やはり俺の実力至上主義な青春ラブコメはまちがっている。   作:シェイド

8 / 30
こっちが早く来てしまったのでこちらを先に。

一之瀬帆波誕生日記念のお話です。
これから少しずつ、出来る限り誕生日にはこうして投稿しようと思っています。

……八幡のみ、作中で行いますが、他はここでやっていくつもりです。
戸塚は来年かなぁ……。


ぼーなすとらっく!一之瀬帆波誕生祭

 誕生日。

 それは自身が生まれた日であると共に、トラウマが生まれる日でもある。

 俺だけ呼ばれなかった誕生会、俺に向けてクラスメイトがバースデーソングを歌っているのかと思えば、同じ誕生日だった違う奴に向かってのものであったり、名前が間違えられている誕生日ケーキ……いや、最後の母ちゃん何してんの?あと小町ちゃんも違うって言ってくれなかったのかな?

 誕生日とは孤独の始まりだ。

 母親と繋がっていたのを断ち切り、一個人として認識されるようになる。

 古人曰く、初心忘るべからず。

 したがって誕生日を一人で過ごすことは正しく、お友達と仲良く誕生日会など間違っている。……けど、誰かを祝う気持ちにも間違いはない、よな?

 

 そんな今日は7月20日。

 我らがBクラス委員長、一之瀬帆波の誕生日である。

 

 

***

 

 

 一之瀬の誕生日の前日、7月19日。

 俺の部屋では現在、俺を含めた7人での話し合いが行われていた。

 

 まず誕生日会を行うにあたって、問題点が一つ。

 

 ……どこで行うか、である。

 

 俺の部屋はいつも通りに使えるが、残念ながら今回の誕生会に参加する人数だと、些か狭すぎると思われる。

 だからといってクラス全体で祝うというわけでもなく、完全な身内だけの会にするらしい。

 ……その身内に、俺が入っていることを秘かに喜んだのは内緒である。

 

 誕生会メンバーは、俺、彩加、神崎、柴田、白波、網倉、小橋、そして主役の一之瀬の計八人である。

 Sシステム制度の未だに理解できない点があることや、まず生活に必須となっているプライベートポイントの無駄遣いはあまりよくないため、出来る限り安く抑えたいのが実情だ。

 

 しかし、人の誕生日を祝うのに節約思考というのもどうなのだろう。

 

 当事者が俺だとしたら、節約思考でもなんでも、まず祝われることがなかったせいで嬉しい以外に感じることはないと思う。多分、知らんけど。

 だが、今回の主役はあの一之瀬である。クラスのために行動する心優しき正義感MAXな美少女委員長だ。さすがに手抜きをする勇気は湧かないし、手抜きするつもりもない。

 ……全員にとんでもない圧をかけている少女がいたからとかじゃないよ?まあ、コイツがやる気を出さないわけがなかったから、皆既にやれやれムードではあるのだが…。

 

「しかしよぉ……今の手持ちいくらある?」

 

「俺は17万くらいだな」

 

「私も」「それくらいだね」「みんな大差ないと思うよ」「戸塚君は特殊だけど、それ以外の皆は最低でも16万あるよ」「そうだね」「持ってない人……いる?」

 

 誰だよ無駄遣いしてる奴。ほら、手を挙げようぜ。別に恥ずかしいわけじゃないし…

 

「……はい」

 

 俺だった。

 いやなに?星之宮先生におちょくられてから、ボイスレコーダーの一番性能がいいものを二つ購入して、先輩や同級生が持っているけどやらなくなったゲームを最安値で買い、週一でラーメンを食べに通ってたぐらいだし……はい、すみませんでした。

 

「比企谷はいくらなんだ?」

 

「……15万とちょっと」

 

「そこまで無駄遣いしたってわけでもないんだしさ、とりあえず誕生会をどんな風にするか決めてからポイントの配分については考えようぜ」

 

「……そうだね」

 

 白波の一之瀬に対する愛が重すぎる……これにはさすがに白波の友達である小橋と網倉も、白波の好き好きぶりに苦笑していた。

 話し合いは続いたが、やはりケーキを自前で作った方が安くなるという結論に至った。

 ということは……あ、俺の部屋ですね承知しました。

 知ってるか?上司からの指示に答えるときは、『了解です』とか『わかりました』って言いがちだが、これは失礼にあたる。正確には『かしこまりました』や『承知しました』が正しい。ビジネス社会では好印象にもなるから、覚えておいて損はないぞ。

 使ってる相手同級生だけどな。

 

 なんでそんなこと知ってるかだと?……中学に上がったばかりの頃、酒に酔った親父が酸っぱく言ってきたからな。『たかが言葉遣い一つで契約取り消そうとしやがって……松田の野郎め!』と、どこか既視感のある言い方だったが気のせいだろう。

 絶対に俺は将来そうならないからな!専業主夫に俺はなる!

 

 また、なんで俺の部屋に毎回集まるのかと言えば、物が他の生徒の部屋に比べて極度に少なく、それでいて四人で食事できる机があるからだ。

 備え付きの机は学習机で椅子も一つしかないが、5月に購入したテーブルを床に置けば、周囲を囲うことで数人での食事が可能になる。

 まあ、7人でいる時点で狭いんだけどね……。

 

「ケーキは女子に任せるとして、男子は何する?」

 

「飲み物や飾りつけでいいんじゃないか?」

 

「工夫するところだね!頑張ろう皆!」

 

 相変わらずのエンジェルスマイルだぜ。これで俺と神崎と柴田のステータスに20%の補正がかかったから、やるっきゃねぇな。

 

「飲み物の買い出しと装飾の班で分けるか。希望はあるか?」

 

「内職」

 

「装飾な……俺は買い出しがいい」

 

「僕も買い出しかな」

 

「じゃあ俺が比企谷と装飾を担当し、柴田と戸塚の二人で飲み物を頼む」

 

「「了解!」」

 

「……おう」

 

 こうして役割分担が進められ、白波が買ってきていた(用意周到すぎて怖い)折り紙やらシールやらを切ったり折ったり、つなげたりを神崎とこなしていく。しばらく作業に没頭していると、ふと視線を感じたので顔を上げれば、神崎が感心したような目を向けてきていた。

 

「比企谷は随分と器用だな」

 

「中学まではボッチだったもんでな。小さいころから一人遊び系を極めてたんだ」

 

「……なにか、すまない」

 

「いや、気にするなよ。それより神崎、本当にこの部屋でやる気か?」

 

「なんだ、不満でもあるのか?」

 

「いや、別に今更だから使うのはいいんだが……さすがに狭すぎないかと思ってな」

 

「そうだな……ベットを端に寄せて、学習机も寄せてみるか」

 

 一旦作業を停止し、神崎と二人で一番スペースが生まれるように部屋のレイアウトを変更していく。

 色々検証してみたものの、ベッドを立てるより学習机と横のまま合わせ、窓側に配置した方が大きくスペースを取ることが出来ることで落ち着き、作業を再開していく。

 おなじみの輪っかを繋げて作るリングを、クローゼットなどを利用して貼り付けることを前提に場所を考えていき、100均で購入していたバースデーガーランドもどこに貼るのかを話し合う。

 すでにクラッカーは7人分準備されていて、あとはケーキと飲み物だけとなった。

 

「思ったよりも早く済んだな。折り紙も余ってしまった」

 

「鶴とかカエルとかウサギとか作って貼るか?」

 

「……それがいいだろう。残したとしても次の誕生会分を賄えるわけではない。それに、今のままだと少し寂しげな気もするからな」

 

「空間的に考えると結構広いもんな……」

 

 一人暮らしとしては破格の寮の部屋。これがすべて無料だと言うのだから、本当に凄いとしか思えない。

 これなら部屋の中で厨二ごっこも可能……やめておこう、綾小路から苦情が来るのが目に見えている、

 引き続き、神崎と共に折り紙を折りつづける。

 なんつーかこう、神崎は静かなタイプであるからか、親近感が湧くんだよな。

 彩加や柴田のことが苦手と言うわけではないのだが、本来、俺のポジションが陰であることに間違いないため、同じような雰囲気を持つやつに勝手に親近感を覚えてしまう。

 最初に話したときはクールなイケメンで、参謀的な立ち位置だと感じたが……やはりイメージそのままに、騒がしすぎるのは好きではないらしい。

 

 ただ、こういったイベントごとは別なんだとか。

 まあ、人の誕生会でテンション低い奴いたら『コイツなんでいるの?はよ帰らんかな』とか思われてしまうからな、あのときの西川君……声に出ていたから、俺は奴の名前を絶対に許さないノートに書き殴ってやったっけ。

 俺の場合はテンションが低いというより、何をしていいのか分からなかったからただ黙っていたってだけで……あれ?誕生会で一番要らない奴じゃね?

 過去の自分の所業に対する考察をしつつも、神崎と折り紙を折ったり、貼る場所を考えたり、机の場所を変えたりしていると、白波がやってきた。

 

「二人に、少し味見して欲しいんだけど…」

 

「味見か、分かった」

 

 一旦作業を中断して、出来上がったクリームとスポンジケーキ(試作品)を味見する。

 ……個人的にはもう少し甘くてもいいが、美味しい。手作りケーキでここまでの味を出せるのなら、将来パティシエとか目指してみてもいいのではないだろうか。三人でやるとすれば、一之瀬もそこに入れて四人で……って、これはあれですね、俺の脳内の願望が出ちゃってるやつですね。

 そんな将来を想像してしまうくらいには美味しかった試作品だ。

 

「一之瀬の好みは分かるのか?」

 

「うん、大体だけど……比企谷君の持ってたMaxコーヒーを甘すぎるって言ってたし、それよりは甘くならないように……普通より少し甘いくらいにしてみたんだ」

 

「流れ弾で俺の味覚がおかしいって言ってるの?まあ、ケーキはこれでいいだろ。普通に美味いし」

 

「そうだな。むしろ凝りすぎると迷走してしまうかもしれない。飲み物を甘めにしなければ、いいバランスが取れるんじゃないか?」

 

「ありがとう二人とも!それじゃ、ケーキを完成させてくるね。比企谷君、冷蔵庫の場所使うけど大丈夫?」

 

「マッカンのスペース以外なら置いていいぞ。入らなそうなら他の食材移動していいし」

 

「ありがと~」

 

 すでに冷蔵庫の中身まで浸食されているが、一応この部屋の主として置く場所やプライベートゾーンは確保してある。と言ってもプライベートゾーンにはマッカンぐらいしか置いてないけど。

 それにしても一之瀬の奴、甘すぎるとか言っちゃうなら飲まなきゃいいのにな。俺の買いためてるのをたまにこっそり飲んでは、それが発覚してポイントを払わせているが、甘すぎるのに飲んじゃうの?やはりマッカンには中毒性が……。

 

「明日は良い会になりそうだ」

 

「そうだな。予定としてはどうなってるんだ」

 

「明日の朝、比企谷の部屋でいつも通り朝食を四人で食べたあたりで連絡してくれ。俺と柴田、網倉と小橋が寮のエントランスで待っているから、合流してケヤキモールで過ごす。午後も大体は同じようにするが、途中でお前と一之瀬を残して俺たち6人で先にこの部屋での最終準備をする。出来る限りゆっくり向かってきてくれ」

 

「で、勝手に俺の部屋に上がり込みやがって的な感じで俺が一之瀬を置いて部屋に戻り、追いかけてきた一之瀬が来たところでクラッカー発射ってとこか」

 

「そうなるな」

 

「……一之瀬が俺を追いかけてくるか?」

 

「夜もここで食べることが多いと聞いている。それに、一之瀬は正義感が強いし、クラスのことは些細なことでも放っておかないのはお前も理解しているだろう」

 

「まあそうだが……」

 

「ただいま~」

 

 彩加と柴田が帰ってきたので、飲み物を確認すると甘くない紅茶などケーキと相性の良さげなものばかりだった。

 

「さすが彩加だな。ケーキが甘いのを見越して甘くない飲み物を購入してきたんだろ。ナイス配慮だ」

 

「おい、俺もいるから」

 

「……?」

 

「なんで不思議そうな顔してるんだよ!買い出し行ったの俺と戸塚なんだけど!?」

 

「そうだよ八幡!それに、柴田くんは荷物を持ってくれたんだよ?」

 

「当然の行動だな」

 

「お前、戸塚に甘すぎるだろ……」

 

 柴田や彩加が帰還し、女子もケーキを作り終えたところで全員で明日の行動を確認する。

 さて、うまくいくだろうか?

 どっちにしろ、こんな経験がない俺としては、少しばかり明日が来るのを楽しみに思うのだった。

 

 

***

 

 

 一之瀬の誕生日当日。

 当たり前のように朝から俺の部屋にいた一之瀬に、冷蔵庫やクローゼットを触らせないようにしつつ、誕生日の話題を出さずに出かけることを自然に提案し、八人で買い物にゲーセンと遊んで……

 

 時は流れ――――――時刻は午後5時。

 俺は一之瀬と共に寮へと歩いていた。

 

「はー!楽しかった~。久々に長く遊んじゃったな~」

 

「……たまにはいいだろ」

 

「珍しいね?比企谷くんがそんなこと言うなんて。明日は雪かにゃ?」

 

「俺が肯定的なのは異常なことだったりするの?酷くない?」

 

「あはは!……でも、今日は本当に楽しかった。みんな、私が誕生日だからって気を遣ってくれてたのかな」

 

「え?今日お前誕生日なの?初耳だわ」

 

「えー!知らなくて今日一緒に遊んでたの!?ちょっとショックにゃー……」

 

 知らない振りしとかないと、部屋での驚きが減るからな。何も知らない風を装って油断させておかなければ。

 ……そういや一之瀬と二人っきりなんて、中間考査の一件以降、初めてかもしれない。大体は彩加か白波がいたし、一之瀬は俺と違って友人が多いからか、二人だけというのは星之宮先生に追い出されて以来だな……。

 

「一之瀬」

 

「ん?何かな、比企谷くん」

 

 時間をかけて戻れって言われてるし、ついでに聞いてみるか。

 

「お前の……お前が一番望んでいることは何だ」

 

「この学校でってこと?えっとー……クラスで退学者を出さないで卒業することと、Aクラスに上がること、かな」

 

「違う、それはクラスのリーダーとしての一之瀬だろ。お前自身が求めているものは何だって話だよ」

 

 ……俺はまだ、Bクラスに馴染めたわけじゃない。誤魔化し誤魔化しで過ごしているだけ、俺が嫌いな上っ面だけの関係。

 それでも、このクラスの害にはなりたくない。こんなにも優しい奴が、いい奴が、手を差し伸べられる奴が、他人を思いやれる奴がいるクラスに、迷惑はかけたくない。

 だからこそ、今みたいにクラスメイトと関わっているわけだが……俺が求めているもの、それは多分、どうしようもない醜い願望の押し付け合い。

 

 そんな中で、もし、もしもそのような関係が成り立つのであれば、俺はそれが……そんな関係が欲しい。

 

 この学校は特殊だ。世間一般の高校生とはかけ離れた生活をしている。それでいてクラス同士、生徒同士での争いを推奨している節がある。

 異常だが、それが優秀な人材を送り出している政府が金をかける学校なのだから、確かに有益ではあるのだろう。

 

 そんな環境だからこそ、磨かれる力もある。

 加えて、俺はここだからこそ手に入れられるものも、手に出来る関係もあると、思っている。

 一之瀬帆波は誰にでも優しい。もちろん、悪いことをすれば叱るし怒る。誰にでも優しいが、その分誰にでも怒れる人間だ。

 だからこそ、彼女が一番に望むもの……それが気になった。

 

 一之瀬はしばらく考えているそぶりを見せていたが、いきなり近寄ってきて耳元で囁いてきた。

 

「……ないしょ」

 

「ひゃっ!?」

 

 耳元で囁かれ、一之瀬の吐息が当たったことでぞわぞわとした感覚が体を襲った。

 

「ふふっ、耳弱いんだ?ふー」

 

「あひっ!?」

 

「あはははは!比企谷くん変な声出ちゃってるよ!可愛いところもあるんだね!」

 

 俺を少し揶揄い、反応が良かったからか笑っている一之瀬。

 コイツめ……いたずらする子だったのかよ。八幡そんな子に育てた覚えないよ?育てた記憶もないけどさ……。

 Sな一之瀬って、ちょっといいなと思ったのは心の奥にしまっておこうと思いました。

 

「……内緒ってなんだよ」

 

「うーん、そういうことってさ、簡単に人に言うものでもないと思うの。それに……」

 

「それに?」

 

「私だけ言うのは不公平でしょ?比企谷くんが私に望んでいるものを教えてくれるなら、教えなくもないよ」

 

「マッカンの山」

 

「あははっ、本当に好きだよねMAXコーヒーのこと」

 

「ほら、言ったぞ」

 

 俺がそう言うと、一之瀬は少しだけ真面目な表情で向き合ってくる。

 

「でも……本当に、心から望んでいるものは違うでしょ?」

 

 そう、まるで俺の目から俺の内面を覗き込むような視線を向けてきた。

 ……敵わないな。むやみにがっつくとこちらが黒歴史を作りかねない。

 

「……じゃあ言わなくていい」

 

「よろしい♪」

 

 何がおかしいのか、少しだけ微笑んだ一之瀬はスキップをし始めた。

 少しばかり早足で歩調を合わせ、寮へと進む。

 そろそろ別れてから20分経つ。時間稼ぎは終わりでいいだろう。

 

「あ、あいつら……」

 

「ありゃりゃ……どうやら部屋にいるみたいだね」

 

「ちょっと文句言ってくるわ」

 

「ま、待って比企谷くん!って早っ!」

 

 一之瀬を振り切らんとばかりのスピードで寮に入り、エレベーターを待たず階段で急いで部屋へと向かう。

 五階まで全力で登り切り、一之瀬が乗っているであろうエレベーターがまだ五階についていないのを確認した俺は部屋に入る。

 

「八幡!これ八幡の分!」

 

「おう」

 

「比企谷君、一之瀬さんは……?」

 

「大丈夫だ、すぐそこまで来ている」

 

 そして……

 

「皆ー、何してるのー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」」

 

「おめでとう」

 

「……うえええ!?」

 

 サプライズは無事成功したのだった。

 

 

***

 

 

 盛り上がった誕生会も終わり、俺の部屋には彩加と白波、そして一之瀬が残っていた。

 今は使った皿を彩加と白波が片付けていて、俺と一之瀬はのんびりしていた。

 

「もうっ!比企谷くん誕生日知らないなんて嘘ついて!」

 

「いや、びっくりしただろ?」

 

「それは……こんな素敵な会を開いてくれるなんて、思ってもみなかったから……」

 

「少しでも驚かせたかったんだよ、白波が」

 

 遠くから、『ちょっとー!私のせいにしないでー!』なんて聞こえてくるが知らんぷりしておこう。

 

「皆に祝ってもらえるなんて幸せだよ……私は、今日のことを一生忘れないと思う」

 

「……なら喜ぶな、白波が」

 

 またしても、『また私の名前を勝手にー!』なんて聞こえてくるが、幻聴に違いない。うん、きっとそうだろう。

 

「あはは……今日はありがとね。昨日からみんなで準備してたんでしょ?」

 

「あん?」

 

「こーれ」

 

 そう言って一之瀬が見せてきたのは一枚のレシート。

 ……購入したものが今日の誕生会で使われた道具ばっかりだ。はあ、これはさすがに白波が悪いな。これ買ってきたのあいつだし。

 

「……白波が張り切っていてな。昨日神崎たちと押しかけてきたんだよ。それで計画を練ったし、協力した。お礼は俺じゃなくて白波に言ってあげてくれ。あいつの祝いたい気持ちは本物だ。こっちが恥ずかしくなるくらいにな」

 

「……うん、千尋ちゃんが頑張ってくれたんだろうなっては思ってた。これでも入学式の日から仲良くしてるから」

 

「……そうか」

 

「………」

 

「………」

 

「……洗い物手伝ってこようかな?」

 

 会話をしなくなったためか、気まずく感じたのか、または単に優しさからか……全部かもしれないが一之瀬をここで動かすわけには行かない。

 今日は彼女が主役……お姫様なのだから。

 それに……俺は彼女の手を引いて、台所に行けないようにしながらあるものを差し出す。

 普段の俺ならまずやらないような行動だからか、振り返った一之瀬が目を見開いていたのが印象的だった。

 ……俺も、少しばかりテンションが上がっているんだろう。

 

「これって……」

 

「あー、なに?一之瀬のことは最初見た瞬間から絶対に関わりたくないとまで思っていたが……気づけばこうやって話すようになったしな。日頃から色々世話になってるし……ってわけじゃないんだが……」

 

「誕生日プレゼント?」

 

「……一応そのつもりだ」

 

「……ありがと、開けていい?」

 

「好きにしてくれ。それはもうお前のだから」

 

「わぁ!」

 

 俺が一之瀬に送ったのは、黒色と白色のシュシュ。ストロベリーブロンドの一之瀬に合う色が分からず、店員に勧められるままに買ったものだ。

 一之瀬は髪をまとめたりしないが、運動をする際に使えるだろうし、ブレスレットとしても使える。

 まあ、物なんてついでだ。

 

「ありがとう比企谷君!大事に使わせてもらうから!」

 

「……おう」

 

 この時彼女が向けてきた笑顔を、俺はきっと一生忘れないだろう。それくらい眩しく、美しい、一之瀬らしい笑顔だった。

 ……誕生日おめでとう、一之瀬。これからも……よろしくな。

 




夏休みに入る前の土日での話です。
現実だと日月で月曜に遊んだことになってしまうので、そこはまぁ、ご都合主義ということで(笑)


改めて、一之瀬誕生日おめでとう!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告