人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十二章

「壁」、それは越えられないものを意味する。

 

人形バトルにおいて今まで負けることのなかった自分に今、初めて大きな壁が立ち塞がった。

 

その相手は墳墓の守護者、杖刀偶 磨弓。

人形の強さは勿論、指示の的確さ、状況判断、機転、弱点への対策…どれをとっても完璧。

自分もそれらの能力には多少自信があったのだが、今やすっかり打ち砕かれてしまった。

上には上がいるということを嫌でも思い知らされた気分だ。

 

 

吹き荒れる砂嵐の中、クールに対峙するまゆみ人形。

本来攻めに特化している筈であるあの人形は今、「大地」の力で得た鎧によって守りの力も大幅に上昇している状態である。現にこちらの攻撃はどれも弾かれ、本体には一切のダメージが通らなかった。

ユキ人形の得意とする「炎」攻撃も今の状態では通用せず、返って鎧をより強固にしてしまうだけ…正直、勝てる気がしない。「水」属性であるこがさ人形がやられたのは大きな痛手だった。

あの時彼女が「バリアオプション」で耐久を削ってまで早々に決着をつけてきたのは、この形態があったからという訳だ。

そして同じく「大地」に有利の「自然」を持つメディスン人形も、今は戦闘不能。もう戦えるのは、今バトル場に出ているユキ人形しかいない。

「勝利を確信した」という磨弓の台詞が脳裏に蘇る。

 

 

…だが、まだ勝負を完全に諦めている訳ではない。

他の人形にはない、追い詰められた時に“覚醒”する能力を、ユキ人形は持っているからだ。勝てる見込みがあるとすれば、唯一それしかない。

 

永遠亭で永琳から聞いた推測では、ユキ人形の覚醒は持ち主…つまり自分の状態に大きく関係している。

それが正確な情報なのかはハッキリ分からない。だが、今まで発動した状態から考えれば信憑性は高いだろう。

 

そして、残り人形が1体というこの追い詰められた状態は発動条件として充分に満たしていると言って良い。

 

後は、僕が願うだけ。一か八か、やってやる…!

 

 

「(頼む。ユキ…!)」

 

 

目を瞑り、ユキ人形に呼びかけるように強く願う。

前に発動したレミリア戦の時のことを思い出し、出来る限りの感情を込めてみる。

 

…しかし、何も変化はない。

反応を見る限りはユキ人形もこちらの気持ちに気付いている様子だが、例の現象は起こらなかった。

気持ちが弱かったのか?それともまだ条件が満たされていないとか…いや、流石にそれは考えにくい。この状況はどう見てもこちらが劣勢だ。

 

…やはり、まだこの状態については謎が多すぎる。任意で発動させるにはまだまだ早いようだ。

 

「いきなり目を瞑ったかと思えば…この期に及んで現実逃避か?」

 

「…神頼みのようなものです。こんなに追い詰められたのは初めてですからね」

 

「神はこの地獄で袿姫様只御一人…慈悲など与えると思うか?そんなことに意味はないぞ」

 

「えぇ、そうですね。でもまだ僕は諦めない。ここまで頑張ってきた人形達の為にも、精一杯足掻いて見せます!」

 

 

「 …いいだろう。ならば見せてみろ!お前達の力をッ!! 」

 

 

最後の戦いが今、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

「こちらから行くぞ! 十文字!」

 

先に動いたのは磨弓。今まで初手は後攻に徹していた彼女だが、この形態となってからは強気な姿勢を見せている。

余程、今の鎧の形態が負けないという自信がある…そういうことだろうか?

確かに、現状あの鎧を攻略する術をこちらは持っていない。今攻め立てられればこちらはどうしようもなく、出来ることがあるとすれば相手の攻撃に当たらないようにするくらいだ。

 

「ユキ! 韋駄天 で空に逃げるんだ!」

 

指示を受けたユキ人形は風を身に纏い、まゆみ人形の攻撃を紙一重でかわした上で空へと逃れる。

危なかった…少しでも判断が遅れていたら相手の「十文字」を食らっていたことだろう。あんな頑強な鎧を身に着けているにも拘らず、スピードは一切落ちていないようだ…デメリットなしとは少々ズルい。

 

「成程、時間稼ぎと言ったところか。しかし、あまり時間を掛けてもお前の人形が苦しむだけだ!」

 

磨弓の言う通り、今はフィールドが砂嵐になっている状態。僕の予測が正しければこの砂嵐はその場にいる人形に対してダメージを蓄積させる…「大地」属性を除いて。

本来は相手のまゆみ人形にもダメージは蓄積される筈だったが、鎧を身に纏うことでそれを回避している。つまり今は相手の得意フィールドの中で戦わされて時間も掛けられず、攻撃も鎧のせいで全く通らないという圧倒的不利な状況…という訳だ。

唯一この状況を脱する糸口があるとすれば、「気象」はいつまでも続かないということ。今発動しているこの「黄砂」という気象も、時間が経てばやがて収まる筈。なら、せめて今はこの視界の悪さだけでも解消したい。

 

「…それに、私の人形が空を飛べないと思っていたのか?」

 

「え…!?」

 

 

「 ライジングサン で空へと飛べ! 」

 

 

指示を受けたまゆみ人形の鎧が変形し、背中に戦闘機の翼のようなものが出来上がる。

翼の噴射口から光が溢れた次の瞬間、ジェット機の如くまゆみ人形は空へと飛んでいく。

 

まさか飛ぶ術まで持っているなんて…!

あまりの飛ぶスピードの速さに咄嗟の指示を出せず、そのままユキ人形はまゆみ人形の突撃を食らってしまう。

 

「ユキ…!」

 

地面に叩き落されたユキ人形は砂漠と化したフィールドに埋もれながらもすぐに立ち上がり、付着した砂を振り払って体勢を整え直す。

幸い今の攻撃は「炎」属性だった為、ユキ人形も大したダメージは受けてはいない。

しかし参ったな。これでは空にも逃げられない。…流石、「完璧」というだけある。時間稼ぎも対策済みという訳か。

 

 

“攻撃だけでなく、色んな技を駆使して戦う”。

 

初めて自分が人形バトルをした際、早苗が教えてくれたことだ。相手は正に今、それを実行して上手く戦っている。

今一度、ユキ人形の技を確認して何か策はないか考えてみることにした。

 

 

「摩擦熱(まさつねつ)」、「テルミット」、「気象発現「極光(きょっこう)」」、「エンカレッジ」、「韋駄天」…

 

 

この中で使えるものがあるとすれば…やはり「エンカレッジ」だろうか?

「エンカレッジ」は相手が最後に使った技をしばらくの間使わせる固定技。レミリア戦に一役買ってくれたのをよく覚えている。

状況次第では相手の隙を作ることが出来る…だが、相手にそれを悟られてはおしまいだ。使うのなら、慎重にタイミングを見極めるべきだろう。

 

「隙だらけだ! 虎視眈々(こしたんたん)!」

 

「…!」

 

思考を巡らせている間に磨弓から技の指示を出され、ユキ人形へとターゲットマークが表示された。

鋭い目付きを刺すように放つまゆみ人形は目前のユキ人形を威圧する。

 

「どうやらもう、そちらには打つ手がないように見える。ならば、我が人形の奥義で早々に葬ってやろう…逃げられるとは思わんことだ」

 

「(く、くそッ…!)」

 

あの技は確か…そう。浩一のナズーリン人形が見せた技だ。効果は「次の攻撃が必ず当たるようになる」というもの。

どうやら今から放つ技で確実にユキ人形を仕留めるつもりでいるらしい。彼女の言う通り、今の状態で逃げ回っても攻撃は必ず当たる。

 

…おしまいだ。そんな技を出されたらもうどうしようもない。仮に今のタイミングでエンカレッジを出したとしても、ある程度離れているこの距離感では対応される。

 

「人形の持つ全ての技を使った時、初めて使えるこの大技…まさか使う日が来るとはな」

 

 

「 食らうがいい!! 奥の手(おくのて)ッ!! 」

 

 

まゆみ人形は杖刀を抜き、その刃に大地の力を収束させる。砂に塗れたこのフィールドを最大限に生かし、杖刀は徐々に大きな土の大剣へと変えていく。

やがて完成した大剣はまゆみ人形の数倍の大きさを誇っており、それを片手で持つその姿はさながら一騎当千の大将軍。あんなものをまともに食らったら、誰であろうと一撃で戦闘不能となるだろう。

 

「久々に私の人形を本気にさせた人形遣いよ。まだ名前を聞いていなかったな。…名は何という?」

 

「…舞島 鏡介(まいじま きょうすけ)です」

 

「舞島 鏡介…良い名だ。1人の強者として、その名を覚えておこう。…さらばだっ!!」

 

 

 

 

 

 

狙いを付けたまゆみ人形が、ユキ人形へと真っすぐに突撃する。

 

大地を纏った巨大な刃を携え、確実に獲物を捕らえる狩人…こちらはその標的(ターゲット)といったところか。

最早動くことも許されず、只々あの大剣に壊されることを待つことしか出来ない…何と虚しいことだろう。座して死を持つなんて。

 

 

「…――ッ!!」

 

 

絶望している自分に激しい頭痛が襲い掛かる。思わず頭を抱え、必死に痛みを抑えていると、目元のスカウターが突然更新された。

 

 

『 ユキ人形:新スキル習得 』

 

 

…何だ?こんな時に、ユキが新しい技を覚えた?

 

 

「…え?」

 

 

その詳細を見て、驚愕する。こんな都合の良いことがあるだろうか?

 

もしかしたら、この圧倒的不利なこの状況をひっくり返せるかもしれない。…でも、何で?

 

 

…いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

やるんだ!ここしか当てられるタイミングは、恐らくない!

 

 

 

 

 

 

大剣を構えたまゆみ人形が確実にこちらへ迫って来ている。

鎧の変形による背中のブースターで助走を付けながら、物凄い速さでまゆみ人形は迫って来ている。

 

「(…まだだ。もうちょっと近くに!)」

 

それを慎重に、冷静に見て、新技を使うタイミングを計る。

これを使えるのは、1回だけと考えた方がいい。これをそう何度も使える程、ユキ人形は本来器用ではない。

そもそも何でこのような技を覚えたのかも、全然分からない。普通に考えれば有り得ないことだ。

 

まゆみ人形が距離を詰め、大剣を振るべく両手持ちで力を蓄え始めた。

 

その動作を見て、ここぞとばかりに覚えた新技の指示を出す。

 

 

「 …今だ、ユキ! ウォーターカノン !! 」

 

 

「…!?な、何だとッ!?」

 

 

指示を受けた「炎」である筈のユキ人形の手元から、巨大な水砲が打ち出される。

属性が一致しておらず決して強力ではないかもしれないが、今のまゆみ人形の状態なら…!

 

「…っく!大剣で防御せよ!!」

 

まさかの「水」技の登場は、流石の磨弓も予想が出来なかったのだろう。

限界まで助走をつけた今のまゆみ人形はかわし切れないと判断し、防御の指示を出す。良い判断だ。

水を被ることで今の無敵の鎧が崩されれば形勢は一気に逆転し、負ける可能性が生まれてしまう。

 

…だが、こちらが狙っていたのは正にその行動!

 

「あの剣に向かって スターフレア!」

 

水砲がまゆみ人形の大剣に当たったと同時に、星の弾幕が直撃する。

すると水を被ったことで柔らかくなってしまった大剣はあっさりと砕け散り、元の金属で出来た杖刀へと戻ってしまう。

 

「テルミット で杖刀を左手にくっ付けるんだ!」

 

「 …そして、 エンカレッジ!! 」

 

指示を受けたユキ人形はまゆみ人形の持つ杖刀を橙色に光る左手で力一杯握った。

水分が蒸発する音とユキ人形による「エンカレッジ」のメロディがまゆみ人形の耳に反響していく。

 

「よし!」

 

連続指示出しで一気に畳み掛け、何とか自分の作戦通りの展開へと持っていくことに成功した。

これでまゆみ人形は杖刀を使った攻撃が出来ず、技を「奥の手」で固定されたせいでそれ以外の技を一時的に使えない。

 

…形勢逆転だ。

 

 

「 右手で 彩光百花 !! 」

 

 

こんな悪天候では放つのに少々時間は掛かるだろうが、最早それは問題にならない。

 

身動きも取れず、至近距離ならこの技も当てられる。

ユキ人形は右手にエネルギーを込め、それを徐々に一転に集中させていった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…!何だ、この光は?」

 

「墳墓内部に光が集まっていますよ統領!こりゃ一体?」

 

霊長園の草むら、そしてそこに住む人形達の放つ生命の輝きの収束。

地獄とは思えない、そんな眩しく煌めいた光景が確かにそこにあったのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「 いっけぇ!! 」

 

 

存分に溜まったエネルギーを、ユキ人形は一気に右手から放出する。

虹色の極太光線をまゆみ人形は至近距離で食らい、土で出来ていた鎧は自然の力で少しずつ装甲が削られていく。

直撃しても尚、辛うじてその場に踏み留まるまゆみ人形だがそれも徐々に押し出されていき、遂には耐えきれず放出され続ける光線の中へと消えていった。

 

 

やがて放ち終わった跡はくっきりと地面が抉れており、その奥に鎧の砕けたまゆみ人形がうつ伏せに倒れている。

動く気配もなく、近づいて様子を確認すると目を回している…戦闘不能だ。

 

「…初めて負けた。それも人間に」

 

悔しがる磨弓を横に、ユキ人形に称賛の声を掛ける。

バトルの終わったユキ人形は力が抜けたのかそのまま仰向けに倒れ込むも意識はハッキリとしており、顔を覗き込むとこちらに満面の笑みで両手を上げる。どうやら抱っこして欲しいようだ。

よく頑張ったユキ人形を胸元に抱き上げ、頭を撫でる。すると嬉しそうにしながらも段々とウトウトし始め、眠りについてしまう…寝顔が何とも可愛らしい。

余程疲れていたのだろう。僕はそっと頭を手から離し、ユキ人形を封印の糸へと戻す。…ゆっくり休んでくれ。

 

今回ばかりはこちらも負ける覚悟をした。この結果も、あの時「ウォーターカノン」を習得したから出来たものであり、実力とはとても言い難い。

こちらはやられたのが2体、重症が1体なのに対し、相手はようやく1体…あまりにも犠牲が多すぎる。

 

たった一体の人形に、ここまで追い詰められた。その強さは素直に称賛に値する。本当に強かった。

多種多様の技を使いこなしここまで戦えたのは、人形もそうだが磨弓という人形遣いの実力の高さがあってのものと言えるだろう。

 

「埴輪兵団が作られてから、こんなことは初めてだ。…奴らも恐ろしい策を考える。生身の人間がこんなに強いとは思わなかった」

 

「?」

 

「いいだろう。この勝負、私の負けだ。もう私に人形は残されていない」

 

 

「…そしてたった今、袿姫様から伝言が入られた。私を打ち倒した人間に興味がある、と」

 

「そ、それって!?」

 

その質問に、磨弓は静かに頷く。どうやら向こうから会いたいということらしい。

やった…ようやく会える。人形を作った神様に…!

 

 

「舞島殿には袿姫様に会う資格がある。…着いて来い」

 

 

「(…いよいよだ。どんな人物なんだろう?楽しみだなぁ)」

 

 

磨弓に案内され、意気揚々とそれに続くのであった。

 

 

 

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