では、本編を。
ソワソワしながら沙綾のお父さんを待つ。正直なところかなり緊張している。ちびりそう。
「お、君が圭介くんか。私は山吹 亘史。いつも娘が世話になってるね」
来た、ラスボス。なんか後ろにオーラが見える気がする。
「こんにちは、西秋 圭介と言います。沙綾さんにはこちらこそお世話になっています」
軽く挨拶もといジャブの撃ち合いを済ませ、こっから本題の殴り合いに突入……すると思ってた時期がありましたよ俺には。ええ。
「早速だけど、荷物をおいて厨房の方に来てもらえるかな?」
「……へ?」
「どうかしたかい?」
そりゃそうか。採用って言われてたんだから、俺が勘違いしてただけなのか。早とちりはよくねえな。別にやましいことなんて何もないわけなんだし。
「……いや、何でもないです。ところで荷物ってどこにおけばいいですかね」
「ああ、そうだったね。2階がうちになってるから、そこに置いておくといいと思うよ。そこの階段を上がって、きっと沙綾が上にいるはずだから、聞いてみてくれるかい?」
「わかりました。ありがとうございます」
俺は亘史さんが指した階段を登っていく。なんだかんだ沙綾んちに来るのって初めてじゃないか?
「沙綾いるか?」
「お、来たね〜、今日から?うちで働くなんて感心感心」
「そりゃどーも。ところで荷物ってどこにおけばいい?」
「ん〜、リビングとかに置いてもらって大丈夫だと思うよ。純たちもいたずらしないだろうし」
「あい、了解」
俺は沙綾に言われた通り、適当にリビングに荷物を置くとサッと厨房に行った。
「お待たせしました」
「よし、それじゃ、どのくらいシフトに入るかとか、時間とか決めて行こうか」
その後、俺は亘史さんにシフトの調整とか何時に来て何時上りにするとか、どんな仕事をするかとかを軽くレクチャーしてもらった。シフトは週3回、早朝が2回と夕方が1回。夕方の時はレジやパン出しで、早朝は俺の希望もあってパン作りの手伝いをすることになった。
なんか半分くらい修行みたいになっててテンションが上がってきたぞ。
「それじゃ、今日はこんなところで。また明日、早いけど頼んだよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
俺のバイト1日目は不安に思ってた自分がバカらしくなるほど呆気なく終わった。
___
「圭介、バイトの具合はどうだ?」
バイトを始めた後、初めての全体練習。ちょうど1週間くらい経った時だろうか。
「まあボチボチってところだよ」
嘘は言っていない。やまぶきベーカリーの初日は早起きするのが少しだけキツかったが、流石にもう慣れた。パン作りは思った以上に難しくて、当分焼けるようになるのは先だな〜と亘史さんをみながら思ってしまった。バイト代入ったら機材の前に家庭用のいいオーブンでも買って練習しようかしら。
接客の方は沙綾が教えてくれることになった。わかりやすいしやりやすいことこの上ない。ただ、常連さんたちが俺と沙綾が一緒にレジに立っているところを見てあらあらうふふしてたのはちょっとアレだったけどな。
ライブハウスの方も順調。今はライブの予定もないし、週に1回でいいってことになった。仕事はゆっくり覚えていけばいいよ〜って店長さんも言ってたし、そんなに心配はしていない。大丈夫なはず……。大丈夫だよな?俺?
「え〜、ニッシーバイト始めたの〜?聞いてな〜い」
「おう、だって言ってねえからな」
「バイト、始めたんだね。どこで働いてるの?」
「ん〜、やまぶきベーカリーとGalaxyってライブハウスで働いてる」
「おお〜、掛け持ちじゃ〜ん、やるう」
「うるせえぞしぐれ。お前もバイトはしてるだろうが」
「けど、ニッシーみたいに掛け持ちじゃないも〜ん」
「何というか、やまぶきベーカリー落ちる心配してたけど杞憂に終わったみたいだな」
「ああ、それについては沙綾に感謝する他ねえな。……さて、そろそろ時間だ。練習に戻るぞ」
「え〜、もうちょっと休憩した〜い」
「自分ももうちょっと休憩した〜い」
「ごめん、ケチコク。流石にきつい」
「うわ〜、しぐれ辛辣やなあ」
「ほれ、やるぞ。休憩前の続きからな」
メンバーにはちょっと申し訳ねえと思いながらも、心を鬼にして練習を再開した。
そもそも俺があんなことを言わなければここまで根詰めて練習する必要もなかったんですけどねえ。
___
時は遡ることバンド練習の1日前。
Galaxy、2回目の出勤。今週はシフト決めとか契約とかがあってな、2回来ることになってたんだ。
土曜の夜。普通のライブハウスだったら掻き入れ時だろうが、如何せんGalaxyは最近できたばっかりのライブハウス。お察しの通り閑古鳥が鳴いていた。
「お疲れ様です、店長」
「あ、圭介くん、お疲れ様〜!今日も掃除とメンテナンスを手伝ってくれればあとは自由にしてていいから」
「わかりました、にしても、大丈夫です?」
「ん?何が?」
「土曜の夜でライブがないライブハウスって……」
「あはは……、それ、言っちゃう?」
あ、店長の目からハイライトが消えた。これ地雷だったか?
「もしアレなら、来週か再来週、ここでライブでもやりましょうか?」
___
とまあ、こんなことを口走ってしまったわけだが、メンバーに確認してみたら何と全員奇跡的に1ヶ月後だったら予定が空いていたので、突如ライブをやることになってしまった。しかも主催で。これは寝れない日が続くぞ。
元々ライブをやる予定は大きいライブなら1年くらい前から俺らは計画だけでも話に上がるし、何なら小さいライブでも2ヶ月前、遅くとも1ヶ月半前には話が上がっているから今回は異例。というか、俺の行動も今回は異例。
だってさ、アレじゃん?流石に入ったばっかりのライブハウスにつぶれてほしくはないじゃん?
最速でライブできるのが1ヶ月後ってのがちょっと心残りではあるが、まあそれまで何とかライブハウス自体は持ってくれるだろう。俺はそう信じてるぞ店長。
「こんな急な主催ライブで大丈夫なの?」
CIRCLEでの練習も終わり、鍵をフロントに返して5人で帰ろうとすると、しぐれがどこか曇った目でこちらを見てきた。
「ああ、準備については俺に任せとけ。とりあえずいつも通りの役割でいつも通りのことをやってくれればいいから。あ、もちろんチャンネルは人狼の方で行くけど」
「ねえねえ、みんなも呼んでいいかな?」
「みんなって誰だ?」
「ん〜っと、Roseliaとか、ポピパとか、その辺のメンバー呼びたいなって」
「千夏が人を呼ぶなんて……成長だな」
「何で私がいうとそんな風になるわけ?……はあ、まあいいや」
「んじゃ〜俺らは主催ライブに恥じない演奏をするってわけか」
「ところで何やけど、呼ぶってのはゲストアクトとして呼ぶんか?それとも普通にお客さんとして呼ぶのか?」
「ん〜、あたしはどっちでもいいかな〜」
「正直なところ俺はお客としての方がいいと思うぞ。こんなライブいきなりだし、さすがに各バンド準備が足りねえだろ」
「さすがに私もゲストアクトで呼ぶつもりはないよ。マスカレードのチャンネルならともかく、さすがに人狼の方じゃ、ねえ」
マスカレードの方のチャンネルでやったら1ヶ月前であってもこちらがオファーを出せば出演してくれるバンドはあるだろうが、人狼の方ははっきり言って無名のバンド。これは自分たちだけのステージになりそうだ。
「ま、ちゃんとお客入ってくれればそれでいいだろ。ところで俺は腹が減ったぞ」
「んじゃ、その辺のファミレスにでも寄っていくか?」
「俺はいいけど」
「自分もいいで」
「今日はあたしも寄って行こうかな」
「千夏は?何か用事でもあるのか?」
「ううん、私も寄っていけるよ。みんなで行こうか」
「おっし、それじゃ、レッツゴー!」
___
ファミレスにつくとテーブル席に通された。かなり広い、わちゃわちゃやるには最高。
これは余談だけど、ファミレスで勉強する高校生の集団は正直言って邪魔以外の何者でもない。何というか、うん。おっきい机は占領するし勉強しねえでくっちゃべってるし何というかとにかく邪魔。どっかの誰かんちで勉強すればいいのに。
とりあえずドリンクバーを注文して飲み物を取りに来ると、しぐれはあたりをキョロキョロと見渡す。
「あ!やっぱりいた!」
「誰がや?」
「Roselia!」
「まじか」
「なんか今日リサさんがファミレス行くんだとか何とか言ってたからさ、もしかしてって思って探してみたんだ!」
「それでタイミングかぶるのは正直すげえな」
「Roseliaの人たちは何やってんだろうな」
「北斗のぞきに行ってみれば?」
「やだよ、俺まだ友希那さんに殺されたくない」
「誰に殺されるですって?」
こっぷをもった みなと ゆきな が あらわれた!
どうする?
>あいさつする
どうぐ
ほくと を みすてる
なんか目の前にいきなりポケモンの選択肢が出てきたけど。しかもなんか選べそう。とりあえずあいさつした後に北斗を見捨てるか。
「こんにちは。こんなところで奇遇ですね」
「ええ、こんにちは。私もびっくりしたわ。あなたたちは何をしているのかしら」
「自分らはCIRCLEの練習帰りにファミレス寄ろうやって話になって」
「ところでRoseliaの皆さんは?」
「私たちも同じような感じです」
みれば紗夜さんまできてるじゃねえか。なんか堅物2人がきたな。早く逃げよう。
「圭介、しばくわよ」
「いや、それは理不尽でしょ」
「あれ〜?人狼のみんなだ!」
「本当だ!たまたま〜?やっほー」
「こ、こんにちは、みなさん」
「リサさん、お疲れ様です!」
「お、しぐれじゃ〜ん!みんな集まって何してるの?」
「練習帰りにファミレス寄ろうという話になったそうです」
「へー、Werewolfたちも同じか〜」
「談笑中のところ申し訳ないんですけど、ここドリンクバーの前ですよ」
『あ……』
誰一人として気づいてなかったんかい。
「あ!おねーちゃんだ!おーい!!」
「っ!!日菜!?なんであなたがこんなところにいるの!?」
遠くから駆けてきたのは、紗夜さんと同じような見た目をした一人の女の子だった。
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次回は天災のおかげで(?)Masquerade kissのメンバーがすごいことになります(小並感)