なぜかオーディションを受けることになったMasquerade kiss もといWerewolfのメンバーですが……。
それでは、本文を。
「久しぶりだね。で、なんの用だい?」
「オーディションを受けようと思って」
オーナーが出てきたと同時に一列になって軽く頭を下げていた俺らだったが、意を決して頭をあげ、言葉を振り絞った。
男のいるバンドを受け入れてはくれないかもしれない。アポイントなしできたことに腹を立てているかもしれない。でも、言わないと前には進めない。
「残念だけど、今日はライブの日。あんたらのオーディションならいつでも時間をとってやるからまた連絡しな。……見てくかい?」
『高校生5枚、こいつにツケで』
「ツケとは感心しないねえ。ほら、圭介。3000円払いな」
「ちゃっかりあんたも乗ってるんじゃねえか」
さよなら、俺の英世3人……。
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思い返すとSPACEは俺らの原点だった。
小学校時代に楽器に出会ってから実は入り浸っていた時期があった。みんなで集まってオーナーにライブがない日の昼の時間に入れてもらって、自由に演奏させてもらったのもいい思い出だ。その時にはまだオーディション制度なんてなかったな。
そこで最初のバンド練、やってたんだっけ。
親に内緒で集まってたけど、オーナーにはそんなこともバレててちゃんと親に連絡行ってたんだっけ。しかもメールで。
やばい。思い出したら懐かしくなってきた。若干泣きそう。
「ところで、なんでここにオーディションなんてもんが出来たんだ?」
「あ〜、あたしらが通ってた時期はオーディションなんて存在しなかったもんね。確かオーナーがステージ上でなあなあな演奏をしたバンドにブチ切れてオーディション制ができたらしいよ。それ以来あたし達も来なくなっちゃったから詳しいことはよくわかんないけどね」
「それであってるで、しぐれ。俺らがステージに立ってた頃が懐かしいな」
「何言ってんだ?冬樹。俺らでもう一度立つんだろ?」
「それもそうやな。オーディション、頑張るか」
「みんな、もうすぐ始まるよ」
俺らがいつも立っていたステージは、あの時と同じくらいきらびやかで、上に立つ少女たちの黄緑色の衣装を輝かしく照らしていた。
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「やっぱりあそこのライブはアツいね。出てたバンドみんないい。さすがオーディション通ってるだけあるよ」
「練習したばっかりだけど、あたし、叩きたくなってきちゃった。どうしよ」
「なんならうち使うか?ドラム置いてあるぞ」
「自分も寄ってええか?弾きたくなってきた」
「ま〜、今日金曜日で明日学校もないし、いいぞ」
「よっしゃ☆もう連絡しといたから、今日はよろしくね!」
「はいはい、任されましたっと」
他のバンドのライブを見たらこうなるんですよねわかります。大体そうだもん俺ら。
「みんな行くなら俺も行くぞ?」
「え、じゃあ私も行く!」
「そう、それで結局のところ全員揃うんですよね」
「だってオーディション明後日じゃん?」
「ほんと、もっと頑張らないとね」
「よっしゃー、燃えてきたで〜!!」
「そうだな、久しぶりに俺もアツくなってきた」
「明後日に入れてもらえたの半分奇跡のようなもんなんだからな。オーナーに感謝だぞ」
「うわ、珍しくニッシーが常識人枠やってる!」
「いや、俺は元々常識人枠だぞ?」
『え?どこが?』
「やめてみんなに言われると俺流石に悲しくなっちゃう」
実際明後日オーディションとか言うバカげた日程を組んで怒られなかったのは俺らとオーナーもとい都築さんとの関係性が大きいのだろう。
小学生の悪ガキだった頃から世話になってたからな。
だって冬樹が頼んだ時あの人半分くらい怒ってたぞ?
どうやら同じ日程にポピパもいるらしいしちょっと楽しみだな。なんか対バンっぽくね?って勝手に思っちまう。まあポピパだけじゃないだろうけど。
「まあ、なんだかんだ言って俺も燃えてきたし、やっちゃいますか〜」
『おう!』
いつもはひとりの帰り道が、今日はたいそう賑やかだった。
__
「ストップ、今の、しぐれが4分の1テンポ遅れた」
「ごめん、気を付ける」
「圭介も少しだが走ってたぞ」
「わりいな。北斗は相変わらずだな。で、冬樹はいつにもまして暴れすぎ。もうちょい自制してくれ。リズム隊がリズム崩してどうする」
「ごめんな。じゃあ、さっきのところから、もう一回やな」
「よし、行くぞ」
深夜3時。そろそろ深夜テンションになってくる時間……のはずだが、俺らに深夜テンションが存在するかと言ったらそんなことは全くない。
「またずれた。やり直すぞ」
存在するのはいつもよりストイックに止める俺と
「もうちょい落ち着け圭介。ドラムを聞けドラムを」
「自分はどうなんや」
「ベースのくせに走ってるからなしでしょ?」
いつにもまして活発にダメだししあう他の奴らだった。
演奏が途中で止まった時、俺らは必ずボーカルが止まった部分の5小節前から入ることににしている。その方がだんだん合わせられるしね。
「さっきよりは良くなったな」
「とりあえず最後まで行ったしな」
「そうやな。ちょっと水飲むわ。流石に疲れた」
「あたしも飲む!ケチコク、あたしの分取って!」
「自分で取れやアホ」
「だからケチなんだぞ冬樹」
しばし休憩。完全な防音室だからこんな時間に楽器を演奏してても全く問題はない。はずだ。
この部屋だけは実は周りの部屋から浮いている。雰囲気的に浮いているのではなく、物理的に浮いているような状態なのだ。
部屋と部屋の間に空気の層を挟んで、ドラムとかベースとかが出す振動や低周波をより軽減させるように工夫された部屋らしい。まあ、設計したのは建築士だからよくわからんのだが。
だから24時間ぶっ続けで演奏し続けられるのだが、そんなことをやるのは流石に頭が悪いので休憩休憩。さすがに俺はもう疲れた。
「次どうする?」
「ん〜、とりあえずオーディションの練習はこれくらいで大丈夫だと思う。もうさすがに弾けない。無理」
「俺も今日のところは満足や。これ以上は弾けへん」
「俺もだ。このあと新曲の構想でも練るか?」
「ん〜、それもアリかもな。あそこのステージで演奏するにはやっぱり昔の曲と新曲がベストだろ。考えっか〜」
と、全員が楽器を置いて床に集まる。
「それでは第1回作曲会議を始めます」
「なんで会議調やねん」
「さすがエセ関西人、いいツッコミだったよ」
「それ褒めてへんやろ」
「ふざけんのはそこまでにして、やるならやるぞ〜」
いざ会議もとい話し合いが始まると一気に真剣に曲の構想を出し始める。
議論が白熱し、曲の構想ができ、そして曲ができて歌詞ができて、みんなが床で眠りについた頃には、外は朝日の光で明るくなりつつあることだった。
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時は変わり、日曜日。ついにオーディションの日。
「あー!ケイくんだ!……なんでここにいるの?」
「もしかして、オーディション見にきた?」
「いやいや、見にくるだけならギターとかいらねえだろ」
「そうそう、自分らは敵情視察、やな」
「ケチコク、戸山さん達に嘘つかないの」
「香澄でいいよ〜」
「お、ホント?よろしくね、香澄」
「やっぱりお前らってコミュ力お化けだよな」
「で、なんで圭介くんたちがここにいるの?」
「ああ、俺らもオーディション、受けようって思ってな。今日無理やりねじ込んでもらった」
『おお……』
「と言うことでポピパ、よろしくな。お互い頑張ろう」
『うんっ!』
―
「次、Poppin’ Party」
『はいっ』
オーディションは進み、ついにポピパの番になった。緊張した面持ちでスタジオに入っていったが、大丈夫だろうか。
「大丈夫かな?あたしら、受かるかな?」
「心配すんな。いつも通り、全力でやれば全く問題ねえよ。全力で足りなかったら、俺らがそれまでだったってことだからな」
「……うん、しぐれ、そうだよ」
「ニッシー、ちなったん……。うん、そうだよね。頑張る」
『……』
北斗と冬樹は真剣に画面を見ていた。集中しているのだろうか。
今回のオーディションで合格したバンドはここまで2つ。受けたバンドが俺らを含めて10バンドいたはずだから、かなり狭き門なのだろう。
ポピパの演奏が終わり、どうやらオーナーの審査タイムらしい。
「この中でやり切った、って思うものは?」
「はいっ!」
香澄だけが手を挙げていた。他のメンバーはまあ……演奏聞いてたけどそうだよな。
リズム隊が崩れてからみんな崩れてったのがよ〜くわかった。
「ダメだ。うちのステージに立たせるわけには行かないね」
「また受けます!いっぱい練習して、何回でも」
「頑張りな」
「あの、オーナー。この前予定表見た時、先の予定がまっさらだったんですけど」
「花園には、言ってなかったね。ここを畳むよ」
「えっ……」
『えっ?ここを畳む?』
オーナーがおたえに言った一言で俺ら全員が驚いた。
「マジで?ほんとに?あの音楽バカのオーナーが?」
「信じられへんのやけど」
「あたしもケチコクとおんなじ意見」
「ここ、なくなっちゃうんだね……」
「次、Werewolf。お願いします」
『……っ、はい』
「お前ら、いけるか?ここでやりきれなかったら、オーナーに俺らぶち殺されるからな。平常心で、いつも通り、やるぞ」
『おう!』
___
「凛々子は下がりな。受付の片付けでもしててくれればいい」
「でも、PAは……」
「あたしがやるさ。心配しなくていい」
「……わかりました」
俺らを呼んだスタッフの人がスタジオから出て行った。そしてオーナーが口を開く。
「来たね、お前ら。『Masquerade kiss』の本気、見せてみな」
「っ!!!」
なんでオーナーが知ってるんだ……!?
誤字報告等、よろしくお願いいたします。