ホラー動画を探し隊   作:犬屋小鳥本部

5 / 25
俺の友人のバイト先のオーナーの先輩たちの話だ。


角のコンビニ『引きずる音・引きずられる音』

俺の元後輩がコンビニのオーナーになったんだ。

…いや、そのコンビニはもうないんだけどな。

 

やたら出入りが激しかったあの角のコンビニだよ。

噂だと、オーナーが失踪したから閉店したって話だろ?

ちょっと違うんだよ。

 

これはそのオーナーの婚約者から聞いた話だ。

 

そいつのコンビニが入る前は1ヶ月、早くて1週間くらいで店が代わってた。

色々噂はあったけど、これといった理由は誰も知らなかった。

 

何ヵ月か前に、会社を辞めてコンビニのオーナーになるっていう連絡が俺のところにきた。

俺の地元だったから何回か利用して、そいつとも会ってたよ。

「安く借りられた」ってそいつは言ってた。

出入りが激しい場所だってことは知ってたんで、少しだけ心配だった。

だけど結局1週間経っても何もなくて、経営も案外順調だったんで、ああ、ただの噂だったんだなって思ってたんだ。

 

その矢先に、突然そいつはいなくなった。

 

警察にも届け出を出して、俺も手伝って捜したんだ。でも見つからない。

結局行方不明の失踪扱いになった。

 

失踪なんてする理由がないんだよ。

そいつ。

コンビニの経営も軌道に乗り始めて、シフトも余裕ありすぎるくらいゆったりと組んであったらしい。

人が足りない時間は自分が率先して入る。

アルバイトに負担をかけたら、オーナーとしての価値が下がる。

それでも無理はしないで、きついと思ったら誰かに相談する。

いいやつだろ?

 

しかも、この話をしてくれたのはそいつの婚約者。

いなくなる二日前に入籍してるんだよ。

二日前。

式の予約も来月しに行く予定だったらしい。

そんな幸せの絶頂にあるやつが失踪なんてするか?

するわけないだろ。

 

だから、その婚約者はそいつと親しかった俺のところに相談を持ち掛けてきたってわけだ。

彼女自身、俺の彼女…先日入籍したから嫁さんか。俺の嫁さんと親しいからってこともあるけど。

 

理由も分かんないまま、そいつがいなくなって二週間が経った頃。

コンビニのシフトは一ヶ月まとめて組んであるんで、そいつの分は一緒に働いてた彼女と有志で埋めてたらしい。

 

丁度その日、彼女は深夜の夜勤に入ってたんだって。もちろん安全面のためにもう一人一緒のやつがいたらしい。

この「深夜」っていうのはガチの深夜な。

日付が変わった朝(未明?)1時から朝5時までが深夜タイム。

 

この時間は客が極めて少ないんで、菓子とか雑貨の商品陳列・看板とかの外掃除がメインの仕事なんだって。

で、もう一人が外の掃除してる間に彼女は商品陳列を店内でしてたんだって。

 

その時間にさ。

店内放送が、変な時があったらしいんだよね。

 

別に店員がアナウンスを入れるとかっていう放送システムじゃなくて、多分パソコンとかに本部から送られてくる音楽とセールのアピールとかをただひたすら繰り返して流すタイプの放送。

繰り返しだから、時間によって違うってことはない。

 

突然流れていた音楽が止まって、うんともすんともいわない。

雑音すら入らない妙な時間。

 

流石に彼女も不審に思って、事務所のパソコンを見に行こうとしたらまた音楽が鳴り始めたらしい。

接触不良とかって原因も考えられるんだけど、彼女はどうも気にかかったらしい。

彼女は他の深夜組の人にもそういうことはあったかって聞いたんだって。

でも、そんなの1度もないってみんな言う。

 

たまたまだったんだろ?

そうだよ。たまたまだったんだよ。

たまたま彼女が深夜に入った日に、しかも彼女が一人になったときにそういうことが起こったんだよ。

 

たまたま

それが

30回以上

続いていてもな

 

たまたまなわけないじゃん。

彼女が深夜出勤する度に起こるそうだぜ?

 

でさ。

その放送について詳しいことを聞いたら、彼女、震えながら話してくれるんだ。

 

初めは無音だった。

 

回数が増えてくると、ざっ…ざっ…って足を引きずるような音が混じってきた。

 

嫌な予感がして、彼女にもういいって言おうとしたとき、彼女叫んだんだよ。

 

あの人の声が混じってる。

 

って。

 

えって思って、続きを聞いた。

 

足を引きずるような音に混じって「ごめん」「いやだ」「やめて」って声が聞こえ始めた。

昨日も深夜入った。

そしたら

 

 

 

「タスケテ、××」

 

 

 

 

そいつの声で、はっきりと自分の名前を呼ばれたんだってさ。

 

今日も彼女、そいつの声を聞きたくて深夜出勤交代してもらったんだってさ。

彼女はまたその放送を聞くんだろう。

 

俺も、俺の嫁さんも二人のことが心配なんだ。

嫌な予感はずっと続いている。

今日は二人で彼女の話を聞きに行くつもりだ。

 

どうかその「なにかを」引きずる音が、「そいつを」引きずる音ではないように願うばかりだ。

 

♪~

 

ん?LINEだ。だれから

 

………

 

俺、今からちょっと出掛けてくるわ。

彼女のところに行くまでまだちょっと時間あるし。

時間まで、詳しいこと調べてみる。

だってさ。

そいつが俺のこと指定してきたんだ。

応えてやらなきゃ先輩じゃねぇよ。

 

○○からのLINEメール

「センパイ マッテマス タスケテ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の先日入籍した夫の元後輩がコンビニのオーナーになったの。

…ああ、そのコンビニはもうないんだけどね。

 

やたら出入りが激しかったあの角のコンビニよ。

オーナーになったその人は、いなくなる二日前に私の後輩と入籍した。

 

これはその人がいなくなった後の話。

 

私の可愛がってる後輩は、数ヵ月前にずっと付き合ってた人と入籍したの。

私もその子もすごく嬉しくてはしゃいでた。

その子の旦那さんになった人は、本当に偶然なんだけどね。私の先日入籍した彼の元後輩だったの。

彼は特に言ってなかったけど、向こうの人はすごく彼に懐いていたみたい。

その人は何ヵ月も前に私たちの地元に来て、コンビニのオーナーになったの。

もちろん私の後輩も一緒に来て、コンビニの店長として頑張ってた。

 

オーナーと店長は違うからね?

夫婦でコンビニをやるんだったら、オーナーが旦那さん・店長が奥さんって所が多いみたい。

 

経営も軌道に乗ってきて。

金銭関係も人間関係も良好。

ずっと付き合ってた二人も将来を誓って入籍して。

幸せの絶頂にいたんだよ。

それなのに。

 

その人は急にいなくなってしまった。

 

いなくなる理由なんてこれっぽっちもなかった。

彼女はその人がすぐ戻ると信じてお店を回した。

深夜での出勤も入るようになった。

安全面を考慮した二人でのシフトは彼女の旦那さんになった人が考えたもの。

それでも店内に一人だけっていう時間はできるよね。

そのときに少しだけ、変な放送が流れたんだって。

 

初めは無音。音楽とかの途中なのに、ぶつりと急に音が途切れたんだって。

 

一回だけだったら、まあそんなこともあるかなって思うんだけど。

こんなことが二回三回…四十回なんて続いたんだって。

 

それは決まって彼女が深夜に一人の時に。

 

しかもその無音だった放送に変な音が少しずつ混ざり始めたんだって。

 

…………

…ざっ………

ざっ………ざっ………

…ざっ………ざっ…

 

何かを引きずる音が混ざり始めた。

 

ざっ……めて……

…ざっ……い……はな…ざっ…

…いや…ざっ……ざっ……て……

 

誰かの声が混ざり始めた。

 

その声は。

 

……ざっ……ざっ…タス…ざっ…

 

彼女が帰りを待つ、彼のものだった。

 

…タス…ざっ…ケテ……ざっ…××…

 

彼の声が彼女の名前を呼んだ。

 

「タスケテ ××」

 

その話を私と私の方の旦那さんに話しているとき、彼女は泣き崩れていた。

あの声は絶対にあの人だ

私はどうすればいいの?

あの人が助けを求めているのに自分は何も出来ないの?

彼女はもう限界だったんだと思う。

 

今日も彼女が心配で、私の旦那さんと一緒に話を聞きに行く予定なの。

でもね。

さっきその旦那さんからとんでもない連絡がきた。

いなくなったその人からメールがきたんだって。

「センパイ マッテマス タスケテ」って。

LINEだったから彼はその後いくつかメッセージを送ったらしいんだけど、既読は付かないんだって。

 

待ち合わせの時間までまだ余裕がある。

自分を指名してきたんだからできる限りやってみるって、彼は言ってた。

色々調べてみるって。

 

そう。

ここまでが私の旦那さんも知っている「引きずる音」の話。

 

でもね、実はその話には続きがあるの。

彼女と親しかった私が聞いた話。

 

「タスケテ」って声が聞こえた放送の後も、変な放送は続いた。

でも、なんか変なんだって。

ざっ、っていう引きずる音が…例えばその音を足を引きずる音だとするでしょ?それだと、一応足を引きずっている人は自分で歩いている状態になるよね?

 

それが…

ずるっずるっ、って引きずられる音になったんだって。

なんか重い荷物を引きずる時に出る音。

その時には、声はもう聞こえなくなってたんだって。

ただ、得体の知れない不安が彼女の心を支配した。彼はどうなってしまったの?って。

 

彼女はもう不安で不安で、毎日深夜に勤務時間を作ってた。その「放送」を聞くためだけに。

 

その引きずられる音は始めはゆっくりと。

 

…ずるっ……ずるっ…

 

次第に速く、容赦なく「物」を引きずるような音になっていった。

 

ずるずるっ…ずるっ…ずるっ…ずるずるっ…

 

ずずっ…ずるずるっ…ずずー…ずるずるー…

 

それは普通じゃ考えられないくらいの速さで引きずられる音なんだって。

しかも、それを聞いていると自分の体が引きずられているように感じる。

真っ暗な穴の奥へ引きずられるように。

しかも時折、がさがさと何かが擦れるような音も混ざるんだって。

足になにか巻き付いている気がするんだって。

 

彼女、言ってたわ。

「ああ、もうダメなのかもしれない。」

 

♪~

 

私のスマホにLINEが入った。

彼女からだ。

私の可愛い後輩である彼女はとてもいい子なの。

もちろん、その旦那さんとなったあの人も。

私は、二人を助けたい。

もう、手遅れなのかもしれないけど。

私は最後まで諦めたくない。

 

××からのLINEメール

「センパイ ゴメンナサイ」

 

その日、彼女に会うことは結局できなかった。




俺の先輩はこんなにいい人じゃなかったし、後輩もこんな風に頼ってくれたことなかったな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。