、何故かDクラスの櫛田とその友達であろう女の子がいた。

 

「あ、おかえり二人とも。早かったね?」

 

「食料が見つからなくてな。他の班がどうなのか知りたくて帰ってきた」

 

「その件なんだけど……Dクラスと物々交換することになったんだ」

 

「俺が提案した貿易の件か。ってことは……」

 

「私達Dクラスは果物は多く採れたんだけど、魚が全然だったの。だけどBクラスは魚がたくさん取れたって聞いたから、交換したいと思ってきました!」

 

 櫛田が営業スマイルをしながら説明してくれた。

 これで裏の顔があるとか女は恐ろしいもんだよな……いえ、特に何も考えてないですよ?だから、みんなに気づかれないように笑って無い目で見つめてくるのはやめようね?

 

「なるほどな。まあ、俺は一之瀬や神崎に従うさ」

 

「私的には受けたいんだけど…神崎くんはどう思う?」

 

「賛成だ。お互いに補えるならそれに越したことはないだろう」

 

「分かった。じゃあ櫛田さん、平田くんに了承の連絡をお願いしていいかな?追いかける形で私たちも魚を運んでいくから……」

 

「うん!ありがとう一之瀬さん!Bクラスの皆さん!」

 

 笑顔でお礼を言う櫛田に、少なくない男子が顔を赤くする。外面だけ見ればただの可愛い女子だしな。

 櫛田たちが出ていったあとで、運び出す班が作られた。

 俺と彩加も探索はやめて運ぶ班に転属させられた。いや、暇だから別にいいんだけどさ……。

 Dクラスの元へ行くと、代わりの果実を持って待機している生徒たちがいた。

 

「Bクラスに運ばせてばかりで申し訳ない。これは僕たちが……」

 

「いいっていいって。俺たちもこれから帰るだけなんだしよ。協力関係にあるんだから、困ったときはお互い様だろ?」

 

「……そうだね、ありがとう柴田君」

 

 ……平田はそう言ってくるが、なんかDクラス雰囲気悪くない?あ、伊吹がこっち見て……目を逸らされた。

 今日も青パンツなんだろうか…って殺気!駄目だな、無人島欲溜まるって……煩悩に満ち溢れているな。早く帰りたい、ここは危険地帯だ。

 ……伊吹はうまくやってくれるだろうか。不安だがこちらから何かをするつもりはない。わざわざここで協力関係を切る必要性はないからな。

 

「じゃあ、お互いあと二日、頑張ろうぜ!」

 

「うん、頑張ろう!」

 

 柴田と平田の挨拶を皮切りに俺たちは拠点へと帰っていくのだった。

 

 

***

 

 

 無人島サバイバル6日目、午前2時。

 雨が降り注いでいる中、俺はキャンプ地近くの小屋を占有し、中で橋本と向かい合っていた。

 

「ようやく話せるな。葛城の監視を掻い潜るのが大変だったんだ、許してくれよ」

 

「いや、俺こそ一之瀬に監視されてる身だし、仕方ねぇよ。どんな試験か断定が出来なかった以上、こうして会えているだけでもマシだろ」

 

「…そうだな」

 

「あまり長い時間話すもんでもないから簡潔に済ませるぞ」

 

「もちろんだ。まずAクラスのリーダーだが……」

 

 しばらく情報交換、また、橋本で答え合わせをすること十分程度。

 雨が少し弱くなったこともあり、密会はお開きとなった。

 

「じゃあ、次は船の上でな」

 

「おう、一緒に風呂でも行こうぜ」

 

「お前マジで俺を……だから俺にそんな気は」

 

「違うっての。お前が変なこと言う所為で俺両刀疑惑までかけられてるんだからな?彩加なら大歓迎だがそれ以外は駄目だ」

 

「まあ、戸塚は可愛いから分からないでもないが、さすがに大歓迎までは……」

 

「いいからもう行け。見張り抜け出してきてるんだろ?」

 

「…だな」

 

 橋本は森へと消えていき、俺もテントの中に戻る。

 さすがに雨の中ハンモックというわけにもいかないが、できる限り節約したかったために小さめのテントを購入したBクラス。男子用として使っているが……皆縮こまって眠ってるからか、寝心地は悪そうだ。

 ブルーシートも購入し、ハンモックでも低めの木の奴らはブルーシートで雨を凌ぎながらそっちで寝ているため、男子全員がいるわけではないのだがそれでも狭い。十分に横に慣れないくらいには狭い。

 俺は彩加のいるところに辿り着き、後ろからこっそりと声をかける。

 

「……話してきた。そっちは?」

 

 すると、彩加も寝返りを打つ形でこちらを向き、目を開ける。

 

「うん、一度外に出ていこうとしてたけど、声をかけたら諦めた様子だったよ」

 

「そうか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 天使に深夜の時間まで起こさせてしまったのは非常に心苦しいのだが、俺がいない間に金田に動かれても困るため、彩加に監視を頼んでいたのだ。

 だが、これで金田はある程度確証を得たことだろう。

 それに、どうせ寝たふりをしていると思ったから、金田の傍を通るときに少しだけジャージのポケットからキーカードの端が見えるようにして目の前を通った。

 保険は掛けといて損はないしな。

 先程の橋本との情報交換のおかげで、金田がキーカード自体を欲していることが分かったのだが、Bクラスはさすがにガードが堅いだろう。地味に日中でも夜でも俺を金田から守るような配置にしているからな。写真を撮るのすら困難極まっている。

 俺も渡す気はない。それに、渡さなくても葛城は俺を指名するだろう。

 むしろ言葉だけでも報告してくれるだけで、こちらにとっては嬉しいことだ。

 

「ありがとな。彩加は眠ってくれ」

 

「うん、お休み八幡……」

 

 小さなテントとは言えどもコソコソした声なら聞こえない。口を近づける必要性と俺の心拍が尋常じゃないほどに上がっていること以外に何も問題はない。

 ……どうせ今日の夜には布団で寝られるのだ。今日くらい徹夜でいい。今日するべきことの最終確認をしながら、彩加の寝顔を拝みながら暇を潰すかね。

 

 

***

 

 

 橋本正義は一人、Aクラスの拠点である洞窟へと向かっていた。

 先程までBクラスの比企谷八幡と密会をしていた彼だが、八幡と話が進むにつれてテンションはかなり高くなっていた。

 八幡と別れ、雨の中を歩きながら一人呟く。

 

「比企谷は本当に飽きないな。いや、飽きさせてくれない。あれなら、坂柳が執着する理由も分かるな。あれは……()()()()の人間だ」

 

 先程の話し合いを思い出し、つい笑ってしまう。

 葛城がキーカードを持っていたからキーカードを見せたと言った時には、何を考えているのかと耳を疑ったが、Aクラスのリーダーは誰かを聞いて、驚かされたし、それでいて安心もした。

 それに、今回の試験における計画を少しだけ聞いたが、もし比企谷の考えそのままに試験が終われば面白い結果になることは間違いない。

 ある程度の博打要素は含まれていた。だが、ほとんど確実と言っていいほどの仕掛け方に考察、加え、一学期途中からの情報収集が完全に効いている。

 

「比企谷は……あいつ自身は否定するだろうが、確実に化け物の部類に入るだろうな。坂柳や龍園に比べたら劣る……というよりもカードが違う、jobが違うけど。Bクラスはそのうち落ちこぼれていくと踏んでいたが……考え直さないとだな」

 

 それは坂柳のためでも、Aクラスのためでもない。

 全ては自分のため、自分がAクラスで卒業するための布石にすぎない。

 誰が落ちこぼれようと、どのクラスがAだろうと構わない。

 ただ、最後に自身もAクラスに居ることが出来ればそれでいい。

 

「比企谷八幡、か。Bクラスにアイツがいる限り、油断も隙も許されなさそうだ」

 

 既に試験後のことまで考えていることには驚きを通り越して呆れを抱くしかなかった。

 洞察力も、思考力も、推察力も申し分ない。

 個人としてだけを見るならば……比企谷八幡は学年トップクラスの実力者になりうる存在だと、橋本は思い、そのことにテンションを上げているのだった。

 坂柳とも龍園とも違う、一之瀬とも平田とも違う。比企谷に彼らのようなことは求めることは出来ないが、彼らが出来ないようなことを平然と行う。

 

「けどまぁ、ちょっとBクラスの連中に同情するなぁ」

 

 何も知らない彼らがどう思うのか、比企谷はそこまで考えた上で、それでも平然と行動を起こしていた。あれは普通の人間には出来ない。

 少なくとも普通の学校生活を送ってきた人間には到底真似できない。

 それこそが比企谷八幡の強みであると、橋本は分析しつつ、洞窟へと帰っていくのだった。

 

 

***

 

 

 無人島サバイバル六日目。

 なんて言いつつも、徹夜していた俺は他の生徒が寝ている中、一人で外に出る。

 雨は止んでいたものの、いつ降り出してもおかしくなさそうだ。

 ……あとはタイミングだな。

 

「あ!おはよう比企谷君!起きるの早いね~」

 

 声のした方を見れば、違うテントから一之瀬がタオルを持って顔を覗かせていた。

 

「おう、おはようさん。昨夜は雨がうるさかったからな。あんまり寝付けなかったんだよ」

 

「そっか、確かに雨が降るのは計算外だったよね。余計な出費も増えちゃったし」

 

 そんな会話をしながらテントを出て、滝の近くで顔を洗う。

 雨が降ったことにより汚くなっていないかと心配していたのだが、ここの水源は自然豊かすぎるらしく、綺麗な水のままだった。

 隣をちらりと見れば、一之瀬が気持ちよさそうに顔を洗っていた。

 ……リスクは多少あるが、最悪バックれてしまえばこっちのもんだ。それに、バレたからと言って特に何かあるわけじゃないしな。

 

「一之瀬、一つ報告がある」

 

「報告?」

 

「今日の朝、というより深夜なんだが、俺はトイレに行くために起きてな。ついでに雨だし、あの小屋のスポットを占有しようとしたんだ」

 

「もうっ、占有は禁止って言ったでしょ!!」

 

「待て待て、しようとしたのは事実だがしていない。()()()()()()()()()

 

「え?」

 

「Aクラスだと思うが、どこからがスポットの誤使用に当たるか分からないから近づけなかったんだ。なんか生徒いたしよ……びっくりしたわ」

 

「Aクラスが……」

 

 一之瀬が考えを巡らす前にこちらから理由を示す。

 

「これは俺の推測なんだが、昨日の雨って割と酷かっただろ?多分、他のクラスもテントに籠ってたはずだ。つまり、誰にもリーダーがバレない状況が出来ているってことだ」

 

「…確かにそうだね。だけど、葛城くんは慎重派だしよくそんな大胆なことを……」

 

「これも推測に過ぎないから戯言と捨てても構わないんだが、Aクラス内で坂柳派が優勢なのはお前も知ってるだろ?」

 

「うん、有名な話だもんね」

 

「だからこそ、葛城派は今回の試験で多くのポイントを獲得して対抗したいはずだ。多少のリスクも雨という好条件が重なったことでイケると判断したんだろう。実際、俺もトイレに行かなければ気づかなかったしな。これで俺たちが誤使用すれば50ポイントも引かれちまう。ちょっとせこいと思うが、いいやり方だよな」

 

 ……さあ、一之瀬。お前はどちらを選ぶ?

 

「……うん、分かった。報告ありがとう比企谷君。皆にも近づかないように言っておくね」

 

「……おう」

 

 やはり、一之瀬帆波は一之瀬帆波だ。それでいて、()()()()()()()()()()()()()()()

 こちらこそ、ありがとう一之瀬。俺の思った通りの一之瀬でいてくれてありがとな。

 

「あ、皆も起きてきたみたい。朝ごはんの準備しなきゃ」

 

「そうだな」

 

 これでBクラスに関しての問題は最後のリーダー指名のみ。まぁ、完璧というほどでもないが最高の形だ。

 ……金田、そして龍園翔。

 

 

 ──────────上手く踊ってくれよ?

 

 

***

 

 

 今日は釣り班になり、白波と一緒のようだ。

 

「比企谷君釣り上手なんだね。戸塚君から聞いたよ」

 

「そこまで出来るわけじゃない。何?お前も餌付けて欲しいのか?」

 

「で、出来れば……」

 

 まあ釣りをしたことない人間からすれば針への付け方わからなくて、無理すると指に突き刺すからな。実際、俺は小さい頃に人差し指に針を刺して泣き喚いた記憶がある。

 白波の隣に腰かけ、魚がヒットするまでぼんやりと海を眺める。

 雨が降った後は釣れやすいとは言うものの……この無人島内にいる生徒たちは釣りをしているところも多いだろうし、そこまで劇的に変わることはないだろう。

 10匹釣れれば上出来で、20匹釣れればクラスの半分の一回分の食費を賄えるのだ。あと食事は二、三回だし、そのあと豪華客船に戻るのだから、あまり食べなくても何とか持つかもな。

 それでリタイアとかすれば最悪だが、Bクラス内に体調不良者は見受けられていない。隠していたとしても俺が気づかないぐらいならなんとか踏ん張るだろう。

 

「わっ!引いてる引いてる!ひ、比企谷君!」

 

「あーちょっと落ち着け白波。後ろから手伝うけどあとで殺すなよ?」

 

「何もしないから!」

 

「分かった分かった」

 

 白波を後ろから抱きしめる形で釣り竿を引き上げる手伝いをする。気分は子供の手伝いをする父親の気分だ。父親になったことないのに父親の気分とか意味わかんねえな。

 

「よっと」

 

「きゃ!」

 

 少しだけ海水が跳ねたが、運よく二匹同時に釣れていた。どんな奇跡だよ……。

 

「白波、針外せる?」

 

「無理、無理!」

 

「なら俺が外すから、白波は俺の竿を見ていてくれ」

 

「うん」

 

 釣れた魚を針から外し、魚を入れる用の網の中に入れる。

 ……俺の竿って表現、なんかエロいですね……加えて白波の身体、柔らかかったし……あ、駄目だ、最近こんなことばっかり考えてしまうな。なんとかしないとそのうち爆発しそうで怖い。いや、しないだろうけど。

 

「あ、またきた」

 

「今度は一人でいけるか?」

 

「無理だと思う!」

 

「潔いことで。で、今回も後ろから引っ張る補助の形でいいのか?」

 

「お願い!」

 

「了解」

 

 こうして白波が持つ竿には魚がことごとくヒットし、二時間で40匹を超える成果となった。

 ……俺が持っていたらヒットしないって何なの?ついに魚にまで避けられ始めたの?DHA豊富な仲間だと思ってたのに……ドコサヘキサエン酸だけ寄越して爆発してしまえばいいのにな。 

 

 それに……途中で誰かが様子を見てきた気がするが、何だったんだ?

 

 

***

 

 

 朝の比企谷君の報告のおかげで小屋のスポットには近づかないようにすることが出来た。

 もし誤使用と見なされたらマイナス50ポイント、どこからどこまでが使用の範囲に入るのか明確に分からない以上は、近づかないことが正解だろう。これは神崎くんとも話し合って決めたことだ。

 今は比企谷君と千尋ちゃんの様子を見に、柴田くんと一番近い海辺に向かっていた。

 

「なぁ、一之瀬。一つ聞いていいか?」

 

「どうしたの柴田くん?」

 

「お前と比企谷って、付き合ってんのか?」

 

 え……私と比企谷君が、付き合ってる……?

 

「ど、どこからの情報なの!?付き合ってないよ!」

 

「いや、一之瀬ってプライベートだと比企谷と戸塚、白波と過ごしてることが多いけど、比企谷からもらった誕生日プレゼントを幸せそうな顔で撫でたりしてるし、比企谷と話してる時は一段とテンションが高いからな」

 

「そ、そうなの……?」

 

 全く自覚していなかったことを指摘され、改めて考えてみるけど……そこまで違うかな?

 

「付き合ってないならやっぱデマだよな。悪い、不愉快になったんなら謝るから」

 

「いいよ別に。誤解が解けたならそれでいいから」

 

「皆にも誤解だって伝えとく」

 

 み、皆そう思ってたんだ……言動に出ちゃってるのかな……でも私は意識してそんなこと……した覚えがないんだけどなぁ……。

 

「ん!?」

 

 私が自分の世界に籠ろうとしたところで、柴田くんが驚いた声を上げた。

 つられて視線の先を見れば────―

 

 

 

 ────―比企谷君が千尋ちゃんを後ろから抱きしめていた。

 

 

 

「……柴田くん、今行っても邪魔しちゃうから帰ろっか」

 

「お、おう……」

 

 なんだか、足元が覚束ない気がする。

 気のせいだろう、疲れかな?歩きすぎたのかも、普段から運動をしているわけではないし、ちょっと豪華客船で燥いでたからかな?みんなは何をしているんだろう、私が次にすることは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……やめてよ。

 お願いだから。後生だから。今だけでもいいから。今だからこそやめてよ。

 

 

 

 

 

 なんで、どうして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は泣いているんだろう……

 

 

 やめて、いやだ、どうして、やめろ、ふざけないで、こらえてよ、かんけいないでしょ、きにしすぎ、なんで、やめて、きえて、どうして……。

 

 

 認めたくないのに、認めたら駄目なのに。

 さっきも誤解だって言ったのに……。

 

「うおっ、雨降り出した!一之瀬、早めに帰るぞ!」

 

「うん」

 

 雨が降ったら食料を確保できなくなるのに。ポイントを消費してしまうのに。

 

 

 

 ──────―今だけは、降り出してくれた雨に感謝した。

 

 

***

 

 

 雨が降り出したことにより、急いで白波と道具を片付け、魚が大量に入ったバケツを持ってベースキャンプへと戻る。

 雨か……個人的には好都合だが、魚はどうしたものか。テント内で焼いたりできるか?

 

「あ、千尋ちゃんたち帰ってきた!」

 

「八幡!」

 

 キャンプ地に着くと、多くのクラスメイト達がそれぞれ雨への対策に動いていた。俺たちを心配してくれていたのか、小橋と彩加が俺たちを出迎え、荷物を持ってくれる。

 ところで……一之瀬はどこだ?

 

「なぁ、彩加。一之瀬はどこにいる?」

 

「一之瀬さん?確か……あれ?小橋さん、一之瀬さんはどこにいるか分かる?」

 

「多分神崎君と一緒にいるはずだけど……」

 

 俺たちが魚や釣り竿を運びながらそんな話をしていると、神崎が走ってやってきた。

 

「四人は一之瀬を見ていないか?姿が見えなくてな……」

 

「嘘っ……!」

 

 神崎とも一緒にいない。……ということは、途中俺たちを見てきたのは一之瀬か。

 ……仕方ない。

 

「悪い神崎、荷物を頼めるか」

 

「……お前は?」

 

「一之瀬を探してくる」

 

「だ、だったら私も行く!」

 

「いや、複数で行って迷子になったら最悪だろ。一応、俺は居場所の検討はついてる……大丈夫だ白波、すぐに連れて帰ってくるから」

 

「……ほんとに?」

 

「八幡……」

 

「……そうか。なら比企谷、頼んだぞ」

 

「おうよ」

 

 四人と別れ、俺は走り出す。

 居場所の予測は二か所。さすがに小屋のスポットにはいないだろうから、いるとすれば……

 

 

***

 

 

 私、馬鹿だ。

 クラスをまとめ上げる役割を担ってるのに、一応リーダーのような立ち位置にいるのに。

 今、こうして海を見ている。

 

 ……それだけショックだったんだろうなぁ。。。

 

「はぁ……」

 

 こんな自分が嫌になる。

 いつも一緒にいたのに、気づかなかった。気づけなかった。配慮出来てなかった。考え不足だった。

 今になって自覚する。だけど、もう遅いし何も変わらない。

 ましてや、キャンプ地から離れて単独行動。

 

「これじゃあ、比企谷君と変わらないや……」

 

「俺と……なんだって?」

 

 独り言のつもりで呟いた言葉に返答があって、驚きながら振り返る。

 

 そこには────比企谷君がいた。

 

 全身びしょ濡れで、肩を大きく上下させながら息を整えている。邪魔だと感じたのか眼鏡は外していて、その濁ったような深い黒の色が私を覗き込むように見つめていた。

 

「……どうして?」

 

「いや、むしろ俺がどうしてと言いたいんだけど。何?試験をここにきてバックれるの?そんな悪い子に育てたつもりはないよ?」

 

「育てたって……どっちかって言ったら私が比企谷君を育ててたと思うんだけど……」

 

「……返す言葉がないな」

 

「……ふふ」

 

「ははっ……」

 

 自然と、笑ってしまった。

 こんな会話したのも久しぶりだ。と言っても一週間も間はないんだけどね。

 ……自分でも思ってる以上に、比企谷君と関わることが好きなんだろうな。

 

「……さあ、帰るぞ。みんな待ってる」

 

「……ちょっと気分が乗らないから今は無理。点呼までには帰るから安心して」

 

「安心できるかっての。神崎も彩加も、白波だって心配してたぞ?」

 

 どくん。

 彼の口から千尋ちゃんの名前が出ただけで、すごく動揺してしまった。多分、観察眼に優れた彼なら気づいたかもしれない。

 

「皆の気持ちは嬉しいけど……私にも、疲れる時や気分が乗らない時だってあるんだから」

 

「そりゃ、人間である限り誰でもそうだろ」

 

「そういうこと。だから比企谷君はベースキャンプに戻りなよ。そろそろ夕ご飯の時間だよ?」

 

 暗に帰れと告げたつもりだったけど、比企谷君は気にした様子もなく私と三人分くらいの差を開けて座った。

 雨が降り続けているため少しばかり荒れている海を見ながら、独り言のように話し出した。

 

「……疲れたなら休めばいい。気分が乗らないなら神崎に丸投げすればいい。なんでもかんでも背負いこむな」

 

「……皆に迷惑はかけたくないから」

 

「……お前、俺が白波を後ろから抱きしめているところを見たんだろ」

 

「!?」

 

 突然、そのことを言われて驚いたように肩を硬直させてしまった。

 これだとそうだって言ってるようなものだよね……。

 

「……まぁ、何?お前に告白した少女に目の腐った男が抱き着いているのは確かにショッキングなことだったろうけど、あれは釣りの手伝いをしていただけだからな?」

 

「………へ?」

 

「やっぱ誤解してたな……大方俺と白波が付き合ってるとか思って、今までの言動から申し訳なさとかいろいろ考えていたんだろうが、そんな事実はない。付き合ってるわけないだろ」

 

「……でも」

 

「でもじゃねーよ。白波が魚を釣り上げることが出来なかったから手伝ってただけだ。……なんならお前をここで抱きしめようか?」

 

「え?」

 

 抱きしめる?比企谷君が……私を?

 

「あ、やっぱ今のなしで」

 

 驚いて比企谷君を見ると、比企谷君は顔を全力で背けていた。……耳真っ赤だけど。

 前にハンモックで一緒に寝たときに、無意識だろうけど抱きしめてもらったのは……気持ちよかったな。すごく、温かかった。

 ……ここで抱きしめるなら比企谷君は本当に千尋ちゃんと付き合っていないんだろう。もしかしたらただの女の子好きな可能性もあるけど……多分、それはない。

 だってそれだと戸塚くんへの異常な好意の説明がつかないからねー……。

 あ、それなら……

 

「そっか、やっぱり付き合ってるんだね……」

 

「付き合ってねえって。冗談でも白波に言うなよそんなこと……絶対泣くぞ」

 

「なら証拠として私を抱きしめてみてよ?」

 

「なんでそうなるんだよ……」

 

「自分で提案した癖に……やっぱり出来ないんだ?不誠実になっちゃうもんねー」

 

「……あーもう分かったっての!怒んなよ。言ったのはそっちもだからな」

 

 煽っちゃえば、比企谷君は折れて行動しちゃう、してくれる。これまで伊達に一緒にいたわけじゃないからね。

 比企谷君が移動して、私を後ろから抱きしめた。

 ……やっぱり温かい。雨で濡れて身体は冷たいはずなのに、ジャージもびしょ濡れで気持ち悪いはずなのに。

 

 ずっとこうしていたいと思えるくらい、心地よく感じていた。

 

 ……もう認めちゃおう。見て見ぬふりをし続けたところで意味はないだろうから。

 私は──―比企谷君のことが──―

 

「あ、ごめん!」

 

「おい、押すなってうわっ!」

 

 ………なんか聞いたことある声が近くで聞こえた。

 比企谷君を見ると、しまったとばかりに離れていた。

 でも……多分遅かったね?

 

「そ、そんな……比企谷君が、一之瀬さんを抱きしめてるなんて……こうなったら私が比企谷君を殺すか、私も比企谷君と……」ブツブツ…

 

「八幡……僕は気づいていたからね、お幸せに!」

 

「やっぱデマじゃなかったな!」

 

「きゃー!帆波ちゃんの顔真っ赤!!」

 

「……まさかこの二人がとはな」

 

 あ、比企谷君がプルプルしてる。

 

「誤解だからな!!お前ら絶対に許さねえ……全員記憶消してやる……!!」

 

 見たこともないぐらいの怒り具合だ。顔に血管が浮かぶくらい怒ってる。

 覗き見してたなんて気づかなかったよ……あ、今になってどんどん恥ずかしくなってきちゃったにゃ///

 

「ヤバい、あれはガチだ。逃げるぞお前ら!!」

 

「俺はまだ死にたくない!」

 

「八幡、僕は分かってるから……大丈夫だよ!」

 

「誤解だから!頼むからやめてくれ!!」

 

 ……結局、比企谷君が神崎くんと戸塚くんを捕まえて事情を聞いたところ(柴田くんは持ち前の身体能力をフル活用して逃げ切った)、すぐに帰ってくると出ていった比企谷君と私のことが心配になった千尋ちゃんが捜索しようと提案し、柴田くんが『多分あそこだぞ』と連れてきたのがここだったらしい。

 地味に柴田くんが居場所を予測出来ていたことが凄いと思ったけど、隠れて様子を見ようと言い出したのも柴田くんだったみたいで、比企谷君の怒りが全て柴田くんに向かっちゃってた。

 それに逃げ切っても点呼の時には捕まるからか、少ししたら柴田くんは自首してきた。

 

 ……美味しかったな、焼き魚。柴田くん、頑張ったんだね……。

 

 

***

 

 

 色々と予想外のアクシデントもあったものの、午後8時の点呼を終え、最終日前ということもあってかまたしても早めに就寝することになり、男子女子と別れて寝る場所に集まっていた。

 雨が止んでしまったせいで動きにくくなったが、今クラスの話題は男女とも同じだ。

 

「なぁなぁ、比企谷よ?一之瀬のこと抱きしめたってマジ?」

 

「……黙秘権を行使する」

 

「マジなのかよ!」

 

 ちっ、柴田の奴には罰を食らわせ、あの光景を見ていた全員に内緒にするように言っておいたのだが、誰かが口を滑らせたようだ。

 ……柴田か、白波だろうな。

 柴田は普通に言いそうだ。そして言った後で「やべっ」とか焦り出すタイプ。そんな光景が目に浮かんでしまう。

 白波に関しては……もはや呪詛のように呟いていたからな。本人も気づかないうちに出てしまっているから、止められないのだ。一之瀬も頑張って否定しているみたいだが、抱きしめていて付き合ってませんってのもそれはそれで危ない関係に見られそうだな……。

 

 だが、この話題のおかげでクラスメイトの目を金田から外すことが出来た。

 金田にとってはリタイアするために離反するタイミングを計っていただろうからな。都合がよかったことだろう。

 既に姿がない。Bクラスは誰一人気づいていない。

 感謝したくなるぐらい思い通りに動いてくれて助かるよ。

 あとの俺の仕事は………

 未だに付き合ってるだのの話をしているクラスメイト達の目を盗み、こっそりと彩加と会話する。

 

「彩加、手筈通りにな。紙は星之宮先生に預けていく。それを一之瀬と神崎に見せることとリタイアさせないようにすること。……頼むわ」

 

「うん、任せて……でも八幡……」

 

「なんだ?」

 

「…無茶したら駄目だよ」

 

「…悪い」

 

 どうやら彩加には見抜かれていたようだ。

 いやはや、何かと理由をつけようとしていたのにな……看護師志望だったか。聞いたときはナース姿が最高に似合うんだろうとしか思っていなかったが、体調不良を見抜く目も持っていたとは。

 

「…ちゃんとベッドで休むこと!いいね?」

 

「…おう」

 

「帰りは一緒に楽しむんだからね!」

 

「もちろんだ。もう働きたくない……」

 

「でも、やるんでしょ?」

 

「……ああ」

 

 会話を終えたぐらいで本格的に暗くなり、就寝ムードが広がってか女子はテントに入り、男子もハンモックで横になる。

 

 ……さて、最後の仕事と行きますかね。

 

 

***

 

 

 無人島サバイバル七日目。

 最終日ではあるが、ボーナスポイントを獲得するために、そして他クラスの侵攻を防ぐためにスポット占有をしてもらおうと、比企谷君が眠っている場所に向かった。

 でも………そこに比企谷君の姿はなかった。

 

「あ、もしかして顔を洗いに行ってるのかな?」

 

 そう思って滝の方を探してみるけれど、やっぱりいない。

 神崎くんも起きてきて、クラスメイト達も起き出すけれどその中に比企谷君の姿だけがない。

 ん?そういえば……

 

「金田くんはどこに……」

 

「……あれ?ここで寝てたはずなんだけど……」

 

「おはよー、点呼の時間だよ~」

 

 何かがおかしい。何か違和感がある。何かが起きている?

 分からないけど点呼の時間だ。いなかったらマイナス5ポイント、比企谷君帰ってきて!

 

 時間になった。比企谷君は姿を現さない。

 点呼を受けた。比企谷君は呼ばれなかった。

 

「あの、星之宮先生?比企谷君は……」

 

「比企谷君?昨日の夜中に私の寝込みを襲ってきたかと思えば、リタイアしていったよ~」

 

「「「………はああああ!?」」」

 

 クラスの誰も彼もが、大きな声で叫んでしまった。

 リタイアした?どうして?もしかして体調不良……いや、これでマイナス30ポイントだ。最終日近くでのリタイアは痛すぎる。でもどうして?……私には一言も言ってくれなかったんだ。

 ……そして星之宮先生の寝ているところに襲い掛かったんだ?ヘェ…キョウミブカイコトダネ…?

 

「寝込み襲ったって!」「まさかあいつそこまで溜まってたのか!?」「禁断の関係よ!」「あーでも、比企谷の部屋って大体一之瀬か白波がいるから……」「辛かったんだろうな……」「だからってさすがに…」「一之瀬さんを抱きしめるだけに飽き足らず、星之宮先生に襲い掛かるなんて」「ケダモノよ!比企谷君はケダモノだったのよ!!」「「「な、なんだってー!?」」」

 

「あ、えっと、皆!ちょっと聞いてもらっていいかな?」

 

 ……はっ!私は何を……ん?戸塚くんが何か紙を持って前に立っている……?

 

「八幡は、昨日の夜に僕がリタイアさせたんだ」

 

「戸塚が?」

 

「うん。八幡、雨に濡れていたのに着替えてなかったことや、慣れてない環境での生活なのに人一倍行動してたからか……熱を出してたんだ」

 

「熱か……」

 

「八幡は無理しようとしてたんだけど、さすがに見ていられなかったんだ。僕の独断です。ごめんなさい!」

 

 戸塚くんはそう言って頭を下げた。

 熱を出していたんだ……どうして私は気づいてあげられなかったの!!

 昨日、私を探しに来てくれた比企谷君は、全身びしょ濡れだった。抱きしめられた時も温かかった。あれは心が温かく感じていたと思っていたけど……体温自体が高かったんだ!

 

「いや、気にしないでいいよ。戸塚くんがそう思って行動したなら、私たちに文句はないから。クラスメイトが苦しんでいるのを見過ごすわけにはいかないもんね」

 

 悔しい気持ちを抑え込んで、そう声をかける。

 私が認めたというか、許容したことを受けてクラスメイトも次々に戸塚くんに非はないと声をかけていく。

 

「気にすんなって!」「一番近くで見ていた戸塚君がそう言うなら、きつかったんだろうしさ」「比企谷は最初から果実採ってきたり、魚大量にとってきたりしていたからな」「クラスに貢献しようと頑張りすぎてたんだよ」「そうそう!」「戸塚君は間違ってないよ!」

 

「ありがとう!みんな!」

 

 笑顔でお礼を言う戸塚くん。

 皆、戸塚くんがいつも通りに戻ったと思ったのか、それぞれ撤収のための作業を始めた。

 でも……私には分かってしまった。

 

 それが、戸塚くんの()()()()だって。

 

 案の定、皆が動いても戸塚くん、そして星之宮先生は動かなかった。

 多分、私と神崎くんだけに、何かある。

 

「……やっぱり気づいちゃったかな?」

 

「俺は少し違和感を感じただけだが……」

 

「作り笑いをする戸塚くんなんて初めて見たよ」

 

「……一之瀬さんにはバレちゃうよね」

 

「ふふっ、じゃあ私は戻るね」

 

 星之宮先生が自身の拠点に戻っていき、三人が残される。

 そして、戸塚くんが口を開いた。

 その内容は──────―

 

 

***

 

 

『ただいま試験結果の集計をしております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用ください』

 

 8月7日正午。試験は終わりを迎えた。

 生徒たちは各々久々のジュースなどを味わい、サバイバルの振り返りなんかをしている。

 少しして、Aクラス担任の真嶋が全体の前に立ち、拡声器のスイッチを入れた。

 生徒たちは整列しようとするも、真嶋が楽にしていいと告げ、労いの言葉をかける。

 そして、特別試験の結果発表を行おうとして……

 

「おい、勝手に終わらせてんじゃねえよ」

 

 Cクラスの王様、龍園翔が姿を現す。

 

「何!?」「龍園だけ島に残ってやがる!?」「伊吹がいないのに龍園がいる?」「金田君もいないよ!」「一体どういうこと!?」

 

 BとDの生徒たちは動揺するものの、Aクラスは平然としていた。

 Aクラスを率いていた葛城が龍園に近づく。

 

「ご苦労だった、龍園。これでAクラスは500以上のポイントを得る。お前の働きに謝辞を述べておこうか」

 

「なぁに、これから面白いものが見られるぞ?」

 

「……どういう意味だ」

 

 そして明かされる、AクラスとCクラスの契約、Cクラスの策略の全て。

 龍園が語ったことが全て叶っていれば、ほとんどの生徒が豪華客船での最高の時間を過ごしているだけであるというのに、Cクラスが一位の結果になったことだろう。

 ……全てがそのままであれば、だったが。

 

「では改めて、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う。なお、試験に関する質問は一切受け付けていない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい」

 

 真嶋の発表に、すべてのクラスの生徒が緊張しながら、飄々としながら、楽しみにしながら、次の言葉を待つ。

 

「最下位は────Cクラス、0ポイント」

 

「……0だと?」

 

 龍園は結果に驚いているというより、理解が出来ていない様子であった。

 

「同じく最下位────Aクラス、0ポイント」

 

「何!?」

 

 葛城も、Aクラスもこのような結果だとは夢にも思わなかったのか、驚きを露わにしている。

 500以上だと信じてやまなかったものが0ポイント。動揺は必然とも言えるだろう。……一部の生徒を除き、ではあるが。

 

「2位────Dクラス、225ポイント」

 

「マジで!?」「やったやった!」

 

 Aクラスに200ポイントもの差をつけ、かつ思ってもみなかったポイントだったからか、理解していないながらも喜び合うDクラスの生徒達。

 そして……

 

「1位は──―Bクラス、()()()()()()()

 

 一瞬、全体が静かになり……燥ぎだすBクラス。

 

「おお!ほとんど配布ポイントまんまじゃん!」「すごいすごい!どうやったの一之瀬さん!」「神崎!何したんだよお前ら!!」「1位だって!」「やったね!」

 

 まさか試験専用のポイントがそのまんまクラスポイントになるなんて、思いもよらなかったであろうBクラスの生徒達。

 当然、リーダーである一之瀬や神崎を囲んでお祭り騒ぎだ。

 そうして、無人島での特別試験は終了した。

 

 ……すべては、ある男の思い通りに動いたというわけだ。

 

 

***

 

 

 目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

 天井なんて久々に見たな……昨日は暗かったのと身体が重かったことで気にしてる暇もなかったのだ。

 救護室のベッドの一つで目を覚ました俺は、担当の先生に声をかけた後、自分の班の部屋にいってのんびりと過ごす。

 時計を見ればちょうど正午過ぎ。そろそろ皆も帰ってくる頃だろうか。

 

「八幡!」

 

 そんなことを考えていたら、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 そこには彩加、神崎、柴田の同じ部屋の奴らに加え、一之瀬と白波もいた。

 

「おかえり。お疲れだったな」

 

「そんなことより!……体調はもう大丈夫なの?」

 

 彩加が心配するように様子を窺ってくる。

 熱も下がり、キツさも消えた。完全回復とは言わないが、あの無人島で生活をつづけた連中と同程度には回復していることだろう。

 

「悪い、心配かけたな……ベッドで寝てたら治った。一之瀬、神崎、リタイアして悪かったな」

 

 さて、もうひと眠りしようか……

 

「比企谷君?もしかして眠る気なのかな?眠らせるわけないよね?」

 

 横になろうとしたところで背中を無理矢理支えられ、起こされる。

 その人物を見ればいい笑顔だったが……目が全くと言っていいほど笑っていなかった。

 怖い、怖いよ一之瀬さん……。

 

「お前らも無人島での生活から解放されて遊びたいだろ?俺は寝たいんだ。だから、winwinの関係をだな……」

 

「比企谷お前……何をした?二日目にお前に言われて、俺はお前の行動を極力見ないようにしてはいた。だが……特段おかしいことはしていなかったように思える。それでも、ポイントが異常に高かった理由はお前にあるはずだ。今回の試験でのポイントの内訳が俺たちに分からない以上、説明責任があると思うが……」

 

「比企谷お前すげえな!戸塚とイチャイチャして、白波を抱きしめたかと思えば一之瀬まで抱きしめて……それでいて試験で大勝利に貢献だろ?ホントすげえな!」

 

 神崎の言うことはもっともだ。だが柴田……なんでそんなことを言ってしまったんだ。

 

「柴田くん、あとでお説教だからね。千尋ちゃんも戸塚くんもどう?」

 

「賛成だよ一之瀬さん……ふふふふふ……」

 

「柴田君!僕は男の子なの!いい加減に信じてよ!」

 

 憐れ柴田。指摘したことは全く間違っていないし、俺もなんでこうなったのかと思うばかりだが、どうして口に出してしまったんだ……骨は拾ってやるからな。

 ……やっぱ説明しないと自由になれそうにないな。でも話したら話したで監視がもっと厳しくなりそうだ……あー自由になりたいなー、鳥になりたい気分だぜ……。

 

「じゃあ初日から行くぞ。と言うかまず、俺の今回の目標、それから話すべきか」

 

「目標?」

 

「ここにいる全員が把握しているだろうが、俺は坂柳と電話をしていた」

 

「長電話だったもんね」

 

「楽しそうにしてたもんね」

 

「僕たちより坂柳さんの方が優先されてたもんね」

 

「「(……比企谷、お前……)」」

 

 三人が辛辣すぎてつらい。優先せざるを得なかったってのが正しいのにね……神崎と柴田は、どうしてそんなことをしたんだという顔で見てくる。

 ただ、こいつらは会話の内容までは知らないからな。

 

「優先って言うか、坂柳には弱みを握られているからな。電話かかってきたら出ないと何をされることか……で、その電話の内容なんだが、坂柳が二学期から一党体制を築きたいということで、葛城派をやっつけろ的な話だった」

 

「……常軌を逸しているな」

 

「仲が悪いとはいえ、同じクラス同士なのに……」

 

 まあ確かにな。あんなことを考えるのは坂柳とか龍園くらいのものだろう。どちらにしろ、落ちたところで上がる自信しかないからこの時期の失敗など気にも留めていないんだろう。

 Aクラスは今の状態より、坂柳の一党体制の方が強いだろうからな。

 

「最初は断ろうとしたし、やる気もなかった。葛城とは仲良くしていたつもりだし、真面目でいい奴だったからな。人となりを知っていたからこそ、無視してBクラス内で節約生活に努めようと考えてた。……最初はな」

 

「最初ってことは……途中で変わったのか?」

 

「ああ。追加ルールとスポット占有についてのことを知ってから、考えを変えた。AとC、特にCなんかは絶対にリーダーを当てにくると思ったからな」

 

「Cクラス?龍園くんが?……でもどうしてそう思ったの?彼は豪遊をしてポイントを使い切って、多くの生徒をリタイアまでさせていたのに……」

 

「……単純だっての。俺たちBクラスに中間考査前から仲違いするように仕掛け、Dクラスの須藤を嵌めて学校側に訴えるような奴だぞ?試験も何もない時からそんな派手に仕掛けてくる男が、こんな絶好の試験で何もしないわけがない」

 

 ボイスレコーダーによる情報収集の中には、Cクラスの生徒たちの呟きも入っていた。

 内容としては龍園に対する愚痴と、それでも従った方が上のクラスを目指せるといったこと。

 それからも情報を集め続けたところ、龍園がクラスを暴力で支配し、また、支配できるほどの実績を上げていることが分かった。

 Bクラスよりかなり学力で劣るはずのCクラスが、ほとんど点数差なしであることには疑問だったのだが、龍園が何かをしたのであれば納得がいく。過去問でも入手していたんだろうか。

 俺は龍園という男と直接関わったことはほとんどない。確か二回程だ。

 だが、一度会ってみただけで分かった。坂柳とは別ベクトルで危険人物であるということが。

 

「それでも何をしてくるかは分からなかった。だから、何が来ても対応できるように俺自身がリーダーになったんだよ」

 

「……リーダー交代のための布石というわけだな」

 

「交代?比企谷はリーダーじゃないってことか?どうして……」

 

「リーダーは正当な理由なく変更は出来ないが、体調不良によるリタイアでの交代は正当な理由だ。気づく奴は気づくし、保険としてこれ以上のルールはない」

 

「な、なるほどな……」

 

「今回の試験で戦い方を分けるとすれば大きく二種類だ。スポット占有とリーダーを隠し続けながら節約生活をする堅実な方法、もう一つはリーダーを当てる方法」

 

「けど、リーダーを当てるのは難しいよね?」

 

「そうだな。どこのクラスも、リーダーはバレたくない存在だからな。俺もバレないようにしていたつもりだ。だが二日目、状況が変わった」

 

「状況が変わったって?」

 

「彩加と二人で探索中、キーカードを持った葛城に遭遇した」

 

「「えええ!?」」

 

「……ってことは、Aクラスのリーダーは葛城だったのか?」

 

「それは一旦置いておくが、その時に俺は思いついたんだよ。AクラスとCクラスを同時に攻撃できる方法をな」

 

「そ、それって?」

 

「葛城に俺が持っていたキーカードを見せた」

 

「「は?」」

 

 あれはなぁ……いくつかのパターンを考えてたら、その一つと同じような状況が目の前に現れたから……彩加がいたのについついやってしまった。

 結果的に成功したが、ちょっとリスクが高かったかもな。八幡反省中……。

 

「おいおい待て待て!お前自分からキーカードを見せたのか!?」

 

「そ、そんなことをしたら指名されるにきまってるよ!」

 

「落ち着けって。もちろん葛城にも訝しまれた。だが、Aクラスを坂柳の思い通りにさせたくない、葛城に失態を犯してほしくないって説明して、ある条件でお互いに指名し合うことで同意した」

 

「ある条件?」

 

「Aクラスのボーナスポイントが50を超えなかったら指名するって条件だ。リーダーを当てられるとボーナスポイントも取り消されるから、それよりも良い条件にならない場合のみ指名するってことに落ち着いた」

 

「……だが、俺たちはリーダーを当て、Aクラスは外した」

 

「葛城がリーダーではなく、近くにいた弥彦という男がリーダーだということに気づいてな。向こうが騙そうとしてきたんだからこっちが騙しても問題はない」

 

「それで向こうは外したのに俺たちは当てたってことか」

 

「ああ。それと、お前らはすでに龍園が最後まで島に残っていたことで勘づいているだろうが、うちで保護していた金田はスパイだ」

 

「……薄々そう思ってたよ」

 

「俺は最初に連れて来られた時から疑っていたが、リーダーを知ろうともしなければ積極的に手伝ってくれていたからな。スパイではないと考えだして油断していた」

 

「あれも全て龍園の指示だろう。他クラスの生徒とはいえ精力的にクラスに力を貸し、それでいてリーダーを知ろうともしなければ油断するのも仕方がない。龍園はそれを狙っていただろうしな」

 

「そうなると、Dクラスにいた青髪の女の子も……?」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 白波の指摘通り、Dクラスにも伊吹が潜入していた。平田がそこまで警戒していなかったのは平田の性格もあるんだろうが、伊吹がリーダー情報を知ろうとしていなかったからだろう。

 堀北は警戒していたようだが確証は持っていないようだった。しかし……結果から見るに、俺と同じようにリーダーを入れ替えたんだろうな。

 Dのリーダーが誰かは知らないけど。協力関係にあるし色々めんどくさそうだったから放置したが……まぁ、点数差あったし悪くはない。

 

「けど、よくCクラスのリーダーが龍園君だって分かったね?」

 

「……ま、俺にもいろいろ伝手があるからな」

 

 龍園が島に残っているだろうとの予測はあったが、もしかすればリーダーを金田か伊吹に変更し、最後まで潜伏させていた可能性も捨てきれなかった……。ま、綾小路の証言と橋本との情報共有で確信したがな。

 

「それで俺たちはAとCのリーダーを当てて、AとCは外したからあんな点数になったのか」

 

「だとすれば疑問が残るな。元々、俺たちが保有していた試験専用ポイントは終了時で160。AとCのリーダーを当てたことで260なら分かるが……比企谷、こっそりと深夜に占有をしに抜け出していたな?」

 

 あ、やべ、バレた……。

 今回の結果になる過程としては……

 

 300(スタート時)ー110(購入物資)ー30(リタイア)+100(リーダー当て)+20(スポット占有)=280cp

 

 ……最後のは少し無茶したからな。危険性もあったが出来る限りバレにくい、他クラスが占有しにこないようなスポットを抑えたつもりだ。

 ……結果論としていい方向に落ち着いたものの、怪しまれてたら結果は変わっていたかもしれない。

 

「た、確かに八幡、ちょいちょい探索中も僕から距離を取ってたね!たまに姿を見失ってたけど……」

 

「私の時も、気づいたらいなかったりしてたけど……背後の茂みから出てきたりしてたね」

 

「……比企谷君?占有禁止だって言ったのに……言ったのに……」

 

 まずい、少しずつ全員が俺の行動に気づき始めてる。それに一之瀬が怖い!に、逃げないと……

 

「なんで占有したの比企谷君!」

 

「い、いやその…勝手にリタイアするつもりだったし、30ポイント失うのもどうかと思ってその補填を……」

 

「そんなことしてたから体調壊すんでしょ!もっと自分の身体を大事にしてよ!」

 

「で、でもそのおかげで「比企谷君が体調壊すくらいならポイントなんていらない!クラスメイト一人だけにそんなことさせてまでAクラスに上がろうなんて思わない!!なんで、なんでそうやって自分の身を犠牲にしてまで行動しちゃうの!!前にやめてって言ったのに……言ったのに……」

 

 一之瀬は俺の両肩を掴み、激しく揺さぶってきたが……次第に声が小さくなっていき、ついには泣き出してしまった。

 ど、どうしようこれ……嫌われるどころか泣かせてしまった。

 この女の子は、俺のために泣いている、泣いてくれている。

 そう考えてしまって、自然と頭を撫でていた。

 一之瀬は嫌がるそぶりも見せず、むしろ胸に抱き着いてきて泣き続けている。

 

……なぁ、これ俺たち邪魔者だよな?

 

二人だけにした方がいいよ

 

ぐぬぬぬぬ……一之瀬さんを泣かすなんて……

 

ここは出ていった方がいいな

 

 一之瀬が泣くほど傷ついてしまった……俺が傷つけてしまったことに心苦しさを感じ、ちょっと助けを求めようと神崎たちの方を向くと……誰もいなかった。

 あれ?二人きりにしたのあいつら?俺に死ねと?

 

「……比企谷君、どうして一人でやったの?私にくらい言ってくれれば……協力できたのに」

 

「……お前や神崎はすでにBクラスのリーダー、中心として他クラスに警戒されている。それに、今回の試験で、俺はBクラスを利用したんだ」

 

「利用……?」

 

 言うつもりはなかった。でも、どうせいつか気づかれる。もしかしたら勘づいたAクラスや龍園にそこを狙われるかもしれない。

 なら、言っておかないと駄目だろう。……覚悟は前からしていた。

 

「……俺の予想通り、Bクラスは全員で協力し合って節約に努めてくれた。リーダーを無理に当てようとせず、堅実に堅実に動いてくれた。スポットを見つけてもむやみに占有しようとせず、リーダーが誰かを悟らせることすらしなかった」

 

「……それが私たちの方針だった」

 

「そうだな。だが、その『()()()』に俺は含まれていないんだよ。節約第一に、いろんな工夫を凝らすことで他クラスはBクラスを『リーダー当ては諦めて節約を第一に行動している』と結論付けてくれた。金田もそう龍園に報告してくれたことだろう」

 

「まさか……」

 

「そう、そのまさかだよ。ものの見事にクラス全体の動きが俺の行動のカモフラージュになったってことだ。予想したとおりに動いてくれたおかげで、最初に考えた通りに動けたし、小屋のスポットの占有だってできた」

 

「……あのAクラスに占有されたっていうの、嘘だったんだ」

 

「ああ。一之瀬には悪いことをしたと思うが、よく言うだろ?敵を騙すにはまず味方からってな」

 

 俺は今、最高に嫌な笑みを浮かべていることだろう。

 一之瀬はクラスのみんなでAクラスに上がりたいと思っている。神崎だってそうだろう。だが、一之瀬の場合はみんなで協力してという注釈が入る。

 今回の試験、他クラスからすれば『見事にクラス全体で他クラスを欺き、裏工作に気づかせなかったBクラス』と思われることだろうが、実際は『クラスごと利用され、ある一人の単独行動により成果を上げたBクラス』である。

 クラスごとを騙しきり、何も気づかせずに事を運んだ。それはただのワンマンプレイ。加え、下手すれば大火傷ではすまなかっただろう。

 

 

 それを、一之瀬帆波は許せるはずがない。

 

 

 怒るだろう、嫌うだろう、でもそれでいい。

 俺は元々、こいつらと同じような立場にいない。ごく普通の一般ボッチだ。

 ボッチはボッチらしく、一人きりでいるのが正しい。

 

 ……それに、これ以上こんな環境に身を置いていたら、俺が俺でなくなってしまいそうで。

 

 ……優しさに、温かさに、溺れてしまいそうで。

 

 だから、ここらでクラスの連中からは距離を置く。置かせると決めたんだ。

 

 しばらく黙り込んで俯いていた一之瀬は、俺に抱き着くのをやめて……

 

「……ごめんね」

 

 そう言って俺の頭を自身の胸元に抱き寄せ、頭を撫で始めた。

 

 ……………は?

 

 

***

 

 

『なるほど……今回の結果でAクラスは1034クラスポイント、Bクラスは940クラスポイントですか。橋本君が色々動いてくれていたとはいえ、比企谷君は想像以上にやってくれたようですね』

 

「はい。比企谷の能力に関しては疑問視していたところもありましたが、今回の結果を受けて確信を得ました。比企谷八幡、あいつがBクラスにいる限りは、Aクラスだろうと油断ならないと」

 

『そうですね……全体的な結果としては私の予想通りですが、比企谷君の策略に関してはさすがとしか言えません。私の勘も当たっていたようで何よりです』

 

「それでも、二学期から一党体制となればAクラスに死角はありません。……葛城がいたので切ります。あとは比企谷本人に聞いてください」

 

『はい、ご苦労様でした』

 

 橋本は坂柳に今回の件の結果と過程を大まかに伝えていた。詳しいことを話そうとしたが、前のフロアで葛城と戸塚を囲んでいるAクラスを見つけたため電話を切り、声をかける。

 

「無様だなぁ、葛城」

 

「橋本!お前のような信用できない奴らがいたせいでっ、葛城さんは大人数で動けなかった!そのせいでっ!」

 

 橋本は坂柳派の幹部であるため、煽るような言葉を浴びせられた葛城派としては文句を言いたくなるのも当然だろう。

 だが、それを葛城が止め、橋本に話し出す。

 

「橋本、龍園と……Bクラスとも通じていたな」

 

「……」

 

「お前がAのリーダー情報を売った……!」

 

「……くくっ、やっぱアイツすげぇな」

 

「何?」

 

 橋本が裏切ったと確信を持っていた葛城は、何がおかしいのか笑いだした橋本を訝しむ。

 橋本はしばらく笑った後……葛城、そして戸塚を見ながら告げる。

 

「葛城、お前はBクラスのリーダーは比企谷だと思っていたんだな」

 

「そうだ。龍園からの情報に確たる証拠はなかったが、俺と弥彦は実際にキーカードを見ていた」

 

「だが外した。……でもな葛城、Bクラスに関してはお前が悪いんだ」

 

「……どういう意味だ」

 

 相変わらず理解していない葛城に、橋本はある一つの事実を突きつける。

 

「もし、お前が比企谷からキーカードを見せられた時、本当のリーダーは戸塚であることを言っていれば……いや、Aクラスの拠点に来た比企谷に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、少なくとも120ポイントは獲得できていたんだぞ?」

 

「ど、どういうことだよっ!?」

 

「比企谷は葛城を尊敬しているんだよ。……これは本当だ。俺は比企谷とは個人的に遊んだりする仲なんだが、真面目でいい奴の名前を聞くと必ず出てくる」

 

「だからなんだっ、比企谷は俺たちに騙し討ちをっ!」

 

「騙し討ち?()()()()()()のはお前らだろ?比企谷はそれに気が付いていながら、それでも葛城にチャンスをやっていたんだ」

 

「……」

 

「試験が終わってしまったから、信じるか信じないかはお前ら次第だが……比企谷は、葛城が互いに指名し合おうなど言わなければ、本気で指名しない気だった。一之瀬や神崎に言うつもりもなかったんだとよ」

 

 リーダーを知りえていながら、それをクラスに伝えない。Aクラスに動揺が走る中、葛城は試験を振りかえっているのか目を瞑っており、戸塚は一瞬硬直したもののすぐに叫び出す。

 

「そっ、そんな証拠はないだろ?!」

 

「ああ、ない。俺は試験終了後に比企谷からちょっと聞いただけだからな。真意までは分からないが……直接言葉を交わした葛城なら、何か引っかかることがあるんじゃないか?」

 

 葛城は思い出していた。正確には、二日目の洞窟スポットでの邂逅と、五日目のベースキャンプ前で会った時。

 一回目の遭遇時は、比企谷からは特に何も感じなかった。坂柳に対する嫌悪感は少しだけ感じたが、それ以外は特に何も感じはしなかった。

 二回目は……

 

「(……弥彦に互いに指名すると告げさせた時、比企谷は確かに俺の顔を見てきた。眼鏡をかけていたが、それでも緩和できないほどの濁り方……あれは、()()の目ではなかったのだろうか)」

 

 比企谷は葛城が指名し合うと言わないことを願っていた。Aクラスに勝つためにはAクラスを攻撃するのが一番だが、比企谷は別にAクラスに対して執着しているわけではない。

 坂柳に電話で脅されていなければ、普通にクラスの一員として集団生活を送っていたはずなのだから。

 もし、葛城が指名し合おうと言わなければ、比企谷はAクラスのリーダー情報をクラスに伝えるつもりはなかった。

 リタイアをすることはCクラスのこともあり確定していたのだから。無理にAクラスが欲を出さなければ、そこまでの被害は出なかったし、Bクラスもあんな断トツの結果にはならなかっただろう。

 

 全ては……坂柳に対抗すべく、気持ちに焦りを出してしまい、つい欲が出てしまった葛城の自爆。

 

 葛城は黙りこくっていたが、まだ話されていないことに話題を変えることで話を終わらせることにした。

 

「……Bクラスのことは置いておくにしても、お前は龍園と通じていた。そのことに変わりはないだろう」

 

「……フッ」

 

 葛城の質問に答えることなく、その場から去る橋本。

 葛城に抗議していたAクラスの生徒たちは、知りもしなかったことや意味の分からない話をしていた二人の間に入っていけなかったが、橋本が離れたことで糾弾を再開したのだった。

 

 

***

 

 

「……ごめん」

 

 ある一室で、伊吹澪は俯きながら謝罪の言葉を漏らした。

 Dクラスに潜入していた彼女は、色々と想定外なことがあったものの目的であったDのリーダー情報を手に入れていた。

 だが、Cクラスは0ポイント。それはつまり、リーダーを当てられなかったということ。

 

「龍園氏、この責任は……」

 

 同じく、Bクラスに潜入していた金田悟も自身の失敗に責任を感じているのか、その表情は暗い。

 長らくの試験で、森に隠れ潜んでいたために出来てしまった汚い髭を山田アルベルトに剃らせていながら目を瞑っていた龍園翔は、アルベルトが髭を剃り終わった後に話し出す。

 

「別にいい……ネタは割れてる」

 

 二人は粛清されても仕方がないと感じていたのか、龍園が気にしていないことを察すると少しだけ安堵した様子だ。

 そんな二人と部屋にいた石崎、アルベルトに対し、龍園は葛城と結んだ契約の書かれた紙を示した。

 

「……毎月何十万ものポイントが、卒業まで流れ込んでくる!?」

 

「龍園氏!これは……」

 

「俺の目的は、最初からその契約自体だった。試験の結果なんざついでだ」

 

「さすがです龍園さん!」

 

「Wow!」

 

 龍園を慕っている石崎やアルベルトは、内容を見て歓喜していた。

 だが、龍園自身は少しだけ納得がいっていないようだ。

 

「だが、俺の行動を邪魔したことに変わりはない。……BクラスにDクラス……」

 

「Bクラスに関しては、やはり一之瀬氏や神崎氏の機転でしょう。まさかこちらのリーダーまで当てるとは思ってもみませんでしたが。Bクラスは徹底して節約をし、協力し合って生活していた様子で特に変わったところは見なかったのですが、裏で色々と動いていたのでしょう。気づけず申し訳ないです龍園氏」

 

「Bに関しては一之瀬と神崎の考え方を改める必要があるだろうな。Dについては、俺も鈴音の名前が入ったキーカードは確認していた。それでもあのポイントを見る限り、リーダーを変更したんだろうな。クク、これは一体誰の仕業だ?」

 

 龍園は楽しみが増えたとばかりに笑う。

 最終目標はAクラスに上がることではあるが、いきなりメインディッシュである坂柳と対決するのは愚策だ。

 ちぐはぐだがそこそこの機転でのらりくらりと策略を躱し続けるDクラスをまずは叩き潰す。徹底的に叩き、再起不能にしてから仲良しこよしのBクラスを喰らう。坂柳はそれからでいい。

 話は終わりだとばかりに龍園は部屋を出ていき、各人もそれぞれ好きに過ごし始める。

 

 ……この時点である男の()()()()()()()()()()()()()()ことには、誰も気づくことはなかったのだ。

 

 

***

 

 

「────というのが今回の試験の全貌だ」

 

「皆、あなたの掌の上で踊っていたというわけね……」

 

 オレは今回の結果に至った経緯を堀北に説明していた。

 Dクラスは225ポイント。他クラスのリーダーを二人的中させ、他クラスにはリーダーを外させた。悪くない結果だと言える。

 

「Bクラスがオレと同じ方法をとったことでダメージを阻止し、大きな成果を上げたことは少しだけ予想外だったけどな」

 

「Bクラス……やはり一之瀬さんと神崎君は侮れない存在ね。同盟を結んでいる間は良いけれど、解除した後に敵になると考えれば大きな障害となりそうだわ」

 

「……ああ」

 

 だがBクラスは280ポイント。試験専用に渡されたポイント分をほとんどクラスポイントに加算させるとは並大抵のことではない。

 前から分かっていたことだが、今回の件で堀北も、一之瀬と神崎が侮れない存在であることが改めて理解できただろう。

 しかし……どこか引っかかりを覚える。

 オレの寮での隣人である比企谷八幡。アイツの行動がBクラスのポイントにつながっているのは考えるまでもなく分かることだ。

 オレ自身は、二日目のキーカードをAクラスの二人に見せていた時に一方的にその現場を見ていたこと、三日目にうちを訪ねてきた時に比企谷と関わったぐらいしか比企谷を見ていない。

 

 何をしたかまでは理解できるが、誰が考えた筋書きなのかが分からない。

 

 AクラスのポイントとBクラスのポイントを見る限り、Aクラス側がリーダーを外し、Bクラスがリーダーを当てたことは明らかだ。おそらくCも当てている。

 それでいてBは当てられていないため、比企谷がリタイアすることによりリーダーを入れ替えたのだろう。

 ……普通に考えれば一之瀬か神崎の立てた作戦だと思われる。無人島生活の状況やこれまでのBクラスの雰囲気を見ていれば、そう考えるのが自然だ。

 

 そう、自然すぎて気づかないが……もし、これが比企谷によって誘導させられたことであったとしたならば……Bクラス自体を囮として、一人だけで裏工作を働き、他クラスを地の底に叩き落し自クラスは完璧な勝利を手にしたことになる……。

 

 ……さすがに考えすぎか。

 

 

***

 

 

「ごめんね、ごめんね比企谷君……」

 

「何を言ってるんだ一之瀬……何をして、るんだよ……」

 

 一之瀬は俺を抱きしめたまま頭を撫でつつ、謝罪の言葉を口にする。

 俺の行動に文句を言い、怒るだろうと判断した上で明かしたBクラスを利用した裏工作。

 けれど、一之瀬帆波は俺を突き放さなかった。むしろ懐に招いたのだ。

 ……理解できなかった。

 

「私が……クラスを引っ張る立場の私が、不甲斐なかったから、比企谷君が動いてBクラスを勝利に導いてくれた。全てを君に押し付けていた」

 

「………違う」

 

 違う、違うんだよ一之瀬。俺は坂柳に対しての弱みから行動したに過ぎない。坂柳派のサポートも受けた上での結果なんだ。

 無断で行い、今回は成功しただけに過ぎないんだよ。

 

 もしかしたらミスをしてクラスに迷惑をかけていたかもしれない。

 最悪の結果になっていたかもしれない。

 クラスの頑張りを無にしてしまったかもしれない。

 俺は、すごいことをしたわけじゃないんだ。

 

 100%クラスのためを思って行動したわけじゃないんだ。

 

 だから、お前が気に病む必要は全くないんだよ。

 

 俺が勝手にやったこと。糾弾されることはあっても、謝られることなんて何もない。

 

 お前は不甲斐なくなんてない、俺ごときに泣きながら謝る必要もない。

 

 だから……やめてくれ。

 

「違わないよ。確かに比企谷君がこんなことをしたのには他の理由もあったかもしれない。全てがクラスのためを思っての行動じゃなかったかもしれない」

 

「そうだ……だからお前は……」

 

 怒る必要がある、嫌う必要がある。

 クラスの輪を乱し、勝手に動くクラスメイト。他クラスと通じるクラスメイト。そんなものが内部にいるなんて最悪な状況だろうが。

 だから……俺を突き放してくれ。

 

「……それでも」

 

 しかし、一之瀬帆波は止まらなかった。

 今回は、俺の思い描いた通りには動いてくれなかった。

 

「それでも、私がもっと上手くやれていれば、比企谷君がここまで無茶をする必要はなかった。Cクラスの策略に気づけていれば、金田くんをもっと警戒していた。他クラスのリーダーを見抜く力があれば、負担は軽減できていた……全て、私の力不足なんだよ。だから、ごめん」

 

「……ふざけてんじゃねぇよ」

 

 心なしか、声に怒気が混じってしまう。

 俺は何に怒っているんだ?

 

「俺は俺のために行動したまでだ。お前らクラスメイトの行動や考え、お人好しである点や協力する仲の良さを利用しただけ。都合のいい囮だったんだ。上手く踊ってくれて助かった。それは他クラスも同じだ……全員、思うままに動いてくれたから利用させてもらったよ。ありがとな」

 

 これは最高の嫌味な筈だ。最低最悪な言い方。

 ……こんな奴に価値なんてないだろ。いくら成果を上げたとしても、言って良いことと悪いことがある。今のは決別するための言葉だった。

 ……だったはずなのに。

 

「……そんなこと言わなくていいんだよ。わざと嫌われるような言葉を使っても無駄だから。私は、比企谷君が優しい人だって分かってる。そう思ってるの。色々理由があったのかもしれない、利用したかもしれない。だとしても……比企谷君を嫌いになんてならないし、怒る気もないから」

 

 一之瀬の態度は変わらない。

 なんでだよ……なんで突き放さない。なんで叱って蚊帳の外に出さない。なんで、なんで、なんでっ。

 どうして、そんな目で俺を見るんだよ。

 

「すべては私の責任。比企谷君に無茶をさせないと全然駄目で、それでいて無茶させていたことにすら気づかなかった。だから、ごめん」

 

 まだ泣きながらも、微笑んだ一之瀬の顔を正面から見て……ようやく気付いた。

 

 俺は突き放さなかった一之瀬に怒ってるんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 一之瀬を泣かせてしまった自分が、酷く腹立たしいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 どうして泣かせてしまったんだ。

 

 どうして謝らせたりなんてさせた。

 

 どうして一之瀬に罪悪感を持たせた。

 

 どうして責任なんて負わせた。

 

 

 それは……俺のやり方を理解したうえで、無力さを痛感したからなのかもしれない。見抜けなかった自分への叱責も混じっているのかもしれない。

 それでも、一之瀬がこうなったのは俺のせいだ。

 

 

 自然と、一之瀬を抱き寄せた。

 

 どうしてこんな可愛い純粋な少女に、俺はあんな暴言を吐いてしまったのか。

 

 つくづく、自分が歪んでいることを感じる。

 

 こんな自分が俺は────嫌いだ。

 

「比企谷君?」

 

「……すまない、一之瀬。全部無断でやったことでお前に罪悪感を抱かせてしまった。泣かせてしまった、謝らせてしまった。全ては俺の行動が原因だ」

 

「ま、待って待って!そんなことは……」

 

「あるんだよ。俺はそう思ったし、実際そうじゃないのか?」

 

「それは、その……」

 

「それでも、今回お前は立派に試験をやり遂げた。もしお前が節約をしなかったり、クラスメイトから慕われていなければもっとポイントは低くなっていただろうし、俺の作戦も失敗していたかもしれない」

 

「で、でも!」

 

「でもじゃない。お前は間違っていないんだ。だからお前が泣く必要はない、謝る必要はない……自分を責めないでくれ」

 

 一之瀬には泣いて欲しくない。俺の行動に気を病んで苦しんで欲しくない。

 

 いつも、笑っていて欲しい。

 

 それは俺のエゴ、願望、一方的な押し付けだろう。

 

 だとしても一之瀬の苦しんでいる姿を、泣く姿を見たくない。

 

 ……そうさせてしまった自分を、本気で殴りたい気分だ。

 

 自然と、抱きしめる力を強くしてしまう。

 

 一之瀬はもう、俺の中で彩加と同じ、下手すればそれ以上の場所にまで入り込んできてる。

 

 ……この感情に名前をつけるとしたら、どんな名前になるんだろうな。

 

「お前には……笑っていてもらいたいんだ」

 

「っ!」

 

「ま、まぁ試験で単独行動に無断行動ばかりした上に、あんな酷いことまで言ってしまった俺に、そんなことを言われても不愉快だろうが……」

 

「不愉快なんかじゃないよ」

 

 一之瀬の抱き返してくる力が一段と強くなった。

 ……なんか冷静になってきたんだが、これ相当恥ずかしいことしてるね?また見られたりとかしてないよね?

 

「比企谷君がどうして嫌われようとしたのか、私には分からない。なんとなく突き放したりして欲しいのは感じたけど、どうしてなのかは分からない」

 

「……」

 

「だけど、少なくとも私は……どんなことがあっても、比企谷君を嫌いにはならないよ」

 

「……そうかい、物好きな奴め。もう勝手にしてくれ」

 

「うん!勝手にするね!私、不思議な存在とか好きだから!」

 

 えぇ……俺って不思議ちゃんって思われてんのかよ。真波くんと同じなの?つーか好きって何?好きとかそんな簡単に使っちゃ駄目だろ。何なの?精神攻撃だったりするの?

 

 ……結局、言葉にしないと伝わらないものもあって、言葉にしたところで伝わないこともある。

 俺は一之瀬はこういう奴だと決めつけ、レッテルを貼り、願望を、期待を、理解を、押し付けていたんだろう。

 ……そういや、リタイアする時に星之宮先生に言われたっけ。

 

 

『君は他人の心理を読み取ることに長けているけれど、感情までは読めていない。だから、計算が狂ったりするんだよ』

 

 

 感情なんて分かんなくて当然だ。他人なんて分かんなくて当然なんだ。

 けれど、俺は心のどこかで一之瀬に求めていたのかもしれないな。

 

 俺を、受け入れてくれるかもしれない、なんて。

 

「……あ、あわわわわわわ///」

 

「ん?どうしたんだ一之瀬?」

 

 少しだけ本物に近づいたかもしれないなと考えていたら、抱きしめたままだった一之瀬が顔を真っ赤にしていき、別の意味で涙目になっている。

 緊張?羞恥心か?いや、でも何故いきなり……

 

お、おい!なんか言い争いしてるかと思えば抱きしめ合ったまま見つめ合ってるぞ!

 

も、もしや……な、なんかこっちが緊張してきたや……///

 

比企谷の考えていることは理解不能だが、一之瀬は抱え込みすぎる癖がある。比企谷に甘えることでガス抜きできるなら、それがいいだろう……幸せにな

 

そ、そんな……もう、あれは付け入る隙がないの……?一之瀬さんが……一之瀬さんがぁ……(泣)

 

 扉がいつの間にか少しだけ開かれており、外から覗き魔達がこちらを見ていた。

 ……今の現状を確認しよう。

 

 俺→一之瀬と抱き合っている。

 

 一之瀬→俺と抱き合って顔を赤くしている。

 

 四人→会話盗み聞き&抱きしめているところを目撃。

 

 ………嘘だと言ってくれよ。

 これはもう、過去最大級ともいえる黒歴史の予感がする。

 とにかく、俺がするべきことは……

 

 一之瀬を抱きしめていた腕を離す。

 少しだけ残念そうにしている一之瀬の頭を撫でる。うん、小町にしているみたいで懐かしさを感じるな。

 撫でつつも、覗いていた四人の方に視線を向ける。

 

「お前ら……覚悟は出来てるんだろうな……」

 

「お、おお落ち着け比企谷。俺たちはお前らが心配でな?な、なあ皆!」

 

「それはそうだけど……覗きを提案したのは柴田君だし……」

 

「意気揚々と覗きながら色々とコメントしていたな」

 

「主犯は柴田君だよ!」

 

「お、おいお前ら?嘘、だよな?なんで俺に押し付けて……」

 

「またか柴田……残念だよ。クラスメイトをここで失うことになるなんて」

 

「は?お、おまっ、何を言って!?」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

***

 

 

 その後、柴田を捕らえた俺は部屋で正座をさせ、明日一日『俺が主犯です』の看板を首から下げて過ごしてもらうことにした。

 彩加と神崎にも覗きはやめて欲しいと注意し、その上で付き合っていないと改めて告げた。このことには三人とも怪しさを感じていたらしいが、俺がしばらくの間ベッドの上で悶えていたことやお互いに言い合っていた内容がカップルのそれではないことからなんとか信じてもらえた……はずだ。

 白波?一之瀬が必死に弁明してたけどどうなったかは知らない。

 

 ……この学校に来て、俺は少しだけ変わったんだろう。

 多くの生徒と知り合い、友達と言ってくれる奴らまで出来た。同士も出来、俺のことを心配してくれる人まで出来た。

 中学校までは誰一人そんな同級生はいなかったし、小町が一番の理解者だったと断言できる。

 

 正直、Bクラスを気に入っていても、どこか自分には入れないような気がしていた。

 馴染めない、完全に溶け込むことは出来ないって、冷静な自分が客観的にBクラスでの俺を冷めた目で見ていた。

 

 でも、もう少しだけ今の関係を続けていきたいと願わずにはいられない。

 俺が知らない感情を。心理だけではない人間だからこそ持つ感情の存在を。

 知りたい──―そう、強く思うのだ。

 




 一之瀬帆波という少女は、厄介ごとを放っておけない正義感の強さと優しさを持ち合わせているのに加え、自分の責任でこうなってしまったと抱え込むタイプであると私は思います。
 誰よりもクラスのことを考え、自分のことを二の次にするからこその欠点。純粋すぎる点や人を信じすぎてしまうことも欠点になるのかもしれませんが、一番は抱え込むことであると思います。よう実原作9巻、11.5巻を読んでそう思いました。

 比企谷八幡という少年は、過去のトラウマや経験からある程度人間の心理を読み解くことが出来る代わりに、自分に対して無頓着なことや決めつけてしまう、目を逸らせしてしまうところがあると思うのです。俺ガイル原作9巻で静ちゃんに言われたことや彼のモノローグを読む限り、そういう悪癖が高校一年生だと更に顕著なのではないかと。

正反対なのにどこか似ている二人……を書いていたらこのような内容になりました。改めて言おう、後悔はない。なんか戻れないところまで行っちゃってる感じはするけどね。

……次の豪華客船での後半戦ですが、投稿は8月8日になると思われます。八幡誕生日ですしね。
その間は他作品、もしくは番外編を少し更新して場を繋ごうかと思います。大学の試験なども重なり予定通りにはいかないかもしれませんが……大体そんな感じです。

ではまた次の話で。

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