「あ、凪~!正門の見回り終わった~?」
特注の黒の女子用学ランとその左腕につけた「風紀」の紋章をはためかせ、ノエルは向かいからやってくる、同じく左腕に紋章をつけている学ランを身に着けた、紫の澄んだ瞳と美しい髪の美少女に呼びかけた。
凪――そう呼ばれた彼女は、短いスカートに気を配りながら、かけ足でノエルに近づいてきて言った。
「ノエルっ・・・。校則違反をしてる生徒はいなかったよ。でも・・・」
そこでいったん言葉を切り、心配そうに再び口を開いた。
『遅刻者が・・・』
その言葉は見事にノエルと被った。
「あ、やっぱりツナたちだ~!」
ブンブンと手を振りながら、校門前でほかの風紀委員に足止めを食らっていた三人に呼びかける。
「ノエル、クローム!」
ツナは心底ほっとしたような顔でノエルたちを出迎えた。
安心したのか、凪のことは「黒霧(くろむ)」と呼ばなければいけないのに、いつもの調子で呼んでしまっている。
「ここは私たちがやっておくから云々・・・」
いつものようにうまく丸め込んで、そこにいた風紀委員たちを校舎に戻らせる。
それを見送ったノエルは満面の笑みで振り返ると、
「反省文30枚ね」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで言った。
「てめぇ!十代目に・・・」
獄寺がつかみかかろうとするが、ノエルはしれっと
「うちの風紀委員長さん愛用のトンファーの餌食になるよりは、ましじゃなくって?」
ぐっと言葉に詰まった獄寺に、んふふと不敵な笑みを浮かべる。
「あの・・・ノエル・・・」
横でおずおずと手をあげた凪に、ノエルは笑顔を向け、どうしたの?とたずねる。
「反省文に加えて、中庭の落ち葉掃きを手伝ってほしいの・・・」
まさかの仕事の手伝い。
「風が強いからスカートがめくれやすくて・・・」
顔を赤らめて、ぎりぎり聞き取れるくらいの声量で言う凪に
「了解!じゃ、ツナたちは冬休みまで、週一で落ち掃きよろしくね!」
「なっ・・・!」
ツナは絶句し、獄寺は怒りに震え、山本はにこやかに笑うなか、
「また遅刻した時、反省文書いたり、咬み殺されたりするの嫌でしょ?だったら先に掃除をして罰を受けてストックを作っておけばいいんだよ」
次遅刻して風紀委員に止められても、風紀副委員に命じられて仕事をして免除してもらってるんでって、私と凪の判子が押された紙を見せたらオッケーだよ、ほかの風紀委員にもそう通しておくし。
ね?名案でしょ?といった感じににっこり笑うノエルに言いくるめられて勝てるものなどいない。
確かにそっちの方がいいかも・・・と遅刻する気満々のツナが思ったところで、くるりとノエルが振り返った。
不思議そうにみんながノエルと同じ方向を見つめると、その先に雲雀が姿を現した。
「雲雀、お疲れ様~」
明るく委員長に労いの言葉をかけるノエルと、恐縮したように、お疲れ様です・・・!と頭を下げる凪。
「ねぇ、君、何勝手に草食動物たちと群れてるんだい?」
ひんやりとした空気を感じさせながら雲雀は言った。
「遅刻をしていた生徒がいたので、指導していましたぁ」
ツナたちが体をこわばらせる中、涼しい顔で報告するノエル。
あれは指導というより闇の取引みたいなものだったが。
雲雀ははぁ、とため息をついて
「君たち・・・」
そう言ったタイミングでチャイムが鳴り響いた。
「HR始まっちゃう。では委員長、また放課後」
ノエルはそう言いながら、会釈し、凪たちと昇降口へ向かっていった。
「ひ~!雲雀さん怖かった~」
ツナが青い顔で叫ぶ。
「びっくりさせてごめんね」
ノエルが申し訳なさそうに謝った。
そうして、いつものノエルたちの並中での学校生活が始まった。
お仕事、たいへん。