とある休日。
昼食を食べ終わり、千種と凪がダイニングの掃除をしていると、ひょんなことからノエルの話になった。
と言っても、凪が一方的に瞳を輝かせながら話していたんだけれども。
「この前、ノエルに選んでもらって、たくさん服を買ったの。びっくりしたけど、私に似合う服をいっぱい選んでくれて、うれしかった」
弾んだ声の凪に、そう、と千種はうなずいた。
ノエルにされるがまま、着せ替え人形のようになっている凪が容易に想像できた。
「あと、帰り道にね、こう言ってくれたの。『凪はどんな服でも着こなせるけど、凪自身の美しさには、どんな服も宝石も敵わない』って」
どこのキザな男かと思う。
千種はテーブルを拭きながらひっそりと思った。
「初めてノエルの作ったご飯を食べたときも、びっくりしたの。あんなにおいしい料理、食べたことなかったから」
ノエルは将来、シェフになったらいいと思うの。
凪はうっとりとそう言った。
将来も何も、彼女はもう情報屋だから、それはないと思う。
と言いたいが、彼女のことだから、クロームが頼んだら、情報屋をあっさり打ち捨ててシェフになってしまいそうで怖い。
あり得る話だ。
「たまにイタリア語も教えてくれるの。発音がきれいねってほめてくれて」
学校の先生にもなれそう。
「それに、美人さんでスタイルもいいし、モデルさんや女優さんにもなれると思う」
どんどんノエルの職業選択の幅が広がっていく。
確かに、裏社会に身を投じてなかったら、そうなっていそうだ。
医者、弁護士、研究者・・・。
その気になれば彼女は何にでもなれるだろう。
「ノエルって普段どんな仕事してるんだろう・・・」
凪がぽつりとつぶやいた。
確かに出会って結構たつが、知らないことが多い。
年齢、イタリア人なのかハーフなのかクオーターなのか、なぜ日本に住んでいるのか、家族はいるのか・・・。
知っているのは、大空の守護者で、とても強いということ・・・。
「聞いてみたら・・・?」
千種が手を止めて言った。
クロームが聞けば教えてくれそうだ。
「・・・ノエルが話したくなったら聞く」
凪は、覚悟を決めた瞳でにっこりと笑った。
ノエルと出会ってから、クロームは表情豊かになったと千種は思った。
「ただいまー!ねえねえ、帰り道ねこちゃん見かけた~!」
そのとき、夕食の食材を買いに行っていたノエルと、荷物持ちの犬が帰ってきた。
「・・・見た目や言動から年上だと思うけど、たまに幼くなるよね」
しれっとそう分析した千種に、凪はうん、と柔らかい笑顔で答えた。
凪が千種に話していたのは「お散歩しましょう」でのことです。