かなり忙しく(半分くらい言い訳)なかなか執筆の時間が取れませんでした。
「なんで、って顔してるね。そんなにアタシにバレてるのが不思議かい?」
「いや、まあ、付き合い長いですけど……」
「まあそう言う話は後だ。始めな」
と言うと、オーナーはPAの機器の前に立ち、こちらに向かって頷いてきた。
「曲目は、「Masquerade kiss」」
オーナー相手なら思う存分暴れられるだろう。あの頃からやってた、この曲なら、きっとオーナーなら完璧に「やり切ってくれる」。
この曲は最初の8小説だけリズムギターがソロを弾く。その後にリードギター、ベース、キーボード、ドラムと入ってくる曲。普通にむずいんだけど楽しいんだよなあこれ。
普通にお前らできてんじゃねえかさすがだわ。
本当は今日、オーディションではこの曲をやるはずではなかった。
Werewolfのチャンネルの方でオーディションに参加することにしていたから、「idiot」でもやろうかと思ってたけど、気分が昂っちゃったから仕方がないよね。多分後でしぐれあたりには殺されると思うけど。
あれよあれよと言う間にサビだ。まだ声変わりする前、Masquerade kissを結成したばかりの頃にお試しで作って改良した「練習曲」だから、この曲は最高音がえげつねえ。
「相手が誰なんてわからないけど
そんなの気にせず踊っちまおうぜ
仮面の下の素顔を隠し
恥ずかしげもなくキスをする」
なんで高1にもなってhihiAなんてミックスボイスで出さなきゃいけねえんだよ死ぬわ普通に。こちとら声変わり終わってるんだからな。小学校時代の俺何考えてるんだよバカ。これ完全に女性アーティストの声域じゃねえか。俺は男。OK?
とりあえず一番きついところは歌い切ったので、後は全力でギターを演奏するのみ。
ドラムとベースもきっちり完璧にリズムキープをこなし、そしていつも以上に楽しそうに演ってるし、キーボードは曲にあった雰囲気で、かついつもより感情がこもった音色を響かせている。
え?俺らギター組?そんなのリズムを保ちつつ暴れるに決まってるだろ。
そして最後はリズムギターのソロ。曲の入りとは逆の順番で終わり。
しばしの静寂の後、オーナーの拍手がスタジオにこだまするのを、俺らは夢見心地で聞いていた。
___
「やり切ったね?お前ら」
「完全に感覚で暴れてました。これでやり切ってなかったらここでバンド解散します」
「他のものも……やり切ったようだね」
『はい』
「……合格だ。よくやった。うまくなりやがって。……いいライブだった」
「詩船さんに鍛えてもらいましたから」
「オーナーだよバカたれ。早く片しな。Poppin’ Partyが外で待ってるはずだ。話はそれから」
「わかりました」
楽器を手早くまとめてロビーへと出ると、オーナーが行った通りポピパとあの黄緑色の衣装を着ていたバンドのグループが待っていた。
「お疲れ様。合格おめでとう」
「すごいんだな、お前ら」
「沙綾、市ヶ谷さん、ありがと」
「んで、こちらの方々は?」
「グリグリ……Glitter*Greenってバンド。花咲川の3年生」
「お疲れ様です。どうされたんですか?」
「あ〜、妹のりみがオーディション受けるって言うから、見に来ちゃった」
「なるほど……。ポピパは残念だったな。見てたぞ」
「あはは……。でも、また受ける!合格するまで!絶対!」
「がんばれ、応援してるぞ」
「お前ら、早く帰りな。そこにいる『人狼』に喰われちまうぞ」
「オーナー、あんまりふざけるとさすがに怒りますよ」
ポピパとグリグリが帰った後、俺らはオーナーにコーヒーを出してもらって話を始めた。
「で、なんで俺らが『Masquerade kiss』ってわかったんですか?」
「ああ。簡単なことさ。お前らの親から聞いてたってのが1つ。それから、これに気づくやつは相当少数派なんだろうけど、お前がギター弾いてる時の音がMasqueradeのKと同じなんだよ、圭介」
「そりゃ同一人物ですし……、そっか〜、身バレしてたか」
俺は手を頭の後ろに組み、天を仰ぐ。まさか俺からバレるとはなあ。
「みんなすまんな。バレちまった」
「ま〜、オーナーならしょうがないね」
「そうやな」
「今回のはしょうがないよ」
「オーナー、これは内緒でお願いしますわ」
「なんでだい?現に人気が出てるんだから、言っちまえばいいのに」
「時が来るまでは、大事にしたくないんです。せめて高校3年生になるまでは」
「……そうかい。まあ、お前らの好きにしな。実際アタシもお前らのファンだ。ライブ、楽しみにしてるよ」
「オーナーからそう言ってもらえるなんて光栄ですわ。最後までステージでも頑張りますよ」
「何もお前らだけじゃないさ。これまでうちのステージに立ってきたバンドも、これから立つバンドも、これから立つであろうバンドも、みんなファンだ。頑張りな」
「コーヒー、ごちそうさまでした。お代は……」
「ああ、そんなのはいいよ。そこにいる冬樹ってやつが払うから」
「あいっ変わらず性格悪いなあ、オーナー」
俺らのオーディションは、思ってたのとはちょっと違った方向で幕を閉じた。
___
1週間後。
「あ〜、授業終わった〜。帰る。ギター弾いて寝る」
今日は練習もないしな〜。Spaceでのライブもまだないし。と言うかあそこでできるのってせいぜい3回程度じゃね?その程度なら全部予定合わせて出るか(アホ)
「ねえ、圭介。ちょっといい?」
「あん?なんだ沙綾。俺は帰りたいんだけど」
「ごめん、ほんっとにちょっとだけだから」
「まあ、そこまで言うならいいぞ」
「圭介ってさ、……声、出なくなったこと、ある?」
「……は?ない。なんで?」
「……香澄が、歌えなくなっちゃった」
「え?あんなキラキラドキドキとか言ってたあいつが!?……確かに今日欠席してた気がするな」
あいつがいないとクラスが静かになるからすぐにわかってしまう。
「……うん、Spaceのオーディションでね、急に歌えなくなっちゃって……」
「な〜るほ〜どね〜……、んじゃ、帰るわ」
「うん、……なんかごめんね」
「気にすんなって。俺もちょうどあいつと話したかったところだしな。今日はどうしようもないだろ?な?んじゃ、シーユー」
どうせオーナーに何か言われたってところなんだろうな。詩船さん、不器用だからな。
多分それで香澄がショックを受けたんだろうが、それを乗り越えるのは香澄自身だし、もしひとりで乗り越えられなければきっとポピパが支えてくれる。
「……まああいつらなら大丈夫だろ。ギター弾こう」
それから俺は考えることをやめ、防音室へと入っていった。
___
沙綾との会話から1週間。ほんとに香澄が声でなくなっててびっくりしたのがはるか昔のことのようだ。
今は定期練習の帰り、ギターを背負いながら家路につく。
あれからSpaceのステージにはWerewolfのチャンネルで1回だけ立った。俺らの原点からみた景色はやっぱり変わってなくて安心したが、あの頃よりも圧倒的にお客さんの「熱量」が感じ取れるステージだった。
グリグリもさすが人気のガールズバンドだけある。会場を淡い緑色の世界に染め上げていたし、何よりも引きずり込まれた。
ライブの様子を思い出しながら、ふと顔を見上げるとどこか暗い様子の香澄がいた。
―声、出るようになったのだろうか。
香澄の顔を見るや否や、沙綾との会話が脳裏にふとよぎって、少しばかり気になってしまう。たまらず俺は声をかけた。
「よう、香澄。……少し、話そうか」
――
「そうか、声、出るようになったんだな。よかった」
「うん。……なんとかオーディション、間に合いそう」
近くの公園のベンチ。夏の夕日がじりじりと俺らを照らす。
「次で最後だもんな。頑張れ」
「ありがとう……。でも、ちょっと不安で」
香澄の顔からはいつもの元気さは失われ、代わりにどこか怖がっているような感じがあった。
「……ポピパとは、話したのか?」
「うん、いっぱい。有咲に怒られちゃった」
「ほ〜ん、そりゃまたなんで?」
「お前ができないのなんて初めからわかってたし〜とか、無理しすぎだ〜とか」
「そりゃあなあ。むしろ3ヶ月でこのレベルまで来たのは素直にすげえぞ」
「みんないっぱい支えてくれた。有咲も、おたえも、りみりんも、沙綾も……」
香澄は再び決意したように顔をあげる。心配はもういらなそうだな。
「はいはい、わかったわかった。……んじゃ、俺はもう行くわ。じゃあな」
「え〜、もう行っちゃうの〜?待ってよ〜」
「帰るわ。オーディション、いつ?」
「期末最後の日。そこが最後のチャンスだから」
「……了解。……香澄」
「ん?な〜に?」
「お前は……星だぞ。だから、大丈夫だ」
「???」
最後に香澄に俺なりのエールを送り、そそくさと帰路についた。
生憎真っ直ぐに本心を伝えるのはどこか恥ずかしいところがあってな。
キラキラドキドキとかいう事故紹介をしてた時には本当にこいつ大丈夫かと思っていたが、ステージ上でのこいつは、キラキラドキドキの体現者で、星だった。
スペースのオーディションでこいつが輝けば、オーナーは、きっと認めてくれる。
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「Poppin’ Partyです!よろしくお願いします!」
期末テスト最終日。オーディションの日がやってきた。
次回の更新もおそらく遅くなりますが、2週間後には更新できるように頑張ります。