ドッペルゲンガーの話なんて持ち出してどうしたのかって? だからぁ、ドッペルゲンガーの話だったんだよ。田中さんのドッペルゲンガーが存在してたの。
えっと、どこまで話したっけ。そうそう、動画にコメントした女性の話を聞いたのね。
その動画は生放送の時の物だった。生放送で生中継で、四人揃ってどこかの修道院で撮られた動画を検証していた。コメントした彼女も生放送だって知っていた。知っていたはずなのに、田中さんへ名指しのコメントを残したの。
「田中おネエさん。×月×日の×時、何処にいましたか?」
×月×日は動画が投稿された日。その時間は生放送の真っ最中。知っててそんなことを言う人は誰だと思いながら、私はコメントを紐付けた。
公の場でやいやい言うのはよくないでしょ。だから私たちはメールでやり取りをした。ほんの二、三度送っただけですぐに仲良しになったよ。
だって、ね。同じ人を好きになるんだから好みもきっと近い。そう、私たちは田中さんの強火担だった。
最初の用件も忘れて送信ボタンを押し続けたな。ここが好きって言い合って、おお同志よ! って興奮したし、同時に好きを独り占めできないって嫉妬もした。それでね、やっと最初の話題に戻ってくるの。
「結局、何であんなコメントしたの?」
そうしたら、返ってきたのはとんでもない答えだった。それがドッペルゲンガーの話だよ。
あの投稿の日、知り合いが田中さんっぽい人を見た。
だから、本当か確認したかった。
田中さんじゃないことを知っていたけど、ほら、あのグループってホラー動画関連のことによく足を突っ込みたがるでしょ? もしかしたらそれ系の話なのかもって。
わあこっわあい。
でもね、そう言えば田中さんを含めたメンバーの誰かがコメントを見てくれるってわかってるの。
そう。この話の最初は嘘から始まったんだ。大好きな田中さんに見てもらえるように、ちょっと変わったコメントを送る。
私たちは他の田中強火担の人と共有した。同じようなコメントをした人たちだよ。みーんな考えたことは同じ。
少しでも目立つように「あなたあの日あの場所にいましたね」。嘘だよ。でも誰かが言い出して、これはいい! って思った人が同じことをした。きっと言い出しっぺも嘘を、作り話を言ったんだ。
だってさ。
ドッペルゲンガーなんているはずないよ。でしょ? じゃあこの話は終わりだね。
そうじゃないんだよ。
他の人にとってはそうでもね、私にはそれだけじゃなかった。
みんなが言ってる「田中さんがいた場所」、おかしなことに全部一致してたの。細かい所は違うよ。でも同じ市内だった。
訊いてみたよ。どうしてその場所にしたの? え、そんなこと言ってたっけ?
みんな適当なことを言ってたはずが同じことを言ってたんだ。「田中さん」はどこどこにいる、って。
それからだよ、本当にその場所で「田中さんみたいな人」が見られるようになったのは。それは全部同じ市内。
私、知ってるよ。知ってたの。その地名は私がよく知ってて馴染みのある場所。
そう。
桜ヶ原。