「薫さん……(うっとり)」
「薫さま……。かっこいい……。うっ」
「おい、お前らライブ前だぞ。もっとしゃっきりしろって」
「ケイちゃん、こうなったしぐれは止められないからもうなるようになるまで待つしかないと思うよ……」
「えぇ……」
まあ、一緒の学校の千夏がそういうならそうなのだろう。
「ちなみに千夏はしぐれがこうなるのって見たことあるのか?」
「まあ、うん。何度もある、かな?」
「さいですか」
「あ〜!圭介!見つけたわ!」
「こころじゃん。そういえば俺を探してたらしいけど、何か用でもあったか?」
「探し物かい?子猫ちゃん。あぁ、儚い」
ちょっと待て、何が儚いんだ。しかも誰が子猫だ。俺じゃないな?こころのことだな?そうなんだな?
「そう!圭介!今度一緒に遊びましょうよ!せっかくライブに誘ってくれたんだわ!今度お返ししなくちゃ!」
「なんだよ、急用じゃなかったのかい。まあ、また今度な」
「ええ!とびっきりの笑顔にしてあげるから楽しみにしておいて!」
「ふぇぇ……、迷っちゃったよぉ……」
「花音さん大丈夫ですか?」
「美咲ちゃん、ごめんね……。この辺初めてで……」
「連絡くれれば迎えに行ったのに……」
「よし、これでハロハピの全員揃ったってことでいいか?」
「まだだわ!ミッシェルがまだよ!」
「ミッシェル?誰だそれ」
初めて聞いたぞ。なんだ?その日本人じゃなさそうな名前は。
「あ〜、ミッシェルはちょっと遅れるみたいだから、先に初めてて大丈夫だって。ライブまでには到着するから」
「本当ね!?それならいいわ!」
「……奥沢さん、本当に始めちゃって大丈夫なのか?」
「あ〜、確かに西秋くんたちとライブをやるのは初めてだし……それもそうか。あの、ミッシェルは私が入ってるぬいぐるみというかマスコットというか……のことだから……」
(えぇ……)
本日何度目かわからない困惑。ハロハピってなんなの?超人集団かおバカな集団か何か?よくわからないわ。
「あ、あと私のことは美咲って呼んでくれて構わないので……学年も一緒だし……」
「じゃあ、そっちも俺の名前で呼んでくれ。なんかこっちだけ名前呼びだと恥ずかしくなってくる」
「圭介……でいいのかな?名前呼ぶと恥ずかしくなるなんて、案外初心なところもあるんだね」
「……うっせ」
全員揃ったことだし、そろそろ始めるか。といっても、楽屋では思い思いのことをやりすぎててこいつらは本当にまとまるのだろうか。ほらそこのはぐみと香澄、キャッチボールを楽屋の中でするんじゃありません。お兄さん怒りますよ。
俺は心の中でため息をつきながらみんなに声をかける。
「ほらお前ら、本番前の打ち合わせ、するぞ」
__
「それでは聞いてください、『夏のドーン!』!」
なんとか打ち合わせも、直前の注意事項の共有も済ませ、最初はポピパ。
なんで事前準備だけでこんなに疲れてるの?俺このままだと今日死ぬよ?ねえねえ。
話通じてるのかどうなのかわからない感覚肌or天才肌or天然肌の人間がこれだけいると説明を済ませるまでにまず疲れる。
「ケイちゃん、お疲れだね……」
「千夏、お前は俺の良心かもしれない」
「……いや、それは大袈裟」
「薫さまの演奏がこんな近くで聞けるなんて、楽しみ……」
「ほら、しぐれ。お前はお前でもっと普段通り集中せや」
「うるさいケチコク。黙って」
「自分に対する扱い雑じゃないですか……?」
「ふふっ、そんなに私の演奏が楽しみなのかい?子猫ちゃん」
「あっ、薫さまぁ〜!!」
「ふっ、儚いっ……」
いきなり登場するなや。3バカの一角め、と美咲から受けた説明を思い出しながら考えてみる。
〜〜
「え〜っと、まずメンバーは、ボーカルのこころ、ギターの薫さん、ベースのはぐみ、ドラムの花音さん、そしてDJのミッシェルこと私って感じですね」
「へえ、DJが入ってるバンドか。珍しいな」
「で、前半の3バカはあんな感じの人なので疲れるとは思いますが……はぁ」
〜〜
「で、薫さん?だったっけ?はなんでこんなところにいるんだ?」
近くで見るとこの人身長たっかいなあ。俺と北斗が175だから大体170はあるんじゃないか?
「……?私かい?ふふ、子猫ちゃんの儚い演奏をより近くで聴いていようと思ってね」
なるほど、わからん。ただ、この人その辺の男よりも男らしいっていうか、王子様って感じの印象を受けるな。だったら……。
「まぁ、ジュリエットの演奏を身近で聴くのもいいですけど、自分の演奏も頑張ってくださいよ、ロミオ様」
「君は、シェイクスピアに詳しいのかい?」
「いや、全く。そんなことはないですよ?」
「そうかい……。残念だ」
いや、いきなり残念がられましても……。薫さんシェイクスピアが好きなのだろうか。
気づけばポピパの演奏も終わりに近づいてきた。この曲は、八月のifだろうか。しばらく前に海の家で聞いた、香澄と沙綾のツインボーカルの曲。ハモリがある曲ってめっちゃ聞いてて好きなんだよな。特に下ハモは主旋律を支える力持ち!って感じがあって俺に刺さる。
ポピパはあと1曲。夏休みも半分を過ぎたといえども、まだまだ夏も盛りなわけだから、こんなにも夏を中心にしたセトリになっているのだろう。
ということは、最後の曲は……。
「次が私たちの最後の曲です!聞いてください!『夏空SUNSUNSEVEN!』」
__
「ありがとうございました!Poppin’ Partyでした!」
夏空SUNSUNSEVENが終わり、ポピパは袖に掃けていく。
今日初めて聞いたけど、これめっちゃいい曲じゃねえか?特にオチサビ前のあの感じとか香澄ぴったりだろう。曲名しか聞いたことなかったからなあ。今度練習してみようかな。
「さて、と。次は……」
「ハッピー!ラッキー!スマイル!『イエーイ!』」
こころの声でハロハピが一斉に黄色く照らされた舞台へ登場する。ところで、普段働いている時にはこんな下から登場する仕掛けなんてなかったような気がするのだが。いつの間に導入されたの?しかもいくらかかったの?ここ潰れない?大丈夫?
「早速行くわよ〜?『えがおのオーケストラ』!」
なんだかんだでこいつらの演奏を聴くのは初めてだな。流れ出したイントロに期待しながら、俺は自分たちの番が来るのを待った。
「え?なんであの子歌いながらバク転とかバク宙とかしてるの?大丈夫?」
「なんか3バカが観客の上漂い始めたんだけど!?この箱ダイブとかOKなの?あ、主催者俺だわ」
「花音さんめっちゃ力強いドラム叩くな?そして美咲はよくあんな着ぐるみきながらあれだけ激しいDJできるな!やばすぎだろこの集団」
まあそんな簡単に自分たちの演奏順が来るなんて思ってませんでしたよええ。知ってた。
でもさ、普通こんなこと考える?ダイブとかモッシュとかそういう行為があるのは知ってたけどさ、いきなりそれが目の前で始まるとは思わないじゃん?普通さ?しかもそれやってるのが観客じゃなくて演奏してるやつだからね?やばすぎるでしょそれ。
美咲はこころ、はぐみ、薫さんのことを3バカって呼んでたけど、俺からすりゃこのバンドは全員体力バカだわ!
まぁ、それでも。これだけ楽しそうに演奏されれば、見ている方は笑顔にならざるを得ないなわな。
「世界を笑顔に、か」
こいつらなら、いつかはできるんじゃないだろうか。
らしくもないことを考えながら、不覚にも微笑んでしまった。
「以上、ハロー、ハッピーワールド!でした〜。次は主役の『Werewolf』の登場です!」
__
「と、いうわけで俺らの番なわけだ。」
「今日の円陣どうする?」
「親指と小指でつないで輪っか作ろうぜ!」
「え、何それ!?どうやるの?」
「こんな感じ」
「考えたこともなかったけど、いいんじゃん?」
「じゃ、それで。掛け声は北斗な?」
「しょうがないな……。ほら、準備」
ライブ前。盛り上がりは最高潮。後は、やるだけ。やりきるだけだ。
「行くぞっ!」
『オウっ!』
文化祭ライブ以来の俺らのライブが、幕を開けた。
ステージに上がる。俺らの学校の生徒が目立つ、という印象だろうか。箱が小さいから、ステージから会場の隅々まで見渡せる。なんか文化祭ライブの続きみたいだ。
チケットもかなり安くしたし、花咲川と羽丘の知り合いとか伝手とか、そういうのを使ってチケットを売ったからそりゃそうなるわ。主催側としては満員御礼。
「早速始めるぜ!『人狼』」
さあ、楽しい楽しい“吠える”時間。思いっきり楽しもうか。
__
「今日は来ていただきありがとうございました!またお会いしましょう!」
無事にライブを終えた俺は、観衆に向けて手を振りつつ、大歓声に紛れてひとりごちた。
「Galaxy、なかなかいいところじゃん?」
___
(おまけ)
「相変わらずうまいね〜。バンド始めたばかりとは思えないや。私も早くあのくらい弾けるようになりたいな」
「大丈夫、香澄も上手くなってるよ」
「もう最後の曲かぁ、もっと聞いてたいなぁ」
「そういえばさ、有咲最近圭介のこと名前で呼んでるけど、何かあったの?」
「はぁ?どうした?沙綾。いや、別に、何も、ない……けど……」
「本当に〜?」
「ばっ、沙綾、近いって!」
「あ〜りさ!とさーや!は何話してるのかな〜?」
「ちょまっ!香澄までぇ〜!!!」
主催ライブが終わると夏休みの終わりも近くなってくるようですが……。彼らは「宿題」は終わっているのでしょうか?