ホラー動画を探し隊   作:犬屋小鳥本部

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僕には好きな動画配信グループがいました。そのグループは四人組でした。
山田さん。佐藤さん。田中さん。
そして、四人目の鈴木さん。

これは、彼の残した最後の動画です。



じゃあ、始めるよ。


ニジュウゴバン

彼は僕が言うのもなんだけど、四人の中で蛇足だった。山田さんは明るくリーダーっぽくって、佐藤さんはクールで機械に強い。田中さんはオネエでキャラが濃い。じゃあ、鈴木さんは? 彼は自称イケメンっていう設定だ。ちょっと山田さんとキャラが被らないか?

様はいてもいなくても変わらないポジションだった。僕だけじゃないよ。動画を観ている人たちのコメントにはいくつもそう書かれている。

彼は蛇足だ。蛇の足だ。

そんな人、いらないよね。

でも彼は最後まで残ったんだ。

 

そのグループは元々他の人が投稿した動画を紹介するグループだった。それも、ホラー動画に限る。

でもさ、それもいつかは尽きるんだよ。面白い動画がないな。じゃあ自分達で作ろう。彼らはそこで自分だけの動画を作ることにした。

 

はっきり言ってね、動画投稿っていうのは編集した絵を考察するのが面白いんだ。ガチで真面目なホラーは求めてない。如何に怖い絵を作れるか。如何に恐い雰囲気をレポートできるか。配信者はそこだと僕は思う。エンターテイメントなんだよ、これは。

 

だからね、その先に踏み出しちゃった彼らに何が起こっても不思議じゃなかった。

 

まず、山田さんがいなくなった。

「ニュースです。市内にて絞殺死体が発見されました。場所は」

彼は最後に廃病院の動画をあげていた。

 

次に佐藤さんがいなくなった。

「ニュースです。市内某所で変死体が発見されました。死体の損傷が極めて酷く」

彼は最後に空き家となったコンビニの動画をあげていた。

 

そして、田中さんがいなくなった。

「ニュースです。本日未明、市内某所で発見された××は急性アルコール中毒だったと」

彼は最後に路地の動画をあげていた。

 

残ったのは蛇足の鈴木さんだけになった。彼一人じゃ何もできない。もう、終わりだな。

正直、僕はそう思った。

その矢先に彼は動画を投稿した。

 

 

 

いや、何かおかしかった。

 

 

 

本当に投稿したのは鈴木さん本人だったのか?

 

 

 

彼の動画は録音はされていても録画がされていない、音だけの「動画」だった。満足に撮影すらできない人に投稿なんてできるのか? それに、その動画のエンディングから考えていつ投稿したのかわからない。動画はしっかり編集されていた。じゃあ誰が最後の後始末をしたのか。

わからなかった。

 

動画は最初からおかしかった。真っ黒な画面。鈴木さんの声と周囲の音。それだけで画面は埋まっていた。

ただ、その中にはいくつかあり得ないことが混ざっている。すごく、すごく自然に混じっている不自然。

それは他のメンバーが、山田さんと佐藤さんと田中さんの存在だった。彼らはとっくに行方不明になっていて、もう、帰らない人になってしまった。だから連絡も来るはずないし、音声なんて絶対に入るはずないんだ。

それなのに、それなのに、なんで。

 

鈴木さんが選んだ場所はトンネルだった。その名前を僕はよく知ってる。だって地元なんだからね。

そして鈴木さんにトンネルを教えたのも僕だ。僕はずっと出席番号25番として彼らと連絡を取っていた。でもまさか、本当に来るなんて。

 

 

 

ねえ、鈴木さん。聞こえてる?

いなくなった三人があなたに声をかけてるよ。

ねえ、鈴木さん。聞こえてる?

あなたの近くでいるはずのない足音たちが鳴っているよ。

ああきっと土砂に埋まった人たちがあなたを其処から出さないために迷わせようとしているんだね。だってそのトンネル、そんなに長いはずないから。

可哀想な鈴木さん。もう其処から出られないよ。

 

なんでだよ。なんであの三人はあなたを助けようとするんだ。鈴木さんはただの蛇足だろう? なのになんで死んだ後まで彼と一緒にいるんだよ。

彼は蛇足だ。だからそのトンネルを、蛇の作ったトンネルを教えたのに。

なんで彼を逃がそうとする。

 

デモダメダネ。ああダメだ。

地下通路は誰も逃がさない。だって彼処には腹を空かせた大蛇が獲物を待っているんだから。

ほら、聞こえる。あの蛇の牙を鳴らす音が!

 

さあ逃げろ! 逃げろ!!

 

ははっ、ほら見ろ。彼は蛇に捕まった。そのトンネルから生きて出ることはできない。

やっぱりあなたは蛇足だった。そんなあなたにはこんな蛇にまつわる場所がお似合いだ。

その有刺鉄線はね。トンネルに入っちゃダメだっていう印じゃなくて、トンネルから蛇を外に出さないようにするため。外に出るなっていう蛇への警告なんだ。

 

ああ、誰だろうねぇ。鈴木さんをこんなところに呼んでしまった人は。

僕は呼んでいないよ。呼んでいない。

誰だよ、僕の番号を偽った人は。

 

「ソレハオレダ」

 

結局最期まで鈴木さんの顔がしっかり映ったことはなかったな。何がイケメン配信者だよ。顔が映らなきゃわからないだろ。

 

さあ、これで終わりだ。

四人いた配信者たちは誰もいなくなった。もう、更新されることはない。

 

 

 

僕はパソコンの電源を落とした。




後に、僕へは鈴木さんから本当に最後のメールが届いた。それはたった一枚の画像データだった。



あの夜、トンネルの前で記念写真を一人で撮った鈴木さん。



僕は見てから歯を噛み締めた。



そこには笑っているイケメンと、彼を囲んだ懐かしい三人の透けた姿が写っていた。
彼らは四人で笑っていた。
もう、この世にいない四人のさいごの笑顔だった。

有刺鉄線を挟んだ先にはぽっかりと口を開いたトンネルがいた。
闇が広がる口の奥からは無数の手が彼に向かって伸ばされていた。そして、トンネルにはきらりと光る牙がこれからやって来る獲物を心待ちにしていた。






僕はもう一度あの動画を再生した。

そして、そして、それを聴いた。

「久しぶり。また、四人で配信しよう」



それは僕に向かってのメッセージじゃない。そのことだけはわかってしまった。






彼らは久しぶりに会えただろうか。
四人でまた楽しそうに、語り合っているだろうか。



僕は今度こそ本当に、パソコンの電源を落とした。
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