今度は私の番ね。
私、ずっと好きな人がいたんだ。会ったこともなくて、向こうも私のことなんて知らない。でも私は好きだった。ずっと、憧れていた。
その人はね、ちょっとした有名人なの。動画サイトに動画を投稿してるグループのメンバーで、もしかしたら知ってる人もいるかもね。ホラー動画を検索してきてそれを観るの。感想を言ったりしてさ。
そういうグループって結構あるよ。顔出ししたりしなかったり、なんかのイラストキャラを動かしてる人もいる。男も女もたっくさんいる。その中で私はその一人を見つけたの。
はい、職業ユーチューバーの田中さん。その人が私の好きな人です。
ほらほらそこー。えーって顔しなーい。
わかってるよ、あの人変人でしょ。知ってるんだって。でも好きなんだからしょうがないじゃない。オカマだっていいの。私はあの人が好き。好きだったの。
とんでもなく好きでね、好きすぎて動画を見まくったよ。でも応援コメントは一回も書かなかった。書けなかったんだ。こう、ドキドキしちゃってね、冷静でいられないの。
うーん、もしかしたらホラー動画の内容にドキドキしてただけなのかも。でもそれってヤバい方のドキドキだよね。うん、やっぱり私は好きの方のドキドキを感じてた。
田中さんっていう人はね、四人グループの紅一点だった。あれ、おかしいな。男三人とオカマ一人のグループだったんだよ。オカマは紅? まあいっか。
とにかくオカマ。オネエさんだった。
オシャレだったよ。ネイルとかもしててね、お化粧もキツくない程度でしてるの。アクセサリーはあんまりしないね。服装は、うん、オカマ。
あははっ、そこらへんは想像におまかせかな。ただね、田中さんはザ・オカマみたいな印象の人。
そう、オカマキャラなの。
私が田中さんのことを好きになったのはある動画がきっかけだった。それは数分で削除されちゃったんだけど、運良く私はそれを観た。
内容はね、田中さん自身のことだよ。
田中さんは優しい人だった。
誰でも見ることのできる映像を公開するっていうのは、いろんなことがあるの。言いたい放題言われて、あなたはこうだって押し付けられて、間違ったイメージを植えつけられることもあるでしょう。彼らはそれを承知で何度も電波に動画を乗せた。その度にいろいろ言われて、それでも止めなかった。
身元が知られる危険だってあるの。本人だけじゃなくってその周りの人に矛先が向かうことだってきっとある。それでも止めなかったのには何か理由があるのかもしれない。
田中さんが「オカマ」なのには理由と意味があった。オカマって目立つんだよ。良い意味でも悪い意味でも。それをわざと演じた。
そうだよ、田中さんはオカマキャラ。オカマを演じてたの。動画の上でオカマっていうキャラクターを演じてた。
私、この人嘘つきだって思ったよ。でも違った。
男四人のグループ。その内、二人は陰キャ。一人は陽キャ。間に普通の人が入ったとしても、文句を言われるのは大抵陰キャの人たち。
言いやすいんだろうね。弱いものいじめだよ。
だから田中さんは考えた。避雷針があれば、他の人に雷は落ちない。つまりね、ネクラよりもっと言われやすい人がいればいいんだって。オカマだよ。
オカマなら目立つでしょ。何もなくたって「オカマだから」って理由で悪いことは言われるはず。田中さんはね、自分がオカマだからって言いながらイヤなことを全部引き受けたの。
そのためのキャラクター作りだったの。
私、なんて優しい人なんだって思ったの。仲間想いのいい人だって。
四人の中で一番悪目立ちしてる人。それが私の初恋の人です。
あ、そういえばグループの他のメンバーは山田、佐藤、鈴木だよ。みーんなありきたりの名字だよねぇ。
だから特にオカマの田中さんは目立っていた。彼の思った通り、悪質なコメントは全部「オカマの田中」に向けられた。
彼の勝ちだよね、これって。
うん、すごいと思うよ。
それを知ってね、田中っていうオカマが田中さんっていう男性に変わったの。私の中でね。
同じ世界に行きたいと思って、ユーチューバーを目指そうと考えた時期もあったな。できなかったけど。
違うよ。これは憧れじゃない。ただの憧れじゃないよ。
私、彼のことが男性として好きだったの。本当だよ。でも過去のことになっちゃった。