「・・・麦チョコ」
ノエルは午前中からパソコンで何やら仕事をしていたが、先ほど終わったのか、いそいそとノートパソコンを閉じると、そのままソファーに、しなだれかかった。
それが数分前。
身動き一つしないため、寝てしまったのかと千種が思っていると、先ほどの言葉を口にした。
千種は無言で次の言葉を待った。
食べたいのか。
しかし、現在この黒曜ランドに麦チョコはない。
いつも何袋かストックがあるが、昨日最後の一袋を凪が食べていた。
ここ最近、凪は風紀委員の仕事、ノエルは任務などが忙しく、買いに行く暇がなかったようだ。
したがって、食べたいとなれば買いに行かなきゃならないが、千種は断固として行かない。
なぜなら。
めんどくさいからだ。
そして今、ノエルの次の言葉を待つのでさえもめんどくさいので、食べたいのであれば買いに行けばいいと思っていたら、ノエルはむっくりと体を起こして
「一粒が小さくてなかなか減らないから、いつまでも食べ続けられるよね!」
・・・。
一粒でチョコの甘さに顔をしかめた犬を思い出し、果たしてそうかと思ったが、とりあえずうなずいておく。
しかし、幸せそうに語っていたノエルが顔を曇らせ、
「でも麦は胃の中でふくらむから、三袋くらいで満腹になっちゃうの」
平均一袋だと思うが、一体ノエルは平均いくつだと思ってるんだろう。
聞くのは怖いため聞かないが。
十袋は余裕で食べそうだなと思った。
そう予想したところで、犬が帰ってきた。
「帰ったびょん」
犬の声が聞こえたかと思ったら、ノエルは光の速さで体を起こすと、きらきらとした瞳で
「犬!麦チョコ買ってきてくれないかな!」
今すぐに!
たった今帰ってきた人間に酷なことを言う。
麦チョコについて語っていたが、やはり食べたかったのか。
「とりあえずね、三十袋お願い!」
陳列棚に並んでいる麦チョコを買い占める勢いの個数だ。
「すぐ食べる分の十五袋と、ストックの十五袋ね!」
丁寧に内訳を教えてくれたが、そのうち半分は自分が今から食べる量らしい。
「明日の朝食、犬のリクエスト作るから!」
ね!と言いつつ、若干殺気があふれているような気がして、誰も断ることなんてできない。
ノエルはひょいとソファーから降りると、犬に歩み寄り、両手に自分の財布を握らせた。
「五百円までなら、お菓子買っていいよ!」
犬はひきつった顔でこくりとうなずくと、ゆっくりと踵を返した。
それを見ながら千種は犬にこっそり同情していた。
「毎週金曜日は麦チョコ購入の日にして、一人五袋買ってくるっていうのはどう?」
そうしたら、食べたいときにないって悲劇も起きないし。
夕食時にそう提案したノエルだが、金曜日に二十袋増えるからと週末食べまくって月曜日にはもうないという更なる悲劇が生まれるのを千種には想像できたため、全力で却下した。
しゅんとなったノエルだが、「明日、業務用の麦チョコ一緒に買いに行こ」という凪の一言により秒で復活した。
明日二人でその業務用麦チョコを食べきってしまう想像がつき、千種はやれやれと思った。
最後にちょこっと凪を出せてよかったです。