放課後、雲雀が校内の見回りを終えて、応接室に戻ると
「うん、合ってる!じゃあ次はこの問題解いてみよっか」
来週から定期試験のため、風紀委員の仕事を休みにしているノエルと凪がいた。
雲雀が扉を開けたまま、ソファーに並んで座っている二人を見つめていると
「あ、雲雀見回りお疲れ様~!」
ノエルが気づいて声をかけた。
奥の凪もこちらを見て会釈する。
「君たち何してるの?」
氷点下の声で雲雀がたずねる。
「見ての通り、試験勉強だよ」
ノエルが笑顔で、机に広げたテキストのうちの一冊を、雲雀に見えるように掲げる。
「家でやりなよ」
雲雀の至極真っ当な言い分に、ノエルはふるふると首を振り、
「集中できないの。図書館はもうすぐ閉まっちゃうし。でもここなら、雲雀が帰るまで開いてるし、クーラー効いてるし、紅茶も飲める!」
家以上にくつろいでるのではないかと思う雲雀。
それにノエルは、家じゃ集中できないのではなくて、仕事をしてしまうからでは・・・。
ましてや、彼女にとって中学レベルの試験など勉強する必要もないと雲雀は思った。
凪は家が黒曜ランドで、あの二人組がいて集中できないのはわかるが。
試験勉強目的での応接室の利用を承諾しない雲雀に、
「じゃあ、この問題教えてよ~。そうしたら帰るから」
しぶしぶといった感じでノエルが提案してきた。
数式が見えたので、開いてあるのは数学のテキストだ。
雲雀はため息をつきながら、彼女の前に置かれたテキストをのぞきこんだ。
読めなかった。
数式や問題が理解できなかったのではない。
文字通り、読めなかった。
いつのまにかイタリア語のテキストにすり替わっていたからだ。
「さあ、雲雀教えて?これ、何て書いてあるの?」
すっと一番上の言葉を指さされるが、日本語が一つもないうえに、イタリア語なんてろくに目にしたことがない。
静寂な空気が応接室を支配する。
ふと顔を上げると、ノエルの隣で凪が申し訳なさそうな顔をして見ている。
思わず、助け舟を出してくれないかと彼女を見つめ返すと
「凪をにらんじゃダーメ」
睨んでいると勘違いしたノエルが凪を抱き寄せる。
「わっ・・・」
引っ張られ、バランスを崩した凪がすっぽりとノエルの胸の中におさまる。
すっかり和んだ空気の中、
「これ、試験に関係ないでしょ」
雲雀が反論した。
「試験の問題教えてなんて言ってないし、息抜きで凪にイタリア語教えてたから、これも勉強だもん」
よくわからない理論を口にするノエル。
戦いにしても何にしても、ノエルに勝てたためしなんて一度もないため、これから何時間口論しても、平行線か、自分の負けだろう。
そう思った雲雀は、ため息をつくと、
「・・・うるさくしないでね」
しぶしぶ使用許可を認めた。
「やったぁ!」
ノエルと凪はハイタッチし、
「じゃあ、凪、頑張って高得点目指そうね!!」
ノエルは笑顔でそう言った。
ちなみに試験の結果は、ノエルは全科目満点、凪はすべて平均点以上、英語が高得点だったとのこと。