人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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AS3 大森哲也の嫉妬

 

俺は今、奇跡を目の当たりにしている。

 

俄かには信じられない光景が俺の目には映っているのだ。

それは決して夢などではなく現実で……正直な話、さっきから頭が碌に回っていない。

きっと、その人物の非現実的な容姿の美しさに見とれてしまったのだろう。

 

オタクなら誰もが一度憧れ、夢見たであろう。“仮想上のゲームキャラ”との出会いを。

でもそれについて知れば知る程、その夢は叶わないことに気付いてしまう。現実は非情であることに絶望してしまう。

俺は、そんな残酷な現実から目を逸らし続けた哀れな人間だった。

 

 

「……大森」

 

 

だが、今こうしてその夢は果たされることとなる。

俺の目の前にいる人物は、紛れもない「東方project」のキャラクタ―、「八雲 藍」その人……いや、妖怪なのだ。

偽物などでは決してない。本物……本物の彼女がここにいる。

 

俺には分かる。幾千ものコスプレを見てきた俺には、ハッキリと分かる。この人は他とは全然違う。声も、体格も、九本の尻尾の艶具合も……怖いくらいにリアリティがありすぎる。

その中でも確信的なのが、さっき見せた人への変身能力。俺の目が節穴じゃなければ、あの芸当は普通の人が出来るような手品(こざいく)レベルではなかった。

どんなに完成度の高いコスプレイヤーでも、実際に能力を行使することなど出来はしない。所詮、コスプレは様々な道具を用いて行うキャラクターの変装に過ぎないのだから。

 

誤解はしないで欲しい。決してそういう趣味を持っている人達を非難している訳ではないのだ。

しかし、今ここに「本物」という圧倒的存在が目の前にいる。それも実在する筈のない“仮想キャラ”の「本物」が、だ。

こんなものを目の当たりにしてしまったら、今までのが霞んでしまうのも仕方がない。

 

嗚呼、生きてて良かった。

 

 

「 大森ッ!聞いているのか? 」

 

 

「…―――へあぁっ!?」

 

 

感傷に浸っていて外の声に気が付かず、何とも情けない声を出してしまう。

さっきからこちらを呼んでいたのは、当の「八雲 藍」だったようだ。いや、ここは敬意を込めて「らんしゃま」と呼んで頂く。

らんしゃまが俺の名前を呼んでくれてだけで有難みを感じる程に、今の俺は幸福に満たされる。もっと呼んでくれ、らんしゃま。

 

「少し事情が変わった。君を家に送り届けて終わりのつもりだったが、今後も協力せねばならない」

 

「……え!?マジっすか!?」

 

「そう。この作戦は協力者無しでは果たせないのだ、大森。君という協力者がね」

 

ヤバい。らんしゃまが、俺を、頼ってくれている……だと!?

何だこの展開……え?俺ってまさか主人公だったのか?聞き間違えじゃないよな?頬を抓る……痛い。夢じゃない。よし!

 

大森 哲也、ここは漢の見せどころだ。

他でもないらんしゃまの頼みとあらば、聞かない理由などありはしない。さぁ、何でも言ってくれ!

 

 

「 大森。私はたった今から、“舞島 鏡介”になる 」

 

 

「………はい?」

 

 

らんしゃまが何を言っているのか、俺には分からなかった。

らんしゃまが何故、あいつに化けるというのか……絶賛幻想入りしているかもしれない舞島の奴に?らんしゃまはそのままでいいのですが?

 

「分からない……という顔だな。要は彼がこちらに帰ってくるまでの代役さ」

 

「このままいなくなってる状態は流石に不味いでしょ?替わりが必要ってわけ」

 

「あ、あぁ……成程。そういうことっすか」

 

そうだ。俺が必死になってあいつを探していたのって、元を返せば行方不明者となることを恐れたからだった。

さっきお姉さんとらんしゃまの言っていたことが事実なら、あいつはしばらくこの世界から存在が消えることとなる。らんしゃまはその代わりを引き受けてくれるという訳か。

その提案はこちらとしても非常に助かる。俺があいつを連れて行ってしまったようなものだったのだから。

 

……しかし、1つ腑に落ちない点がある。

 

「あの、どうして舞島は幻想入りしたんすか?異変の調査をして貰ってるとか言ってましたけど、あいつにそんな特殊な能力なんてないっすよ?」

 

「……ふむ、君には話しておいた方がいいか。よし、説明しよう。……構わないな?」

 

「んー……まぁ、しょうがないね」

 

らんしゃまはお姉さんに横目で証言の確認を取り、今回の幻想入りの真実を語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ何だ?この博麗神社の参拝も、全部仕組まれたものだったのかよ!?」

 

「その通り。舞島殿の唯一の知り合いである君の好奇心には、正直助けられたよ。後は紫様が彼を導き、こちら側に来て貰う。実に簡単だったよ」

 

「(そういえばあいつ、バスの中で見た夢でゆかりんに会ったって……そういうことだったのかよ)」

 

「さて、彼でなければならなかった理由だが……それは単純だ。彼が今回の異変に適した知識を持ち、且つ純粋であったからに他ならない」

 

「異変に適した、知識……?」

 

幻想郷で言う“異変”というものはその言葉通り、幻想郷で起こった事件を意味する。

大抵は主人公の「博麗 霊夢」や「霧雨 魔理沙」が中心となって解決するのがいつものお約束である筈……例えその2人でなくとも、他に「十六夜 咲夜」や「魂魄 妖夢」や「東風谷 早苗」など、異変調査をする人材は沢山いる。なのにどうして?

 

「まぁその辺については、私から説明するわ。その方が分かりやすいだろうし」

 

「今、幻想郷で起こっている異変は通称「人形異変」って言われていてね。この異変の原因である「人形」って生き物は、幻想郷の住民のあらゆる攻撃手段が通用しない厄介な存在なのよね」

 

「え、何そのチート……攻撃が効かないって相当ヤバいんじゃ?」

 

「そうね。いつもなら霊夢さん達が華麗な弾幕で元凶を懲らしめて異変は終了……というのが当たり前だった。今回のこの「人形異変」はかなり異質なのよ。今のところ、分かっているのは人形には同じ人形でしか対抗出来ないってことくらい」

 

「そして、実際に戦わせてみたら人形は戦いの中で成長し、様々な技を覚え、個体1つ1つに属性を持っていることも判明した。私はそれを見て、あるものを連想したわ」

 

お姉さんの話を聞いていて、俺もとあるゲームのことが頭に過った。

そして同時に、何故こちらの世界の住民が幻想郷の異変を解決しているのか、何となくだが理解する。

 

「それってまるで……ポケ〇ンじゃないか……」

 

「そう。人形は草むらや洞窟、果てには建物の中に生息し、そこを縄張りとしている。……あまりにも共通点が多すぎるの。ポケ〇ンとね」

 

「そこで私がこの異変のことについて色々と情報を提供した結果、この世界の住民の力が必要という結論が出たってわけね。そして選ばれたのが……」

 

「舞島……ということですか」

 

成程。そういうことだったのか。

確かにあいつは、このゲームのことについての知識は十分にあると言っていい。やり込み要素にはあまり手は出してはいなかったものの、舞島のあのゲームに対する愛情は本物だ。

 

だが、またしても腑に落ちない点が出てきた。それは、ポケ〇ン知識を持っているのは何もあいつだけではないだろうということ。

俺だってこのゲームに関してはやり込んでいるし、知識も申し分ない。正直、舞島よりもポケ〇ン知識が深い奴なんて他にも大勢いるだろう。

 

その中で何故、「舞島 鏡介」が選ばれた?

 

「そ、それならですよ?例えばほら、俺とか?ポケ〇ンの他にも幻想郷のことだって詳しいし?選ばれてもよかったんじゃないですか?なんだったら今からだって」

 

「いや、君では駄目だ」

 

もしかしたらという希望に掛けた俺の言葉は、らんしゃまの一言であっという間に消え去った。

それを聞いた俺はらんしゃまの方を向いたまましばらく呆然としてしまい、それを見たお姉さんも呆れたように溜息を吐く。

 

何故だ?何故俺では駄目なんだ……?

 

「さっきも言ったと思うが、この異変において必要な人材は知識と、“純粋な心”なのだ。君にはその純粋な心が欠けている」

 

「因みに、人形は皆幻想郷の住民達の容姿で背丈は40cmくらいの三頭身らしいわよ?」

 

「はぁ!?何その究極可愛い生き物……そ、想像するだけでご飯三杯いけるッ!!めっちゃ会いたい!!そして愛でたい!!」

 

「……うわ、キモ」

 

お姉さんのストレートな毒舌が、俺の心に突き刺さる。だってそんなん可愛すぎるでしょどう考えても。

というか舞島の奴、そんな羨ましい状況の中にいるのか?何だか心配を通り越してムカついてきたぞ。マジで俺と今すぐ替われ。

 

「「人形」という生き物は持ち主の心に強く影響されるの。アンタみたいな邪な心を持っている奴に、人形と心は通わせられないでしょうね」

 

「おうふ……そんな殺生な」

 

「……今回対象者(ターゲット)を絞るにあたって、君のようにこちら側の世界に詳しい存在はすぐに除外した。理由は彼女の言う通り、さっきのような邪な心を抱いてしまう可能性が高いからさ」

 

「人形には人に近い感情が存在する。そんな下心などすぐに見抜かれ、弾幕で攻撃されるぞ。君もまだ死にたくないのなら、幻想郷に行きたいなど思わないことだな」

 

「……!に、人形ってそんなに危ないんすか?」

 

「うむ、殺傷力は私達の弾幕とほぼ互角……成長度によってはそれ以上を誇る。それだけ危険な一面を持つ生き物なのだ、人形は」

 

悲しいかな、どうやら俺のような人間には人形と心を通わせられないようだ。

しかし話を聞く限りだと、人形という存在はどうも危険らしい。弾幕を人の身が受けたらタダでは済まないことは、俺だってよく知っている。実際受けたことなんてないけど、食らえばピチュるのは不可避だろう。

 

でも幻想入りという夢を叶える為ならば、死ぬことなんて怖くない!

 

……と言いたいところだが、森であんな体験をしてしまった後だ。今の俺には、そんな無謀な発言など言えはしないし、ましてやこの世界からいなくなることで家族に心配をかけるようなことなど、出来はしなかった。

 

「現に、人形を使って悪さをしている連中もいてな。そいつらは心に深い傷を負った人形達を保護し、この異変を機に勢力をつけて人形の地位向上を訴えている。……最早、我々だけでは手に負えない状態なのだ」

 

「私も、これから舞島君には出来るだけのサポートをするつもり。私が連れて来ちゃったようなもんだからね」

 

「………わ、分かりました」

 

「……あいつは、舞島は……最近どうなんですか?」

 

俺は兎も角、舞島は幻想郷のことなんてこれっぽっちも知らない。

あいつだって俺と同じ、普通の人間なんだ。弾幕の1つでも受ければ、それだけで簡単に死んでしまう。

それがいきなり異変解決をするなど、そんな重大な役割を果たせるのだろうか?正義感が強い奴なだけに、無理ばかりしていないか心配だ。

 

「あぁそれね。私も最初は心配だったけど、見た目に反して逞しく生きてるわよ。人形とも上手くやれてるみたいだし、今のところ順調に進んでると言っていいわ」

 

「舞島殿は紫様の監視下にある。万が一何かあったとしても大丈夫さ。安心するといい」

 

「……そっすか。そりゃあ良かった」

 

「じゃあお姉さん。もし今度、あいつに会ったら伝言いいっすか?」

 

俺はベンチから立ち上がり、お姉さんに伝言を耳打ちする。

最初は近づくと吹き飛ばしたお姉さんだったが、今度はそれをやらないようだ。何かしら心情の変化があったのだろうか?

 

「………クスッ、分かったわ。伝えとく」

 

「頼みます」

 

「でも、それはそれ」

 

「え?」

 

 

「……―――そげぶっ!!?」

 

 

俺はお姉さんの謎の力で吹き飛ばされる。……気のせいだったようだ。

 

はい、正直迂闊でしたとも。

 

「まぁ、何だ。短い間だが、これからよろしく頼む」

 

「………あい」

 

こうして、俺とらんしゃまによる現代記は幕を開けた。

 

それは俺にとって、短くも生涯忘れることのない日々となるだろう。……幻想郷に選ばれなかったのは残念だがな。

 

お前のその豪運には思わず嫉妬してしまうが、舞島……ありがとう。必ず、異変を解決して帰って来いよ。

 

 

 

 






AS(アナザ―ストーリー)はこれにて終了。次話は本編戻ります


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