私たちは嘘を言っていたの。見つけてもらうために。
でもそれは本当になってしまった。
ドッペルゲンガーは見てしまう話なんかじゃなかったんだよ。見つけてしまう話。私たちはそのドッペルゲンガーさんを呼んで、見つけてしまった。
嘘が本当になってしまった。
桜ヶ原はそういうとこあるよね。
何度も何度も語って、お伽噺とか伝承とか作り話が現実になる。そうあれって願うのは私たち。そうあったらいいなって望むのは私たち。
私は呟いた。
この桜ヶ原って場所、実在しますよ。って。
ドッペルゲンガーは実在した。
一部のファンの中で田中さんを見たっていうコメントは、冗談なんかじゃなくて、そっくりな別人を見た、ドッペルゲンガーを見たっていう意味を持つようになった。
ドッペルゲンガーは一人歩きを始めたのよ。
コメントを見た人の大半は無視をした。一部はおかしいと思ったでしょう。それで、嘘だと思ったでしょう。でも残りのほんの、本当にごく一部の人は好奇心を丸出しにして食いついた。特に、田中さんの熱心なファンたちは。そうよ、私も、ね。
私たちは彼に会ってみたかった。本当に彼が実在するのか、この目で見てみたかった。だって気になるでしょ。都市伝説のドッペルゲンガー、それも自分じゃない他人の、しかも憧れの人の。
彼女たちは私が教えたこの土地へやって来た。この桜ヶ原でならあのドッペルゲンガーに会えるかもしれないっていう期待を抱いて。
ところで、この桜ヶ原もそこそこ広いよね。
まあ過去形でトンネルがあったり、山があったりなんかわかんない部分もあったりするんだけど、それでもさ、人が住める場所だけでもそこそこあるよね。
そんな町の何処を探せばたった一人を見つけられるのか。普通、その人の好みで行きそうな店とか投稿画像の背景から割り出すとか目に写った景色とかあとなんだろね、そういうのから場所を特定するんだけど、え、しない? とにかくヒントはそういうもんなんだけど、私が彼女たちに言ったのは全然別のことだった。
さあここから桜ヶ原のお話だよ。
ドッペルゲンガーの話って、自分と自分そっくりのドッペルゲンガーが会う話だよね。私たちが期待していたのは田中さんのドッペルゲンガー、自分のじゃないドッペルゲンガーと会うこと。
まずね、そのドッペルゲンガーと会えたとしてどうやって本人じゃないって判断するの? 自分のだったら自分そっくりの顔が目の前にいるってことで一目瞭然なんだけど、はっきり言って本物の田中さんにすら私たちは会ったことがない。
本物なら本物で最高なんだけど、興味はもうドッペルゲンガーに向いてた。どうしても会ってみたいドッペルゲンガー。
はは、自分のじゃないからそう言えるんだろうね。まさかドッペルゲンガーを探すことになるなんてさ。
でも、うん、言わなきゃよかったかもね。いやこれでよかったのかな。
私がその「出るだろう場所」について言ったことで何かが変わるとは思ってなかったの。それも、複数の人生が変えられるなんて。
私にはドッペルゲンガーが出そうな場所に心当たりがあった。そこはなんの変哲もない、少し角が多いかな、つまりいきなり人が出てきてもおかしくない曲がり角が多い道。
言い方を変えると、誰かが潜んでいそうな通りだった。見通しが悪いね。事故も起こりやすい条件だから、地元でそこを歩く人は少ない。
ほら、知らなかったでしょ。そんな道があるなんて。なんとなく避けてたでしょ。そうだよ、地元の人は避ける道。何が起こっても気づかれない可能性があるからね。
だから知らないんだよ。そこで何が起きたのか。
私も、そうだね、薄気味悪いと思って避けてたの。なんとなく、誰かが隠れてる気がして。
もしも何かが起きたら手遅れになっちゃうかもしれないでしょ。だからその通りを避けるの。
ねえ、その通りが裏で何て呼ばれてるか知ってる?
もう一人の自分と会える場所。
だってさ。
どう考えてもこれはドッペルゲンガーに会えてしまうって意味でしょ。
だから私はみんなにその場所を提案した。
アハハ、喜ばれることじゃないよね。
でもね、どうしても試してみたかったんだ。