やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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間に合った!!
完全に書き忘れていました……危ない危ない。マジで危なかった。

八幡、誕生日おめでとう!!


夏のバカンス・後半戦
帆波「誕生日おめでとう!」 八幡「…おう」


 一之瀬との一件(無人島を合わせると二件)という俺の新たな黒歴史が誕生した後。

 柴田が一之瀬、白波、彩加の三人に囲まれていた。

 どうも一之瀬達は柴田に対してのお説教を忘れていなかったらしい。先程俺が明日の罰ゲームを決めたが、それとこれとは別なんだと。

 俺と神崎は邪魔しちゃいけないとばかりにそそくさと部屋を出た。

 ……部屋を出るときに柴田が縋るような目でこちらを見ていたが、神崎と二人で敬礼してから退室した。……神崎君ノリ良いね?一週間の島で生活したらテンションおかしくなってるよな。

 

 神崎がおかしいというよりも、それが普通なのだろう。無人島での生活で節約を意識をしていたためか、多くの生徒がその反動で豪華客船でのクルージングを行きよりも満喫している感じがするのだ。

 

「さて、部屋には長い間帰れないだろう。比企谷、飯でも食べに行かないか」

 

「いいぞ。俺も戻りたくないし」

 

 一度退室してまた入るような勇気は俺たちにはない。

 柴田、骨は拾ってやるからな……。

 

「ん……」

 

「綾小路か」

 

 神崎と二人でレストランを目指し、客船の通路を歩いていると一人でいる綾小路と遭遇した。

 

「堀北と一緒じゃないのか」

 

「いつも一緒ってわけじゃないからな」

 

「なら綾小路も一緒に飯でも行かないか」

 

「俺も一緒でいいのか?」

 

「誘ってるのはこちらだ」

 

「なら俺もついて行こう」

 

 綾小路が仲間に加わった!

 ……コミュ力低い三人が集まったな。

 俺と綾小路は初対面の時からお互いに分かり合えるほどのボッチ同士。神崎は積極的に前に出るようなタイプではなく、俺と同じで女子が苦手。

 女子が苦手と言っても、慣れてしまえば問題はない。一之瀬とか白波がそのいい例だろう。

 坂柳?櫛田?知らない子ですね……。

 

 目についた店を選び、個室に三人で座る。

 全員が注文を終えた辺りで、綾小路が話を振ってきた。

 

「Bクラスは凄い成果だったな。さすが一之瀬と神崎だ」

 

 Bクラスの獲得ポイントは300、対してDクラスは225。どちらも節約をした上で他クラスのリーダーを当てたからこそのポイントだ。

 ……綾小路には勘づかれてそうだな。

 

「そういうDクラスも高いポイントだっただろう。AとCのリーダーを見抜いていたのか?」

 

「堀北がどうやったのかは知らないが見抜いててな。オレは見当もつかなかった」

 

「さすがは堀北といったところか」

 

「あとはオレをこき使わなければ文句なしなんだけどな」

 

 堀北が見抜いたのか……俺と同じようにベットで寝ていたところを見るに、堀北がDのリーダーだったと思われるが、綾小路に後を託したというところか。

 ……堀北の体調の悪さはたまたまってことか?気を失っていたようにも見えたが……

 

「そういえば神崎、比企谷は集団生活を送れたのか?」

 

「おい、それどういう意味?」

 

「いや、比企谷がクラスメイトと仲良くしているところが想像できなくてな。クラスの輪からこっそりと外れて一人で立ってるイメージなんだが……」

 

「お前の中で俺ってどんな奴なんだよ……大体その通りだから何も言えねぇけど」

 

「比企谷が話す相手と言えば、プールの時にいた面子だけだからな。他のクラスメイト達とはほとんど話しているところを見ないが……」

 

「わざわざ話すこともないからな」

 

「それはそうだろうが……」

 

「綾小路だって同じようなもんだろ?一人で火の番とかやってそうなイメージ」

 

「女子に押し付けられてやってたぞ」

 

 当てちゃったよ。半分くらい冗談のつもりだったんだが。

 それにやった理由が女子による押し付け……可哀想だな。

 でも確かに、Dクラスの女子で普通なのって佐倉さんぐらいしか思い浮かばないんだよな。堀北はキツい性格してるし、櫛田は仮面装着してるし、他の女子は煩いイメージしかない。

 その点、Bクラスの女子は皆真面目だ。一部俺の目を見るたびに悲鳴を上げる奴がいるが、それくらいである。

 ……もうずっと眼鏡つけるべきだろうか。

 

 

***

 

 

 レストランを出たところで解散し、俺は一人で船のデッキに向かう。

 特に何かをするというわけではないのだが、部屋に戻ることだけは避けたかった。

 ……柴田はどうなったんだろ。

 

 船のデッキには生徒が一人もいなかった。

 デッキの先端辺りに立ちながら空を眺める。

 周囲に光がほぼないおかげか、星がキラキラと輝いている。普段は落ち着いて星など見ないからか、かなり綺麗に見えている。

 星を眺める俺。

 そして隣に立っている櫛田。

 

「……あの、いきなり隣に立つのやめてくれませんかね?一瞬とてつもない恐怖に襲われたんですが」

 

「アンタが気づかないのが悪い」

 

 櫛田桔梗(素)が現れた!

 八幡はどうする?

 →攻撃

 →睨みつける

 →逃げる

 

「じゃあ俺はこれで」

 

「待ちなさいよ」

 

 八幡は逃げ出した!

 しかし、服を掴まれて動けない!

 

「……何の用だよ」

 

「アンタが言ったでしょ?ストレス溜まったら俺で発散していいって」

 

「無人島生活そんなに嫌だったのかよ」

 

「違う。堀北がチヤホヤされたことが気に食わないの」

 

 ああコイツ、堀北のこと大嫌いだったっけ。

 今回の特別試験でDクラスが良い成績だったことで、堀北が称えられていることにムカついているのか。

 

「なぁ、一つ聞きたいんだが」

 

「何?」

 

「堀北って無人島生活で何してた?リーダーだったんだろ?」

 

「……リーダーとしてのスポット更新と他クラスへの偵察ぐらいじゃないの。あとCクラスの伊吹さんをスパイだと見抜いて追いかけたことぐらい?そのあと綾小路君だけにリタイアすることを伝えてからリタイアしたと思うけど」

 

「ほーん」

 

「何?」

 

「何もねえよ。ただの興味本位だ」

 

 ……リタイア作戦は綾小路の策か。堀北が体調を崩したと考えても、堀北の性格的に自らリタイアするようには思えない。最後まで何とか乗り切ろうとしそうだ。

 それに、Cクラスを無能と表現していたのに、龍園が島に残ってることを見抜いたってのは些か無理があるだろう。もしかすればBクラスを間接的に攻撃するためだったの嘘だったのかもしれないが……

 

「アンタ堀北に興味あんの?趣味悪っ!」

 

「そういった興味はないっての。それに、堀北には綾小路がいるだろ?」

 

「どうしてか仲良いからねあの二人……意味わかんない」

 

「どっちもただのボッチだと思うんだがな……」

 

「アンタもでしょ?クラスの中にいてもいなくても変わらない奴。綾小路君とかと一緒でさ」

 

 前と同じく辛辣な櫛田。こいつ他人見下しすぎだろ。

 確かに今までの小学校、中学校だとそうだったと思う。もはやいないものと扱われているか、物凄く目立つかの二択でしかなかった。

 もちろん目立つのは悪い意味でだが。

 しかし、しかしだ櫛田。俺がDクラスだったならボッチを貫いていたことだろう。

 AやCクラスなら……うん、嫌な学校生活になっていたことだろう。

 でも……俺はBクラスだったんだ。

 

「そうだぞ、俺はボッチだ……と言いたかったが、残念ながら彩加がいるからな。ボッチじゃないんだよ」

 

「ああ、あの男の娘ね。優しさの塊みたいな」

 

「分かってるじゃないか。彩加は天使だ」

 

「は?キモいんですけど」

 

「ごめんなさい」

 

 つい謝っちゃったよ。そんな露骨に「変態?」みたいな蔑んだ目で見られたら八幡興奮しちゃ……わないけど。

 でも変態と言えば……

 

「お前もキモいと言えばキモいだろ?」

 

「は?」

 

「いや、ほぼ初対面みたいな俺を人気のないところに連れて行ったかと思えば、いきなり胸揉ませてき「死ね!」ぐえっ!……」

 

 よ、容赦ない腹パン……俺はサンドバックじゃないんだけど……

 

「あーすっきりした。もう一回やっていい?」

 

「駄目に決まってんだろ……めっちゃ痛てぇ」

 

「じゃあ次は脛蹴っていい?」

 

「何がじゃあなのか分からねぇ……」

 

 ストレスを受け止めるとは言ったが、暴力していいよって意味じゃなくて愚痴吐き出していいよって意味だったんだけど…。

 俺がその旨を伝えると、それから小一時間ほど櫛田による愚痴(8割堀北について)を聞かされた。

 一方的に聞かされるのもどうだろうと思い、Bクラスの愚痴を言ってみたのだが……

 

「惚気?死ねば?」

 

 そう一言で返し、どっかに行ってしまった。

 

「惚気ってなんだよ……」

 

 俺はただ一之瀬に笑顔で脅迫されたことや、白波に足踏まれまくった話をしただけなんだが……もしかして櫛田にとっての愛情表現がそういう行動なのだろうか。何それ怖い。ドSってレベルじゃないだろ……。

 

 櫛田が去り、また一人になった俺。

 一人静かに星空を眺めながらぼーっとしていると、不意に端末が鳴り出した。

 電話をかけてきた相手を見ると、ロリ悪魔と表示されていた。

 ……あー、試験終わってから報告とかなんもしてなかったなそういえば。

 それに、出なかったら写真バラまきそうだから出るしかないか。

 

「もしもし」

 

『こんばんは比企谷君。お元気ですか?』

 

「眠たいから切っていいか」

 

『お元気なようで何よりです』

 

 おかしいな、眠たいと言ったはずなんだが……。まあ、いつものことか。

 

「電話してきた理由は?」

 

『比企谷君の声が聞きたくなって……』

 

「あ、そういうのいいんで」

 

『つれませんねぇ、もっと面白い反応をしてくれると思ったのですが……』

 

 坂柳がどこかアテが外れたような声音で呟いているが、それは相手がお前だからだ。

 人をいじめたり弄るのが大好きな、女の子の皮を被った化け物に言われたところで、全然心に響かない。

 これが彩加なら……

 

『僕、八幡の声が聞きたくなっちゃって……』

 

 うん、最高だな。やはり彩加は天使。

 そうなってくると一之瀬だったら……

 

『ごめんね、ちょっと比企谷君の声が聞きたくなって……』

 

 ……可愛いな。チャットしてる時に一度あったが、あれは破壊力が凄すぎる。しかも無自覚ときたもんだ。一之瀬はこれからも多くの男子生徒を地獄へと突き落とすのだろう。

 一之瀬さん、恐ろしい子!

 残るは白波か。

 

『比企谷君の声が聞きたくって……』

 

 ……おかしい。坂柳と変わらないセリフだというのに可愛く感じるぞ。

 でもこれはありえないか。白波が好きなのは一之瀬なのだ。俺にこんなことを言ってくることはないだろう。

 

『比企谷君?聞いてますか?』

 

「あ、悪い。ちょっと考え事してた」

 

 完全に電話中だってこと忘れてた。

 

『一週間も無人島で生活すれば疲れも溜まります。報告は明日にしましょうか?』

 

「え?」

 

 嘘……だろ?

 坂柳が、俺を気遣っている、だと……あ、ありえん!

 

「お前こそ大丈夫か?夏バテとかしてないよね?もしかして別人か?」

 

『……なるほど。比企谷君が私のことをどう思っているのかがよく理解できました』

 

「いや、ちょま」

 

『待ちません。人の好意を疑う人だとは思ってましたが、ここまでとは思いませんでした。一之瀬さんに報告しましょうか』

 

「俺が悪かったんで一之瀬にだけは報告するのやめてくださいお願いします」

 

 一之瀬に知られれば色々と面倒になること間違いなしだ。おそらくだが、『また坂柳さんと電話してたんだ!』から始まり、『人の気遣いを受け取れないなんて……人としてどうなのにゃー?』と説教コースになること間違いなしだ。

 ……つーかいつの間に連絡先交換してたんだよ。俺の知らないところで変なチャットグループとか出来てないよね?大丈夫だよね?

 

『一之瀬さんには相変わらず頭が上がらないようですね。比企谷君を躾けるためにも一之瀬さんとは仲良くしていくべきでしょうか』

 

「躾けるとか言うのやめようね?一応俺も人権持ちだからね?」

 

『この学校ではあまり関係ないと思いますが』

 

「……そうだな」

 

 高度育成高等学校の独自ルールはあまりにも社会から逸脱している。ここでは世間一般の高校生徒とは色々なことが違っている。

 実力こそが全て。実力至上主義の学校と言っても過言じゃないだろう。

 その学校では人権なんて……ない奴がいてもおかしくはない。

 ……卒業まで坂柳の奴隷にならないように頑張ろう。頑張る方向性がおかしすぎるだろ。

 

『さて、本題に移りましょう。今回の特別試験はどのような過程を経て結果に繋がったのでしょうか?』

 

「橋本や神室辺りに聞いてんじゃねーの?」

 

『ルールと結果は把握しています。ですが、それより詳しくは知らないので』

 

「駒にもっと働くように言ってくれ。ポイントの内訳くらい割れてるはずだろ」

 

『なら比企谷君にもっと馬車馬の如く働いてもらいましょうか』

 

「やっぱ駒ってのは労わらないと駄目だよな。使い物にならなくなったり離反したら面倒だもんな。橋本も神室も悪くないな」

 

『ふふっ、見事なまでの掌返しですね』

 

 俺はいつの間に坂柳の駒になっていたのだろうか。単に脅されてるだけだと思っていたんだけど……この状況は早く何とかしなければならないな。

 

『ではお願いします。今日のところは報告だけで結構ですので』

 

「へいへい……」

 

 無人島での集団サバイバルという特別試験。

 300という試験専用ポイントを如何に使うかを問われ、リーダーとスポットという使いルールによって難易度が上がり、各クラス毎に特色が出た試験とも言える。

 Aクラスは坂柳が不在。そのため自然とまとめ役は葛城になる。

 クラス内での派閥争いがある中で不利であった葛城は坂柳に対抗するため、龍園と契約。悪魔の契約とも言っていいそれを葛城は有効に活用しようとした。戦略としては間違いではないだろうが、弥彦が足を引っ張ったことや坂柳派を警戒しすぎたこともあってかミスも多かっただろう。

 龍園との契約にAクラスのリーダーを当てないという項目を含めなかったことも痛手の一つだろう。結果的にはB、C、Dのすべてのクラスにリーダーを当てられ、BとDのリーダー当てに失敗したことにより20ポイントとなった。

 

 Bクラスは一之瀬や神崎を中心に節約重視で行動していた。クラスでの統率が取れていたおかげか、然程問題なく試験をこなしていたと言える。

 ところどころリーダーを探るような行動は起こしていたものの、リーダー当ては重視していないためあまり攻撃的ではなかった。金田というスパイも信用しきっていたし、Cクラスから守ろうとしていた。

 結果的にはクラスを利用して俺が裏で色々と細工をし、AとCのリーダーと確定させたうえでリタイア。スポットも占有していたことで専用ポイント丸々残すことに成功した。 

 しかし、それはあくまで結果論に過ぎない。Bクラスが占有をしていることに気づかれていれば結果は変わっていたかもしれないし、博打要素もところどころ存在した。今回は賭けに勝っただけの話である。

 

 Cクラスは開始早々Aクラスと契約を結び、0ポイントによるリーダー当て作戦を決行。豪遊により幹部以外の生徒を苦しい無人島生活を送らせることなく、かつ試験でのポイントも取りに来た狡猾な戦略。

 結果としてはBクラスでは金田が、Dクラスでは伊吹がスパイとして送り込まれていたものの、どちらも失敗。それゆえにAクラスにもダメージが入ることになったが、龍園の本命の狙いはプライベートポイントを確保すること。Aクラスから毎月何十万ものプライベートを卒業まで手に出来るようになったことから、結局のところ龍園としては痛くも痒くもない結果となったはずだ。

 橋本が伝えてくれなきゃ、この情報は手に入らなかったからな。こういう情報が手に入るから、坂柳達と接するのを完全に辞める気になれないんだよな……はぁ。

 

 DクラスはBクラスの下位互換と言わざるを得ない。揉めながらも節約を心掛けていたが、一部の女子生徒による無断でのポイント使用、伊吹による妨害工作、高円寺の早期リタイアによって雰囲気は最悪だったらしい。

 だが、堀北……と裏にいる人物による誘導で結果的に高ポイントを獲得。Bクラスよりも酷い利用のされ方だとは思うが、戦略としては見事の一言に尽きる。

 

 俺の中でのポイントの内訳と過程を坂柳に一通り説明した後、一息つく。

 坂柳はところどころ面白そうに笑ったりしていたが、Dクラスに黒幕がいると話したところで少しばかり声音が変化したように感じた。

 

『Dクラスで堀北さんを裏から操っている人物がいる、ですか……ちなみに比企谷君は誰だと思っていますか?』

 

「綾小路清隆」

 

『……ほう。綾小路君、ですか』

 

 坂柳は隠しているつもりだろうが、声音に変化が生じている。やっぱりなんか関係してるのか……化け物と化け物の繋がりとか嬉しくもないが、興味はある。

 

「……前から思っていたんだが、坂柳は綾小路と知り合いなのか?」

 

『どうしてそう思うのですか』

 

「いや、いつもより少しだけ嬉しそうにお前話すし……もしかして一目惚れとか?」

 

『……写真バラ撒きますよ?』

 

「すいませんでしたちょっと調子に乗りました」

 

『……比企谷君には話してもいいでしょう。話す相手もいなさそうですし』

 

「は、話す相手ぐらいいるわ!」

 

『綾小路君のことは私が一方的に知っているだけです。向こうは私のことを知りはしないでしょう』

 

 俺の叫びは無視されたが、坂柳は一方的だが綾小路を知っているらしい。

 一方的って……

 

「やっぱり一目惚れしてるんじゃないのか?もしくはストーカーとか」

 

『……どうやら死にたいようですね?いいでしょう。私の全ての力を駆使して』

 

「ごめんなさいもう言いません!」

 

 俺のテンションも少しばかりおかしいようである。坂柳にこんなことを言ってしまえば殺されることなんて分かり切っていたというのに……気をつけよう。

 

『この学校でのお楽しみではありますが男女の仲などのことではありません。比企谷君ならお気づきでしょうが、綾小路君は相当な実力者です』

 

「……わかるっての」

 

 綾小路に関しては謎が多い。

 言動がおかしい時もあるが、一番は何の感情も宿していないあの目だ。恐怖すら覚えるあの目は他人を物としか見ていないのだろう。

 ゲームをやっているときは楽しそうにしているんだけどなぁ……中学まではゲームをしたことがなかったと言っていたが、その反動だろうか。

 思い返してみれば色々と怪しい点はある。

 中間テストにおける赤点候補者をどのように救ったのか、須藤の暴力事件時の監視カメラの案は堀北が本当に出したものなのか、今回の特別試験でのリーダー入れ替え作戦は堀北からの案であるのか。

 一つ目は分からないが、二つ目、三つ目に関しては9割方綾小路による誘導や行動によるものだ。

 俺は7月の間、図書館や食事の場で椎名とともに堀北と過ごしていたが、あいつは思っていたよりも純粋だし、考え方が真っすぐだ。頭が良いのは間違いないだろうが、一之瀬と同じく奇策に弱いはず。芯が強いのは良い点だろうが……俺と同じようなことを考えつくほど捻くれてはいないだろう。

 

『当初は彼以外はつまらないと思っていましたが……玩具(オモチャ)も出来ましたし、ユニークな人物が思ったよりもいるので今は退屈しませんがね』

 

「へぇ、お前に目をつけられるなんて可哀想な奴らだな」

 

『ちなみに玩具(オモチャ)とは貴方のことですよ?』

 

「俺は玩具(オモチャ)だったのかよ……」

 

『暇つぶしに貴方ほど適任はいません。話していて飽きませんから』

 

「……そうかよ」

 

『はい』

 

 俺はもう坂柳からは逃れられない運命にあるのかもしれない。

 なんて嫌な運命だよ、それ。

 

 

***

 

 

《比企谷君を祝い隊(52)》

 

『ついに明日だな』

 

『準備を始めたのは今日だけどな(笑)』

 

『八幡、喜んでくれるかなぁ』

 

『大丈夫だよ戸塚君!まず戸塚君がいれば比企谷君は喜んでくれるから!』

 

『そ、そうかな?』

 

『比企谷ってマジで両刀だったのかよ……』

 

『あいつ、犯罪に走ったりしないよな?』

 

『大丈夫なはずだ……多分』

 

『お前ら比企谷の目を信じ……たら駄目だな』

 

『よし、明日は眼鏡を掛けさせる方向で』

 

『わかった』

 

『八幡の目は犯罪者の目じゃないよ!!』

 

『ハチトツ最高!!』

 

『おい待て今の誰だ!?』

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

『皆、比企谷君には気づかれてないね?』

 

『大丈夫だろう。今日比企谷と食事を共にした際に探りを入れてみたが、何も反応がなかったからな』

 

『もしかして、だけどさ』

 

『櫛田さん?』

 

『比企谷君、自分の誕生日を忘れてたりとかしない、よね?』

 

『まさか!』

 

『それはさすがにない、はずだよな?』

 

『……おい、なんか不安になってきたぞ』

 

『そういえば比企谷、中学まではボッチ貫いてたとか言ってたな』

 

『今でもボッチ(笑)って言ってるけどな』

 

『あれはただの捻デレだからね!』

 

『捻デレな』

 

『私の考えた言葉だねー』

 

『捻くれていながらたまにデレる……確かに!』

 

『普通に星之宮先生混ざっててびっくりしたの俺だけ?』

 

『大丈夫だ、俺もだから』

 

『人数的にBクラスだけじゃないからね』

 

『とりあえず!明日は準備ができるまで比企谷君をどこかに押さえつける役割が必要です!』

 

『なら、私がやりましょうか?』

 

『坂柳さんが?』

 

『あいつ他クラスとの関わり多すぎだろ……』

 

『私は学校に残っている身ですし、暇なんですよ』

 

『……他に誰かいない?』

 

『いないっぽいな』

 

『なら坂柳でいいだろ』

 

『じゃあ坂柳さんはお昼まで比企谷君を引き付けてね。また長電話させちゃうけど……今回は仕方ない!』

 

『嫉妬してるの?帆波ちゃん』

 

『マジで?抱き合っていたという噂は事実だったのか……付き合ってるのか?』

 

『してないから!付き合ってもいません!』

 

『これは面白いネタがありました。有効活用させていただきますね』

 

『何する気なのー!?』

 

 

***

 

 

 特別試験を終えた次の日。

 俺は班で一番早く起きたため、顔を洗った後気兼ねなくラジオ体操を行い、朝風呂に向かう。

 その際に眼鏡をかけることを忘れない。

 昨日の夜、何故だか三人に今日は一日中眼鏡をかけるようにと言われたからな。加えて、朝食を誰も一緒に食べてくれないという。

 ……俺はハブられたのだろうか?

 何かを隠している気もするが、既に柴田の首には『俺が主犯です』の看板はつけた。学校側からの干渉も特にはないため豪華客船を満喫することにしよう。

 ……と言っても大体の施設は生徒が多いため行動範囲は限られてくるのだが。

 

 特別試験前に見つけた温泉、高級マッサージスパ、展望台の端、櫛田に連れていかれた最下層、テラスにあるカフェの端っこ、高級料理店(個室制)、班員としての部屋しかないのだ。

 早速服を脱いだ後に頭と体を洗って温泉に浸かる。

 

「……俺はやっぱり変わったんだろうな」

 

 食事を誰かと食べること前提に思っていたことや、行動を一緒にすることを前提にしていたことからも中学までとは環境が一変したことを感じる。

 今ではチャットにおいて柴田からは『ボッチ(笑)』と呼ばれる始末だ。

 ま、人が回りにいたり天使と友達である奴をボッチと呼ぶのはボッチに失礼だとは思う。

 ……それでも。

 

『君はそんなにつまらない子なの?』

 

 今でも、一人になるたびに考えるのだ。

 星之宮先生に言われた言葉を。その意味を。

 

 俺が求めているのは『本物』だ。それだけは間違いないはず。

 だがその形は不確かで、醜いもので、それでも欲しいものとしか分かっていない。

 その候補は、一之瀬や彩加、白波辺りだとは思う。

 寮の部屋にあいつらがいないと違和感を感じるほどに、俺は人に触れすぎた。

 いろいろな出来事を経験した、突き放したことも、抱き寄せたことも、感情的になったことだってある。

 そして、感情を理解していないことを知った。

 

「あー……変なこと考えちまうな」

 

 一人の時間なんていつぶりだろうか。特別試験中は集中していたから考えることはなかったが、こうして一人になると物思いに沈むことが多くなった気がする。

 

「……そろそろ上がるか」

 

 朝食を食べたくなった俺は、温泉から上がり制服に着替える。

 そうして温泉を出て、目をつけていたテラスにあるカフェの端っこに向かい、モーニングセットを注文する。

 やることもないため適当にチャットを読んだり返したりしていたところで、電話がかかってきた。

 ……表示はロリ悪魔とある。昨日の今日でまたあいつかよ、暇なの?

 出なかったら何されるかは明白なので、三コール辺りで通話を開始する。

 

「……もしもし」

 

『おはようございます比企谷君』

 

「おはよう。で、今度は何の用だ?」

 

『暇つぶしに会話をして欲しいと思いまして』

 

「俺は都合のいい玩具かよ……」

 

『はい、そうですよ?』

 

「なんで当たり前のように答えるんだろうね……」

 

『早速ですが面白い話を耳にしました』

 

「面白い話?」

 

『ええ。なんでも比企谷君は両刀であり、戸塚彩加君とハンモックでイチャイチャしたにも関わらず、釣りをしながら白波千尋さんと抱き合ったりと。さらには一之瀬さんとまで抱擁をしていたと』

 

「待て、待ってくれ。どこからの情報だ」

 

『さぁ?私も耳にしただけなので誰かは分かりません』

 

 嘘だろ。内容が無人島でのことだから内通者はBクラスの人間に限られる。

 戸塚と一之瀬に関しては人数がいたと思うが、白波に関しては一之瀬ともう一人ぐらいしか見ていないはずだ。俺と関わり合いのある人物で一番可能性があるのは……柴田だろうな。

 いつの間に情報を流したのか……どうやらこれまでの罰では物足りなかったらしいな。次こそは黒歴史確定レベルのことをさせてやるか……。

 

 

***

 

 

「うおっ!?」

 

「ど、どうしたの柴田くん?」

 

「きゅ、急に寒気がしてな……」

 

 

***

 

 

『それにしても星之宮先生だけに飽き足らず、三人にも手を出すとは……比企谷君がそんな人だとは思ってもみませんでした』

 

「本当か?例の8股だの10股だのの噂で前々から弄ってきてただろうが。誰にも手を出してないからな?恋人だっていねえし……」

 

『分かってますよ。比企谷君にそんな度胸があるわけないじゃないですか』

 

「即答なのが腹立つな……」

 

 結局、朝食を食べながらも坂柳と電話し、朝食後も坂柳と電話し、昼時近くまで続けるという過去最長の長電話をしてしまった。

 これ、一之瀬にバレたら絶対めんどくさいやつだな……。

 

『さて、そろそろ12時ですか……比企谷君、私が今から言う場所に向かってくれませんか?』

 

「なんで?」

 

『少しばかり橋本君や神室さん、鬼頭君も含めて話をしたいのです。私のお友達として交友を深めるチャンスですよ』

 

「お前のお友達ほど恐ろしいものはないだろ……」

 

 どうしてグループを作って会話をしないのか気になったものの、直接の方が話しやすいとも思ったため、坂柳の指示に従って客船内のとある部屋に辿り着いた。

 

『さあ、中に入ってください』

 

「おう」

 

 そうして扉を開けたら――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「誕生日おめでとう!!!」」」

 

 鳴り響くクラッカーの音。

 部屋の中は大きなケーキを囲むように多くの生徒が集まっていた。

 Bクラスの面々に星之宮先生、Aクラスからは葛城と弥彦、橋本に神室に鬼頭、Cクラスからは椎名、Dクラスからは綾小路に堀北、櫛田に佐倉さんと三馬鹿という面子。

 

「……え?」

 

「誕生日おめでとう!」

 

「…おう」

 

 一之瀬が一番に近づいてきて笑顔で言ってくる。

 そこまで経ってからようやく気付いた。

 

「あ、今日って俺の誕生日だったな」

 

 俺の言葉に一瞬、場が静まり返り……

 

「「「本当に忘れてやがった!?」」」

 

「「「あはははははっ!!」」」

 

 大きな声に包まれたのだった。

 

 

***

 

 

 俺のために計画してくれたという誕生会は混沌を極めたと言っていいだろう。

 坂柳と電話した状態だったせいか祝われる側から説教を食らい、一之瀬の行動を見た一部の生徒が冷やかしはじめ、それに一之瀬が反応して……最初から盛り上がりが凄かった。

 俺と特段話したりしないクラスメイトにも直接おめでとうと言われたためかなり面食らったのだが、神崎曰く、無人島での俺の行動は全てBクラスの生徒に共有されているらしい。

 『俺の行動でポイントが300も手に入ったとのことで祝ってくれてるのか』と返したところ、頭を叩かれてしまった。

 ……分かってるっての。

 

 橋本が誘ったらしい葛城とは和解するような形になった。試験についてはクラスのために戦うのだからその結果で人間関係を壊すのはやめようという話をしたのである。

 弥彦には終始睨まれたままだったけどな。

 椎名とは久々に会ったことで会話が弾んだ。そのせいで一之瀬と白波、彩加によるトリプルジト目が発動したものの、つい可愛いと口に出してしまったことでさらに全体が盛り上がってしまった。

 綾小路や佐倉さん、堀北からはいつも通りの調子で祝われた(堀北に関しては微妙である)のだが、櫛田がぶりっ子モードだったせいで笑いそうになってしまった。誰にも聞こえない音量で『あとで覚えてろよ』という不穏なフレーズを耳にしたが、聞かなかったことにしている。

 三馬鹿?櫛田についてきただけらしいから知らない。まだポイントのことを根に持っているらしかった。

 

 最終的には一之瀬グループで過ごしていたのだが、その時柴田が首からかけている看板を見せつけながらおめでとうと言ってきたのが異様に腹立たしかった。『俺が主犯です』なんて書かなきゃよかったぜ。

 一之瀬達からはプレゼントがあるらしいが、さすがに客船には持ち込んでいないらしく帰ってからくれるらしい。

 彩加からのプレゼントに思わず大声を出してしまい、ヒソヒソと指を刺されたのは言うまでもないだろう。慣れてしまった自分が嫌になるぜ……。

 

 昼食時から三時のティータイムまで開かれた誕生会は大盛り上がりで幕を下ろした。

 坂柳による爆弾投下も、一之瀬とともに顔を真っ赤にして反論するのも、星之宮先生とツーショットを撮らされたことでまたしても噂が加速したことも、全てが騒がしい出来事だった。

 

 

 ……でもまぁ、こんな誕生日も悪くないと、心のどこかで思っている俺がいるのであった。

 




急いで書いたせいで内容が薄い+字数が少ないと思われますがご容赦を。
出来る限り現実と時系列を合わせていくつもりですのでこれからは本編の更新も頑張っていきたいと思います。

改めて八幡誕生日おめでとう!!
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