【完結】ダイ大短編集   作:あきまさ

14 / 20
鬼眼王バーンが竜魔人ダイに勝利した時、何を告げるか。


Lord of the Castle(バーン・短め)

 巨大な爪が少年の腹部を抉った。

 声も出さず落下した少年は動かない。

 異形の持ち主は高らかに笑いかけたが、思い直して再度手を振り上げた。表情を引き締め、相手の胸に爪を突き立てる。奇跡が起きぬように。

 彼は勝つためだけに全てを捨てた。油断も当然含まれる。

 爪を回転させて傷口を抉ると、少年の血飛沫が床に飛び散った。相手の命が完全に尽きたのを確認し、男はようやく勝利を噛みしめる。

 虚空に怪物の笑い声が響き渡った。

 笑いの衝動が収まると、彼は少年に視線を落とした。

「さらばだ……! 竜の騎士、ダイ」

 敗者に向けるものとは思えぬほど、重々しい声だった。

 彼の名はバーン。大魔王の肩書を抱く者。

 大魔王バーンと勇者ダイ。彼らは対極の立場でありながら、心は最も近かった。選んだ道も似通っていた。勝利のために封じた力を使う点も。本来の体を捨てる覚悟を決めた点も。

 たとえ敗れようと、相手の意志は尊敬に値した。

 おそらく勇者が勝ったとしても、大魔王に同じ言葉を贈っただろう。

 

 

 男は静かな言葉を残して、少年の遺体に背を向ける。

 これから何をするのか。

 決まっている。

 魔獣となったのだから、恐怖で三界を支配するのみ。

 怪物が暁を背に地上へと舞い降りる。

 勇者の帰還を信じ、待っていた者達から絶望の叫びが迸る。

 悲痛な表情で大魔道士の少年が極大消滅呪文を放った。怪物――鬼眼王の右手に直撃し、手首から先を消し飛ばす。

 それでも鬼眼王は止まらない。陸戦騎の槍も大勇者の剣も全く問題にならない。人々を虫けらのごとく蹴散らし、踏みつぶしながら思う。

 もう肉体を分離し、秘法で若さを保つことはできない。

 美しい城の主ではいられない。

 酒も飲めない。

 チェスもできない。

 恐怖を与える以外に他者と関わることもない。

 地上を破壊し、魔界に太陽をもたらすことは不可能となった。

 永遠の命も娯楽も長年の悲願も失われた。

 残されたのは、絶対の孤独。

「それもまた良し」

 何よりも許せず、耐えがたいのは、逃走と敗北。

 利を考えるならば竜魔人と化したダイと戦わず、魔界に撤退すればよかった。しばらく待ってさえいれば邪魔者は全て消える。それから改めて計画をやり直せばよい。本来の体も捨てずに済むのだから。

 彼は逃げられなかった。竜魔人と化したダイからではなく、大魔王たる彼自身から。

 矜持を守るため。己を裏切らぬために。

 力が正義と信じて生きてきた。

 神から示された、神の支配を覆すことも可能な、単純だが美しい真理。

 己に跳ね返った時投げ出しては、今までの己の生き様をも否定することになる。自身の背負う大魔王という肩書も。

「悔いはせぬ」

 魔獣と化した彼の新たなる城。それは贅を尽した宮殿でも堅牢な城塞でもない。

 それはこの世界だ。敵う者も、臣下も、誰一人として存在しない住処。

 

 

 気づけば動く者は誰もいなくなっていた。

 彼は朝日に照らされながら笑っていた。

 いつまでも。

 いつまでも。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。