【完結】ダイ大短編集   作:あきまさ

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原作開始前、魔界での大魔王達の話。
戦闘メイン。


怒りの日(ミスト・キル・バーン)

 魔界を統べる者の住まう宮殿を目指し、魔物と魔族、竜の軍勢が雲霞のごとく攻めよせる。

 世界の終焉を告げるかのように、圧倒的な数と力をもって迫りくる。

 数える気にもならない大軍を迎え撃つのはたったの二名。

 王の名を冠し、対となる存在。主を守る者と、敵の命を狩る者。

 虚空に立っていた彼らは降下し、音もなく地に足をつけた。軍記から抜け出したような敵勢を見ても動じていない。

 押し寄せる軍勢を眺める死神の眼がきらりと光った。獲物を前にした狩人のように。

 肩の近くに浮かんでいる使い魔、一つ目の小人が大群を指差し、軽く上下に振りながら手を横に動かしていく。

「いーち、にーい、さーん……えーと、たくさん!」

 よくやった、と言うように死神は使い魔の頭をなでた。小人は目を細め、嬉しそうに顔をほころばせるが、非力な彼を戦力として計算することはできない。

 大軍は止まらない。少数が相手だと悟っても容赦するはずがない。数が少なければ蹴散らし踏み躙るだけだ。

 つぶらな瞳を不安に曇らせ、小人は主人の背後に隠れた。

「キルバーン、どうなの?」

 恐る恐る放たれた言葉への返答は、明るく無情なものだった。

「ざっと見た感じ、千匹以上いるね」

 散歩中のように気軽な口調で呟いたキルバーンは大げさに肩をすくめた。

「軍が別の戦いに回されてるからって……二人だと、ねえ?」

 困った困ったと嘆いてみせたものの、敗北の予感を抱いている様子はない。単に面倒だと言いたげである。

「それじゃ、そろそろ行こうか」

 意味ありげに目くばせした先には眼を炯々と光らせる友の姿があった。互いに傍らに立つ者の強さを確信しているのか、死地に赴く悲壮さは感じられない。

 沈黙している影は無言で爪を伸ばした。こすれる音とともに剣の形をとり、空を切り裂く。

 死神も鎌をくるりと回した後に柄を強く握り、固い地を蹴った。

 二人は勢いよく斜面を駆け降り、大軍へと突進した。

 

 

 爪の剣が、鈍く光る鎌が、地をこすり悲鳴のような音を立て、大地に傷を刻みつつ迫る。

 ある一点に達した瞬間銀光が翻り、各々の武器が振り上げられた。

 目にも止まらぬ速度で跳ね上がった刃が魔物達の首を切り飛ばす。鮮やかな切断面を見せた胴体はわずかな停滞の後にどうと倒れ伏し、液体を迸らせながら落下した頭部はごろりと転がった。

 あっけないとさえ言える動作に皆の反応は一瞬遅れた。虫を叩き潰すよりも自然な呼吸で生命を絶ち切ったのが信じられなかった。経験した戦いの数も、屠った生命の数も、桁が違う。

 鮮烈であるはずなのに実感の湧かない殺戮劇の幕開け。戸惑った敵に切っ先が突き刺さり、抉った。

 影と死神の疾走は止まらず、敵のまっただ中へ切り込んでいく。

 爪の双剣が身体を紙のように易々と切り裂き、鎌が首を草のように薙ぎ、はねていく。

 噴き出した鮮血が手を下した者の身体を染めるより早く彼らは動き、無造作に生命を刈り続ける。返り血を浴びるより先にさらなる犠牲を求め刃を振るう。

 一方的な殺戮に大地が血の色に染まった。断末魔が木霊し苦痛の声が大気を揺り動かす。終焉を告げるはずの軍勢は、逆に、己の終焉を迎え命を散らしていく。

 地獄がこの世に現れたような光景。その中で死を振りまき続ける二名の姿は静謐ささえ感じさせた。

 突き出された剣や槍、爪が時折青白い衣を引き裂くが、内の影には何ら痛痒を与えていない。ただの武器で霧を傷つけることはかなわず、無数の穴が開いた衣はしゅうしゅうと音を立ててふさがっていく。

 死神も切られ、突かれ、撃たれるが、体を揺らすだけで痛みは感じないかのように戦闘を続行している。亡者が動いているような、不死身と思える戦いぶりだ。

「でもねぇ」

 キルバーンは小さく舌打ちした。

 いくら個々の強さは比べ物にならないとはいえ、数が違いすぎる。このままでは消耗し、戦えなくなるだろう。

「ボクはミストとは違う。あんなにタフじゃないもの」

 使い魔が出ていれば大きく頷いたことだろう。

 ミストバーンの方は全く疲労を感じないかのように剣を振るい続けているが、キルバーンの身体からは血が流れている。

 不死身を自称しているものの、影と違って何の打撃も受けないわけではない。

 攻撃を加えられれば傷つき、損傷が重なれば動きも鈍る。そうなれば確実に破壊されてしまう。

 

 

 喉を鳴らしたキルバーンは強く地面を蹴り、中空へと駆け上がった。

 彼は高らかに手を掲げる。

「ショーダウン!」

 その一言が鍵となったように荒れた地面に紋章が現れた。トランプを象った四種のマークが浮き上がり、眩い輝きを放つ。

 轟音とともに地獄の業火が立ち上り、魔物たちを焼いた。絶叫すら呑みこまれ、押しつぶされ、焼かれていく。炎が消える頃には生命の気配は完全に途絶え、消し炭と化した物体が幾つも転がっていた。

 顔をしかめたくなるようなにおいが漂う中、キルバーンは奇術師のような身振りで手を動かし、パチリと指を鳴らした。別の罠が作動し、無数の杭が地面から突き出し敵の身体を穿った。肉を貫く耳障りな音が響き、獲物を串刺しにしていく。

「元々こっちの方が得意だからねェ」

 真っ向から力をぶつけて戦うやり方は好まない。その気になれば正面対決でもかなりの強さを発揮するだろうが、そのような戦い方には興味を持っていない。

 この周辺には複数の敵を巻きこみ生命を奪う数々の罠があらかじめ仕込まれていた。

 下ごしらえしていた料理を完成させるかのように手が振るわれる。ばたばたとなぎ倒された魔物の上に無慈悲な攻撃が降り注ぐ。ただでさえ乱れ切っていた足並みは完全に崩壊している。

 ミストバーンが生じた空間に走りこみ、爪を収めた。

 魔物達が殺到するが、影が指揮者のごとく指を小さく動かすと彼らの動きが止まった。凄まじい圧力が彼らの身体を締め付け、砕いた。

 漆黒の陣に捕らわれた者達は虫のようにもがき、動きを止めていく。

 ぐん、と片手が強く握りこまれ、次に勢いよく開かれた。

 指から無数の糸が放出され、そこらに転がる死体に結びついた。

 何体もの骸が悪魔に魅入られた者のように不自然な動きで立ち上がり、得物を構える。

 傀儡はかつての仲間に向かって剣を振るい、武器を突き立てた。

 魔影は片手で複数の僕を操りながらもう片方の手を剣と化し力任せになぎ払う。

 片手に人形、片手に剣。

 作業と見なすには優雅な動作で敵対者に死を見せていく。

 淡々と敵を屠る影と違い、死神は楽しそうだ。

 二人の息の合った攻撃に、敵は瞬く間に数を減らしていく。

「アハハハハァ!」

 朗らかな笑い声が断末魔を超えて響き渡る。戦場に不釣り合いな、子供の無邪気さを感じさせる声音が敵の背を凍らせた。

 

 

 残された魔族たちが魔法を放つと死神は地に降り立った。得物を手に疾走する彼らに死神が宣告した。

「神々の祝福」

 どこからともなく発生した煙が魔族たちを包み込んだが、阻むことはかなわない。

「オレたちを祝福する神など……存在するものか!」

 怒りとも悲しみともつかない叫びが空気を震わせた。男の言葉に従うように魔界の空は暗黒に閉ざされている。光無き空だけが血で血を洗う戦いを見守っている。

 身をかわしたキルバーンに追撃を浴びせようとした男たちが胸をおさえ、喉をかきむしって倒れ伏した。表情は苦痛と恐怖に染まり、残酷な死神を見上げている。

 がくりと頭を垂れた彼らは身を震わせていたが、鎌が心臓を貫き命の灯を消した。

 とどめを刺して苦痛の時を終わらせたキルバーンは身を震わせて己の手を見つめた。

「いるかもしれないよ。機械仕掛けの神なら、ね」

 呟く彼の肩にぴょこんと飛び乗った使い魔がうんうんと頷いてみせる。

 

 

 ふとミストバーンが上方を振り仰いだ。友の視線を追ったキルバーンが口笛を吹く。

「さあ、魔界の神のお出ましだ」

 空気が変わる。立ちこめる何かが色を変える。

 先ほどまでとは質の異なる厳かな雰囲気が戦場を支配した。

 ミストバーンとキルバーンが退き、道を作る。

 その中央に、焼き尽くす者の名を持つ魔族が姿を現した。

 焼き尽くす対象は魔界の空を遮る世界と、その道を阻む者達。

 闘いの音に誘われるかのように集う彼らへ、王が宣告した。

「永遠の安息を与えてやろう」

 巨大な柱と化した、浄化の炎が立ち上った。

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