やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。 作:シェイド
原作四巻の内容をどう変えていくか……出来れば他のクロス作品とは違う結果を生み出したいですね……。
今作では八幡をあのグループにぶち込んでみました。
特別試験から三日、俺の誕生日会から二日が経過した。
今日も俺たちは豪華客船でのクルージングを楽しんでいた。
予定通り、あと数日は船の上にいることが確定しているが、学校側からの干渉は依然なく、当初は警戒していた生徒たちもそれぞれ豪華客船を満喫していた。
「八幡!さっきのマッサージ凄い気持ちよかったね!」
「お、おう。身体が生まれ変わったような気がするな」
「うんうん!」
俺は彩加と二人で客船内の施設を楽しんでいた。
ちなみに一之瀬と白波は女子会グループの方でまとまっており、神崎と柴田はクラスの男子とともにプールに入ったりしている。
柴田には昨日、星之宮先生に抱き着くという罰ゲームを実行し、案の定周囲の好奇の目に晒された挙句、星之宮先生から『ごめんね~、今男の子はいいかなぁって』とあたかも振られたかのような言葉を告げられるという誰も経験したくないであろう出来事を味合わせてやった。
もちろん、星之宮先生には何も言っていない。あの人対応力というか弄り方が分かりすぎてるんだよな……。
そのせいで柴田は燃え尽きたジョーのごとく真っ白になっているので、神崎をはじめとした男子たちに励まされているというわけである。
「次は映画でも見る?」
「いいぞ。彩加が見たい映画で」
「ほんと!なら……」
そういうわけで、俺は天使とデート中というわけだ。
なんだよ、最高かよこの学校。夏休みに豪華客船にタダで乗れる上に、天使と戯れられるとか素晴らしいな。
映画を見るためにシアターへと続く列に並んでいると、ふと視線を感じた。
その視線を辿れば、満面の笑みを浮かべた櫛田が手を振っていた。
……いや、あれは完全に裏で『何アイツ気持ち悪い笑み浮かべてんの?死ねば?』とか考えてそうだ。そうに違いない。櫛田の当たりが強いのはいつものことですね分かります。
「八幡!ホラーでもいいかな?」
「彩加はホラー系が好きなのか?」
「うんっ、大好き!」
こうして彩加の意外な一面も発見しつつ、大満足の一日を過ごしていた。
***
夕方を過ぎ、彩加と夕食を食べていた時のこと。
突然、俺と彩加の携帯端末から音が鳴り始めた。
キーンと言う高い音。それは学校からの指示であったり、行事の変更などがあった際に送られてくるメールの受信音だった。マナーモードにしていたが、音が強制的に出ることからも重要性の高さがうかがえる。
「学校からだよね。なんだろう?」
「まさか新たな試験、とかな……」
そうではないことを祈りつつも、メールを確認しようとしたところで船内アナウンスが入った。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合は、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れがないようにお願いいたします。繰り返します――――』
……確定だろう。十中八九何かしらの特別試験だ。
坂柳とも電話であと一つ何かあるよなー、とは話していたからそこまで驚きはないが、せっかくの彩加とのデート中とは……タイミング悪すぎだろ。
メールには、次のことが書かれていた。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さい。10分以上遅刻した者にはペナルティを科す場合があります。本日20時40分までに、2階205号室に集合して下さい。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越し下さい』
「特別試験二つ目か……」
「八幡、八幡のはどんな内容のメールだった?僕はこんな感じだったんだけど……」
彩加がメール画面を見せてくるので目を通すと、内容としてはほぼ同じだったが、集合時間が19時20分であることと部屋の場所が違っていた。
「彩加の方が時間的に早いのか……彩加、もしよければ何が起きたかの報告を頼んでいいか」
「いいけど……どうして?」
「もし部屋で行われることが違ったらそれが関係しているかもしれない。前回の無人島の時もそうだったが、気づきというのが大事になってきてると俺は考えてる。だから、彩加の時の内容も知りたいんだよ」
「……八幡、また一人で何かする気?」
彩加が悲しげな表情で目を合わせてくる。
先日に無人島での特別試験で彩加に協力してもらった俺だが、起こす行動すべてを話したわけではないし、橋本と通じたことだって黙ったままだ。
だがまぁ、今回は別だ。
「何もしない……ってわけじゃないが、少なくとも一之瀬や神崎たちと協力するつもりだ」
「八幡っ!」
パァァ!と表情を一変させキラキラとした目を向けてくる彩加。
やめて、八幡本気で浄化されそうだからやめて!
「それに、俺が試験を頑張る理由がないからな。前回は坂柳の脅しが……」
「もうっ、試験には積極的に取り組まなきゃだめだよ!」
「お、おう、そうだよな、彩加の言う通りだよな!」
そういえばこのバカンス中にAクラス抜かせとか言ってたが……聞かなかった振りをしておこう。うん。
***
彩加が時間となり指定された部屋へと向かったため、俺は自分たちの班の部屋に戻る。
中に入ると、神崎と柴田に加えて、一之瀬がいた。
「あ、比企谷君。さっきのメールの指定時間何時だった?」
「20時40分だったな」
「俺と同じなのか」
「え、マジで?」
神崎がそう言いながら携帯端末を見せてくるのでメールを見ると、確かに20時40分に俺と同じ205号室に集合しろと書いてある。
「私は18時に集合って書いてあったからもう行ってきたよ。その内容も踏まえて神崎くんと情報を整理していたところなんだ」
「俺は20時だった。そういや、戸塚はどうしたんだ?」
「今部屋に向かってるんだよ。確か19時20分って指定されてたからな」
どうやら今回の特別試験、クラス内でもバラバラで行われるらしい。もし全員が同じことに取り組むのならば、無人島の時のようにデッキに集合させるだろう。
「私は既に特別試験の説明をされたんだけど、これがまた厄介なルールでね。聞いてくれるかな」
既に説明を受けたという一之瀬が特別試験の概要を教えてくれた。
今回の特別試験は干支に準えた12のグループにクラス混合で別けられているらしい。各クラスから数名ずつが集まってグループとなっており、おそらくバラバラに決められているとのこと。
問われる力は『シンキング』。一之瀬が言うには、クラスの輪を超えて頭を働かせ、如何に一番の結果に導くのかが特別試験に課せられているのはないかとのこと。
詳しいルールなども聞かされた後、彩加が帰ってきて一之瀬と同じようなことを言われたと報告してくれた。
「やはり全員同じ説明か……」
「一先ずクラスの皆には、『優待者』になった場合相談してきたら対応するようには声掛けしておくかな」
「下手にクラス全体でこう動けってのは難しいだろうしな。それにしても体を使った後に頭を使えとか、この学校スパルタすぎるだろ……」
俺の言葉に、室内にいた全員が頷くのであった。
***
「そろそろ行くか」
「ああ、早めに行っておいた方がいいだろう」
「そっか、じゃあ二人ともまた後でね」
「俺と戸塚だけになるな。……なぁ、戸塚温泉でも行かないか?」
「あ、いいね!」
一之瀬がクラスの女子と話し合うと言って部屋を出ていって少しした頃。
俺と神崎が指定の部屋に行くように言われている時間が迫ってきたため、二人で部屋を出る。
……扉を閉める際、柴田が何やら羨ましすぎることを言っていた気がする。顔を赤くしていたため確信犯だ。
説明が終わってから、クラスのグループチャットに星之宮先生に抱き着いている写真とごめんなさいと頭を下げられている写真を貼ってやるとしよう。
「一之瀬が言うには他クラスと同じ班になるというが、俺たちと同じ班は誰になるだろうな」
「出来れば大人しい奴がいいだろ。知らない奴と会話するとか地獄以外の何物でもない」
「……俺も大概だが、比企谷は俺より人付き合いが苦手だからな」
「今じゃお前たちと一緒にいること多いから忘れられているかもしれないが、俺は元々ボッチで陰側の人間なんでね」
「どちらにしろBクラスにいる以上、一之瀬に引っ張られ続けることになるだろうけどな」
「……だろうな」
ホント俺ってボッチだったはずなんだけどなぁ……今となっては誰かが近くにいることが当たり前のように感じる。
俺に友達がいて話す相手がこんなにもいるなんて小町が知ったなら……疑われること間違いなしだな。別人とか言われそうである。
神崎と会話しつつ2階に着くと、そこには生徒が多く存在していた。
……つーかあれ、葛城に堀北、綾小路までいるな。まさか全員同じグループか?
「もしこれから先いつかは分からないが……DクラスからCクラスに上がってくるようであれば、Aクラスは容赦なく君を叩くだろう」
「随分勝手なもの言いね。Aにしてみれば大したことでもないでしょう?それよりもかなり迫ってきたBクラスのことを警戒した方がいいんじゃないかしら?」
「確かにな。だが警戒する対象になることは間違いない。優劣が一度ついてしまった位置関係からの逆転は容易ではない。クラスが入れ替わるほどの事態になれば、警戒せざるを得ない。それはどのクラスにも言えることだ」
葛城と堀北が言い合っているようだが、葛城の言い方は脅しのようにも聞こえてくる。まるで葛城に同調するように、その取り巻きと思われる生徒が威圧的に堀北を睨んでいる。
女子に向けていいような目ではなかったが、相手はあの絶対零度の視線を持ち、綾小路に何度も土下座をさせたという堀北である。全然気圧されている様子ではなかった。
「他クラスの意向まで、勝手に決めつけるのは感心しないな」
隣にいたはずの神崎が気づけば二人に歩み寄っていた。
近くで傍観していたある女子生徒なんかは怯えていた顔が一気に輝かんとばかりにパッと華やいでいる。分かりやすいけど理解は出来るぞ。神崎の奴は普通にイケメンだからな。
「無理して葛城に話を合わせる必要はないぞ。状況が状況だ」
神崎は特段堀北と仲がいいわけではないはずだが、自然な形で紳士的な振る舞いを見せていた。やっべ、神崎さんマジイケメンじゃないですかやだー。
「心配無用よ。Dクラスが下に見られていた、その話を払拭できるのなら歓迎するわ」
しかしさすが堀北。並みの女子なら神崎にメロメロになっていそうな場面でもいつも通りの態度である。
そのまま三人で話し始めるのを横目で見つつ、俺は少し離れたところにいる綾小路の元へと向かう。
綾小路もこちらに気づいたのか、近づいてきた。
「比企谷もこの時間に呼ばれているのか?」
「ってことはお前もか?」
「いや、オレは18時だった。ここにいるのは堀北の付き添いだな」
綾小路は一之瀬と同じ時間か……そしてここにいる葛城や堀北、神崎が同じ時間と。
……あれ?なんかおかしくない?
「クク、随分と雑魚が群れているじゃねえか。俺も見学させてくれよ」
「……龍園か」
背後から聞きたくなかった声が聞こえたため諦めて振り返ると、そこにはニヤニヤしながら三人の方を見るCクラスの王様、龍園翔の姿があった。
綾小路の後ろからは平田と櫛田が来ているようだし……このグループ絶対おかしいだろ……。
「おまえもこの時間に召集されたのか?それともただ歩いていただけか?」
「残念なことに、お前らと同じ時間のようだな」
龍園は後ろに三人の生徒を引き連れていた。
部下であろう生徒たちの顔は怯えていて、本当に王様と部下の関係なのだと改めて感じさせられる。
「これから見世物でもしてくれるのか?美女と野獣と王子と……目の腐ったカエルってタイトルはどうだ?」
俺の方を向きながらニヤニヤとそう言ってくる龍園。
……ねぇ、俺をそこに入れる必要あったかな?絶対なかったよね?神崎まででよかったじゃん!
龍園が俺を見ながらそんなことを言ってしまったからか、近くにいた生徒全員が俺を見つめるハメに。
「俺関係なかったよね?やめてくれない?俺は目立つことが嫌いなんだからそういうのやめて欲しいんだけど……」
「くはっ、そんなこと言っていいのか?」
「……ど、どういう意味だよ?」
「このグループにお前もいるってのは意外だったが……そのおかげで坂柳の行動が理解できた。随分と好かれているようじゃねえか、女王様によ。なんでも何時間も電話を続けるほどの仲だとか聞いたが……」
「好かれてねえよ。むしろ玩具としか思われてないまである」
なんで龍園がそのこと知ってんだよ……って、龍園のせいで周りの見る目が変わってきてるじゃねえか。葛城も訝し気な目を向けてきてるし、堀北も鋭い目をしてきてるし……!?
「ヒッ!?」
「ど、どうしたんだ比企谷?突然怯えたような声を出して」
「悪い神崎、俺は先に部屋に向かうことにする!」
「そ、そうか」
突如として感じた殺気と、その殺気を出していた対象者を遠くに見つけてしまった俺は綾小路を無視し、神崎に一言言ってから205号室に走って向かった。
……どこから聞いていたのだろうか。満面な笑みを浮かべていた一之瀬が俺を見て手を振っていたが、あれは完全に怒っているだろう。
長電話してたことがまた知られてしまった……俺、殺されたりしない、よね?
***
「全員揃ったか。では特別試験の説明を行う」
部屋に入るとDクラス担任の茶柱先生が一人で座っており、その向かう側に用意されていた席に俺と神崎、そしてクラスメイトの安藤さんが座ったところで説明が始まった。
「今回の特別試験では、1年全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」
一之瀬や彩加の情報通り、特別試験はグループ別で、目的はシンキング能力……つまり考える力を問うものであるらしい。
「社会人に求められる基礎力は大きく分けて3つの種類がある。アクション、シンキング、チームワーク。それらが備わった者が初めて優秀な大人になる資格を得る。先の無人島の試験は、チームワークに比重が置かれた試験内容だった。しかし、今回はシンキング。考え抜く力が必須な試験になる。考え抜く力とはすなわち、現状を分析し、課題を明らかにする力。問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、準備する力。創像力を働かせ、新しい価値を生み出す力。そういったものが必要となってくる」
丁寧な説明がされていく。今のところ分かることは3つの種類の基礎力をこの学校が特別試験などを通して鍛えるように仕向けてくるといったことぐらいか。
神崎もいるし、安藤さんも成績はトップクラスだったはず。俺一人が理解できてなくても二人から後で詳しく聞けばいいしな。
……今回だってアレは起動させているし、聞き逃しても問題はない。
「そこで今回の試験では12のグループに分け、試験を行うとなったわけだ。ここまでで何か質問はあるか?」
「……俺は特にありません。二人はどうだ?」
真ん中に座る神崎がそう言い、俺と安藤さんを見てくる。
「何もない」
「私もないよ」
「では説明を続けるぞ。まず前提としてだが、ここにいる3人は同じグループとなる。そして今この時間、別の部屋でも同じように『君たちとグループになる』メンバーに対して同時に説明が行われている」
つまり、先程あのフロアにいた面々……葛城に龍園、堀北に櫛田に平田も同じグループであると。
……やっぱこれ偶然とはいいがたい面子だな。俺がいて一之瀬がいないことだけが違和感を感じるものだが、神崎といい、安藤さんといい、クラスでもトップクラスの生徒が集められているのは事実だろう。
「先生、一つ質問してもよろしいでしょうか」
「なんだ、神崎」
「どうしてクラス別でそれぞれ説明がなされているのですか。同じグループとなるならば、まとめて説明してもいいような気がするのですが……」
確かに神崎の言う通りだ。態々クラス別に、しかも担任じゃない先生が説明を行っている理由が分からない。
特別試験になりかしら関係していると考えるのが一番思われることだが、確証はない。
「お前たちがいきなり他クラスの生徒と同じ場所に集められては混乱するだろうという学校側の配慮だ。一つのグループは各クラスから3~5人ほど集められて作られている。事前に説明をしていた方がいいという判断でこのような形をとっているというわけだ」
「……なるほど、ありがとうございました」
「説明を続けるぞ。君たちが配属されたグループは『辰』。ここにそのメンバーのリストがある。これは退室時に返却させるから必要性を感じるのならこの場で覚えておくように」
そう言って茶柱先生が差し出したのはハガキサイズの紙だった。神崎を中心に俺と安藤さんが横からのぞき込めば、どうやら辰グループのメンバー表であるらしい。
……やっぱこれおかしいだろ。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 比企谷八幡
Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
絶対ではないだろうが、各クラスのリーダーたちが集まっている。ここに一之瀬がいないことが不思議でしかない。
Dクラスなどこれまでのクラスの動きからすれば、本当に中心人物たちが集められているし……。
「Aクラス葛城康平、西川亮子、的場信二、矢野小春……Bクラス安藤紗代、神崎隆二、比企谷八幡……」
俺はそこに書かれている人物の名前を声に出して読み上げる。
茶柱先生はそれを咎めるようなことはしてこない。恐らく俺が暗記しようとしていると思っているはずだ。
……記録するためとは思わないよな。
俺が全員の名前を読み終わったところで神崎が紙を茶柱先生に返した。
「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道であると言っておく」
「近道、ですか」
「ああそうだ。今から君たちはBクラスとしてではなく、辰グループとして行動をすることになる。そして、試験の合否結果はグループ毎に設定されている」
茶柱先生は一息置いた後、話を続けた。
「試験の各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は存在せず必ず4つのどれかの結果になるように作られている。分かりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意している。ただし、このプリントに関しても、持ち出しや撮影などは禁止だ。この場でしっかりと確認しておくように」
3人分用意されていた紙は、端の方がくしゃくしゃになっていた。
俺たちの前に呼ばれた生徒達にも同じ紙を見せていたということだろう。全員、説明は同じだということか。
書かれてある基本ルールは以下の通りだ。
『夏季グループ別特別試験説明』
本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。
・試験開始当日午前8時に一斉メールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。
・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。
・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
・試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。
・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける
・『優待者』にはメールにて答えを送る権利がない。
・自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
これが基本ルールで、目立つように書かれてあった。更に細かく、ルールの説明や注意事項などについても記載されている。無人島の試験よりも定められている項目や細かな注意書きが多い。
そして、その4つの定められた結果も書かれてある。
・結果1:グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のポイントを得る)
・結果2:優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートをポイントを支給する。
一癖も二癖もあるような試験だとつくづく思わされる。優待者とやらはまだ分からないが、優待者の存在がこの試験に挑むうえで重要であることは間違いないだろう。
「この試験で重要なのは1つだ。既に理解しているかもしれないが、『優待者』の存在が重要となっている。グループには必ず優待者が存在するようになっている。そしてその優待者の名前が試験の答えだ。そうだな、例えばだが……比企谷、君が優待者だと仮定しよう。そうすると辰グループの答えは『比企谷』となる。あとはその答えをグループの全員と共有し、試験最終日の午後9時で試験が終わった後、午後9時30分から午後10時にグループ全員が『比企谷』と記載して学校にメールを送ればいい。それでグループの合格、結果1が確定となり全員が報酬である50万のプライベートポイントを受け取ることになる。優待者は結果1に導いたとして倍の100万を得られるような仕組みだ」
これまでの試験では考えられなかったほどの凄まじい報酬だ。100万なんて、今のうちのクラスで言うのなら約11、12か月分のプライベートポイントと同じ額だ。
もし100万手に入ったら……マッカン買い放題じゃねーか。ラーメンだって食べに行けるし、ゲームだって買える。うわ、超欲しいんですけど。
「そして結果2、これは優待者が試験終了時までの他の生徒に正体を悟られなかった場合、もしくは嘘の優待者へと誘導した場合に起こりうることだ。文面に書かれている通り、優待者だけにポイントが与えられる。その額は50万だ」
……これだけ聞くと特別試験とは思えないな。ただの学校からのサービス試験としか考えられん。優待者じゃない場合は優待者を探る必要性があるが、もし自分が優待者だとすれば隠しとおすだけで50万。グループで共有すれば100万だ。
明らかに優待者が有利すぎる。
「先生、他の二つはなんでしょうか?この二つを見る限りではおおよそ試験として成り立っていないようにも思えるのですが」
神崎が俺の考えを代弁してくれるがごとく、茶柱先生に質問する。
「この二つだけを見ればそうだろうな。だが、まずこの二つの結果を理解してもらわなければ話が進められんのでな」
「二人は大丈夫か?」
「うん、理解できてるよ」
「俺も大丈夫だ」
「先生、続きをお願いします」
「ああ分かった。残りの結果については裏に書かれている。が、まだめくらないように」
フェイントやめてくれないかな……俺もう半分くらいめくってたところなんだけど。
俺たちの手が紙から離れたところで茶柱先生が話を続ける。
「グループの中には1人だけ優待者が存在すると説明したが、いち早く優待者を暴き出すことで第3、第4の結果が新たに現れる」
……さて、ここからが本題っぽいな。一之瀬達からの情報と同じならば……
茶柱先生がめくっていいと言ったことで俺たちは同時に紙をめくった。
そこに書かれていたのは残りの結果2つだった。
以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また、試験終了後30分間も同じく解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。
・結果3:優待者以外の者が、試験終了を待たずに答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイントを50得ると同時に、正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。また優待者が見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが正解した場合、答えを無効とし試験は続行となる。
・結果4:優待者以外の者が、試験終了を待たずに答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者はプライベートポイントを50万ポイント得ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、答えを無効とし受け付けない。
これで試験の全貌が明らかになったな。
一之瀬の考えも踏まえると相当厄介な試験と言えそうである。『裏切り者』の存在でグループは如何様にも変わってしまうだろうし、何よりも他クラスと同じグループを組んでそれぞれ探り合いを狙っているのが嫌なポイントだろう。
加えて一之瀬が今回の試験で俺を監視すると言った理由も理解できた。これは、クラスメイトが独断を犯すと最悪の結果を生みかけない。
Bクラスならば一之瀬や神崎がいることもあってか誰も勝手な真似はしなさそうだが……既に無人島試験で前科持ちである俺だけは別なんだろう。
「今回学校側は匿名性についても考慮している。試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表することになっている。優待者や解答した者の名前は出さないというわけだ。また、望めばポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行することや分割して受け取ることも可能だ。本人さえ黙っていれば試験後に発覚する恐れはない。もちろん隠す必要がなければ堂々とポイントを受け取ってもらって構わないがな」
いじめには厳しいこの学校だからこその配慮だろう。まぁ、龍園辺りはむしろ見せびらかすように受け取りそうなものだけど。
それにしても疑問点がいくつかある。試験への取り組みもそうだが、このグループのメンバーは異常だろう。
「先生、一つ質問してもいいですか?」
「比企谷か……言っておくが中間考査でチエから点数を買ったように、試験に関しての答えをプライベートポイントで買う、などといったことは出来ないからな」
「情報共有されてんのかよ……そうじゃないんですが」
「ならなんだ?答えられることなら答えてやるぞ?」
この人絶対星之宮先生から俺のことを変な風に聞かされてんだろ。確かに考えはしたが、それでは試験が破綻してしまうだろうし……シンキングどころの話じゃなくなるからな。
「このグループ分けは学校側が適当に選んだものなんですか。明らかにこの辰グループにクラスのリーダー格が集まりすぎている。俺がここにいて一之瀬がいないってのも意味わからないんですけど……」
「……言えることはこのグループだけこのような生徒が集められている、ということだけだな」
「そうっすか、ありがとうございます」
やっぱり辰グループは特別なんだろうな。Dクラスなんてフルメンバーみたいなものだし、葛城に龍園に神崎ときている。話し合いがうまくいく光景が浮かばないし、絶対にぶつかる気がする。
一之瀬がいないことだけがやはり意味が分からないが、綾小路や高円寺といったスペックお化けたちがいないところを見るにこれまでの総合評価で選ばれたようなものか。
一応、俺も無人島試験では活躍したし?まぁBクラスの代表的な生徒に成り上がったのも理解できなくはない……調子乗りましたごめんなさい。
「他に質問はないか?ならこれで試験についての説明は概ね終了となる。禁止事項などは細かく書かれているから、しっかりと目を通しておくように」
禁止事項には、例えば他人の携帯を盗んだり、脅すなどの脅迫行為で優待者に関する情報を確認することや、勝手に他人の携帯を使って答えをメールするなどの行為は『退学』という最大の処罰が待っている。無人島の試験よりも恐ろしいな……。
加えて怪しい行為が発覚したならば、徹底した調査が行われると明言されている。これならば誰だってルール違反をしたりしないだろう。もちろんと言うべきか、脅されたと嘘をついたケースも同様に退学の可能性が明示されている。
これだと裏でデータを監視されていると見た方が良さそうだ。
他にも最終試験終了時は直ちに解散し、一定時間他クラスの生徒同士での話し合いを禁止していることも書かれていた。これも破ったら退学と重たい処罰である。
「君たちには明日から、午後1時、午後8時に指示された部屋に向かってもらうことになる。当日は部屋の前にそれぞれのグループ名が書かれたプレートがかけられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行うように。また、室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていないため、トイレ等は済ませていくように。万が一我慢できなかったり体調不良の場合にはすぐに担任に連絡し申し出るようにしろ」
「1時間が経過すれば退室しろということでしょうか」
「1時間が経過したのなら、部屋に残って話を続けるのも退室するのも自由だ」
「なるほど、理解しました」
「君たちは理解が早くて助かる。それからもう一つ。グループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに拘らず変更の要望などは一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁止とする。この点をしっかりと認識しておくように」
禁止事項にも含まれてたな。学校から送られてきたメールに細工をして虚偽に使用するなってことなんだろう。それはそのメールが真実証明に100%なるということでもある。
「話は以上だ。これで解散となる」
「すみません、この紙の内容を覚えたいので退室するのは少し後でも大丈夫ですか?」
「……そうだな、このあとにはグループがくることはないが……他のグループは説明が終わり次第退室となっている。5分だけ時間を許そう」
「ありがとうございます」
これだけは一之瀬との話し合いで決まっていたことだ。人の記憶だけではどうしても欠陥部分が出てきてしまうため、録音しておかなければならない。
幸いにもボイスレコーダーなどを使ってはならないとは言われていないし禁止事項にも接触していない。出来る限りの情報は持ち帰るべきだろう。
茶柱先生には暗記するために俺だけが覚えようと声を出していると思わせるために、神崎と安藤さんは先に部屋を出ていった。神崎のナイスアシストだな。
茶柱先生と二人になった後、俺が紙を返却したところで話しかけられた。
「それにしてもまさかお前が辰とはな。余程チエはお前を気に入っているのだろう。無人島での特別試験の300ポイント……裏で手を回したのはお前だったか」
「……やっぱ先生方で情報の共有などもやってたりするんですね」
「いや?さっきのは私個人の見解だったが……やはりお前が一枚噛んでいたか」
……嵌められたなこれ。ちょっと時間くれたりとか優しかったから油断していたが、この学校ではそれが命取りになりかねない。豪華客船での最高のサービスや彩加との楽しい時間のせいで少しばかり気が緩んでいたのだろうか。
そう考えれば先生に嵌められたのは良いことかもしれないな。綾小路が言うには茶柱先生はクラスに意地悪するようだし、このことを伝えることも多分ないだろう。
茶柱先生に一言挨拶した後廊下に出ると、神崎が待ってくれていた。
「悪い、遅くなった」
「別に構わない。それより一之瀬から俺たちの部屋に集合とのメールが来ていたが……お前また何かしたのか?」
……死んだかな。
***
「さぁて比企谷君?説明してくれるよね?」
俺は班の部屋で正座をしていた。
そして目の前には一之瀬の姿がある。
先程特別試験の説明を受けた後、俺と神崎は班の部屋に帰還したのだが、部屋には既に一之瀬が腕組状態で待機していた。
もちろん脱兎のごとく逃げ出そうとしたが、一之瀬が手を回していたのか柴田に簡単に確保されて正座するように命令されたのだ。
携帯も奪われたことで通話履歴を見られ、俺の誕生会の次の日に数時間坂柳と通話していたことがバレてしまったのだ。
……一之瀬って結構ヤンデレ気質だったりするのだろうか。いや、デレたりはしてないんだけど、こう……束縛系のイメージが更に強くなってしまった。
「え、っとですね、ちょっと誕生会のお礼を言っただけで……」
「ふーん?お礼を二時間も言い続けてたの?すごいね?」
棘が凄い棘が凄い。半目になって睨んできてるからか『どうしてそんな嘘つくのかな?』と言わんばかりの圧力を感じる。
「あー、いや、ちょっと脅されてることに関してな……どうにか脅すのをやめてくれないかと交渉してたんだよ」
「まだ脅されてるんだ?その内容が私には分からないんだけど?」
「そ、それはちょっと人には言えないと言いますか、これ以上見られたくないと言いますか……」
「……」
ジト目で俺を見つめてくる一之瀬。
目を逸らす俺。
視線を無理矢理合わせてきてジト目を強くする一之瀬。
顔ごと背ける俺。
「あれ、痴話げんかにしか見えねえんだけど」
「……そうだな、とりあえず今日のところは特別試験についての話し合いは不可能だろう」
「一之瀬さんは心配なんだよ!八幡が坂柳さんばっかりと電話するから、嫉妬してるんじゃないかな?」
「白波が知ったら比企谷の奴刺されそうだな」
「呼んだ?」
「うおっ!び、びっくりした……突然背後に立つのやめてくれ白波」
「ごめんね。あ、そういえば柴田くん、このクラスのグループに貼られてる写真って本当なの?」
「写真?……こ、これは!?」
部屋の端の方に集まっている彩加たちの方も何やら話しているが、柴田が驚いた表情してるからクラスグループに貼り付けてやった写真のことだろう。
はっ、俺の天使と温泉に一緒に入るからこんな目に合うんだぞっ、今度は俺と一緒に行こうな彩加っ。
「比企谷君?話聞いてるのかな?」
「ご、ごめんなさい」
「クラスメイトが他クラスのリーダーと親密な関係にあることは見逃せないんだからね?……あれ、比企谷君の携帯メール来てる」
何故か勝手に携帯を操作している一之瀬。
……あの、それ俺の携帯ですよね?メール勝手に見ちゃうのかよ……。
「星之宮先生から呼び出しみたいだね。展望台にくるようにって書いてあるよ」
「じゃあ行ってくるわ!!」
「あ、ちょっと!」
普段なら絶対に乗り気にならないメールだが、今回ばかりは助かった。
俺は一之瀬から携帯をぶんどり、扉の前にいた三人と白波をかわして部屋を出る。
後ろからは「待てー!」など聞こえてきていたが、俺はそれを無視して展望台に向かうのであった。
***
「あ、来たね比企谷君」
「なんか用ですか」
展望台に着くと、既に星之宮先生はいた。
星之宮先生以外に人影は見られないから、二人だけで話したいことだったりするのだろうか。
「ほらほら見て~?綺麗な星空が広がってるよ」
「……そうですね」
星之宮先生は夜空を見上げながらニコニコしている。
隣に来るようにジェスチャーされたため少し離れた横側に向かったのだが、すぐさま距離を詰めてきた。
逃げ出そうとしても腕を掴まれたため動くことが出来ない。
……べ、別にむにゅむにゅとした感触を味わいたいだなんて思ってないんだからね!
「お、俺を呼び出した理由って何ですか?」
「ん~、なんだと思う?」
星之宮先生が俺の目を覗き込むように下から上目遣いをしてくる。
あざとい、そして可愛いと思ってしまった俺自身を殴りたい気持ちに駆られるものの、質問されているし先に答えることにする。
「……特別試験でのグループ分けで俺が辰グループに配属されたこと、ですかね?」
「大正解~さっすがー!」
「俺なんでこのグループなんです…?」
「うふふ♪」
ずっと疑問に思っていたことを口にすると、星之宮先生は笑いながら人差し指を口の前に立てた。
「このことは他の皆には内緒にしてね?一応先生として言っていいか微妙なとこだからバレたら面倒でねー」
「いいっすよ、別に言う相手もいませんし」
「今はいるでしょ~このこのっ!」
「ちょ、ツンツンやめてっ」
この人何気に頬っぺたツンツン気に入っているよな……かなりの頻度で受けてるし。
「戸塚君や柴田君、神崎君とは友達関係にあるし、一之瀬さんとは恋人関係にあるでしょ?」
「いや、一之瀬とは別にそんなことないですよ。それに冗談でもそんなこと言わないでください。一之瀬が可哀そうなんで」
前者に関しては否定する意味がもうないから否定する気はないが、後者はデマ情報だ。何よりそんな関係になれる人が俺にいるとは思えないし、一之瀬だって嫌だろう。
すると星之宮先生は、笑みを消して話しかけてきた。
「比企谷君のそういうところ、私は嫌いだよ。分かってるのに理解しているのに見てみない振りするところ。お茶を濁して逃げるところなんて大っ嫌い」
「……別に先生に嫌われても構わないですけど」
分かっている。俺くらいの敏感さになれば嫌でも理解してる。
それでも、その言葉を口にすること、声に出すことはしたくない。
……それは一時の感情に流されてるだけだろうから。
「そっかそっか、比企谷君はまだまだ変わらないねー。ま、今はその話は置いといて……辰グループの話をするね」
「うっす」
「辰グループには年々、各クラスの実力者を集めるようにしているの。だから、本当ならBクラスは君と神崎君、そして一之瀬さんを送り出すのが正しいんだろうけどねー」
「……綾小路、ですか」
「うん、そうそう。一之瀬さんに見極めてもらいたくて」
やっぱりこの人は敵に回したくないタイプの人間だ。
ルールで縛っても知らない顔して平然と無視する人なんて嫌なもの以外に何もない。他の先生たちも苦労してるんだろうなぁ……。
「それに一之瀬さんって兎っぽくない?ぴょんぴょんって感じで」
「何言ってるんですか、アイツは兎より豹とかの方が似合ってますよ。兎なら彩加です。彩加以外にありえません」
「戸塚君?」
「ええ、彩加は言うまでもなく天使ですし、兎好きらしいので」
「あー、なんか分かるかも」
その後はすっかりと怖い雰囲気は鳴りを潜め、俺と星之宮先生は雑談に興じるのであった。
***
星之宮先生に解放された後、俺は一人廊下を歩きながら特別試験のことを考えていた。
部屋に帰れば一之瀬の餌食になりかねないためフロア間の出入りが禁止される時間まで遠回りをするつもりである。暇な時間になるため試験について考えを巡らしているのだ。
……恐らく、何かしら必勝法が存在する。他クラスと協力するのが一番であることに違いはないが、ルール上裏切りをしやすいようにしていることから優待者を公開するといったことは自滅以外の何物でもない。
優待者は学校側が調整していると言っていた。多分だが優待者の法則が存在するはずだ。
「なんとかこの試験でAクラスを追い抜かないとな……」
俺がこの試験に積極的に臨もうとしているには訳がある。
一之瀬に追及された坂柳との二時間の会話。内容として誕生日のお礼といつもの弄られや雑談、そして――――脅しを行わないようにするといったもの。
『なあ坂柳、一つお願いなんだが』
『なんでしょう?』
『もし豪華客船での試験が行われ、その結果としてBクラスがAクラスを抜いた場合、俺を星之宮先生とのことで脅すことを完全にやめてもらいたい』
『……なるほど』
『お前としてもつまらなくないか?そりゃ弄ったりするのは楽しいのかもしれないが、一応、試験でいい結果を出すことが出来る人間と戦えなくなるってのはお前にとってもいいことではないだろう?』
『私に比企谷君が挑んでくる、と』
『そうだな、もし脅すことをしないというのなら、俺はお前に挑むことにする。Bクラスの一員としてな』
『……そうですね、比企谷君ならそこまで退屈しなさそうですし……いいでしょう』
『言質とったからな』
『もちろん前提として、Aクラスを抜いたら、の話ですけどね?』
『分かってるよ』
……この試験でAクラスを抜き、坂柳から解放されるのだ。
改めて特別試験にしっかりと挑もうと気合いを入れ、俺はまだまだ遠回りをするのであった。
恐らく禁止事項にボイスレコーダーなどによる盗聴は含まれるかと思いますが、今作品では抜け穴的な要素として扱います。ご都合主義です。
改めて4巻読み直すと試験の難しさを感じます。作者はまず気づきません。
夏休みが続く間にどうにか4.5巻までは投稿したいとは思っております。
……出来なかったらごめんね?