やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

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感想・評価ありがとうございます。こうして更新速度が上がっているのは完全にこの二つのおかげです。感謝しかありませぬ。

今回から夏休み&体育大会編です。Aクラスに上がったことで少し中身も変わりますが、大方原作のような進み方をする予定。

今回はタイトル通り。どんどん原作から離れていきます。
働きたくない専業主夫志望のはずが、自ら働く場所に身を置くのは違和感があるとは思いますが、この学校の特殊性と、比企谷八幡の本物に対する考え方が生まれ始めたとすれば、まあなくはないかなと。
Bクラスに入った上で、戸塚がいなければこんな展開にはなっていないとは思いますけどね。

綾小路とも少し関係性が変化するような話になっておりますので、どうぞお楽しみください。


夏休み〜体育大会
八幡「いや、間に合ってるんで」 茜「間に合ってないですよね!?」


 隣人というのは不思議だ。

 毎朝必ず顔を合わせるわけではないし、全く顔を合わせないわけでもない。

 仲が良いと胸を張っては言えないが、顔見知り程度というほど浅い付き合いでもない。

 少し親しいが親友ではないとでも言えばいいのだろうか。って、それは友達と呼ぶのかもしれないが、何とも違和感を持ってしまう。

 

 隣で一緒にそうめんをすすっているコイツ……綾小路清隆とはそんな印象を持たせてくるのだ。

 

 豪華客船での特別試験を終えた俺たちは、夏休みの終盤を迎えていた。

 二週間近く部屋を開けていたため、換気をして掃除をすることから始まった俺の夏休み後半一日目は、現在、部屋に押しかけてきたいつもの面々+綾小路とともにそうめんを啜る時間になっていた。

 

 夏といえばそうめんを食べつつ、風鈴の音を聞きながら半袖短パンで過ごす。ゲームをしたり読書をしたり、一日中ゴロゴロして何も文句を言われないのが夏休みというものである。妹にはゴミみたいな目で見られるが、そんな視線さえ受け止めれば最高の時間を過ごすことが出来るのだ。

 ……だというのに。

 

「はい、比企谷君専用の化学の問題集と数学の問題集ね。何回も解きなおせば二学期のテストも大丈夫だから!」

 

「……あの、一之瀬さん?俺の目には分厚い小冊子が映るんですが」

 

「?」

 

 思わず頬をピクピクさせてしまったが、それも仕方ないのではないだろうか。

 一之瀬が取り出したのは、中学校の頃に出された夏休み課題のプリント集三個分くらいの問題集だ。それが化学と数学で二つ。

 それを渡してきた本人はきょとんと、首を傾げつつ不思議そうな表情を浮かべている。なんだその顔、不覚にも可愛いと思ってしまったぜ……。

 

「この冊子を取り組まなきゃまずいくらいに、二週間の空きは問題かもしれないが……これいつ作ったんだ?昨日帰ってきたばかりでこれを作るのは時間的に無理だと思うんだが……」

 

「前に比企谷君の成績について、坂柳さんにちょっと溢したことがあって。個人の成績を明かすのはどうかなって思わなくもなかったんだけど、案の定というか坂柳さんは既に比企谷君の点数を知ってたから、二週間の間に成績向上のための問題集作成を依頼したの。何か見返りを求められるかと思ったんだけど、本当に何も求めずに作ってくれたんだよ?坂柳さんのイメージが少しだけ変わっちゃったよ」

 

 あのロリ悪魔が見返りを要求しない、だと……?一之瀬が話した相手は本当に坂柳だったのか?疑問点がいくつもある話だったが、一番まずいのは坂柳に対する印象が、まともな人間に対する印象に一之瀬の中で近づいたことがまずい。

 あれはロクデナシだ。グレン先生もびっくりのロクデナシである坂柳が、自分の利益にならないようなことに時間を割くとは思えない。いつもチェス盤広げて延々とシミュレーションしているか、部下を連れて視察を行うことぐらいしかイメージがないが、着実に葛城派の面々や中立派の人間が坂柳派に属するようになっている以上、裏で動いているのは確実だ。

 

 いや待てよ?ヤツのことだから、単なる暇つぶしの可能性もある。Aクラス……今では元Aクラスだが、坂柳派で統一されるくらいまでの時間は暇つぶしをしているだけと本人が言っていたからな。となると……あー駄目だ、分からん。

 

「ちょっと電話するぞ」

 

「いいよー、って……相手は坂柳さん?」

 

「ああ。アイツがこんなことをする理由が分からないからな」

 

『こんにちは比企谷君。君からかけてくるなんて珍しいですね』

 

 心底驚いている様子が音声からだけでも伝わってくる……わけもなく、何故電話したのかが既に分かっている上でとぼけているにしか聞こえない声音だった。

 確信犯だなコイツ。

 

「お前暇すぎだろ。他クラスの生徒のために問題集作るとか余裕綽々だな」

 

『もちろん、私の友達のためでもあります。ついでに君のも作っただけですから』

 

「これだけ聞くと本当に善意で作ったような気にさせられるな。で、本音は?」

 

『将来的にうちのクラスに来る人材が、勉強で苦手科目があるなんてのは困りますから。将来のための投資です』

 

「それは断っただろ……いや、違うぞ一之瀬!そんな疑うような眼差しを向けないでくれる?白波も同調するな。やめてくれよ……って彩加まで!?」

 

『おやおや、賑やかですね。相変わらず戸塚彩加さんにだけ反応が違いますが、まあいいでしょう。ところで比企谷君』

 

「なんだ?今こいつらの疑念を晴らすので精いっぱいだからそろそろ通話切りたいんだが」

 

『一之瀬さんにチャットを見るように言ってください。私の要件はそれだけです。それでは』

 

「おう……って切られた」

 

 何気に坂柳から切ってくれるなんて初めてかもしれない。これは俺から少しずつ興味が失われていっていることの表れなのだろうか。そうならいい、むしろそうであれ。

 

「一之瀬、坂柳がチャットを見ろってよ」

 

「チャット?へー、何か送ってきたのか……な……」

 

「ん?」

 

 どういうことだ。チャットを開いた瞬間から一之瀬が顔を俯かせたんだが。アイツ何を送ったんだ?

 白波と彩加を落ち着かせることを綾小路にも手伝ってもらっていると、一之瀬が満面の笑みで携帯画面を見せつけるように示してきた。

 

 そこには豪華客船のとある店で、二人横並びで談笑しているように見える男女の姿が……これ、俺と伊吹だな。

 

「比企谷君。ちょーっと聞きたいんだけど……いいかな?」

 

「分かった一之瀬。一度落ち着こうぜ。ほら、お茶でも飲め」

 

「わたしは落ち着いているから大丈夫だよ。それで……これ、わたしたちと別れた後のことだよね?伊吹さんってCクラスで龍園君の側近みたいな立ち位置にいるし……説明を要求するよ」

 

「……拒否権は」

 

「比企谷君にもプライベートはあるからね。だんまりを決め込んでもいいけど……そうした場合、どうなるかは分かるんじゃないかな」

 

 怖っ、これが委員長のやることなんですかねぇ……委員長ならひたすらにバクシンして皆のことを考えて欲しいものです。あ、俺が皆の中に入ってないと考えれば筋通ってますね。もしかして遠回しにお前身内じゃねえから的なこと言ってきたりしてる感じ?

 

「……えっと、これ実は俺悪くないんだがこの時――――」

 

 そう、あの時隣に伊吹が座ってきたのは俺も心底驚いたのだ。待ち合わせをしていたわけでもなければ、特段親しいわけでもないし、むしろ下着ガン見した男とガン見された女の関係だから気まずさで居心地は悪かった。

 だが話してみると思っていたよりもボッチ同士惹かれるところがあるのか、話しやすいとは感じたな。そのせいで余計なことを口にしてしまい、財布扱いをされることになってしまったが……。

 ともかく、この写真を撮らせた坂柳はいつか痛い目に合わせないといけない。悪い子にはお仕置きが必要なのはいつの時代でも変わらないのだ。……大したことは出来ないだろうが、いつの日か不意打ちで痛い目見せてやる。

 

「そっか。それなら別にいいけど……楽しそうだね?」

 

「話してて悪い気はしなかったからな。ほら、ボッチとボッチは惹かれ合うって言うだろ?あれだよあれ。知らんけど」

 

 そう考えると、綾小路とこうやって飯を一緒に食べたり、ゲームをしたりする間柄にまでなったのも、ボッチとボッチが惹かれ合った結果なのだろうか。

 ……入学前から繋がりが出来てしまった坂柳もボッチという結論に至るな。アイツとの会話は恐怖もありはするが、楽しいと感じてしまっている自分がいるのも事実。

 Cクラスの椎名やDクラスの堀北も同様かもしれない。どっちもクラスに親しい人間がいない感じだったし。堀北は綾小路と共にいることが多いから忘れがちだが、同性にも特に好かれない孤高のような少女なのだ。

 ……堀北会長に会ったら妹のことでも話してみるとするか。話してくれるか分からんが、あそこまでAに固執するのは兄である堀北会長が絡んでる可能性は十分にあるし。

 

「ボッチとボッチは惹かれ合う、か。……オレと比企谷が隣室で登下校を一緒にするようになったのも、ボッチ同士が惹かれ合った結果なのか」

 

 いきなり綾小路が呟くようにそんなことを言ってきたが、内容が俺の考えていたこととほぼ一緒だ。すげえ、本当にボッチ同士は惹かれ合っているのかもしれんな……。

 そんな馬鹿なことを考えつつ、勉強したりボードゲームしたりして過ごした一日だった。

 

 

***

 

 

「暑すぎだろ……」

 

 炎天下の中、俺は寮を出て学校に向かっていた。

 理由は堀北会長に呼び出された件だ。

 あの瞬間に声掛けをしてきたことはまぐれか何かの間違いだと思っていたのだが、そうでもなかったらしい。朝に寮の管理者から連絡があり、要件としては今日昼に生徒会室に来いということらしい。

 流石に私服で行くわけにもいかないので制服なのだが……こんな糞暑い中暑苦しい制服を着て学校に向かうとかそれなんて拷問?

 

 たまにプールに向かうであろう生徒達とすれ違い、その涼しげな恰好を疎ましく思いながら生徒会室に辿り着いた。

 初めて来たその部屋は、厳かな雰囲気の扉で閉じられていた。

 ノックを四回し、中に入る。

 知ってるか?ノックの回数って決まり事があるんだぜ。二回はトイレでのノック、三回は親しい相手がいる部屋へのノック、四回は初めて訪れた場所でのノック、見たいな感じで。

 一時期マナー完璧な大人に憧れて厨二時代に調べたりしたんだよな……アニメを見たらすぐに影響されるのが厨二なのだ。更に言えばこんな感じで現実でも役に立つこともあるので、一概に悪いと言えないのが厨二病という厄介な病の特徴である。

 

「失礼します……呼ばれてきた比企谷です」

 

「来たか。橘、お茶の準備を頼んでいいか」

 

「はい!会長!」

 

 部屋に入ると、俺を呼び出した張本人であると堀北学と、書記の橘先輩がいた。

 他に人は見当たらないし、二人だけのようだ。……南雲がいないのは幸いだな。

 

「座ってくれ。少し話がある」

 

「うっす」

 

「……言葉遣いには気を付けてくださいね、この方をどなたと心得てます?恐れ多くもこの学校の生徒会長ですよ!」

 

 いつものように返答すると、お茶の準備をしていた橘先輩が噛みついてきた。なんか猫みたいに『ふしゃー!』って威嚇してきているが、ただ可愛いだけだった。

 ……邪推だろうが、この二人付き合ったりしていないのだろうか?噂は聞くがあくまで噂だけ。でも大体二人でいるところしか見ないのだが……まあ、どうでもいいか。

 

「すいませんした。以後気をつけます」

 

「よろしい!君は昨日の失礼な子と違ってまともですね」

 

「昨日?ということは綾小路に話した件と同じ……ってことですか」

 

「ほう、綾小路とは友人なのか?」

 

「一応そんな関係、ですかね。寮の部屋が隣で、よく一緒に飯食べたりしますよ」

 

 橘先輩が言う失礼な子って綾小路以外にいないよな。本人から話聞いたら、橘書記に噛みつかれたってぼやくように言ってたし。

 ……綾小路が話していた内容と同じなら、俺を呼んだ理由はただ一つだろう。

 

 橘先輩が入れてくれたお茶を一口飲んだところで、堀北会長が口を開いた。

 

「なら単刀直入に言おう。……比企谷、生徒会に入れ」

 

「ええっ!もしかしてとは思いましたけど本気ですか!?」

 

「……条件があります」

 

「こっちもこっちで即答しない!?」

 

「……聞こう」

 

 橘先輩がコロコロと表情を変えているのを見つつも、真っすぐにこちらに向き合ってくる堀北会長を見つめ返す。

 ……先に言っておかないと、後で文句でも言われたら嫌だからな。

 

「生徒会長を退いた後でも、南雲雅に対抗する際に協力をしてほしいこと。個人的に何かしらの策を講じる際に手伝ってほしいこと。それと三つ目は条件と言うよりも確認のようなものですが……俺自身に学校から批判が集まったとしても、生徒会は継続出来ますか?」

 

「……橘の前で言ってほしくはなかったが、まあいい。先二つの条件に関しては飲もう。三つ目については……何をする気だ」

 

「いえ、今からすぐ何かをするわけではないです。ただ、俺は俺のやり方しか出来ない。堀北会長ならご存じでしょうが、無人島での試験も優待者当ての試験でも、俺は俺のやり方でしか戦えない。ただ……」

 

 ただ、ただそれでも、守りたいと思えるものを守るだけの地位がいる。生徒会はその最たる例で、生徒会の内情を知っていくためには生徒会に所属し続けるしかない。

 Aクラスに上がったばかりの今なら問題は起きないだろうし、南雲雅が生徒会長についてからすぐに学校が変わるわけじゃないだろう。

 二学期は体育祭がメインなようだし、うちのクラスは平均的に能力が高いから心配することもそうない。

 それでも、嫌な予感がして仕方がないのだ。

 だから、目の前に座るこの男も俺や綾小路を生徒会入りさせようとした。

 

「あの~……」

 

「なんだ、橘」

 

「その、比企谷君ってBクラスからAクラスに上がったんですよね?ということは先日入った一之瀬さんと同じクラス……」

 

「……あまり邪推してやるな」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 一之瀬が生徒会に入ったってのも聞いている。

 ……入れたのが堀北会長なら、俺は生徒会入りを断っていただろう。だが、一度堀北会長は面接して一学期に落としている。

 なら何故、一之瀬が生徒会入り出来たのか。

 それは南雲副会長が推薦したからだ。一昨日嬉しそうに興奮した様子で話してきたから知っている。

 確かに一之瀬は優秀だと思う。最初からAクラスにいてもおかしくはなかったし、もしいれば坂柳の補佐をすることでAクラスは最強になっていたに違いない。

 

 問題は南雲雅が一之瀬を生徒会入りさせた理由が、優秀な人材だからという理由じゃないことだ。

 昨日、集団でモールにいた際にある程度ストーキングして会話は拾ってきたところ、無視できないことを話していたからな。

 神崎や彩加に相談することも考えたが、無暗に情報を出して他に悟られても困るのだ。

 ボッチ故にか、一人で行動する方が他人と行動するよりも効果を発揮できる。これは俺がどうにかするべき問題なのだから。

 

「分かった。その条件でいい。お前の手腕を期待している」

 

「うっす」

 

「あ、またうっすって言った!」

 

「……分かりました、生徒会の一員として頑張ります」

 

「よろしい!」

 

 軽く胸を張って満足気な橘先輩。いくら薄いとはいえ、男としてつい見てしまうのでやめていただきたい。

 

「早速だが、仕事を覚えてもらうとしよう。橘、指導を頼めるか」

 

「はい!お任せください!」

 

 あ、一つ聞き忘れてたな。

 

「あの、俺って役職何ですか。庶務?」

 

「お前には副会長をやってもらう」

 

 ……は?副会長?

 

「「えええええ!?」」

 

 橘先輩と一緒になってつい叫んでしまった。俺が副会長とかこの人何考えてるの?ボッチが学校牛耳るようになったら全員ボッチ飯だぞ。いいのか?絶対学校が楽しくなくなるぞ。

 

「いや、それ許されるんですか。今副会長には南雲先輩がいますよね」

 

「通常生徒会には副会長を二人置くことが出来る。例年では一人でやってきているが、ねじ込もうと思えば無理というわけではない」

 

「……余計に俺が警戒されますけどいいんですか」

 

「構わない。お前も、先日勧誘した綾小路もそうだが、警戒しても無駄な人間なら問題はない」

 

 えぇ、どういうことだってばよ。八幡話分かんなくなってきたよ。

 ……つまりはあれか、俺のやり方といい、綾小路のやり方といい、警戒されれば警戒を利用するだろって思われてるのか。なんだよ分かってんじゃん俺。

 

 よく塾などの勧誘冊子に掲載されている漫画の主人公のようなことを内心で思いつつ、早速仕事を覚えてから帰れということで橘先輩と共に書類整理を始める。

 

「比企谷君って一時期話題になっていましたよね。10股でしたっけ?最低だと思います!」

 

「あれデマなんで……俺は南雲副会長と違ってたまたま話していた女子がクラスのリーダー達だったってだけで、彼女もいなければ友達すら怪しい男ですよ」

 

「……ごめんなさい。もっと考えて発言するべきでしたね。良かったら友達になりましょうか?」

 

 いや、そんな憐れんだ目で見られても……あとこれまで生きてきた中で、こんなにもお情け感のある友達なりましょうは初めてである。あと年上からってのも初だな。

 

「……友達いるんで大丈夫です」

 

「さっきと言ってること矛盾してますよ!って、そんなに私と友達になるの嫌ですか!?」

 

「戸塚彩加って知ってます?もうソイツがいれば俺は生きていけるので……」

 

「あの可愛い女の子ですよね!なんだ、彼女いるんじゃないですか、もう」

 

「彩加は男ですよ」

 

「……え?嘘ですよね、あんな可愛い子が男の子なわけ……」

 

「……本当に、残念なことに男なんですよ」

 

「泣いてる!?」

 

 この人と会話するの飽きないな。感情表現が豊かなのもそうだが、反応が面白い。俺の黒歴史を語れば貰い泣きしてくれそうなレベルで感受性高そうな気がする。

 

「ほ、他には誰かいないんですか?いないですよね、ほら、先輩との繋がりはあった方がいいですよー」

 

「ああ、Cクラスの椎名って女子が癒しですね。一緒に本を読むことが多いですが、彩加とはまた違った癒しの波動を感じることが出来るので……堀北会長、連絡先交換してもらっていいですか?」

 

「椎名さん、ですか。少し前に掲示板で見た名前ですね……って!会長でもいいですけど私とも交換しましょうよ!」

 

「いや、間に合ってるんで」

 

「間に合ってないですよね!?」

 

「冗談ですよ。お願いしていいですか」

 

「ええ、ええいいですよ。困ったことがあったら何でも相談してくださいね!」

 

「目の前にいるテンション高い生徒会の先輩の対処の仕方を教えてください」

 

「それって私のことですか!?」

 

 他にいないでしょ、むしろこの人以外に居たらそれはそれでホラーである。

 しかし、まさか俺が生徒会に入ってこの二人と連絡先を交換するなんてな。部活動紹介の時には考えられなかったことだ。

 ちなみにだが、堀北会長と橘先輩、特に橘先輩が俺の目について触れてきていないのは、眼鏡をかけているからである。

 中々俺の目を隠すのに役立つので気が向いた時にかけているのだが、こういった場面でも使えるな。生徒会に行くときは眼鏡をかけておくとするか。

 

「生徒会を抜ける前に出来た後輩がこんな子だなんて……」

 

「綾小路よりはまともな自信ありますが」

 

「彼はもう別次元に失礼なので」

 

 橘先輩の中で綾小路だけ失礼な奴ランキングのぶっちぎりトップにいるんだろうな。俺は二番目か?

 

 

***

 

 

 

 しばらく仕事内容や副会長の権限などの説明もあり、作業を続けていると、気が付けば夕方になっていた。

 今回一番の収穫は生徒会の力の有無だな。

 橘先輩と話して知ったが、生徒会の自治権はそこまで大きいものではない。ただ、生徒会長の役職についた人間の優秀さで権限の大きさは変わるのだとか。

 堀北会長は歴代でもトップクラス、もしくは一番だと。そりゃそうだよなと思えてしまうから不思議だ。

 ……まあ堀北会長の呆れた様子と目をキラキラしながら伝えてくる橘先輩の温度差から、なんとなく私情が入ってる気はしたけど。

 

 今日は帰っていいと言うことなので身支度を整える。と言っても道具を返したり書類を渡したりするだけだが。

 今度は生徒会全員での顔合わせか……一之瀬にはそれまで黙っとくか。ほらあれだよ、サプライズ的な?

 

「では比企谷、これからよろしく頼む」

 

「うっす……じゃなくてはい。俺に出来ることはやってみます」

 

 またしても猫のような威嚇を堀北会長の背後から受けたため、すぐさま言葉を治す。

 一日話していて分かったが、橘先輩からは彩加と椎名に次ぐ癒しの波動を感じた。方向性は違えどマイナスイオンでも出ているかのような感じだ。

 今度から彩加、椎名、橘先輩の三大天使論を提唱していくとしよう。帰ったら白波に語るかな。

 

「ああ、最悪綾小路を動かせ。奴は底が知れない。本気を出せば南雲を完全に抑えきってくれるはずだ」

 

「俺もそう思います。会長もアイツの力の一端を垣間見たりしたんですか?」

 

「少しプライベートでな。それに、試験結果と受験時の点数を見れば誰でも怪しいと睨むだろう」

 

 あれね、全部50点取った上で『単なる偶然だ』って言い張るやつ。普通に無理があるんだよな、一番得意な国語ですら50点ぴったしの点数を取る自信はない。

 

「比企谷君、これからよろしくお願いしますね」

 

「うっす」

 

「あ、また!」

 

「では帰ります、お疲れさまです」

 

「こら、ちょっと待ってk」

 

 橘先輩が何か言っていたが、特に気にすることはないだろう。

 それよりも今日は確か彩加が料理当番だったはずだ。夕食が楽しみだぜ!

 

 

***

 

 

 彩加の肉じゃがは相変わらずの美味しさだった。

 今日は暇そうにぶらぶらしていた綾小路に俺と彩加で夕食を食べた。一之瀬と白波は女子会らしい。彩加も明日部活があるということですぐに帰り、後片付けを俺と綾小路でやっていた。

 

 ……こいつとの関係性も、明確にしておかないとな。

 

「綾小路、俺生徒会入ったわ」

 

「意外だな。比企谷なら面倒くさがって断ると思ったぞ」

 

「俺にも色々あるんだよ……でだ、少し話がしたい」

 

「なんだ?」

 

 この目、何考えてるのか本当にわかんねぇな。

 無機質で何を見ているのか分からない。俺に何も感じていない……わけではないか。少し様子見をするような感じがするしな。

 食器を洗い終わり、マッカンを二個机に出して向かい合う。

 

「ほら、とりあえず飲もうぜ」

 

「いや、オレこれ苦手……」

 

「マッカンほど糖分摂取に向いている飲み物はねぇぞ。あと千葉の水だから千葉市民の気持ちが分かるようになる」

 

「意味わかんないぞそれは……」

 

 マッカンが好きな奴、一之瀬以外いないのおかしいと思うんだよな……伊吹にも布教してみたが一口で嫌そうな顔しやがったからな。

 捨てそうだったため取り上げて飲み干したところ、間接キスとかなんとか言ってきて気まずくなったのは余談である。アイツも坂柳並みにそういうこと気にしないタイプだと思ってたのに……少し顔を赤らめられると可愛く見えるから本当にやめてほしい。

 

「さて、綾小路。俺たちの関係って何?」

 

「関係?友人とかその辺りじゃないのか?」

 

「疑問系な時点で友人じゃないんだよな……お前が力を隠してるのは既に知ってるんだし、俺の前だけなら何も気にせずに自然体でいてもらいたいんだが」

 

「隠してるも何も、オレなんて大したことない奴だぞ。堀北の方がよっぽど優秀だ」

 

「堀北はボッチの女王だからな。孤高であろうしてるが、実際はただの孤独な少女だという事は既に分かってるし。お前ならもう分かってんだろ。俺が動いていることも、何もかも」

 

「……」

 

「堀北会長と何があったかは知らんが、あの人が勧誘するってことは相当な力を感じさせる出来事があったんだろ。俺を勧誘してきたのは試験で動いてたことを把握されていたからだし」

 

「……」

 

「まぁ、そんな話をしたいわけじゃない。俺の本題はーーーー」

 

「……!」

 

 初めて見たかもしれない。綾小路が目を見開くところなど入学してすぐのあたりから付き合ってきているが、見た覚えがない。

 底が知れない、どんな人間かもわからない。人間観察には自信があるが、全くわからない存在が綾小路清隆という男だ。

 ただ、どうやら学生として青春を謳歌したいと思ってるっぽい事は、所々で感じる時はある。事なかれ主義を謳っているのも騒動や試験で目立つことがないようにするためだろう。試験で何かすれば嫌でも目立つからな。

 その割にちょくちょく動いてるっぽいのは、堀北に連れ回されているのもあるだろうが茶柱先生が関わっている可能性が高いだろう。星之宮先生の愚痴の中で出てくるサエちゃんたる人物はあの人しかいない。

 

 少なくとも綾小路はAクラスを目指していない。俺と同じで、卒業出来ればそれでいいと思ってそうだしな。

 なら俺らは、互いのことを友人と、しっかりと見て関係を築いていけるのではないだろうか。協力できることもあるのではないだろうか。

 

「……参ったな。悪い部分が見当たらないとは」

 

「途中から俺を観察していたお前なら分かってただろ?」

 

「いや、オレはお前なら離れていくと思っていた」

 

 確かに、入学する時の俺ならばそうしていただろうし、無人島であんな無茶はしなかっただろうし、龍園と契約を結ぶこともなかっただろう。

 それだけ、俺は変えられてしまった。気づかないうちに変わっている部分があるのだろう。変わらない部分もあるが、環境に染められていることは時に感じることがある。

 そして、そんなアイツらには笑っていて欲しい。苦々しい、楽しくなさそうな顔はアイツらには似合わない。

 だから俺は動くのだろうし、生徒会にも入ったのだろう。

 

「俺も成長したってことさ」

 

「ぼっちが成長すると何に進化するんだ?」

 

「エリートぼっちだな。なんでも一人でこなせるようになる」

 

「飯作ってもらってる上に半共同生活してる奴がぼっちって、おかしいと思わないか?」

 

「……ふっ、甘いな綾小路。要は在り方の問題だ。今でも一人の時間が好きなのは変わらないし、マッカン好きなことも一生変わらないからな」

 

「マッカンはぼっちの必須アイテムか何かか?」

 

「俺は常時装備だと思ってるぞ」

 

「ってことはオレはぼっちじゃない、ってことになるのか?」

 

「良かったな」

 

「…要件は分かった、お前の提案を受け入れる。改めてよろしくな、比企谷」

 

「おう、俺の方こそ」

 

 一先ずは、こいつに見捨てられない程に力をつけるとしますかね。

 




書いてて思ったのは、東育って結構ボッチ多くね?ってこと。
人とは接していても友達というよりも部下だったり手下だったりと、一人であることに変わりはない人間も含めれば、結構ボッチ多い気がしました。
ボッチとボッチは惹かれ合うことを前提に、これからも話を書いていきますね。

生徒会に関しては原作から変わっていく部分も出てきますが、最終的には南雲VS比企谷的な構図が完成予定。
だって南雲の噛ませ犬のような扱いを見ていると、比企谷とちょうど釣り合うような気がしないでもないんで……綾小路に張り合おうとするのは無謀ということで比企谷君で我慢してください。
VS構図とは言えども表面的には掛け合いのような会話ばかりして、特別試験時だけ互いに互いを意識してるような描写になるとは思いますが……上級生が出てくるようになるだけでこんなにも面白そうになるとは、よう実って凄いですね……。

あと、この回の内容は色々と伏線入れてます。既に脳内では一年生編の春休みが再生されているのでそこから逆算して書いてたりします。未熟な文には変わりないですが。

最後に評価&感想をポチポチしてくれるとやる気出てくるので更新速度上昇が見込めます。
ではまた次の話で。
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