人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十一章

杖刀偶 磨弓との人形バトル。

 

相手のまゆみ人形にメディスン、こがさ人形は倒されてしまったが、バトルの中で相手の人形の特徴を掴む。

次に出たしんみょうまる人形で徐々に相手を追い詰め、新しく覚えた技を上手く食らわせることに成功した。技の衝撃により大きく吹き飛ばされ壁に打ち付けられたまゆみ人形の姿は、巻き起こった土煙のせいでまだ確認することは出来ない。

だが相手は「バリアオプション」の代償で大きく耐久を削っていた。しんみょうまる人形が使った技である「不動心(ふどうしん)」を耐えられるとは、到底思えない。

 

「…お見事。今のは私も少し驚いたぞ。だが」

 

「…――ッ!」

 

徐々に砂煙が晴れ、中の様子が明らかになる。そこにはまだ倒れていないまゆみ人形がこちらに歩み寄ってくる姿があった。

だが、心身共に限界なのだろう。その足はおぼつかなく、今にも崩れてしまいそうである。息も相当荒い。

 

そしてよく確認するとまゆみ人形の右腕が破損している。普段ならばとても見ていられないくらいグロテスクである筈だが、その部分はまるで陶器が割れたかのように無機質なもの。

実際には分からないが、恐らく自分の人形達の身体の構造とは少し違うのだろう。

 

 

「この私の人形に「やせ我慢」を使わせたのは君が初めてだ。…そして、今から使うこの技も初めて使う。何せこんな状況にもならなければ使うことの出来ない特殊な技だ」

 

「君は誇りに思っていい。最大限に高まったこの技を食らう、その第一人者となれるのだから」

 

 

「 風前の灯(ふうせんのともしび)! 」 

 

 

指示を受けたまゆみ人形は精神を集中させ、闘気を限界まで高める。

地面が揺れ、崩れていた周りの石達が宙に浮かび上がり、巻き上がる風が頬を伝うのを感じる。何という力だ…思わず息を呑む。

すると破損している右腕に闘気が集中し、やがて1本の巨大な腕が生成された。

 

「 行けッ!! 」

 

合図と共に、しんみょうまる人形へ突撃するまゆみ人形。

もう耐久がほぼ無いに等しい状態にも拘らず、その足は速い。出した闘気で痛みに耐え忍んでいるのだろう。

主に対する忠誠心の現れがあの人形をあそこまで強くしているのだとしたら、敵ながらあっぱれと言わざるを得ない。

 

「抜打 だ!」

 

だが、相手の人形は後一撃でも貰えば倒れるような極限状態。

それならば相手がこちらへ来る前に、何としても仕留める。逆にあの技を食らってしまったらしんみょうまる人形はタダでは済まないだろう。

あの一撃をどうにか耐えるという選択肢もなくはない。だが、それは最終手段。この状況では食らう前に倒すというのが、最善の答えだ。

 

「集中之構」によって威力と命中精度の増したしんみょうまう人形の技は確実にまゆみ人形を狙うが、まゆみ人形はそれを新しく生成した右腕で弾き飛ばす。

そのまま怯むことなく前へと迫るまゆみ人形と、それを迎撃しているしんみょうまる人形の距離は少しずつ縮まってい様子が自分の中で焦りを生んでしまった。

 

「(あの人形のどこにそんな力がある?どうして攻撃が効かないッ!?)」

 

もしや、あの「風前の灯」という技は「闘」属性?

駄目だ…しんみょうまる人形の技はどれも「闘」に対して相性が悪い。

そしてあの技に対し、接近戦を挑むのがどう考えても愚策だ。確実に力負けするだろう。

「ザ・リッパー」や「鎧通し」、「不動心」などは実質使えないと考えた方が良い。

 

「…!(もうあんなところに!?)」

 

思考を巡らているほんの一瞬の間、まゆみ人形が既に間合いを詰めていた。

 

駄目だ、もうこれしかない!どうにかこの一撃を耐え、相手の限界による自爆を狙うしか方法はない。大丈夫。これさえ使えば、まず戦闘不能にはならないのだから。

 

「しんみょうまる! やせ我慢 だ!」

 

まゆみ人形渾身の右ストレートが、しんみょうまる人形の腹部へと深く突き刺さる。

刺さる衝撃がしんみょうまる人形の背中まで貫通し、致命的な一撃を貰ってしまうこととなったが、しんみょうまる人形は気絶していない。

どうやら、こちらの指示がギリギリ間に合ったようだ。

 

まさか、今度はこちらが「やせ我慢」を使う羽目あるとは。

だが技を使ったまゆみ人形は膝から崩れ落ち、完全に無防備。倒すなら今が絶好のチャンス。

 

しかし、「やせ我慢」を使ったしんみょうまる人形の方も同じくお腹を抑えながら膝から崩れ落ちており、これでは技を出すことが出来ない。持っている輝針剣を地面に差し何とか踏ん張ってはいるものの、最早戦えるような状態ではなかった。

が、ここまでよく頑張ってくれたと思う。しんみょうまる人形のこの活躍はバトルに大きく貢献したと言えよう。

 

「ここまで、ですね。そちらの人形も最早戦えない筈です」

 

「あぁ、そうだな。私もあの一撃に全霊を込めたのは事実…そして君は見事それを受け切った」

 

 

「…だが、それも私の計算の内だとしたら…果たしてどうかな?」

 

「え…?」

 

 

「 応急手当(おうきゅうてあて)! 」

 

「…ッ!!」

 

そう言い放ち、磨弓は人形に指示を出すと地面から小さな埴輪達がまゆみ人形に向かい土をかぶせ始める。

小さいながらも巧みな手つきで土を全身を覆い、役目を終えた埴輪達は一斉に帰っていく。

まゆみ人形は大量の土に塗れた状態となり、ピクリとも動かなくなってしまう。

 

 

「 も、戻れ!しんみょうまる!! 」

 

 

 

 

 

 

不味いことになった。

 

この技を許してしまえば、しんみょうまる人形の懸命な努力も無駄になってしまう…!

攻撃や補助だけでなく、そんな技も隠し持っていたなんて。

 

「 ユキ! フラッシュオーバー だ!! 」

 

封印の糸から急いでユキ人形を繰り出し、迅速に技の指示を出す。

指示を受けたユキ人形は出てくると同時に大きな火球を土に塗れたまゆみ人形の方へと飛ばし攻撃する。

 

土塗れ状態のまゆみ人形に次々と火球は当たり、そして爆発を起こす。

何とか間に合った…だろうか?

 

「……」

 

しかし、当の磨弓はそれに対し特に苦い顔もしていない。

むしろそれも想定通りという澄ました顔付きで、こちらに不安を煽ってくる。

 

「残念だったな。交代の判断は悪くなかったがもう遅い」

 

「な…!?」

 

爆発が収まり、徐々に煙が上がるとそこにはビクともしていない土に塗れたまゆみ人形の姿がハッキリと映る。

ユキ人形の高火力を持ってしても、あの状態を崩すことが出来なかったというのか?

高温により固まった土は徐々に崩れ、まゆみ人形本体が姿を現すと先程まで受けていた傷が修復されてしまっている。

失っていた筈の右腕も完全に元の状態へと戻ってしまい、こちら側はまた振り出しに戻されてしまう。

 

攻めに特化しているあの人形がまさか回復技まで持っているなんて思わなかった。相手の動きが鈍るあのタイミングで発動させる為に、ワザと決死の攻撃を仕掛けるとは…かなりの博打ではあったが、まんまと乗せられた。

最後の切り札としてユキ人形を残していたことが帰って仇となってしまうとは…土に塗れた状態では、まともに「炎」技など通る筈もない。

せめて別の技にしておけば少しはダメージを与えることが出来たと思うと、非常に悔やまれる。

 

だが、後悔しても遅い。もうこちらの戦える人形は実質ユキ人形のみ。やるしかない。

 

「弱点の属性に対策を講じるのは当然のこと。そして君の最後の人形が「炎」であることで、勝利は確定した」

 

「 気象発現「黄砂(こうさ)」!! 」

 

磨弓がそう指示すると同時にその場で回転し、激しく砂煙を巻き起こすまゆみ人形。

何か「気象」を発動させるつもりらしが、そうはさせない!

 

「 ユキ! スターフレア だ! 」

 

相手の技を妨害すべく、「炎」以外の技で攻撃を仕掛ける。

だがその場で回転し続けるまゆみ人形は星の光弾を軽く弾き飛ばし、無効化されてしまった。

 

あまりの激しさに遂には砂塵で前が見えなくなり、これでは相手がどこにいるのかも確認することも出来ない。

気が付けばこの辺り一帯には砂嵐が舞い上がっており、このフィールド全体が土に塗れた状態となっていた。

 

「この風は我々埴輪にとっては恵みの雨に等しい。だが、そうでない者にとっては辛い環境」

 

「…!」

 

これは…今まで見てきた気象では最もポケ〇ンに近いものかもしれない。

その場にいる者を容赦なく蝕むこの悪天候…これは間違いなくあの「すなあらし」だ。

 

そうだとすると、これは不味い。早々に決着を付けなければいけなくなった。

ユキ人形が「炎」でダメージを受けるのに対し、相手は特に影響を受けないという圧倒的不利なこの状況。

 

ユキ人形であれば気象を上書きすることも可能だが、相手がそれを許す筈もない。それにこちらが気象を発現させる際は完全無防備。

今のまゆみ人形は「臨戦」により攻撃、命中などが強化されており、まともに攻撃を食らってしまったら耐久の低いユキ人形は間違いなく戦闘不能となる。

それだけは、絶対に避けなければならない。

 

今ユキ人形が使える炎以外の攻撃技は「斉射」、「乱反射レーザー」、「スターフレア」、そして覚醒時にしか使えなかった「彩光百花(さいこうひゃっか)」だ。

この中で唯一相手にダメージを与えられる見込みがあるのは「彩光百花」であるが、この技は気象が「極光」でない限り発動には溜めが必要となる。

一撃も貰えないと言うこの状況下で相手に隙を晒すというのは自殺行為に等しい。当てるのは戦法として現実的とは言えないだろう。

 

「ユキ! もう一度 スターフレア だ!」

 

そうなるとやはり、威力が2番目に高いこの技を打つしか選択肢がなくなる。

あの回転が止まった今なら攻撃がまともに通る。だが、そう思って撃ったユキ人形の技はまたしても弾かれてしまった。

視界は悪くともこの砂嵐の中、確かに攻撃を当てたにも拘らずだ。

 

「さっきも言っただろう?この砂嵐は私達のフィールド。勿論、それには私の人形も含まれる」

 

「ま、まさか…」

 

「見るがいい。砂…即ち“大地”を一身に受けた私の人形の、その強固な守りの力を」

 

「!」

 

まゆみ人形の姿をよく確認してみると、全身に土で出来た鎧を身に纏っている。

まさか、あの回転で鎧を同時に生成していたとでも言うのか?

 

「君が放った「炎」技の余熱が、この守りをより強固な物へと変化させた。最早生半可な攻撃は効かないと思った方が良いぞ」

 

何ということだ。

あの人形の唯一の欠点であった耐久の低さが完全に克服されてしまった。

 

…僕は勝てるのか?このどうしようもない程完璧な相手に?

 

 

「 さぁ、始めようか?第2ラウンドを 」

 

 

 

 

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