意地も張れぬ繁栄など、こちらから願い下げだ
~ヘルシング ウォルター・C・ドルネーズ~
吹っ切れたからと言っていきなり悪事なんてことはない。
何かを始めるには色々足りない。
考えなくたって分かるだろ?
昨日まで【ヒーロー】目指してた子供に、昨日今日出来たような、遅めの反抗期拗らせたような覚悟一つで何が出来るってのさ。
答えは【何も出来ない】だ。
僕の人生は喜劇だけど、現実はリアリティーショーなんだ。
多少の脚色は必要だけど、過度の脚色はナンセンス。
一見面白そうに見えるけど、盛り上がる勢いに比例して盛り下がるのも早い。
人気を維持するにはさらなる脚色とハプニングが必用だ。
モニター越しに見てた僕らにとって、対岸の火事程面白いものはないからね。
見ず知らずの他人の不幸だから、程々に泣いて、程々に笑えて、程々に同情して、これまた程々に罵れる。
こうなって分かったのは、対岸の火事と一線引いて安堵しながら眺めるモニター向こうの遠い何処かの現実は、僕らがそれに一喜一憂してる時点で間違いなく僕らの【リアル】、所謂視聴者参加型のアトラクションと同じ……誰も身近にある彼方の出来事って思ってるけど、間違いなく僕等は視聴者、参加者、演者の全てを兼任してることに誰もが気付いてない。
世界中よく見ても、見なくても目に入るニュース……フィクションに影響受けた人のヴィラン化、ノンフィクションに影響受けた人のヒーロー化。
厨二臭い言い回しするなら、【深淵を覗くとき、深淵もまた此方を見ている】って。
人が作った物、それが真実でも偽りでも関係なくて、この星に生きてる限り、人が作ったナニカを見て聞いて、作って使ってしてる限り僕らが対岸の火事として見れる物なんて何にもない。
何も無い僕の、生まれたばかりのひよっ子ヴィランの僕二必要なナニカは君達に作ってもらうとしよう♡
【全ては掌の上? またもや現場に現れた黒パーカー!!】
【性別、年齢すべてが不明のパーカー男!!】
【ヴィランの攻撃を指示!? 戦闘に合わせて指揮するパーカー男!!】
【捕らえられたヴィラン、パーカー男の部下か!? 関係暴露!!】
【警察とヒーロー遂に本腰か!? パーカー男に迫る!!】
【パーカー男に独占取材!!】
僕が始めた事はいたって単純。
事件の大小じゃなく、世間の認知度じゃなく、解決したのかヒーローか警察かでもなく、足が伸びる範囲の事件現場を見に行くようにした……ただこれだけである。
ある時はカフェ、ある時は屋上、ある時は野次馬に紛れて。
そんなときは何時だって、ありきたりなパーカーを着た。
最初は誰も気にしないし、見向きもされない。
けどそんな事が一ヶ月も続くと記者でもヒーローでも警察でもなく、ネットが静かに騒ぎ出した。
顔を出さず、匿名で語れるネット世界では【パーカー男】は格好のネタとなった。
特定班なんかも出てきたが、男性用女性用問わず毎回違う色のパーカーを着て、フードを目深に被り、靴の厚みすら変え、時代もあってマスクをして出歩く僕の素性までは特定できる人は居なかった。
噂に尾鰭が付いて、誇張され、あることないことが追加され、しがない子供が演じる【パーカー男】が都市伝説の怪物や世界七不思議となり、模倣犯まで現れ、人が面白半分で語る僕は無個性でヴィランですらなく個性社会というまな板の上で死を待つだけだった鯉から、世界すら欺き活動する超大物ヴィランにまでなっていた。
「こんな形の注目でも浴びたいなんて目立ちたがり屋のお陰で現場からの逃走は楽で助かるよね、本当に!
ってかそうじゃなくて、目指してたけどっ!目指してたけどもっ!広がるの早すぎだろパーカー男!!育ち盛りの男子より育ってるよ、パーカー男!」
街の何処に居ても店先や歩きスマホから聞こえてくる【パーカー男】の情報に驚きを隠せない僕は活動資金集めを兼ねて自販機や排水溝、ゲーセンのアーケードゲームの釣り銭口を漁っていた。
カッコ悪っ!!