凪と毎日ほわわんな日々を   作:ピアチェーレ

3 / 14
お散歩しましょう(黒曜)

とある日曜日、ショッピングモールで服を買った帰り道。

「あれ?こんなところに新しいパン屋さんができてる」

黒曜商店街をぬけ、黒曜ランドまでのいつもの道を歩いていると、凪が言った。

「本当だ。素敵なベーカリー・・・」

以前は何のお店だったか思い出せないほど、ずっとテナント募集の張り紙がしてあった店に、「新規オープン!」と書かれた看板と、きれいな花が玄関に飾られている。

並中に行くときはこの道を通らないため、気が付かなかった。

ガラスの向こうには、たくさんのパンが並べられているのが見える。

「入ってみようか」

問いかけると、凪はうれしそうにうなずいた。

扉を開けると、からんからんとドアベルが鳴り響く。

途端に、パンのいい香りが鼻腔をくすぐる。

奥にいた優しそうな店主がいらっしゃいませと声をかけた。

ノエルと凪はそれぞれトングとトレーを持つと、パンを選び始めた。

りんごのデニッシュ、クロワッサン、塩バターパン、チョココロネ、ハムとチーズにカスクートなど、さまざまな種類のパンがあり、選ぶのにとても時間がかかった。

凪は、自分用にアップルパイ、ねじりシュガードーナツ、犬に半熟卵の入ったカレーパン、クリーム入りメロンパンを選んだ。

ノエルは、自分用に三種類のサンドイッチ、千種にクリームチーズとりんごのくるみパン、ハムエッグマフィンを選んだ。

お会計を済ませ、パンが入ったいい香りのする紙袋を持って、うきうきで黒曜ランドに帰る。

 

「え、おいしい・・・」

黒曜ランドのソファーで並んでサンドイッチを食べていたノエルが、びっくりしたようにつぶやいた。

「これ、食べてみて」

半分に割って隣に座っている凪に渡す。

「おいしい」

凪は一口かじると、目を輝かせた。

ほっとするような、どこかで食べたことのあるような味。

「ツナサンド。初めて食べたけど、すごくおいしいね」

ノエルは感動したように凪と顔を見合わせた。

「私も初めて食べた・・・」

凪も衝撃的だったようで、何度もこくこくとうなずく。

「このアップルパイもとってもさくさくで、甘くておいしい」

 

夕食は、ベーカリーで買ったパンと、コーンスープ、サラダになった。

凪とノエルは先ほど自分たちの分を食べたので、今スープとサラダのみ。

「・・・おいしい」

ノエルがチョイスしたハムエッグマフィンを食べた千種はそう言った。

その表情はいつもと変わらないが、瞳の奥が輝いている気がする。

「そうだよね!!」

ノエルはうれしそうにサラダを口に運んだ。

「気に入ってくれたようでよかった」

「犬は・・・?」

黙ってカレーパンを食べる犬を心配そうに見つめ、問いかける凪に

「・・・うまいびょん」

聞こえるか聞こえないかで答えた犬。

凪はにこっと笑うと、コーンスープを飲んだ。

 

 

それから数日たったある朝。

ノエルは凪と並中に向かいながら、

あ、そうだ。

とノエルはつぶやくと

「今日のお昼はツナサンドだよ」

そっと凪に耳打ち。

前を歩く人の間から、ツナのツンツンヘアーが見えたからだ。

二人でふっと笑って、ツナのもとへ駆け出した。

 

12時。

お待ちかねのランチタイム。

「昨日の帰り道、黒曜スーパーでツナ缶買って、あのベーカリーで食パンとバターを買ったの」

晴れているため、屋上で食べることにした。

ランチボックスを開けると、ツナサンドとトマト、レタス、コーンのサラダ、もう一つの小さめのランチボックスには、りんごが入っていた。

「いただきます」

ツナサンドを手に取り、一口食べる。

「おいしい・・・!」

ベーカリーのツナサンドの味とは違うが、とても似ていて、食べやすいと感じた。

「バターとマヨネーズのちょうどいい配合が難しくてね。実は三回作り直したの」

てへっとかわいらしく笑うノエル。

凪は、帰ったら作り方を教わろうと思った。

 

 

ちなみに、日曜日のショッピングモールでは、凪の洋服を買いに行っていた。

「凪は、白やピンク、うす紫が似合うよね」

白のパールつきスリーブブラウス。

ピンクのギャザーフレンチトップス。

ラベンダーのフレアスカート。

「透明感があるから、水色も似合いそう」

コットンボリュームニット。

スフレリブトップス。

「でも、黒も大人っぽく決めてくれそう」

ペプラムレーストップス。

凪は状況が呑み込めていなかった。

それはさかのぼること十分前。

ショッピングモールに入るや否や、「行きたいところがあるの」と告げられ、凪が普段行かない階で降り、ついたのはとても高級そうなアパレルショップ。

きらびやかな雰囲気に物怖じする凪を鏡の前に立たせると、突然ノエルのコーディネート講座が始まったのだ。

ノエルは似合いそうな色を考えながら、凪の骨格や肌の色、雰囲気に合わせて服を選んで、凪の体にどんどん合わせていく。

凪は困惑顔でされるがまま。

「う~ん・・・」

数分後、ノエルはあごに手を当て考えこみ始めた。

怒涛のコーディネート講座が終わり、凪がほっとしていると、

「すみません、何着かワンピース持ってきていただけますか?」

「えっ?」

ノエルがそばにいた店員に声をかけると、「かしこまりました」と奥へ消えていった。

終わりだと安心していた凪が驚きの声をあげると、ノエルはにっこり笑って、

「今合わせてみた中で、どれが一番よかった?」

めまぐるしくて、どれもかわいかったことしか覚えていない。

と正直に言ったらだめかなぁと思っていると、

「おまたせしました」

ノエルの後ろから、たくさんのワンピースを抱えた店員がにっこり笑って言った。

ノエルはありがとう、と受け取りながら

「着てみたほうがしっくりくるよね。はい、まずこれから」

ノエルのコーディネート講座第二弾。

一番上のワンピースを手渡され、フィッテングルームに押し込まれた。

笑顔で手を振られ、無情にカーテンが閉められる。

凪はしばらく茫然としていたが、ひとまず靴を脱ごう、と座り込んだ。

 

数分後。

ひかえめにシャッとフィッテングルームのカーテンが開いた。

「どうかな・・・?」

おずおずと凪が姿を見せると、

「色がよく似合ってて、プリーツがアクセントでいいね。丈は長く感じるけど、今はロングスカートやロングワンピ流行ってるし、すごくかわいい」

とてもほめてくれて、凪はうれしくなったが

「じゃあ次はこれね」

すぐに二着目のワンピースを差し出された。

その後何度試着したか忘れたが、何度目かのワンピースを着て、カーテンを開けると、

「お疲れさま~。それが最後のワンピだよ。レースがセクシーでかわいいね。私は、五番目に着たブラウンのコルセットフレアロングワンピが一番好きかな」

もはや凪は何着目がどのワンピースかわからないが、自分もそれが一番気に入ったのでそう伝えてみる。

「それとね、最後から二番目のうすいピンクのふわっとしたワンピも・・・」

頑張って説明してみると

「カシュクールシフォンワンピだね。私も凪に似合うと思う」

これでしょ?とノエルがワンピを見せてくれる。

うなずくと、着替えておいでと微笑まれ、ふたたびフィッテングルームに戻る。

最後に着ていたワンピを脱いで、今日着てきた服に着替えて出る。

やっと試着が終わりほっと一息つくと、ノエルが近づいてきて

「そのワンピ、店員さんにお返ししておくね」

ありがとう、と差し出された両手にワンピースを乗せると、ちらりと名札が見えた。

そういえば金額を気にしていなかった、どのくらいなんだろう、と何気なしに手に取ると

「ノエル・・・!値段が・・・」

ノエルは凪の言葉に顔を上げると、凪がぷるぷると震えていた。

どうしたの?といった感じで首をかしげると

「か・・・買えない・・・」

だんだん凪の顔が真っ青になっていく。

「大丈夫だよ、私が買うつもりだから」

えっ?と出した声は出ていなかった。

「私が凪にプレゼントしたいの。受け取って」

とても優しく微笑まれて、一瞬凪はどきっとしたあと、こくりとうなずいた。

ノエルは振り返ると

「こちらのワンピース二着と、さきほど彼女に合わせたトップスとスカート、全て包んでください」

そばに店員がいたのに凪はその時気づいた。

かしこまりました、という店員の声はほとんど届いていなかった。

凪はばっとノエルを見ると、

「ワンピースだけで私は・・・」

十分、そう言おうとしたら

「うん、ワンピースだけでもいいかもしれないね」

あっさり引き下がるノエルに、凪は目を丸くしたが

「でもね、白のパールつきスリーブブラウスは、凪ブラウス持ってないから取り入れてみてもいいし、ピンクのギャザーフレンチトップスは、凪が持ってるネイビーのタイトスカートに合うし、ラベンダーのフレアスカートは、優しい色で凪にぴったりで足がきれいに見えて、それに・・・」

「買いますっ・・・!」

凪が挙手して叫び、ノエルのマシンガントークを止まった。

ノエルはにっこり笑うと、

「お会計してくるから、待っててね」

と言ってレジの方へ歩いて行った。

ありがとう、と告げて、凪は待っている間お店の中をぐるっと回ってみることにした。

おとなっぽいかわいらしい服がたくさんあり、思わず手に取ってみるが、値札が見えそうになり、あわてて手を離す。

一旦そのエリアを離れると、きらりとしたものが目に入ってきた。

アクセサリーも売られているようで、ネックレスとブレスレットがあった。

こういうの、ノエルに似合いそう・・・。

シンプルなデザインのネックレスを手に取ってよく見ようとしたら

「ありがとうございました~」

店員の声が聞こえ、はっと振り向く。

会計が終わったらしい。

見送られながら、ノエルと一緒に店を後にする。

次はどこに行く?など話しながら、ふと気になっていたことを尋ねる。

「買ったお洋服は・・・?」

会計を終えてアパレルショップから出てきたノエルは自分のバッグ以外何も持っていなかった。

「この後もお買い物するでしょ?荷物になっちゃうから、黒曜ランドに送ってもらうことにしたの」

なるほど・・・と納得した凪にノエルは

「今からどこ行く?雑貨見る?カフェで軽く食べる?」

言いつつ、二人の足はカフェに向かっていた。

 

その帰り道、凪とノエルはこれから毎月通い、お気に入りになるベーカリーと出会う。

 

 

おまけ

カフェにて

「お洋服、本当にありがとう・・・」

「どういたしまして。迷惑じゃなかった?」

「全然・・・。びっくりしたけどうれしかった」

「ごめんね、次からは控えます。・・・また一緒に行ってくれる?」

「もちろん・・・!」

 




パン屋さんの話より、ショッピングデートの話がメインのようになってしまいました。
どんな服でも、凪はかわいく着こなすんだろうなあと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。