ある夜に、私は家を抜け出した。毎日心配して自室の扉をノックしてくれた両親には本当に頭が上がらない。
感謝しています、お母さん。敬愛しています、お父さん。こんなことになった私のことを兄弟に言わなかったのには救われました。
私は一人であの通りに向かった。
もしかしたらまたあれと会えるかもしれない。会ってどうする。どうもしない。
私はただ最期にもう一度だけ、人生で一番憎んだ男の顔が見てみたかった。
あの夜よりも冷たい空気は気にもしない。傷んだ体を引き摺って私は歩いた。
何処にいるかなんて考えてなかった。なんとなく、そう、なんとなくこっちだと思った方に向かっただけ。全部が同じ道に見える。何度も何度も角を曲がった。もう、帰り道はわからない。
それでもいいの。
それでいいの。私は、もう帰れるとは思っていなかった。
最後の角を曲がろうとした時、その先で誰かの声を聴いた。二人分の声だった。何を言っているのかわからない。知りたくないと思ったから、聞こうとしなかったんだと、後で思った。
三度目だった。
私は、私の意思で其処へ行こうと思ったの。
本当は行ってはいけない道だった。最初から知ってたはずなのに、私たちはその道を歩いた。
二人はそこでキスをしていた。気持ちの悪くなるくらい深いキス。片方は田中さんの顔をしたあれだった。もう片方は。
そいつは私の目を見て、嫌みたらしく嗤った。
ドッペルゲンガー。会えば死ぬ。
自分と同じ顔をした誰かと会えば、死ぬ。
そいつの顔は、鏡で見た私の顔そっくりだった。
足音が近づいてくる。
お腹が痛い。
足音がすぐ前までやってくる。
私は、自分のドッペルゲンガーと出会ってしまった。
私たちは自分のドッペルゲンガーと会うために、その通りで迷うの。迷って、迷って、運命みたいな出会いをする。
そこは、もう一人の自分と出会う場所。
見つけてしまったね。これは誰かとドッペルゲンガーの話。
目を閉じる間際に私の声が聞こえた。
「××さん、見てください! これが私たちの赤ちゃんですよ!」
もうおなかはいたくなかった。
田中さん。田中さん。
私の大好きな人。私が心から愛し、友人になりたいと願った人。
ごめんなさい。
私は嘘をつきました。
私は、私は。
誰だったのかな。
ごめんね、こんなくだらない話で。
じゃあ、次の人。どーぞ。
『ドッペルゲンガーへ会いに』
会いに行くよ
誰かさん
ミラーハウスは迷ってしまう
あなたも私も迷ってしまう
忘れてた
そんな生き方
嘘もほんともまざった世界
迷ったことも忘れていたね
会いにいくよ
誰かさん
会いにきたよ
誰かさん
重なるふたりの影はいく
あなたはだあれ
わらうだけ
私はだあれ
私は私にあいにいく