人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十四章

作られた人形とのやり取りを見て確信を持ち、そして絶望する袿姫様。

 

一体どうしたのだろうか?

 

 

「私はもう駄目だ。はぁ…何が造形神だ…駄女神もいいところじゃない」

 

 

…もしかすると、自分は大変失礼なことをやらかしてしまった可能性がある。

先程まであんなに神々しくあられた袿姫様がすっかりネガティブモードに突入してしまった。

こんな弱弱しい姿を自分は見たくなかった…今からでも出来ることがあれば償うべきだろう。

 

「袿姫様!お気を確かに!袿姫様ッ!!」

 

「袿姫様!僕に出来ることがあれば!」

 

「あぁ、私の崇高な作品達が…あれだけ作るの苦労したのに……うぅ……」

 

「…まさか、霊長園の人形達が一斉に戦意喪失してしまうとは…!舞島殿、君は大変なことをしてしまったようだな」

 

「え…?」

 

膝から崩れ落ちた袿姫様を支えながら、磨弓はことの深刻さを伝えてくる。

 

外の霊長園の様子を写したモニターには自分が改心させた人形達が手を繋いでルンルンスキップをしている姿があった。

あぁ、何て平和な世界なのだろう。正に理想郷…ユートピア。見ているだけで幸せになれる。

 

「えっと、これの何が問題なの?」

 

「…私から説明しよう。袿姫様はあまりのショックで幼児退行なされた」

 

「!?な、何か小さくなってるような…」

 

 

「 うわーーーーーーーーん!!! 」

 

 

「…分かっているとは思うが、この霊長園に住む人形達は袿姫様が御自身で作られたもの。この人形達は元々、畜生界の獣共に対抗する為の戦闘道具として運用しており、獣共は人形を持たぬ故何も抵抗が出来なかった。正に無敵の兵団だったのだ」

 

「…!」

 

「だが、君がここにきてしまったことでそれは覆された。霊長園の人形達に優しさが芽生え、見ての通り戦うことを完全に放棄している…。最早戦力として残っているのは今ここにいる埴輪兵団のみだ」

 

「幸い、我ら兵団の人形遣いの持つ人形が残ってはいるものの…袿姫様がこんな状態ではまともに力を発揮出来ない」

 

「そ、そんな…僕のせいで…」

 

何ということだろう。

まさか好意でやったことが袿姫様を追い詰めてしまったなんて…これは大変なことになってしまった。

 

それにしても、さっきまで大人の女性くらいだった袿姫様は今や小学生くらいの見た目となり、その場で泣き喚いてしまっている。

本当に幼児退行してしまってるじゃないか…冗談抜きに。神様ってそう言う体質なのか?

 

「この幼児退行の原因は恐らく、人間霊の信仰が一気に薄れてしまった影響だろう。…全く、あちらから呼んでおいてなんと身勝手な連中だ」

 

 

『袿姫様はもう駄目だ。俺達は一生奴隷のままなんだ…』

 

 

『このお方を呼んだはいいものの、俺達の立場なんて結局変わりはしなかった!』

 

 

『気色の悪いものばかり作って、どうも胡散臭かったんだよあの神様…止めだ止め』

 

 

 

人間霊達の絶望している声が洞穴に響き渡る。信仰…即ち信じる心が人間霊達から消えてしまっているということか?

 

「ここの人形は勿論、我ら埴輪兵団も袿姫様が作られたもの。このまま袿姫様が力を失えば、我らも存在を保てなくなる。…敗戦は時間の問題だな」

 

…これは完全に、ここへ来た僕の責任だ。何とかしないと…!

 

 

 

 

 

 

僕の愛する人形を作った神様…それが今、自分のせいで力を失ってしまった。

それは人形の存在にも大きく関わることであり、もしこの神様がいなくなってしまうと人形はどうなるか?

磨弓の言っていたことから推察するに、埴輪同様存在を保てなくなってしまう可能性が高い。

それは野生の人形達も、自分の大切なパートナー達も皆いなくなってしまうということ…そんなのは絶対に嫌だ。

 

そして人形を作り出した袿姫様も同様、守るべき存在である。こんなに素晴らしいお方がいなくなることは世界の損失だ…あってはならない。

偶像など信じていなかった自分が唯一信じられる神様…それが彼女、埴安神 袿姫様。あの優しい笑みが今も忘れられないのだ。

 

 

…確か、神様は“信仰”で力を得るんだったな。

僕1人の信仰でどうにかなる訳ないけど、それで少しでも力を取り戻せるのなら…

 

「 袿姫様ッ!! 」

 

「ふぇ…!?な、何よ放して!」

 

袿姫様の小さくなってしまった強く手を握り、言葉を交わす。ストレートに自分の気持ちを伝える為に。

それに対して袿姫様は掴まれた手を放そうと必死に抵抗している。当然の反応だろう。

 

「…まずは謝罪します。僕はあの獣達にまんまと騙されてしまい、結果袿姫様をこんな姿にしてしまいました。本当に申し訳ありません」

 

「そ、そうよ!全くいい迷惑だわ!」

 

「ですが、私は袿姫様を本当に尊敬しています。この気持ちに嘘なんてない…信じて下さい。元々僕はあなたに会いにここまで来たのですから」

 

「…わ、私に?どうして?」

 

「貴方が人形という存在を生み出した素晴らしい方だからですよ。僕は初めて人形を見た時、本当に感動したんです。こんなに理想的な可愛らしい生き物が存在しているなんて…とね。だから、その人形を作った人にも是非会いたくなったのです」

 

「……ふ、ふぅん?」

 

「それに、袿姫様は敵である僕を一切咎めることなく許して下さった。真実を告げられなければ、あのまま僕は動物霊達のいいようにされていたでしょう」

 

 

「……正直、僕なんかのちっぽけな思いじゃ元になんて戻れないとは思います。でも、それでもこれだけは伝えさせて下さい」

 

 

 

「 僕は、貴方を心から信仰致します。埴安神 袿姫様 」

 

 

 

「 …―――ッ!!!/// 」

 

 

 

…よし、言いたいことは全て伝えた。後は僕と僕の手持ち達で何とかしよう。

せめて時間稼ぎくらいはしてやる。…もう動物霊達は攻め込んできているのだろうか。

 

 

「 ………、………… 」

 

 

袿姫様、どうかご無事で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!こ、これは……」

 

来た道を引き返し外の方へ向かっている最中、埴輪兵の残骸を発見する。

無残に破壊された埴輪兵をよく調べてみると集団で襲われたような痕跡が残っている…酷いものだ。

磨弓が言っていた通り、信仰が弱まった影響で埴輪兵達も力が弱まっているらしい。僕を唆した動物霊達は最初からこれを狙っていたのだろう。

確かに袿姫様の力の弱まった今ならば、人形をわざわざ使役する必要なく力づくで叩くことが出来る…悔しいが、よく考えられた戦略だ。

 

 

「いやはや、まさかこうも上手くいくとは思いませんでしたよ。あれだけ厄介だった兵団も今やすぐに壊れる出来損ないだ」

 

「――ッ!お前は!」

 

 

道の奥から聞き覚えのある声が響きわたり、一気に警戒を強める。

もう、あの声の主のいいようにはされない。聞く耳を持つな…

 

「しばらくぶりですね。舞島 鏡介さん。この度はご協力感謝しますよ」

 

「……」

 

「…だんまりですか。ハハッ、嫌われたものですねぇ」

 

吉弔 八千慧…畜生界を支配する組織の1つ、鬼傑組の組長。

 

僕は彼女に洗脳され墳墓へ乗り込み、結果として埴輪兵団から敵として認識されてしまった。

意識はあったにも関わらず逆らえないあの恐怖…思い出しただけでも身の毛が逆立つ。

 

「…何も知らなかったとはいえ、人間霊を苦しめるようなことを“人間”である僕にさせるなんて……最低ですね、貴女って」

 

「そんな怖い顔をして…正直、全然似合いませんよ?」

 

こちらの言葉に対し、軽く嘲笑で返した八千慧にますます怒りが込み上がる。

自分自身の至らなさに怒ることはよくあれど、他人に対してこんなに怒りを覚えたのは本当に久しぶりだ。

 

「おやおや、それは何の真似です?」

 

「……」

 

「まさか、その身1つで我々に立ち向かおうと?人形も使わずに…?」

 

「ギャハハ!こりゃ傑作だ!こんなか弱い人間に何が出来るってんだぁ?」

 

「何だよあのポーズ!素手で俺達と殺り合おうってかぁ?舐められたもんだなおい!」

 

その場で立ち塞がる自分を見て、滑稽だと動物霊達が馬鹿にする。

確かに、僕は格闘技の1つも習得していないし今まで誰に対しても暴力だけは振るって来なかった。身体の見た目だって明らかに頼りない…これが無謀な行為なのは分かっているつもりだ。

そして人形に協力を求めないのは、自分なりのこだわりである。この子達を人形同士のバトル以外で、争いの道具として使いたくはない。

だから、この場は僕自身で何とかしてみせる。

 

「こんな雑魚、わざわざ統領が出るまでもねぇ。いいっすよね?」

 

「…えぇ、好きにしなさい」

 

動物霊1匹が前に出る。どうやら小手調べでも始めるつもりらしい。

 

顔だけの一見可愛らしい動物霊は徐々にその正体を現し、大きな二足歩行の獣へと豹変する。

これが畜生界の動物霊の本当の姿…何とおぞましい獣だろう。

 

 

「へへへ…久々の生身の人間だ。簡単には殺さねぇぞ?…じゅるり」

 

「…――ッ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

―――何だ?

 

この、底から湧き上がってくるような活力……胸の高まり……私は一体、どうしてしまったのだろう?

 

 

「袿姫様、ご無事ですか?なにやらお顔が赤くなっていらっしゃるようですが…」

 

 

…そうだ。

 

あの人間の思いを聞いてからだ。私がこんな風になってしまったのは…

初めてだったのだ。今まであんなに純粋な尊敬を向けられたことなど、一度もなかったから。

 

 

私は人間霊に救いを求められ、この地に招喚された造形神(イドラデウス)

救いを求めた者達を救う為、私は疲れ知らずの埴輪の兵士達を作り出すことで獣共を追い払い感謝されることで、今まで信仰を得てきた。

 

しかし、それで人間霊達の“奴隷”という立場が変わった訳ではない。

結局は支配者がすり替わっただけという事実に、人間霊達も薄々気が付いていたのだろう。

私の力がなくなったことが何よりもの証拠…自業自得だ。仮にあの人間がここに来なくとも、直に私は負けていたのだ。

我ら神は偶像…人々の信仰がなければ存在など出来はしないのだから。

 

本来、私は消える筈だった存在…しかし今、舞島 鏡介という1人の人間の信仰によって生き永らえた。

 

 

…ならば、やることは1つだろう。

 

 

「…!?袿姫様、その御力は…!」

 

 

今なら出来るぞ。最高の作品達が…!

 

 

 

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