人間と人形の幻想演舞 作:天衣
「 えぇ!?人形を作られたのは袿姫様ではないのですか!? 」
こちらの問いに対し、袿姫様は静かに頷く。
目が覚めて早々に衝撃の事実が発覚してしまった…袿姫様が全て作られたものだと思っていた人形は、元々は自分の創造物ではないらしい。
しかしそうなると、1つの疑問が生まれることになる。
それはやはり、本当の人形の生みの親。
袿姫様ではない以上、当然他の誰かが作ったということになる。一体誰なんだ?
「袿姫様はご存じなのでしょうか?」
「それは、私にも分かりません。私はただ、自身のファインセラミックスによって人形に限りなく近い“偶像”を生み出しただけ…これは本物とは程遠い偽物です」
ファインセラミックス……それが袿姫様の創造する御力の名称のようだ。
ということは、袿姫様はどこかで人形の存在を知りそしてそれを模倣したと、そういうことになる。
模倣というには余りにも自分の知っている人形と酷似していた為、こちらも今まで全く気付かなかった。
そして袿姫様の言い分から察するに、自身の作った人形達の完成度には納得がいってなかったことも伺える。
「そうだったんですね。でも、どうしてそれを僕に?」
「……あ、貴方にはそれを知る権利があると、そう判断したから」
「?」
突然目線を逸らし、袿姫様は顔を横に向けてしまう。
何か言い淀んでいるような、気まずそうなその様子を見兼ねた杖刀偶 磨弓が前に出てくる。
「コホン、つまり袿姫様は舞島殿に嘘偽りを信じ込ませたくはないのだ」
「私は、貴方が思っているような理想の神様ではない。力を得るため人々の信仰を利用した最低な悪魔…邪神なのです」
力を失った袿姫様に失望していた人間霊達の台詞を思い出す。
「結局は支配者がすり替わっただけ」というあの不満の言葉は、袿姫様の行いに対する評価だったのだろう。
「うーん……本当にそうでしょうか?」
しかし、あくまでそれは人間霊達の見解…救いと自由を求めた者達の身勝手な言い分ではないだろうか。
仮に僕が人間霊の立場ならば、袿姫様の行いをこう考える。
「だって、やり方はどうあれ袿姫様は奴隷扱いだったその人間霊達を救われたではないですか。事実、これまで信仰を得られたのもその立派な行いの成果と言えます」
「……だが、結果的に私が人間霊達を」
「袿姫様が行ったのは「支配」なんかじゃなくて、「保護」……なのではないですか?」
「!」
「舞島殿の言う通りです。袿姫様はこれまで人間霊達を救いたい一心で霊長園を守り続けました。それを奴らが欲を出したばかりに…」
「奴らは元々、地獄に堕ちた罪人達。救いの手を差し伸べられるような立場ではないにも拘らず、袿姫様の慈悲深いことを良いことに付け上がるとは……全く嘆かわしいものだ」
どうやら磨弓もこちらと意見が同じらしく、人間霊達の我儘ぶりに苛立っている様子が垣間見えた。
人間は欲深い生き物…それが行き過ぎてしまった結果こうなってしまったと考えると、同じ人間としてやるせない。
そして僕自身も、袿姫様の作られた人形を台無しにしてしまったという経緯がある。決して許されることではないだろう。
「袿姫様、僕が人間を代表して謝罪します。本当に…申し訳ありません」
「!舞島殿、何を!?」
反省の意を示すよう、袿姫様に向かい深々と土下座をする。
僕が興味本位でここに来なければ、何の問題なく守り続けられていたのだ。これくらいのことはしなければ、示しがつかない。
「舞島 鏡介。貴方はむしろ私を救って下さいました。謝ることなどありません……顔を上げて下さい」
「…袿姫様」
ゆっくりと歩み寄り、座り込んで同じ目線に立ち、優しい微笑みで語り掛ける袿姫様の姿が眩しすぎる…嗚呼、やはり彼女こそ尊敬すべき神様だ。
この世界に他の素晴らしい神様がいたとしても、僕の心はこの先変わることはないだろう。
「ですが、獣達はまだ霊長園の奪還を諦めてはいません。またいずれここへ攻め込んでることでしょう。舞島 鏡介…人間の貴方がここに居続けては、命が幾つあっても足りません。さぁ、もう地上に戻りなさい」
袿姫様のどこか寂しさを感じさせるその言葉を聞き、胸が苦しくなった。
出来ることならばこのまま袿姫様に一生付いて行きたいが、こちらも人形異変の解決という目的がある。
それは袿姫様と同じようにここ幻想郷へ呼ばれ、そして求められたことに他ならない。
「それと安心なさい。貴方の人形を愛するその気持ちに免じ、これからは人形に頼らず奴らと抗戦します」
「!ほ、本当ですか?」
「はい、人形は私が取り扱うには少々難のある生き物のようですから。……それに今は人形などに頼らずとも、充分に対抗出来る力があります。お陰で今まで以上に強力な造形術が出来るようになりました。感謝しますよ、舞島 鏡介」
「(……あ、あんなに実直で真っすぐな信仰は初めてだったけど)」
途中で袿姫様のお顔が少し赤くなったような気がするが、こちらの気持ちが伝わってくれたようで本当に良かった。
これで、ここの人形が争いの道具にならすに済む。流石、袿姫様は本当に話の分かるお方だ。しかし……
「では、霊長園にいる人形達も?」
「えぇ、貴方にならあの子達も喜んで着いていくでしょう。どうか、私の代わりに面倒を見てあげて下さい。……それと、これも」
「あ、その子は」
袿姫様は思い出したように手元から持ってきたのは、先程自らの手で作ったけいき人形だった。
どうやら作り立てのこの子も同時に面倒を見て欲しいようだ。けいき人形自体もそれを望んでいるのか、こちらに対し純粋で綺麗な眼差しを向けている。
「この人形は生まれたてでまだ弱い…しかし、育てればその能力を存分に開花させていく筈。必ずや貴方の力となってくれるでしょう」
「…分かりました。ありがとうございます」
けいき人形を託され、実際に持ってみると早速違和感があった。…重い。どうやらこの子は他の人形に比べ、身の丈に合った重量があるようだ。
こうしてみると、確かに今まで仲間にしてきた人形達とは作りに違いがあるのがハッキリと分かる。…持ち続けるのは中々にキツイ。
だが、それでも精一杯愛して見せよう。何せ、この人形は袿姫様の手から直接頂いたものなのだから。
これで手持ちの仲間は6体…むげつ人形がまだこちらと一緒にいるかの確認を取れていない状態であることを除けば、取り敢えずの人形パーティは完成だ。
今はまだ戦えるのは4体でも、これから徐々に経験を積んでいけば6体同士の人形フルバトルも出来るようになる。戦力の幅が一気に広がり大変だろうが、それがやがて普通になる時がやって来る…頑張らなければ。
***
「――という訳なので、久詫歌さん。この子達も一緒にお願いできますか?」
「……これ皆、ですか……?」
ピーコちゃんの連絡を通じて先に霊長園で帰りを待っていた庭渡 久詫歌は、僕と一緒にいる人形達のその量に圧巻していた。
全員を仲間にしたは良いものの封印の糸が不足していたことを懸念していた為、けいき人形以外は現在そのまま着いてきている状態である。
「いやー、流石の私でもこれらを一気に運ぶのは……せめて半分以上は減らして頂かないとまともに飛べませんよ?」
「そ、そうですか。う~ん困ったなぁ」
袿姫様の作られた人形達は一体一体がはそれなりの重量で、それが軽く30はいる。今思うと、無理難題なお願いだった。
わざわざここまで連れてきてくれた久詫歌を何度も往復させるような重労働をさせるのも気が引ける……さて、どうしようか。
振り返ってみると、霊長園の人形達は目をウルウルさせがながらこちらを見つめている。あぁ、そんな目で僕を見ないでくれ……そんなことされたら猶更置いてはいけないじゃないか。
せめて、余った人形達をどこか収納できる様なアイテムがあればいいのだが……
「……あ、そういえば」
そうだ。あるじゃないか「人形箱」が!
しばらくご無沙汰であったが、くるみ人形とエリー人形が入っているこの人形箱に入って貰えば問題は解決だ。
「 みんなー!この人形箱の中に入っていってー!! 」
人形箱の蓋を開け、人形達の目の前に置き、体操のお兄さんの如く手招きする。
こちらの声を聞いた人形達は最初は戸惑いがありつつも、1人が入っていくとファーストペンギンの要領で次々と後に続いて行った。
突然これだけの人形が来たことにくるみ人形とエリー人形も驚くだろうが、バトルなどの出番がない彼女らもこれで寂しくはないだろう。
全員が入ったことを確認し、人形箱を持ち上げてみるが重さは全く変わらない。……結構凄い発明ではないだろうか、これ。
「コケ―……驚きました。優れたマジックアイテムですねぇ」
「……自分からやっておいてなんですが、すんなりと入ったことに結構驚いているんですよね」
ここに来てからというもの、普段では有り得ない現象ばかり目の当たりにしている。
そして何より、ぞんな非日常にすっかり慣れてしまっている自分が怖ろしい。
皆が当たり前のように空を飛び、出会う人や妖怪は皆基本的に美少女で、誰もが一度は憧れる「魔法」が実在するこの世界は本当に退屈しない。
しかし、いつまでもそれが続くかと言われれば、違う。旅の終わりはいつか必ずやってくるだろう。
自分の世界へ帰った時、生活に支障がなければいいのだが……なんて、前もそんな風に感傷に浸った気がする。
「では問題も解決したことですし、そろそろ帰りましょうか?舞島さん」
「はい。よろしくお願いします」
背中の翼を広げた久詫歌は僕の上着を掴み、天高く飛翔する。これで、この畜生界ともしばらくはお別れだ。
心残りがあるとすれば、やはり袿姫様の安否が心配である。人形がなくとも充分に戦えると袿姫様は言っていたが、あれは嘘だ。
あの時は三勢力の1つが相手だったから良かったものの、もしそれらが結託したら流石に埴輪兵団だけではとても守り切れない。
袿姫様の心変わりは本当に嬉しかったが、結果的に僕は獣霊達の方に手を貸してしまったような気がする。
「思い詰めた顔をしていますね。ですが、大丈夫ですよ」
「……え?」
「貴方のした行動は、絶望していた人間霊達を再び奮起させました。あの
「(まぁ、最も行き場をなくした動物霊達が再び地上へ攻め込む可能性もあるにはあるのですが……その時は博麗の巫女が何とかして下さることでしょう)」
久詫歌の励ましが心にしみる……そうか、それならば多少は安心だ。どうか負けない下さい、袿姫様。
傍におらずとも、いつでも心は通じていますから。
……それにしても、久詫歌はどこでその事情を?今までずっと見ていたのだろうか?
「えっと、ピーコちゃんからそのことを?」
「いえ、違いますよ。……ここの霊達です」
「―――ッ!?」
気が付くと、久詫歌の周りには大量の人魂が取り憑いていた。
そのことにビックリして思わず体勢が崩れかけたが、久詫歌がすぐさまバランスを取り何とか落下を逃れる。
「アハハ、すみません。突然でビックリしましたよね?」
「……えぇ本当に。久詫歌さん、霊と喋れるんですね」
「まぁ、これでも地獄の関所に務めてますからね。当然ですよ」
そうか。まるで天使のような善人だから完全に忘れかけていたが、彼女もこの地獄に関連のある人物だ。
実体のない幽霊と会話が出来ても、連れているのも何ら不思議はなかった。
すると、1つの人魂がこちらに近づく。
『……サナイ』
「え……」
『……クタカサマノ……〇〇〇……ミタオマエ……ユルサナイ……』
「…―――ッ!!」
『ナニイロ……ダッタ……ンダ……オシエロ……』
「………いや、あれは事故で……」
『オシエナイト……ノロッテヤル……!』
「?どうしましたか舞島さん。何やら顔色が悪く……ハッ!?まさか風邪を!?」
この帰りの道中、またしても僕は地獄を味わうことになった。
息が出来ず、霊達の恨みつらみをひたすら耳元で囁かれながら……
もう僕は、この状況を深く考えるのを止めることにする。
そして少しでも時間を有効に使うべく、今回の件について軽く振り返ってみた。
人間霊達の決死の祈りによって招喚され、見事その役目を果たした僕の尊敬する神様。
袿姫様との接触が人形異変の大きな足掛かりとなるかと思われたが、彼女は自身の能力で人形を模倣したに過ぎず、異変の元凶ではなかった……異変調査はまた振り出しへと戻される。
だが袿姫様の役目を果たさんとするその姿勢には、心を動かされるものがあった。そして改めて自覚する。
自分がここ幻想郷に来た、その
現状、人形異変を解決しなければならない大きな理由…それはやはり「人形解放戦線」のような人形を使った悪事を働いている者の存在が大きい。
その活動は人形異変を解決しない限りは絶対になくならならず、長引けば長引く程苦しむ人も当然増えていく。やはり霊夢が言っていた通り、人形異変は早々に解決しなければならないのだろうか?
その為にはまた人形を作った本物の人物との接触を図る必要がある訳だが……正直、このまま探しても埒が明かない気がしてならない。
……いや、待て?
ならばむしろ「人形解放戦線」との和解を目指してはどうだろう?悪用する者をなくすために人形を取り上げるのではなく、悪用する人そのものがいなくなれば?
もしそれが実現すれば、幻想郷で人間と人形が共に歩んでいける道が出来る……そうだ。そうじゃないか!どうしてそれにもっと早く気付かなかったのだろう!!
「ふごごーーーー!!(それだーーーー!!)」
「うひゃあ!?ど、どうしたのですか急に!?」
青臭い理想かもしれない。でも、僕は叶えてみせるぞ。
人間と人形の共存を。
***
「本当に良かったのですか?舞島殿を我らの仲間にすれば、大きな戦力となったでしょうに」
「確かにそうね。でも、あの人間はそのままが一番美しいわ。それを土と水で固めてしまっては台無しよ」
「……左様ですか。私も、あのような純粋な人間とは初めて会いました」
「久しく忘れていたわ。作品に愛情を込める、
「 ありがとう、人の子よ。貴方のこれからの旅路に、祝福があらんことを 」
舞島君、Cルート突入