やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。 作:シェイド
結構考えた結果、こんな感じの出来事を作ってみました。
……正直言ってよう実も俺ガイルも原作読んだとはいえ、よう実に関しては借りていたこともあり、詳しく読んだのは8巻までだったり……ウィキペディアとかアニメとか色々参考にはしてるんですが、矛盾が起こってるかもしれません。
BクラスとCクラスの小競り合いって具体的に書かれましたっけ?作者の知識になかったため、八幡を使ってみました。
人によっては「意味不明」となるやもしれませんが、楽しんでいただけると嬉しいです。
その日の空色は、どんよりとした雲が広がっていた。それにこの独特な雨の匂い。夜のうちに一度降ったのか、近いうちに雨が降るのか、今日の降水確率は40%と微妙である。
もし降ったら傘を買いに行くか。びしょ濡れはさすがに嫌だしな。
今日は5月1日。つまりは今月のポイントが振り込まれる日だ。
俺は興味半分怖さ半分で学生証端末を操作し、自身のポイントを確認する。
「13万5288……ってことは、今日は6万1000振り込まれたってことか」
昨日までのポイントは確か7万4288だったから、間違いないはずだ。6万でも大金なんだがな……最初に10万も渡されたためか、そこまで嬉しいと感じなくなっている。
これはあれだね、絶対に卒業したら金銭感覚死んでるんだろうね。
とりあえず学校行くか。
学校に着き、自分の席に座る。今日もHRまでは寝たふりだな。
クラスメイト達は楽しそうに会話……いや、少し焦った感じか?大方今月のポイントが6万だったことが関係してそうだ。
むしろそれ以外に話題はないと思うが、俺は関係ありませんとばかりに気配を消す。
どういうことで4万も減ったかは分からないが、少なからず俺が数学で寝てしまったことがマイナスに響いているだろう。
クラスメイトは俺が寝ていたことに誰も気づいていなかったようだし、この事実は墓まで持っていこう。よし、そうしよう。
さて、寝たふりするか……と腕を組んだ辺りで、視界に小さな手がひょいひょいと揺れていることに気づく。
ん?誰だ…と顔を上げると、俺の前に戸塚彩加が立っていた。
「おはよ」
くすっと微笑むようにして、戸塚が挨拶をしてくれる。
「……毎朝、俺の味噌汁を作ってくれ」
「え、ええ!?ど、どういう……」
「あ、いやなんでもない。ちょっとボケてただけだ。すまん」
あぶね、うっかりプロポーズしちまってた。くそ、なんでこいつこんな無駄に可愛いんだよ。男なのに!男なのに!!男だから?どうして男なんだ?
毎朝味噌汁作ってくれねぇかなぁ。材料費は払うからさ、無理か。
……何故か一人のクラスメイトがこちらを見ている気がするが気のせいだろう。
うん、気のせい気のせい。だからこっちガン見してる女のことなんか知らない。ものすごいキラキラした目線を送ってきてるけど知らないったら知らない!
「あ、それでね比企谷くん。今日、ポイント増えてた?」
「おう。6万1000ポイント入ってたぞ」
「やっぱり6万1000なんだ……比企谷くんの言ってた通りみたいだね」
「そうだな」
「は~い、みんな席についてね~HRを始めまーす」
「あ、じゃあ比企谷くん、またあとで」
バイバイ、と手を振る戸塚は天使だと思いました。
星之宮先生は全員が席についたのを確認し、持ってきた紙を黒板に張り付ける。
そこには、
・Aクラス 940
・Bクラス 610
・Cクラス 490
・Dクラス 0
と書かれていた。
「あの、先生。それは……?」
クラスの男子が訊ねる。マジでなんの数字?Dとか0だぞ……0?
「これはクラスポイントって言ってね。毎月皆に支給されるプライベートポイントはこのクラスポイント×100になってる仕組みなの。だから皆には今日6万1000ポイント振り込まれてると思うんだけど……Bクラスの610はまずまずの数字かなー」
星之宮先生によって、この学園の真の姿が明らかにされた。
この学校は生徒を実力で測っている。リアルタイムで生徒を監視しつつ、評価はクラス単位で行われる。
一人の行動が他のクラスメイト全員に降りかかるということだ。
元々1000クラスポイントあったわけだが、Bクラスは390ポイント失い、610となっている。
約400ポイント失うような行動をしてきたということか。
これあれだよな、居眠りしたの絶対響いてるだろ……やっぱ黙っておくべきだな。
「先生、ポイント増減の詳細って、教えてもらえますか?」
あの巨にゅ……自己紹介を提案していた奴が星之宮先生に質問している。
こうしてみると……やっぱ星之宮先生も大き……いや、なんでもないです。
一瞬だけ胸に目線がいっただけなのにこっちに笑みを送ってきた挙句、目が全く笑ってなかったんだけど。何故バレたし。
「ごめんねー、詳細は学校の決まりで教えられないことになってるの。社会に出てからも企業によっては教えてくれないところもあるから、同じようにしてるんだー」
「そうなんですか…。クラスポイントを増やす方法はあるんですか?」
「もちろんあるよ。早いところで言えば次の中間試験。そこで好成績を取れたら、成績次第だけどポイントが増えるようになってるんだー。で、これを見てくれる?」
そう言って星之宮先生が新たに貼った紙には、先日行われた小テストの点数が載っていた。
おっ、ちょうど真ん中に俺の名前があるな。小テストは主要五教科の問題が数問ずつあったのだが、数学は全くと言っていいほど解けなかったし、理科も二問しか分からなかったのだが、文系科目に救われたようである。
つーか最後の3問は見たこともない問題だったぞ…数学に関しては難易度の変化が全然わからなかったけどな。
「今回のテストだと赤点はいなかったけど……もしこれからの定期試験で一教科でも赤点を取ったら退学になっちゃうから、気を付けてねー」
一教科でも、赤点だと退学……?え、いや待て。聞いてないぞそんなの!
自慢じゃないが、俺は中学三年の秋までは数学の赤点常連だった。理科は二回に一回のペースだったな。まったく自慢じゃないなホントに……。
数学と理科をどうするべきか頭を悩ませていると、あっ、と言うのを忘れていたとばかりに星之宮先生は続ける。
「皆がこの学校を選んだ理由には、就職先や進学先にほぼ100%応えるところがあると思うんだけどー、それはAクラスのみだから、頑張って上のクラスを目指してね」
「「「え……?」」」
「これで今日のHRは終わりでーす」
星之宮先生は伝えることは伝えたとばかり、黒板に貼った紙を回収して教室から出ていった。
途端、教室が騒がしくなる。
まぁ当然のことだろうな。俺もある程度予想はしていたとはいえ、実際に聞くと驚きが強かった。
特に監視カメラによるリアルタイムで生徒を評価する……下手なことができないってわけだ。これなら暴力沙汰も減るだろうし、悪くないと言えば悪くないが、いつでもどこでも見られていると思うと緊張するな……。
クラスポイントとプライベートポイント、Sシステムの謎だった部分が明かされたこともそうだ。Aの940とかどうなってんのと思いはしたが、普段の素行なども査定の対象なんだろうか。
Dの0は……ご愁傷様としか言いようがない。綾小路、ドンマイ!
これで今月の6万ポイントの謎も多少は解決したし、目下の問題は次の中間試験だ。
理数系がまずい、ほんとにシャレにならんレベルでまずいんだが……。
「みんな!少し聞いてくれるかな?」
ざわざわと周囲と話していたクラスメイト達が一斉に静まり、先ほど質問していた少女に注目する。
やはりこのクラスは彼女を中心に回っていくようである。
「星之宮先生の話を聞いて、色々不満に思ったり、考えることもあると思うの。私だってそうだし、みんなもそうなんじゃないかな?だから、今日の放課後にこれからのことを皆で話し合わない?今からだと授業もあるし、時間が足りないしね」
「賛成!」
「一之瀬さんが言うならそれがいいよ!」
「朝の時間だけだと足りないだろうし、俺もいいと思うぜ」
クラスの方針は決まったらしい。これはあれですか、全員参加の流れですかね……まあ、さすがにそうか。こんな制度、他の高校ではやってないだろうしな。
一之瀬の言葉に反論は出ず、放課後にクラス全体での話し合いが決まった。
***
午前の授業を終え、俺は総菜パンにおにぎりをコンビニで買ってからベストプレイスへと向かう。
週3くらいで昼休みはここを利用している。
星之宮先生に会うことを考えればなかなか足を遠のくのだが、マッ缶あるし、一人になれる上にグラウンドを見渡せる。さらにマッ缶買えるしな。マッ缶好きすぎかよ。
雨の日は人が込み合う前に学食を使うか、図書館で過ごしている。無料の山菜定食も毎日でなければ食べられるし、なによりお得だ。0ポイントだし。
腹が減ってない時は図書館で時間を潰す。昼休みが始まったばかりならそこまで人がおらず、一人席を確保しやすい。
ここの図書館の蔵書数はすさまじく、市立図書館と言われても納得できてしまう多さである。
いっそのこと、図書館の本を全て読みつくすのを目標にしてもいいかもしれない。まあ、無理だろうが。
「あ、比企谷君だー」
「……うっす」
「私も一緒に食べていい?」
「……どうぞ。別に俺の場所でもないんで」
あーあ、俺の楽しい楽しいボッチ飯が終わりを告げちまったぜ。
ここで断るのは簡単だが、前に断ったら「HRの時に比企谷君に傷物にされたって話すよ?」「あのツーショット写真、公開してもいいんだよ~?」などと言ってきたので、既に断ることは無理だと諦めている。
半強制的ではあるものの、星之宮先生と一緒に昼飯を食べることは四月にも何度かあったし、もう慣れたものだ。
まあ、ほとんど星之宮先生の愚痴を聞くだけの時間になっているが。
正直鬱陶しいことこの上ないものの、マッ缶の持つ魔力には逆らえず、ここに通っているのだ。
……先生と話すことを悪くないと、感じているのも少しくらいあるかもしれない。いいよね、女教師って。女の先生より女教師と表記した方がエロさが倍増すると思うのは俺だけなのだろうか?
「今日の話、びっくりした?」
「そりゃあ、驚きましたよ。個人の評価がクラスの評価に響くなんてぼっち殺しもいいところでしょ。もっとぼっちに優しい制度にはならないんですかね」
「数学の時間寝てたもんねー」
「そ、それは秘密に……って、やっぱ授業態度も関係あるんすか」
「いやーどうだろうねー?」
あくまで何がとは明言しないつもりなのだろう。もしくは明言できないのか。わからないことはまだまだ尽きないが、それも学校で過ごしていくうちにわかってくるはずだ。
「ま、私としては比企谷君に退学してほしくないから、次の中間頑張ってね」
「……別に俺が退学になろうと先生には関係ないんじゃないんですか?」
「だって~せっかくのおも……担当クラスの子なんだから、退学になってほしくないのは当たり前だよ~」
おい、この人今おもちゃって言おうとした?面白いの間違いだよね、そうだよね?そうだと思いたい。
確かに俺としても退学は避けたい。小町とも約束したし、戸塚と一緒に学校生活送れなくなるし、小町と口利けなくなる!小町と戸塚のこと好きすぎかよ。
「そうそう、聞いてよ比企谷君ー。前に付き合った彼氏がね……」
その後はいつも通り、星之宮先生の男の愚痴を延々と聞かされた。
こういう場合、女子は何かを言ってほしいのではなく、ただ聞いてほしいだけということは小町から習い済みだ。
俺は適度に聞き流しつつ相打ちを打ち、昼休みを過ごした。
午後の授業も終わり、放課後になった。
朝、一之瀬が提案したように話し合いを行うらしく、部活がある生徒も今日は休みをとって参加するようで、全員が壇上に立つ一之瀬に注目する。
「まずは、この学校のシステムをおさらいしようか」
・クラスポイントはクラス全体の評価(Bクラスは600)
・プライベートポイントはクラスポイント×100配布される
・Aクラス以外は就職、進学の恩恵が得られない
・定期試験でクラスポイントは増やせるが、赤点は退学処分
今日の星之宮先生の説明からわかることを書き出すと、一之瀬はクラス全体を見渡す。
「とりあえず、今わかることはこれくらいだと思うんだけど……質問ある人はいるかな?」
誰も手を挙げないため、一之瀬が続ける。
「まず、Aクラスを目指すことに反対の人っている?」
これには大半が首を横に振った。
そりゃそうだ。誰であろうと、少なからず就職・進学100%の恩恵を求めてこの学校に進学しているはずだ。それを受けるためにAクラスを目指すのは、至極当然のことだろう。
一之瀬は黒板に『目指せ!Aクラス!』と書き、続ける。
「これからのことについて、何か意見がある人は手を挙げてみて」
これには数人が手を挙げたため、一人ずつ意見を聞いて黒板に書き写していく。
・委員会制度を作る
・プライベートポイントを貯金する制度を作る
・これまで以上に生活態度を改める
・中間試験に向けて勉強会を開く
ホントにこのクラス真面目だな。全員が真剣に一之瀬を中心に議論している。
俺は聞いていますアピールをしつつ、半分は流してたりする。一人くらい不真面目でもなんとかなるだろ、多分。
「委員会制度って、役割を決めるってこと?」
「そう、これから学校生活を送っていく中で、まとめ役は必要だと思うんだ。それに、文化祭とか体育祭があったときにスムーズに動けた方がいいかなって」
「賛成です!」
「いいと思うけど、役職はどんなのを作るんだ?」
「うーん、学級委員長と副委員長、書記ぐらいでいいんじゃないかな。あとは必要になったらその都度決めていくって感じで!」
「それがいいか」
「じゃあ誰が学級委員長するー?」
「あ、私やっていいかな?」
「一之瀬さんでいいと思う!」
などなど、色んなことが話し合われた結果、一之瀬が学級委員長に。
神崎というイケメン男子が副委員長に。
書記は……名前の知らない女子が選ばれたようだ。
貯金制度に関しては、一之瀬に集めることになった。学級委員長であるし、信頼に値するという評価からそうなったのだが、俺からしたら関わったことない女子など信じる気にはなれない。
ま、まぁクラス全員がポイントを出しているのに俺が出さないわけにもいかないし?毎月各自2万ポイント預けることが決まったので、俺のポイントは11万3956ポイントとなった。
4月分も回収するのね……。
生活態度に関しては言うまでもなく、これまで以上に気を付けていくことが決まった。
そして勉強会についてだが……
「部活組と帰宅部組で分けて、休日は集まれる人でやるってことでいい?一人でやった方が効率が上がる人もいるかもしれないから、休日は自由参加ってことにしようと思うんだけど、どうかな?」
これも賛成する声は上がっても反対意見は出ない。平日は拘束される時間ができるかもしれないが、一人の成績がクラス全体の評価に関わってくることを考えれば、一人一人にまかせっきりというのは不安だろう。
もし、勉強会に顔を出さず、成績が悪かった時には言い争いになることも考えられる。
俺は理系科目……特に数学は人に教えてもらわなかったら赤点だと確信できる。それに、参加しなかったらしなかったで色々めんどくさそうだし、平日は参加しよう。
***
翌日。
俺はいつも通り一人で登校し、靴箱を開ける。
「ん?」
するとそこには、何やら可愛らしい手紙が。
こ、これはもしや……!いや、ないな。俺はこの学校に入ってから女子とは特に会話していない。
全クラスの同級生とも友達になりたいって言ってきたDクラスの櫛田(連絡先交換とか言ってきたが断っている)や入学式の日に坂柳と会話した以外、事務的連絡以外は全くと言っていいほど話していないのだ。
中学の時もそうだったろ?す、少しは会話してんだよ!……ほ、ほんとだよ?
戸塚?戸塚はあれだろ、性別戸塚だからいいんだよ。星之宮先生は……あれは女子という年齢じゃないだろ?きゅ、急に悪寒が!この話はやめとこう。
これらのことから察するに、これはあれだな、呼び出してリンチにするパターンだ。『俺の彼女に変な目向けてんじゃねえよ!』とか何とかいわれて、隠れてた男どもが一斉に襲ってくるのだ。
どうせ嬉しくない呼び出しに決まっているが、念には念のため、中身を見る。
『今日の放課後、特別棟三階で待ってる』
差出人はCクラスの伊吹とか言う奴で、字的にも女だ。
………え?
これは、もしかするともしかするのか?いやいやないない。絶対あり得ない……でもあり得る、のか?
とりあえず手紙は鞄にしまい、教室へと向かう。
途中、Cクラスを通るときにちらっと中を見ると、ショートカットの女の子と目が合い、逸らされた。
も、もしやあの子、なのか……?
結局、今日の授業は集中できず、手紙のことで頭がいっぱいになってしまっていた。
気づけば授業は終わり、放課後になっていた。
今日の授業内容ほとんど頭に入ってないぞ……。
「じゃあ勉強会やろうと思うんだけど、都合つかない人とかいる?」
一之瀬が帰宅部組に問う。これ、俺に当てはまるよな。
「悪い、ちょっと用事があるから部活組の方に参加するってことでいいか?」
「うん、用事が終わってから参加するならいいよ。比企谷くん以外にはいる?」
どうやら他にはいないようで、俺だけ部活組の方に加わる形で承諾を得た。
クラスメイト達が図書館に向かう中、俺は一人、特別棟に向かった。
あの手紙の真意は分からないが、待ちぼうけをくらう程度の嫌がらせなら特に問題はない。男どもが襲ってくるのが最悪ではあるが……ないことを祈ろう。
そ、それにガチの可能性もあるしな!わざわざ監視カメラのない場所を選ぶってことは、聞かれたりしたくないってことだろう。なら告白だってないわけじゃないはずだ……ないか。
「あ、来てくれたんだ」
「お、おう……」
特別棟の三階には、すでに伊吹と思わしき女子生徒が待っていた。朝視線が合った奴と同一人物である。
な、なんか緊張してきたな……いや、待て。嫌がらせに決まってるだろ。確かにここに来るまで他の生徒とは会わなかったが、近くに潜んでいるに違いない。
「あ、あのさ、実は私……」
伊吹が何かを告げようとする前に、俺は言った。
「おーい!どうせ其処ら辺に隠れてるんだろ?出て来いよ、いたずらなのはわかってんだぞー!」
「え、ちょ、アンタ何言って!?」
「早くしろよ、俺だって暇じゃないだっての。出てこないなら帰っていい?」
伊吹は何やら慌てているが、どうせ何かしらのいたずらに決まっている。
だって俺、伊吹と話したことすらないんだぜ?これで俺が超絶イケメンなら話は別だろうが、生憎この目だ。加えて常に猫背で愛想も悪いと、好かれる理由はどこにもない。
「へっ、バレてんなら話が早いぜ!」
「だな、わざわざ隠れてる意味もなかったか」
「伊吹、ここからは俺たちの仕事だ」
ほらな、やっぱり。上の階段と近くの掃除道具入れから三人の男が現れる。
予想はしてたが、これリンチパターンかよ……嫌なやつだが、逃げ出して後から延々と狙われるほうが面倒だ。大人しくしとくか。
べ、別に抵抗したって勝てそうもないなんて思ってないんだからね!……まず3対1だし、負けは確定しているも同然だ。1対1でも同じだって?ほっとけ!
「で、なんでこんなことしたんだ?」
「お前のその目、前から気持ち悪かったんだよ!」
目かよ。もう眼鏡買いに行こうかな、ほんとに。碌なことが全くない上にここまでケチつけられたらどうにかしたくなる。
そんなことを考えていた俺に対し、いきなりの鳩尾への一撃。俺は躱せずにモロにくらい、地面に倒れる。倒れたら蹴られる。手で防ごうとするが、何の防御にもならない。
「痛っ……」
「悪く思うんじゃねえぞ!」
「ここは監視カメラねえからな!」
「やりたい放題だぜ!」
三人がかりで起こされては殴られ、倒れては蹴られ、唾は吐かれ……それはもう徹底的に暴行され続けた。
***
一時間程度経ったぐらいだろうか。ようやく満足したのか、それともこれ以上血を流させてもめんどくさいと思ったのか、三人は俺の鞄を探ったあとで、階段を降りて行った。
「ぐっ……これ、折れてるか?」
左腕が折れたかもしれない。感覚がまるでなく、体が熱くなっていく。
勘違いはしないと決めていたんだがな……俺もまだまだってわけか。
告白ではないと思いつつも、心のどこかでは少しばかり期待していた。その結果がこれだ。世の中そんな上手くいかないのは分かっていたのにな。
「これ、使いなよ」
声のした方を見れば伊吹がいた。
どうやら彼女はずっといたようだ。Cクラスであることには違いないから、先程の男子もCクラスなのだろう。
なんとなくだけど戸塚と伊吹の声は似てるような……戸塚の方が可愛いけどな!
「……ああ」
伊吹から渡されたハンカチで口元を拭く。倒れていた身体を少し起こし、周りを見ると、吐血していたこともあり血が飛び散っていた。これを処理するのが伊吹の役割なのだろう。
ならこれは仕組まれたもの……だとしても理由がないはずだ。一体何のために?
クラスメイトすら把握していない俺だが、Cクラスを仕切ってそうな奴は見かけたことくらいはある。
龍園とか呼ばれてた男だ。今日の朝もハーフであろう黒人を連れていて、おっかない雰囲気を醸し出していた。
見るからに危険人物だ。関わりたくもない。
「悪いね、私は指示されてやらされただけ、恨むならノコノコやってきた自分を恨んで」
「……別に恨んだりしねえよ。俺の自業自得だ」
伊吹の言う通り、罠だと気づいていながらここまで一人で来た俺が悪い。告白かも……なんて一瞬でも考えてしまった時点でここに来ることは決まっていた。
誰かについてきてもらうことも考えたが、さっきみたく暴力を振るわれる可能性も考えられたし、一人で来ることも決まっていた。
ついてきてもらう人がいないって?いや、戸塚がいるし。もちろん戸塚にはテニス部がある上に、こんなことになる可能性を考えれば自ずと候補から消える。あ、いないわ……。
「ハンカチ、どうしたらいい。洗って帰そうか?」
「いや、そのままでいい」
「わかった」
本人がそう言うなら問題ないだろう。ハンカチを返し、俺は鞄を取りこの場をあとにしようとする。
―――そのとき。
風が吹いた。どこかの窓が開いていたようで強い風が入ってきた。それにより伊吹のスカートがめくれ、慌てて押さえつけている。
突然のことだったからか、押さえつけるのが少し遅れ、パンツが見えた。
おい、でかしたぞこの風マジよくやった!暴力を振るわれるだけじゃかわいそうだと、神が俺にいいことをしてくれたのかもしれない。
「青か……」
「っ!変態!」
「がはっ……!」
つい漏れてしまった言葉は伊吹を怒らせたようで、良い蹴りが飛んできた。咄嗟に右腕でガードしようとするも間に合わずモロにくらう。うっ、身体全身に響いたせいでめっちゃ痛い!
足を上げたおかげでまたしても青のパンツが見えたのだが、今度は素直に喜べなかった。今日は災難なのか良い日なのか分から…災難な日ですね。
その後は保健室に出向き、星之宮先生に手当てをしてもらった。幸いにも腕は折れていなかったが、しばらくは動かさないほうがいいとギプスを付けられた。
この格好で勉強会行くとかめっちゃ嫌なんだけど……行くしかないか。
一之瀬に具合が悪くて休むとメールする方が面倒だしな。
***
「これで全員かな、一之瀬さん」
「えっとね、今日は比企谷くんが放課後に用事があるって言ってたから、運動部組の方に参加することになってるんだけど……」
「まだ来てないっぽいな……」
「こうしてる時間ももったいないし、先に始めようか。チャットの方に連絡しておいて30分経っても来なかったらまた考えよう」
「そうだね」
僕はテニス部に所属しているから部活組の方で、比企谷くんは帰宅部だから一緒に勉強会出来ないって思ってた。だけど、どうやら一緒にできるらしい。
比企谷くんと一緒に勉強かぁ……なんだか中学の時の塾を思い出すや。
僕は男の子なのに、女の子らしい見た目のせいでよくナンパとかされたりする。ここの学校を選んだのも、そういうことがなくなりますようにってことも含まれてたりするんだよね。
テニスにも勉強にも集中できる環境が手に入るってパンフレットに書かれているのを見て、ここだ!って思ったんだ。
比企谷くんとは中学校は違ったんだけど、通ってる塾が一緒だった。比企谷くんはいつも一人で勉強してたから、特別接点はなかった。
でも、ある時塾近くのコンビニ前で、高校生らしき男の人二人組に声をかけられた。
一緒に遊ぼうとか、いろいろ言ってきて、僕が男の子だって言っても全く信じる様子もなくて、無理やり引っ張っていかれそうになってた。
そんな時、比企谷くんが助けてくれたんだ。
写真を撮ってから、『嫌がってる女子中学生を無理矢理連れて行こうとする男子高校生の図』とか言いつつ、警察に通報するって脅したり、周囲の目を気にしないのか、なーんて言って助けてくれたんだ。
同じ塾に通ってるっていう間柄だった僕たちだったけど、その助けてから颯爽と去っていく姿がかっこよくって、次の塾の日から僕は少しづつ、比企谷くんとお話しするようになった。
最初はうまく話せなくって、比企谷くんもあんまり乗り気じゃなかった気もするんだけど、夏合宿とかで一緒の部屋になったり、休日に遊んだりするうちにだいぶ話すようになったんだっけ。
僕が東京都高度育成学校に行くつもりだって話して、少し紹介してあげたら、比企谷くんも興味を持ったのか志望校を変更していた。
僕が比企谷くんと同じ学校に通いたいなぁ、っていうエゴな部分もあったから、あんまり期待はしてなかったんだけど、今では同じ学校に進学して同じクラスだ。
だから、もっと仲良くなりたいんだけどなぁ……でも今は勉強勉強!テニスも大事だけど、赤点を一つでも取ったら退学だし、クラスのみんなに迷惑をかけたくないし、頑張ろう。………比企谷くんまだかな……。
部活組の勉強会が始まって20分くらいした頃、比企谷くんがようやく現れた。
だけど……。
「比企谷くん、それ!?」
「…ちょっとな」
「結構酷いね。比企谷くん、何かあったの?」
「……あーなんだ、その……階段から転げ落ちてしまってですね……」
比企谷くんは目線を逸らしながら僕や一之瀬さんの質問に答える。だけど、階段から転げ落ちたとしても、全身に傷を負うだろうか。
うんん、そんなわけない!
「比企谷くん、本当は何があったの?」
「と、戸塚……だから階段から落ちたって」
「嘘だよ……比企谷くん、歩きづらそうにしてる。足も怪我してるんでしょ?」
これでもテニスをやってて怪我もしたことがある。他の部員の怪我を見たことあるし、その状態もわかる。
比企谷くんは両足とも歩きづらそうだ。それに、顔にも大きなガーゼをしてる。首も赤くなってるし、腕なんて包帯を巻いている。階段から転げ落ちたくらいでこれはあまりにも不自然だ。
それに……。
「比企谷くん……」
「な、なんだ?」
「そんなに、僕って信用ないのかな……一応僕たち付き合いが長かったりするでしょ?だけど比企谷くん、重要なことはいつも話してくれない……」
自然と体の前で握りこぶしを作ってしまう。塾の時だって一度だけこんなことがあった。比企谷くんはなんともなさそうにしてたけど、僕は見ていたのだ。
塾の生徒数人に、暴行されていた比企谷くんを。
その時だって、比企谷くんは何も話してくれなかった。それは、比企谷くんの強さなのかもしれない……だけど。
「僕は……」
「……はあ、わかったよ、降参だ。あんまり大事にしたくなかったし、他のクラスメイトにだって伝えるつもりはなかったんだがな」
比企谷くんは隠すことを諦めたかのように、一つため息をついた。伝えるつもりがなかったって発言のせいか、少し他のクラスメイト達も動揺しているように感じる。
そして、比企谷くんは教えてくれた。
今日、Cクラスの女子に手紙をもらい、特別棟に一人向かったこと。
そこには一人の女子が待っていたけど、それは罠だったこと。
隠れていた男子三人に襲われ、暴力を受けたこと。
それが、多分Cクラスの仕組んだものであるということ。
「なんだよ、それ。比企谷がとばっちり受けただけじゃねえか!」
「俺の目が気持ち悪いってのは否定できないんだがな」
「そこは否定しようぜ……」
「このこと、学校に訴えようよ!一方的にやられたなら、相手が全面的に悪いんだしさ!ね、一之瀬さん!」
「うーん、それは……」
「難しいだろうな」
「俺もそう思う。だから、話したくなかったんだよ……」
クラスメイト達は憤慨した様子で、Cクラスを訴えようと提案してるけど、一之瀬さんと神崎君、それに比企谷くんは難しい顔をしている。
どうしてだろう?
「まず、この件は目撃者がいない。Bクラス側がCクラス側を訴えても、俺が一方的にやられたという証明は難しい」
「それと、特別棟はこの学校内では稀有な場所でねー」
「確か、監視カメラがなかったな」
「そう、神崎くんの言う通り。だから特別棟に呼び出したんだろうね、汚い手使うなぁ……」
「で、でもそれだと、比企谷だけがこんな怪我したってことになるじゃないか!それはいくらなんでも……」
「そうだよ!こんなこと許せるわけないよ!」
そう、そうだよ……どうして、比企谷くんがそんな目に合わなきゃいけないの……?どうして、比企谷くんが我慢しないといけないの……?
「そんなの、許せるわけないんだよ……」
僕の発言は周囲に響いたのか、シン……と辺りが静かになる。
こんなにイライラするのは初めてだな……。
「とりあえず、今日の勉強会は一旦中断ね。この問題をどうするか、話し合おうか」
***
案の定俺が勉強会の会場に現れると、Bクラス全体が騒然となった。
そりゃそうだ。なにせ、教室にいた時はこんな格好じゃなかったわけだし。
勉強会は中断、この問題についての話し合いが始まったのだが……。
「学校に訴えてよくねえか?比企谷の怪我の状態が何よりの証拠だ。向こうだって証拠がないんじゃ、否定のしようがないだろ」
「でもさ、特別棟っていうのが難しいところだよね。監視カメラがなくて、肝心の手紙自体がないなら、Bクラスのでっち上げだって捉えられることも考えられない?」
「そ、そうか……」
そうなのだ。三人の男子が俺の鞄を漁っていたのは、件の手紙を回収するためだった。手紙がなきゃ、呼び出されたっていうところから立証することが難しくなる。
もしも俺が伊吹と共に特別棟に入ったりしていたら話は違ってくるが、待たれていたわけだしな。
そもそも何が目的なのかが不可解だ。CクラスがBクラスを狙ったっていうことだけなら、上のクラスを目指すこの学校の仕組み的におかしいところはない。
だが、暴力をする意味がない。そんなことをしたら、最悪の場合訴えられることは分かってるはず。
力のあり余った馬鹿でもない限り、ではあるが。
いや、意味なんて簡単に分かるのかもしれない。現に今、勉強会を中断して問題をどうにかしようと躍起になっている。Bクラスの団結力を利用した妨害とも捉えられる。少し前、Cクラスの連中に絡まれてるうちのクラスメイトを見たが、確かあの時は一之瀬が介入してなんとかなったんだっけ。クラスの事に興味がないからか、そういった情報は全然分からない。
なんにせよ、何かしら目的があることは確実だ。
分からないことを考えたってしょうがない。時間はどんどん過ぎていく。試験が三週間後だからとは言っても、赤点を取れば即退学の一発勝負なテスト。誰しもが不安なはずだ。
なら、俺は。俺がすべきことは……
「……はぁ、だから言いたくなかったんだよ」
「……どういう意味だ?」
「この一ヵ月、俺が見る限りじゃあ、Bクラスはお人好しだらけだ。現に今、中間考査に向けての勉強会を中断してこうやって話し合ってる」
「そ、それはお前のためを思ってのことで!」
わかってるよ、そんなことはわかってる。このクラスはコミュ力が高いだけではなく、誰かが困ってたりしたら快く手を差し伸べられるような、そんな人間ばかりだ。
本当に、俺がこのクラスに配属されたことが間違いだって思うくらいにはな。
だからこそ、こいつらは誰一人見捨てないだろう。クラスメイトで、特に交友関係がなかったとしても、このような事態が起これば真剣に話し合い、解決しようとする。
それは彼ら、彼女らの中では普通のことかもしれない。俺に否定する権利なんてないのかもしれない。
それでも俺は、どうしてもクラスメイト達のようには成れる気がしない。
「さっきから話し合ってることだが………いつ、誰がそんなこと頼んだんだ?」
「……どういう意味かな?」
「言葉のまんまだよ。……一之瀬、お前は凄いやつだ。クラスを入学してからすぐにまとめ上げ、星之宮先生から聞かされたこの学校の実態もすぐに把握し、これからの方針を固めた。他のクラスメイトだってそうだ。驚いたこともあったかもしれないが、クラスで団結してAクラスを目指すために頑張ろうとしている」
俺みたいに最底辺の人間なんかじゃない、俺が昔求めた、そんな光景そのもの。
Bクラスにいるだけで居心地が悪くなるのは、俺もそんな風に接することができるかもしれないと、思ってしまうからなんだろう。
「何が言いたい」
「要はだな、俺は別に、今回の件を問題にするつもりはないし、元からどうこうしようだなんて思ってなかった。だから最初に嘘をついたんだよ……だからやめてくれ。俺のことで無駄な時間を使う必要はない」
これ以上、不必要に優しくするのはやめてくれ。
クラスの一員として迷惑をかけるつもりはないし、Aクラスを目指すってことも邪魔をする気はない。
だからこそ、俺なんかに時間を使うことは無駄でしかないし非効率なのだ。
「比企谷くんは、そう望んでるんだね」
「ああ、そうだ。だからやめてくれ。こんな不毛な時間は誰にとっても無意味だろ」
これでいい、これで。
クラス全体を巻き込んでまで、解決に当たる問題じゃねーよ。
ただ最底辺の人間が、偶然目を付けられた、暴力を振るわれた。それだけなんだ。
「……不毛なんかじゃ、ない」
この話は終わりだと、俺は勉強道具を広げて行動で示そうとした。
だが、まだ終わらせてくれないらしい。
「……無駄な時間なんかじゃ、ない」
意外にも、そう声を出したのは。
―――――戸塚だった。
「比企谷くんの馬鹿!!」
パチッ。
辺りに音が響く。
頬には、軽い衝撃。
目の前には、顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな顔の戸塚。
………え?
戸塚の八幡に対する好感度高すぎるだろ……。
まだ名前で呼ぶには至っていませんが、次の話でこの問題の解決?ともうトツハチでいいんじゃない?みたいな話を書きたいです。
あくまで予定なので変わるかもしれませんが……。
あと、Bクラスのクラスポイントは原作ですと650でしだが、600に減らしています。
八幡というイレギュラーを入れていますし、彼、数学の時間寝てましたし、そんなこんなで下がったってことで認識してください。無理矢理かもしれませんが。
八幡と戸塚のやり取りをガン見していた女の子は誰なのか、分かった方は感想でもメッセージでもくれれば返しますよ。答えはそのうち分かりますが。
ヒロインはまだ決めてません。戸塚でよくない?ダメ?
最後の八幡のモノローグはちょっとおかしかったりするでしょうが、見逃していただけるとありがたい。なにせ、文章下手なもんで……てへ?
戸塚のモノローグも原作になかったりするんでアニメで話し方とか補完してやってみましたが、拙かったですかね……。
それと、坂柳や龍園、綾小路と本格的に絡むのは須藤の暴力事件以降になりそうです。これは話を書く上で絶対にやりたいシーンでもあったので早くそこまで行きたい。
ではまた次のお話で。