そのグループね、もう動画を投稿してないんだ。たくさん観たからね、もう普通のホラー動画じゃつまんなくなっちゃったの。その意見が四人から出たのか、コメントであったのか。知らないけど、結果的に活動は休止になった。ずっと前の話。
だから私の恋もそこで終わっちゃったの。あーあ、一回でいいから田中さんにメッセージを送ればよかった。なーんて、考えても後の祭り。更新はされなかった。
残ったのはそれまでに投稿された動画とコメントたちだけ。私は思い出を辿るみたいに何度も見返した。
その中でね、いくつか変なコメントがあったの。
「田中さん、何処に行ってた?」
みたいな。
意味わかんないでしょ。
確かに変なコメントはいくつもあった。 ネットで公開されるっていうのはこういうことだよ。不特定多数の目に晒される。いくつもの口からコメントが投げつけられる。
だからこういうのもよくあるの。よくあるんだけど、それが気になった。他の日付の動画にも同じようなのがあったりしたの。それも田中さんの名指しで。
おかしいでしょ? 山田さんでも佐藤さんでも鈴木さんでもいいはずよ。でも違う。居場所を確認するコメントのほとんどは田中さんに向けてのものだった。
目的はなに? 出没場所の特定? ううん、そういうのじゃなかった。そういうのじゃないの。
田中さんはそういうコメントに返信はしなかった。一回でもすると後が続いちゃう。だからしなかったのよ。スキャンダルっていうのはそういう風にして尻尾を掴まれるのかもね。田中さんはよくわかってた。
私は日付の一番近いコメント、それも女性が書いただろうってものに宛ててコメントをした。何でか気になったの。
それと、もう田中さんはネットに戻ってこない気がした。だからね、最後くらいいいじゃない。疑問を持ったままお別れをするのはイヤ。
私はその人に詳しい話をお願いしたの。
まず最初にこれを聞いてもらいたいな。
ドッペルゲンガーって言葉、みんな知ってる?
自分そっくりの別人だとか、もう一人の自分だとか、あとはね、自分から分離した幽体、かな。
世界には同じ顔の人間が三人はいる。その話じゃなくて、もっと近い話だよ。世界にいる誰かだったら遭遇するのは奇跡か偶然。だって地球は大きいでしょ。簡単には出会えない。
それでも出会うなら、それは運命か意図的なもの。探して会いにきたの。
昔からこの類いの話はあったよね。もう一人の自分と出会う。出会わなくても、知り合いが自分そっくりな人と会う。それは全部「自分じゃない誰か」と会う話なんだけど、中にはその誰かと会話をしたって話まで聞くこともあるんだって。
でも考えてみて。その日、その時間、その場所に自分はいない。どこどこであなたと会ったよね。急いでいたの? 挨拶もなしに行っちゃって。私はその日用事があって別の人と会っていた。その場所にいるはずがない。じゃあ、そこにいたのは誰?
聞いたことある話じゃない?
ドッペルゲンガーの話だよ。
それは何回も起こって、だんだん自分の近くに現れるようになる。隣町から同じ町内に。それから、数時間前の同じ店に。だんだんだんだん近くにやってくる。
それでね、とうとう自分がその人と会っちゃうの。
ドッペルゲンガーと自分が会う。
続きはないよ。自分とおなじ顔をしたドッペルゲンガーと会うと死ぬ。
ね。聞いたことある話じゃない?
ドッペルゲンガーっていうのはもともとドイツ語のドッペルとゲンガーが合わさった単語なんだ。意味は二重の、歩行者。
だからドッペルゲンガーは一人しかいないのかもしれないね。自分と、もう一人。
そこに幽霊とかっていう意味はないと思うんだよ。でもなんでか会うとそうなってしまう不気味な存在。
それが幻だったら、死期が近い前触れってこともあるかもね。でも実際に会って会話をした人がいるなら幻なんかじゃない。
そのドッペルゲンガーさんは存在する。形を持って、足を持って、やってくる。