人間と人形の幻想演舞 作:天衣
霊長園墳墓内部にて起こった人形バトルは辛くもこちらが勝利。
同じ手持ち数での人形バトルなら負けは確実であったが、自分はどうやらこのバトルを通じて力を試されていたらしい。
その勝負の様子を見ていたであろう人形を作った
初めてここに来た時は周りを見る余裕が全くなかったが、この墳墓内部は目が凄くチカチカする。
というのもこの墳墓、壁の至る所に光る謎の模様が施されていており、それがまるで電光掲示板のように点滅していて眩しい。
「墳墓」というくらいだからもっと地味で寂しい感じを何となくイメージしていたのだが、それとは真逆でここ主張が激しい派手な洞窟だ。
少し目を凝らして光っている模様が何なのかを調べてみるも、こんなの学校の授業でも全然見たことがない。昔の象形文字にも見えなくはないが、一体どういったものなのだろう?
後を着いて行きながらそう言ったことを考えていると、前を歩いていた磨弓がこちらを向いて話を始める。
「ひとつ問いたい。舞島殿は何故、袿姫様にお会いしたいのだ?…やはり、お前も獣共の仲間なのか?」
「え?う~ん…まぁ表向きはそうですけどそうじゃないと言いますか…別に敵意なんてこれっぽっちもなかったんですよね」
「?…それはどういう?」
最初は興味本位でこの霊長園に赴き、そこで怪しい女性から脅迫を受けてやむを得ず
いくら自分が正直者であるからといって、あんな如何にもな嘘に踊らされて…冷静になって考えると、自分の身くらい守れる強い人達がそんな簡単にやられる筈などなかった。
「…もしかすると、舞島殿は鬼傑組の奴らから洗脳を受けていた可能性があるな」
「え?せ、洗脳…?」
「正確には鬼傑組の組長、吉弔 八千慧(きっちょう やちえ)からだ。奴には相手の“逆らう気力を失わせる”という能力がある。今後は気を付けることだ」
「そうか、通りで…」
磨弓から事の真相を告げられ、今までの自分の不可解な行動に納得する。
そんな恐ろしい能力があるとは…今後は初対面の人…特に妖怪などには少し警戒心を持つべきなのかもしれない。
「…着いたぞ」
案内をしていた磨弓は立ち止まり、目的地に着いたことを告げる。そこには更に奥へと通じる洞穴が存在していた。
中の様子は真っ暗で何も見えない。だが、入り口からも伝わってくるこのプレッシャー…やはり神様というだけあってタダ者ではないようだ。
「ここが、袿姫様がおられる間だ。くれぐれも失礼のないように」
「は、はい!」
注意喚起をしたところで磨弓が再び歩みを進め始めたので、それに続いてこちらも後を付いて行く。
いよいよ造形神とのご対面…心なしか緊張している自分がいる。楽しみであった筈なのにいざ会いに行くとなると怖さの方が勝ってしまっているようだ。
ここに侵入し、力を試された自分はこれから何をされるのか…?それを深く想像してしまっているからだろう。
洞穴の中へと進み、徐々に深部の全容が明らかになっていくとそこには大量の埴輪達が左右縦並びとなってこちらを出迎えている姿があった。
だが兵団のように動くものではないらしく、そこにあるもの皆が全く同じポーズを取り、ズレなど一寸もない綺麗な並びで置かれている。
これらも全て
「お待たせしました、袿姫様」
磨弓が敬礼をしているあの人物…彼女がどうやら“袿姫”らしい。
緑色の頭巾を被った青いロングヘアー、赤紫の瞳、そして首元にある三色の勾玉ネックレス、更に黄色いワンピースの上から着ている頭巾と同色のエプロンには複数のポケットが付いており、中からは小道具が沢山見える。
その姿はさながら造形、彫刻作家の姿を彷彿とさせ、見た目は自分が想像したような威厳が全くなかった。
「ご苦労様、磨弓。もう下がっていていいわよ」
「…承知致しました。引き続き、警護に戻ります」
だが、ここに入る前から感じていたあのプレッシャーは間違いなくそこにいる彼女から放たれており、見るものを威圧している。
間違いなどでは決してない。彼女こそが
「…さて、まずは自己紹介でもしましょうか。私の名前は 埴安神 袿姫(はにやすしん けいき)。霊長園の人間霊達が呼び出した神です」
「に、人間霊達が呼び出した?それはどういうことです?」
「…そう、あなたは知らないのね。ここ霊長園にいる人間霊達が畜生界の動物霊から奴隷のように虐げられているということを」
「…――ッ!!」
袿姫の口から衝撃の事実が告げられる。
彼女の言うことが事実ならば、自分は人間霊を虐げる側の手伝いをしていたということになる。
表向きだったとはいえ、人の身でありながら何ということをしてしまったのだろう。
「私はそんな人間霊達を救うべく招喚された救世主…という訳です。ご理解頂けたかしら?」
「そう、だったんですね…」
どうやら、自分が思っていたよりも動物霊というのは質の悪い集団だったようだ。
まさか人間霊を奴隷扱いしていたなんて…一時的にも味方をしてしまったことを心から悔いる。
僕はあの悪い連中に良いように利用されただけだったんだ。
「そう気に病むことはありません、舞島 鏡介。私は貴方を許します」
「!け、袿姫様…」
袿姫様が優しい微笑みで両手を広げるその神々しい姿に、思わず見惚れてしまった。
何という…何という慈悲深さだろうか。
あんなに可愛く、賢く、そして強い生き物を創造して下さった袿姫様自身も、こんなに素晴らしいお方だなんて。
彼女は正に自分が想像していたような理想の神様そのものである。あぁ、やはりここに来て正解だった。
こんなに救われた気持ちになるのは生まれてで、今は胸のつっかえが取れたような晴れやかな気分である。こんなのもう、崇拝せざるを得ない。
彼女の作った埴輪も色々あって最初は受け入れ難かったが、ちょっと可愛いかも…。
このフォルム、何とも言えない目と顔、セクシーなポーズ…こうして見てみればちゃんと愛嬌のあるものじゃないか。
「……えっと、話をしてもいいかしら?」
「あ、すみません。つい…」
「私の造形物を気に入ってくれるのは嬉しいですが、来て貰ったのは何も作品鑑賞の為ではありません。…貴方の持つ不思議な能力についてです」
「…?の、能力…ですか?」
「…少し、待っていなさい」
袿姫様が目を閉じ、集中し始めた。何を始められるのだろう?
疑問に思っていると彼女の目の前に黄土色の粘土の塊が現れ、ポケットにある小道具達が宙に次々と浮かび始める。
直径40cm程の粘土の塊はその小道具達の手により少しづつ形作られていく。まさかこれは…やっぱりそうなのか!?
凄い…直で作られる様子が見られるなんて、こんな貴重な経験が果たしてあるだろうか。
宙に浮かびながら粘土を形成している小道具達は、まるで一つ一つが意志を持っているかのような繊細な動きで頭、体、手足を形作る。
その様子は言うなれば“神の手”と呼ぶのに相応しい、奇跡の業…これは目が離せない。
しばらくして人形の凡その型を作り上げた袿姫様は次に頭の目、鼻、口のパーツ作りに取り掛かる。先程よりも更に集中力を研ぎ澄ませたようだ。
職人による細部の緊張感がこちらにまで伝わってくる…ここは万一失敗でもすればやり直しが効かないのだろう。
「……こんなものか。まだまだ完璧とはいかないわね」
袿姫様が及第点と言った表情で完成した人形の顔を眺めている。完成品に納得のいっている様子はなく、彼女のストイックな一面が見受けられた。
日々自分を磨いていらっしゃるのだろう。この子達はこんなに可愛いのにまだ上を目指そうだなんて…流石、向上心の塊だ。
顔のパーツを完成させた袿姫様は次にポケットから絵具を取り出し、これまたポケットから出したパレットにそれぞれ赤、白、黄色の3色を出す。
宙に浮いた筆達がそれらを混ぜていくことで新しい色合いを生み出すと、黄土色の粘土で出来た人形の型に全身塗り込む。
一切のムラなく塗り上げられた型は、やがて見覚えのある自分達の人形と同じ肌色となった。
「後は足りないパーツを付けていけば……」
袿姫様が生み出した服や髪、顔のパーツの一部達が人形の型に集まっていき、どんどん自分の知っている“人形”へと姿が変わっていく。
パーツ達がそれぞれの決まった位置に組み合わされて全てが揃ったその瞬間、型が光輝き前が見えなくなる。
「お待たせしました」
光が弱り、前を向き直すとそこには人形を片手で持っている袿姫様の姿があった。
どうやら完成されたらしい。感動で思わず拍手を送ってしまった。
「す、凄い!その子、もう動くんですか?」
「いや、これはまだ抜け殻のようなもの。これに私の魔力を注ぐことで初めて貴方達の知る“人形”となるのです」
「…ですが注ぐ前に1つ。貴方にはこれからこの人形と接して頂きます」
「え?」
いきなり袿姫様から作り出した人形と接するようお願いされてしまった。
一体どうしてそんなことを…?用というのはこれのことだったのか?
「え、えぇいいですけど」
「ありがとうございます。…では、行きますよ」
「そうそう、この作品は侵入者を撃退するように製造されています。ですから当然貴方に攻撃をするでしょう。しかし、それに対して対抗してはなりませんよ」
袿姫様が人形の抜け殻に魔力を注ぎながら物騒なことを言い出す。
どうしてこんなことをさせたがるのか袿姫様のお考えは理解出来ないが、下手をすればこの人形に殺されるかもしれないのか。
実際に人形からの直接攻撃は何度か体験したものの、あれは人の身で受けていいものではない。それなりの殺傷力を持っている。
しかもそれに対して一切抵抗をするなという口止めまでされた。…よくは分からないが、つまりあの人形と争うことはせずに仲良くなればいいのか?
人前でそれを実行するというのは中々に恥ずかしいが、仕方ない。
「さぁ、人形が間もなく動きます」
「…!」
先程まで座り込んで下を向いていた抜け殻の人形が魔力を得たことで顔を上げ、閉じていた目をゆっくりと開ける。
服装からしてもう大体分かってはいたが、やはりあの人形は…
『 名前:けいき 種族:神 説明:偶像を作り出す神 』
袿姫様ご本人の人形だ。
見比べるとやはり本人と瓜二つの容姿…この完成度は見事という他ないだろう。
目を開けたけいき人形は自分を見るなり表情を強張らせ、すぐさま立ち上がる。
どうやら早速敵とみなされたらしい。…さてどうするか?仮にも相手はあの
常に警戒しておかないと、自分はあの人形に殺されてしまうことになる。
けいき人形の動きに注目し、いつでも来ていいよう構えるとけいき人形は何やら地面の土を手で捏ね始めた。
楽しそうにそれを実行しているけいき人形にこちらも緊張が解かれてしまい、構えていた体勢が崩れずっこけそうになる。
何だあれ?泥団子でも作っているのだろうか…一応仲良くなることが目的ではあるし、一緒に遊んだ方が良い…のか?
試しに距離を縮めようとけいき人形の方へと歩き始めてみる。だがその瞬間、接近に気が付いたけいき人形はこちらに向かって作った泥団子を勢いよく投げつけた。
突然のことで反応が遅れた僕はそれを顔面に食らい、その場でうなだれる。…痛い。これってまさか人形の技の一種なのだろうか?油断していた。
痛む顔面を抑えて反省している間にけいき人形が泥団子をもう1つ投げつける。だが、事前に知っていればどうということのない球速だった為、今度は避けてみせた。
すると当たらなかったのが悔しかったのか、けいき人形は頬を膨らませて地団駄を踏んだ。可愛らしい。
次を投げるべく手を伸ばすがもう弾切れらしく、今度は手を振り回しながらこちらに向かって走ってきた。…まさかの物理攻撃?最初の頃の自分を思い出すなぁ。
もしや、技を全然覚えていないのだろうか。あれはもう、最後の悪あがきとでもいったような攻撃方法だ。
これはもう、食らっても大したダメージにならないだろう。
敢えて攻撃をそのまま受け入れ、足元をポカポカと叩かれてみる。うん、マッサージみたいでむしろ気持ち良い。
人形の方は必死に侵入者を撃退しようと頑張っているようだが、これではただ可愛いだけ。やがて力を使い果たしたのか、息を切らしたけいき人形は攻撃を一旦止める。
物理的だが距離は一気に縮まった…仲良くなるのなら今だろう。鞄からおもむろに藤原煎餅を取り出し、餌付けを試してみる。
しかしけいき人形はそれを手で弾いて拒み、今度は伸ばしていた手に噛みついた。
「…痛ったたたッ!!」
痛みが走るも、しばらくして噛む力は弱まり手から離れてしまう。もう抵抗する力もないのだろう。
ポケ〇ンでいう「わるあがき」は反動のダメージが物凄く、この人形もそれの影響で酷く弱った可能性が高い。
「袿姫様。攻撃でなければ、人形を出しても構いませんね?」
「 メディスン! この子を直してあげて! 」
封印の糸からメディスン人形を繰り出す。
磨弓との人形バトルの後、埴輪兵団の医療隊からしっかり治して貰ったので元気は一杯だ。
「(…何だ?あの人間は一体何をするつもりでいる?人形に戦うこと以外など…)」
メディスン人形は倒れてしまっているけいき人形の様態を確認すると少し考え、手をかざした。癒しの光がけいき人形を包み込み、治療を始める。
その様子を袿姫様は信じられないという表情で物珍しそうに見ているようだ。…そんなに驚くことでもないような気もするのだが?
やがて治療を終えたメディスン人形に労いの一声かけ、封印の糸に戻す。
けいき人形は自分に何が起こったのか分からなかったようであるが、先程と比べスッカリ元気になった。
「大丈夫?」
「!……ッ」
優しく声を掛けてみると、敵意はあるものの躊躇いのある葛藤の表情を見せる。敵である僕が助けたという認識をしているのだろうか?
実際はメディスン人形がやってくれたことなのだが、この変化は大きな進展…心の距離を縮める大チャンス。
敵意を見せず、敵ではないという意志をちゃんと見せれば、きっと分かってくれる筈だ。
「僕は君の敵じゃないよ。君の主を傷付けるような真似もしない。僕はただ、君と仲良くなりたいだけなんだ」
「……」
「怖くないよ…ほら、おいで?」
…そう言えば、初めてユキ人形に会った時もこんな感じで歩み寄ったんだっけ。
ユキ人形が手を握ってくれた時は本当に可愛かったなぁ。この子もあの時みたいに笑顔で…
「 (……痛ったあああぁぁぁぁいッッ!!!?) 」
けいき人形に伸ばした手をまた噛まれる。だが声に出すといけないので押し殺し、何とか堪え抜く。
笑顔だ笑顔…とにかく警戒心を解くんだ…!
「…大丈夫。僕は君の味方だよ」
「……」
「………」
こちらの笑みの崩れない様子にけいき人形もようやく相手に敵意がないことを理解したようで、噛むのを止めてくれる。
そしてこちらの手を恐る恐る慎重に片手で繋ぐ…どうやら分かってくれたようだ。
「…やはり、貴方だったのですね。私の作品達にあのような変化をもたらした人物は」
「?」
「(まさかこのような策を講じられようとは…あの人形達も使い物にならなくなった今、どう対抗すれば?)」
一通りの出来事を見て袿姫様は何か納得をされたようだ。
何か不味いことでもしてしまったのか、袿姫様は自分を見て困った様子でいる。
…!もしかして仲良くなってはいけなかったのだろうか!?だとしたら僕は何という失態を…!?
「「 (さ、最悪だ……!) 」」
***
「フフ、今更気付いても遅い。お前の作った“偶像”はもう、こちらにとって何も怖くはなくなった。数なら我らに分がある…今に見ていろ邪神」