人間と人形の幻想演舞 作:天衣
まとめでチラッと話していたやつです。
そんなには長引かないと思います…多分。
「ん~~~……はぁ~」
瞑っていた目を覚まし、体を軽く伸ばすことで眠気をある程度解消させる。
このまま顔を洗いに洗面所に向かうのが私のルーティーンであるが、今日ばかりはそれを実行に移すことは出来ない。
何故ならここは外。いつもの私の家ではない。仕方がないのでまだぼんやりとした意識の中、これからの予定を整理する。
今からすること……それは“ある人物”との接触だ。
まさかこの私が、この世界で赤の他人と関わることになろうとは。
先輩風吹かせて頼みを聞いてしまった私も私だが、可愛い後輩の為だ。ここはお姉さんが一肌脱いで進ぜよう。
……空はもう夕暮れ時といったところだろうか。
人気もすっかりなくなっている。まぁその方が探しやすいし丁度いい。
意識を集中させ、目的の人物の居所を探る。
まだそう遠くへは行っていない筈……今頃、既にそこに存在しない人物を1人で必死になって探しているかもしれない。
「……いた。あの森の中ね」
「
これは最も日常でお世話になっており、「
人探しなんてホント、何年ぶりだろうか。
身体的特徴は聞いていた情報と一致している。彼で間違いない。
読み通り、突然いなくなった友人を闇雲に探しているようだ。あの辺りは野生の動物も生息していた筈……謂わば危険区域。
距離からして、森のかなり深いところまで行ってしまっている。このままでは彼まで遭難し兼ねない。
警察沙汰になればこちらとしては面倒だ。早いこと探し出すとしよう。
***
「はぁ……はぁ………クソッ」
残り僅かな充電のスマホのライトを頼りに、森の中を彷徨うこと約3時間……
あいつは一体、どこに行ってしまったんだ?どうして一切電話にも出ない?
最初は飽きて先に帰ってしまったのかと思ったが、舞島は文句は言ってもそういうことはしない人間であることはよく知っている。
神社にいた周りの人達は誰も舞島を目撃していないし、少なくともこの博麗神社からは出ていないのは確かだ。
となれば、舞島がいる可能性が高いのは最後に行っていた神社の外れにあるこの森ということになる訳で。
俺が夢中になってあの東方ファンと話していたのはせいぜい数10分……そう遠くには行っていないと高を括ってしまった結果、今に至る。
「まいじまぁ……いだら返事じでぐれよぉ………なぁ」
光がなければ何も見えず、誰も来ない暗闇の世界の中、不安と恐怖によって暗い感情に支配されてしまった俺は自分の軽率な行動を悔いた。
俺のせいだ……俺が博麗神社に行こうなんて言わなければ、こんなことにはならなかった筈だ。
もし仮にあいつが遭難してて死んじまったら、親御さんに何て詫びればいいんだ?両親は勿論、可愛い妹だっているのに。
悲しむ舞島の家族の顔が目に浮かんでくる……ごめんなさい。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
駄目だ。暗い感情がどんどんエスカレートしている。
もういっそ、このまま俺も同じ末路を辿ってしまった方がマシなのかもしれない。
親友を見殺しにしてしまった罪を背負ってのうのうと生きるなんて、とても耐えられないではないか。
「……――ッ!!」
そう思い始めたその時、近くで草むらが揺れる音が聞こえてくる。
「――舞島!?」
今まで誰とも遭遇しなかったこともあって、俺はこの揺れの正体を何にも疑わなかった。
舞島であってくれという願望もあったのだろう。とにかく俺はそこにいる誰かに向かい、必死に呼び掛けた。
スマホのライトを当てて、揺れた周囲を照らしてみる。
「……え」
その正体を見て、腰を抜かす。……俺は本当に馬鹿だ。
揺れの正体がどうして人だと決めつけた?こんな森の奥深くに生息しているような奴なんて、少し考えれば分かっただろうに。
デカい図体、茶色い体毛、唸り声……あれは紛れもなく……
「 く、熊だああぁぁーーーーーーーーッ!!? 」
野生の熊……生まれて初めて遭遇してしまった。出来ることなら、人生で一度たりとも経験なんてしたくなかった。
こいつは動物園で見るのとは全然違う、飢えた獣そのものなのだから。
さっきから体の震えが止まらない……このままでは間違いなくあいつの餌になってしまうというのに、体が言うことを聞いてはくれない。
嫌だ、死にたくない。どうして?どうして俺がこんな目に遭わないといけないんだよ?さっきまで死んだ方がマシと思っていたのに、いざ危機的状況に陥るとこれだ。
全く情けない。これが人食い妖怪のルーミアのような可愛い女の子なら、潔く死を受け入れられたのだろうが。
……でも、分かっているんだ。東方が好きな俺にだって、それくらい分かっている。そのような者が実在ないことくらい。
だが、こうやって博麗神社に来たのは心の中でいるんじゃないかと、そう希望を抱いていた自分がいたからなのだろう。
ここだけではない。俺は東方projectにまつわるスポットをこれまでいくつも巡って来た。いつも舞島を巻き込んで。
あいつにとってはつまらない退屈な時間であった筈なのに、何だかんだ言いつつも付き合ってくれる。だからつい、俺も調子に乗ってしまった。
今回も、いつものように終わると思っていた……
ごめん、舞島……俺が馬鹿だったよ。
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっている獲物を、狩人が徐々に迫り来る。
動きが全体的に遅く見えるような……そうか。これが走馬灯ってやつなのだろう。
この世に生まれて約15年、短い人生だった。
嗚呼……願わくば、覚めることない幻想を………
―――光が見える。
ぼやけた視界に映る、ユラユラと揺れる1つの光……これは一体?
あれ?さっきまで近くにいた熊がどんどん遠ざかっていく……怖いのか?
…よく見たら、あの光は火だ。浮遊している火の玉だ。そうか、動物からしたら火は恐いもんな。
しかし何で火の玉がこんなところに発生しているのだろう……?俺は何もしていないのに。
すると今度は熊が宙に浮かび、縦横無尽に振り回されていく。そこから熊は何者かの攻撃で好き放題されてしまい、最終的には地面に叩きつけられる。
恐怖を感じた熊はその場から逃げ出し、俺は訳も分からない内に危機から脱した。
「あ、有り得ない……こんな現象、常識を超えている。まるで魔法じゃないか」
俺はいつの間にファンタジーの世界に迷い込んでしまったのだろう?
もしかしてラノベとかによくある、異世界転生ってやつなのか!?
「魔法じゃないわ。“
「―――ッ!?」
「“
背後から女の人の声が聞こえてくる。どうやら彼女がさっきの炎を出し、助けてくれたようだ。
会って早々に悪口を言われた気がするが、そんなことはどうでもいい。
「あ、あなたは……?」
姿を確認すべく振り返ると、黒い帽子にマントを羽織った謎の女性がそこにいた。
何だ、この人……?どう見ても格好がまともじゃないぞ。この世界の魔術師か何かだろうか?
まさか俺は、本当に来てしまったのか?異世界に?
そうだとしたら、こんなに嬉しいことがあるだろうか?
とうとう俺の夢が叶ったんだ……よし、ここは1つ。
「……お姉さん」
「 俺の仲間になってくれ。そして、共に魔王を倒そう!! 」
「………」
「どうやら、まだ寝ぼけているようね」
異世界に転生したということは、俺は差し詰め“勇者”ポジション。
彼女はそんな俺の栄えある仲間第1号として……って、お姉さん?そんな怖い顔してどうしたんだい?
え、なにその標識?凄く見覚えがあるなぁ確か車が止まらないといけないやつだったような?おかしいな~ここは異世界の筈じゃ……
「―――ひでぶゥッ!?」
脳天に「止まれ」の標識が叩き付けられ、意識を失う。
それは俺の目を覚ますには、充分すぎる程の威力だった。