朝、ノエルが朝食の準備をしようとダイニングに行くと、カーテンが開けられ、テーブルの前には犬と千種が座っていた。
「おはよう・・・」
驚きながらもノエルがあいさつすると、犬と千種はぼそぼそとあいさつを返した。
どういう気まぐれだろう。
二人とも朝は弱く、いつもぎりぎりまで起きてこないのに。
ノエルは不思議に思いながら、エプロンをつける。
まあいいか。
せっかくだから手伝ってもらおう。
ノエルはそう結論づけると、満面の笑みで振り返った。
三人で朝食の準備をし、(千種には料理の補助を、犬にはかき混ぜてもらったり、火を止めてもらったり、お皿を出してもらったりと簡単な手伝い。犬は完成した卵焼きを一切れつまみ食いしようとしたり、みんなのご飯を山盛りによそったりしていて、その都度千種がため息をつきながら止めていた)テーブルに全員分の朝食を並べた。
しかし、いつも朝食を食べる時間になっても、凪が起きてこない。
体調でも悪いのかと思い、凪の部屋に様子を見に行くことにする。
「凪のところに行ってくるから、先に食べてて」
二人にそう言い残し、ノエルは急ぎ足で凪の部屋へ向かった。
凪の部屋の扉を軽く三回ノックし、
「凪、おはよう。大丈夫?」
声をかけると、少ししてから、
「大丈夫・・・」
と凪の声が聞こえた。
「朝食持ってこようか?」
ノエルが扉の外でそう提案すると、また少し間が開いたあと、
「・・・うん」
ひかえめな返事が返ってきた。
ノエルはそれ以上聞かず、
「分かった!すぐ持ってくるね」
元気よく返した。
ダイニングに戻ったノエルは、トレーに凪の分の朝食と飲み物を乗せて、彼女の部屋に届けた。
扉は開けてくれなかったので、部屋の外に置いて、あとにする。
そしてまたダイニングに行くと、犬と千種はダイニングにいたままだった。
二人のお皿は空である。
ノエルは無言で自分の席に着くと、すっとまっすぐ前を見据えた。
しばらく静かな時間が流れた後、その空気に耐えられなくなったのか
「怒らせたびゃん・・・」
聞いたことのないほど小さい声で犬が言った。
「誰を・・・?」
ノエルが静かにたずねると
「・・・クローム」
犬が凪の名前を口にするのを久しぶりに聞いた。
ノエルは息をつくと
「最初から話せる?」
簡単に説明すると、昨日凪にちょっかいを出した。
いつもみたいにスルーされるかと思ったら、傷ついた顔をして、怒った。
予想外の反応をされ、言い出したからには引くに引けなくなり、言い合いになった。
「そう・・・。それで、犬はこれからどうしたいのかな?」
事情を聞いたノエルが優しくたずねると、黙りこんだ犬。
きまりが悪いのか、うつむいている。
「このままでいいの?このままずーっとクロームがお部屋から出てこなくて、ずーっと悲しんだままで」
子どもをあやすような声色で、諭すように続ける。
それでも無反応の犬に、ノエルは何かのスイッチが入った気がした。
数時間後、犬は凪の部屋の前にいた。
あれからノエルの説得は昼頃まで続き、最終的に犬は折れた。
しかし、なかなか気持ちが固まらず、扉の前に立ち尽くしていた。
そして、意を決したように犬は、軽くノックした。
名乗らず、何も言わず待ち続ける。
少しして、そっと扉が開いた。
凪が不思議そうに顔をのぞかせる。
立っていたのが犬と分かると、凪はびくっと肩をはねらせ、閉めようとした。
「クローム」
犬が凪の名前を呼んだ。
その言葉に凪が動きを止める。
「何・・・?犬」
凪の通る声が響く。
犬はうつむいて沈黙していたが、
「わ、悪かったびょん」
小さい声で謝った。
反応がなく、犬がいらだって顔を上げると
凪がにっこりと笑っていた。
「!!」
犬は、凪が自分に優しく笑いかけるのを久しぶりに見た気がした。
いつも笑いかけていたかもしれないが、犬は見ていなかった。
「私もごめんね・・・」
凪も謝ると、ゆっくり扉を開けて出てきた。
その一部始終を見守っていたノエルと千種。
「仲直りできてよかったね~」
小声で千種に話しかけるノエル。
「うん・・・」
そっけなく返す千種だが、うれしそうに感じた。
悪いことしたら、素直に謝るの大事。