人間と人形の幻想演舞 作:天衣
「う~ん、まだ目を覚まさないわ。ちょっと強く叩き過ぎたかしら…」
博麗神社のベンチに保護した例の人物を寝かせ、約20分が経過。
見つけた際に気が動転していたようなので、自己流ショック療法を施したのだが……思いの他、威力が強すぎたらしい。
保護した人物の名は「
現在、幻想郷で人形異変の調査をしている元現代人「舞島 鏡介」の唯一の親友であり、腐れ縁でもあるとのこと。
今回受けた依頼は正にその舞島君からのものであり、一緒に来ていた彼のことがどうしても気掛かりであったようだ。
そして、その勘は見事に的中。私が来なければ、彼もあのまま行方不明となっていたに違いない。
力も持たない人間が1人で森の深くにまで行くなんてあまりにも無謀な行為だが、動機は凡そ見当がつく。いなくなった舞島君を探していたのだろう。
所謂、友情ってやつなのかな?……私にはあまり理解出来ない感情だ。
「………あ、あれ?ここは?なんで俺、神社に……?」
そうこう言っている間に、大森という人物が目を覚ましたようだ。
どうやら今の状況が理解出来ておらず、軽く混乱している……といったところか。あんなに深くにまで入った森の中から抜け出していることに違和感を感じているのだろう。
確かに、普通ならこんな短時間であの森を抜けだすのは不可能。しかし、私は生まれついての超能力者。その理由は実にシンプル。私が彼を「
通常、自分以外のものを「
「おはよう、大森君」
「――ッ!?あ、あなたは……さっきのお姉さん?な、なんで俺の名前を知ってるんだよ?」
声を掛けるなり、私の素性を疑う姿勢を見せる。まぁ当然の反応だろう。
だがこれは先程の様子と比べれば冷静な判断能力を取り戻しているという証拠でもある。私の自己流ショック療法も少しは効果があったらしい。
「君の知り合いから頼まれてね。事前にあなたのことは聞いていたの。本来、人助けなんてやるような趣味はないんだけどさ」
「俺の知り合い?………あ!」
「そう。まぁ君の知り合いなんて本当に限られているでしょうから、すぐに分かるわよね。あんまり友達いなさそうだし?」
「うぐ……(痛いとこ突くなぁ)そ、それよりもっ!!知っているんですか?あいつがどこにいるか!!生きてるんですか!?」
舞島君の話題をした瞬間、目の色を変えて接近してきた。
正直、あまり近付かないで欲しい。彼自身まだ気が付いていないようだが、今近付かれると私はかなり不快な気分になってしまう。
あんな恐怖体験をした後だから責められはしないものの、気が付けば私は無意識に彼を「
「………な、何も吹き飛ばさなくても」
「いや、ごめん。でも今は私から半径1m以内に近付かないでくれない?ほんっと無理だから」
「(ひ、ひどい……)」
「それで、君の知り合い……舞島君のことだったわね。結論から言うと、彼は死んではいないわ。ただ、この世界からはいなくなっているけどね」
「!そ、そうか。そりゃ良かった……でも、“いなくなってる”ってどういうことなんだよ?」
「………」
さて、どう言ったものだろう。あの世界のことを、彼に打ち上げるべきなのだろうか?
一応、舞島君から聞いた話によれば彼はそれについて深い知識と強い関心があるらしい。
ならば、話しても問題はないか?
「大森君、よく聞きなさい」
「 舞島君は、神隠し……“幻想入り”したのよ 」
「…―――は?」
「……ぷっ、 アッハッハッハッハッハッ!!何だ姉さんも同志だったのか!?最っ高な冗談だぜソレ!!」
舞島君失踪の真実を告げたその瞬間、大声で笑い始める大森。
この笑いは本当に面白さから来ているものなのだろうか?……いや、違う。
「ここが有所ある東方のスポットだからって、ないないないwwwそりゃ俺だって何度も憧れたもんさ!“幻想入り”ってやつによぉ!?」
「 それをあの! 東方を碌に知らない舞島が! 現在進行形で体験してるってのか!? ふざけんじゃねぇぞッ!! 」
この反応……どうやら、逆効果だったみたいだ。
大森を安心させるどころか、かえって彼の逆鱗に触れる結果となってしまう。
今まで外の世界での人付き合いを極力避けてきた弊害か、私はこういった時の気の利かせ方には乏しい。困ったな……どうしたものか。
「あんた、よくこんな状況でよくそんなこと言えるよな。冗談も程々にしろッ!!……俺は行く」
「どこに行くつもり?そっちはさっきの森よ」
「知ってるよ!あいつは……舞島はまだ見つかってない。俺が……俺がやらないと」
不味い、またさっきの森で舞島君を探すつもりでいるようだ。もう彼はこの世界にはいないというのに。
失敗だった。大森は私が思っていた以上に精神的余裕を失っている。
超能力で進むのを止めるのは簡単だ。
しかし、今は彼に信じて貰う為の材料が足りていない。言葉だけでは信憑性に欠けるだろう。
せめて何か、あの世界の存在を証明出来るものさえあれば……
「……!?あ、あなたは」
急いで森へ侵攻する大森の前に、誰かが立ち塞がっている。
どうやら大森はその人物を知っているらしい。
「 やぁ、同志大森君。そんなに急いでどこに行くんだい? 」
小太りの眼鏡をかけた中年男性が、気さくに片手を上げて大森に話し掛ける。
しかし、私にはその正体が何となく読めた。少なくとも、彼は人間ではない。
「ど、同志藍太郎殿……いらしていたんですね。でも、今だけはそこを通して下さい!友達が危なくて……!」
「まぁまぁ、落ち着いて。まずはあの眼鏡のお嬢ちゃんのところに戻ろう?」
「で、でも……」
「大丈夫、君のお友達なら心配いらないから。……ね?」
「………」
中年男性は肩に手を乗せ、優しく諭すと大森は言う通りにこちらへゆっくりと戻って来た。
流石、過去に数多の人を惑わしてきただけのことはある人物だ。私にはとても真似出来ない。
「……ふぅ、全く。彼女が手を出さずとも、私が安全に保護する予定だったのだがな。お陰で随分と予定が狂ってしまったよ」
「え?ら、藍太郎さん何を言って」
「まぁいいさ。……この姿もようやく役目を終える」
ベンチに大森を座らせ、一息ついた中年男性は意味深なことを口にするとその姿を徐々に変化させる。
輝く金色の尾が何本も中年の男性から生え、耳も尾と同色の動物的な特徴となり、男性の服装も青色の前掛けを垂らした白い法衣のようなものへと変わった。
そこには九尾の大妖怪。そして、八雲 紫の式でもある「
「(えっ!?な、ええぇっ!!?ああああれは正しく……ら、ららららららんしゃまああぁぁ!!?う、う、嘘だろ、こんな……俺は夢でも見てんのか……!?) 」
大森は憧れだったものをその目で拝んだ嬉しさからか、動揺を隠せないようだ。瞬きを一切せず、夢中になって目を輝かせている。
無理もない。実在しないと思われた人物が突然目の前に現れたのだから。さっきから自身の頬を抓り、現実なのかを再度確認している……さぞ痛かっただろう。
八雲 藍がどうしてこんなところにいるのか分からないが、幻想郷に来た舞島君に与えられた役割を考えれば理由は明確だ。中々に大胆な手を使う。
実のところ、私があの異変の仕組みについて言及したのだが……それだけ状況がひっ迫しているということなのだろうか?
やはり、今回の舞島君の幻想入りについては私も決して無関係ではなかった。
内心そうではないかと思っていたからこそ、極力彼の助けになるべく今回の依頼を引き受けたというのに……これではまるで格好がつかない。
「大森、彼女の言っていることは正しい。舞島殿には今、幻想郷でとある異変の調査をして貰っている。だが安心しろ。その異変が無事に解決された暁には、我らが責任を持って元の世界に帰す。約束しよう」
「へ?あ、は、はい……(俺、生らんしゃまと喋ってる……やべぇ……ふつくしい……)」
しかし、彼女の登場は正直かなり助かった。実際に幻想郷の住民と接触すれば、舞島君が幻想入りしたという事実の信憑性も一気に高まる。
当の本人はあまりの衝撃で言っていることが頭に入ってなさそうだが、ひとまずはこれで大森は安全だ。
だが、舞島君幻想入りの問題点はまだ1つ残っている。正直、こちらの方が重要だ。
いつかは外の世界に帰れるとはいっても、舞島君のいないそれまでの間を一体どうするのか?これが難題だ。
最初は私の催眠術で何とか誤魔化そうと考えていたのだが、かけるにしても人数に限度はあるし流石の私でも関係のない一般人達への能力行使には抵抗というものがある。
実際、彼の存在を維持出来る具体的な解決策を見いだせていないのが現状だった。しかし……
「……使えるわね」
“八雲 藍”という存在。
それがこの問題を解決出来る唯一の手段となってくれる。先程披露した中年男性の変装は実に見事であった。
一般人にはまず見分けがつかない完璧な演技と、容姿の高い再現度を併せ持つ彼女の能力さえあれば……!
「(ねぇ、ちょっといい?)」
「(む……何だ?私にはまだ仕事が残っているから手短に頼む)」
「(仕事?……どんな?)」
「(無論、大森の保護だよ。ここに置いて行く訳にもいかんだろう?ちゃんと家族の元へと送らねば)」
妖怪でもそんなことを考えるのか。
そういえば彼女は妖怪の中でも珍しく、家族のいる部類だった。だからそういった感情も一応持ち合わせているという訳か。
「(成程ね。ちなみに、その後はどうするつもり?)」
「(その後……というと?)」
「(いなくなっている舞島君の穴埋め、しなくてもいいの?そっちの家族だって心配するでしょ当然)」
「(………)」
「(そういえば、そうだな)」
……どうして大森の家族への配慮が出来て、その考えには至らないのか。
これは聞いてみて正解だった。本来頭の良い筈の彼女も、長い間外の世界にいたせいで少々知能が低下しているみたいだ。
きっと慣れない生活で疲れ切っていたのだろう。
「(そこで相談なんだけどさ。藍さん、戻って来るまでの間だけ「舞島君」になっててくれない?)」
「(私が?……正直、この世界の人間の変装はもう御免だ。そもそも、私が紫様に与えられた任務はあくまで異変解決の適合者を探すことであってだな)」
「(どっちにしろ、結界が強化されている今帰れなくて暇でしょ?いいじゃないのそれくらい。紫さんには私が話付けとくから、ね?お願い)」
「(断る。紫様の命令ならともかく、貴様の要望を聞く謂れはない)」
成程成程。意志は固そうだ。
流石はあの八雲 紫の忠実な式神……その誇りは今だ失われてはいないらしい。立派な忠誠心と言えるだろう。
だがそんな彼女を一発で堕とす方法を、私は知っている。
いくら大妖怪と言えど、動物としての本能に逆らうことは出来ないものだ。
「(……油揚げ)」
「(……!)」
「(この世界で一番高級な油揚げ、是非食べてみたいとは思わない?……しばらく食べてないんでしょう?)」
「(ッ……な、何を言う。そんな誘惑には乗らんぞ……!!………ッ)」
言葉では抵抗してみせているものの、耳と九本の尻尾の動きはそれを完全に否定していた。
そしてこの反応……察するに大好物である「油揚げ」がこの世界にも存在していることを知らなかったらしい。
人里に来れば必ず買っていく程の油揚げ好きには、さぞ堪らない一品……さっきから八雲 藍も口元を隠し、ソワソワして落ち着きがない。
何せ、幻想郷より技術の発展が進んでいる世界の高級油揚げだ。彼女はその存在の魅力に今、間違いなく惹かれている筈。
さて、後もう一押しすればいけるか?
「(この機会を逃せば、きっと一生食べられないわよ~?いいのかな~?)」
「(う……ッ!)」
「(もし言う通りにしてくれたら、そうね……解決した後も定期的に持ってきてあげていいけど?)」
「 (……~~~~~ッ!!) 」
この止めの言葉が決め手となり、交渉は成立。
舞島君失踪の穴埋めは、無事に果たされるのであった。
さっすが~、董子様は話がわかるッ!