人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十七章

 

 

『 断る 』

 

彼女が初めて僕に発した第一声は、何とも冷たい一言だった。

思えば初めてかもしれない。人形からそんな言葉を投げかけられたのは。

 

しかし、誰もその言葉に対して責めることなど出来はしない。何故なら、彼女は僕らと共に行こうと思った訳でもなく、望んで仲間になった訳でもないから。

あくまで僕の勝手な判断であり、身の危険から保護するという名目で手持ちに加わって貰ったのだ。彼女からすれば、その行為はさぞ迷惑だったであろう。

恨まれても仕方のないこと……やはり、今からでも彼女を野生に返すべきだろう。

 

『ま、待って舞君!私、まだ“だーくん”に何にもお礼出来てない!』

 

「?ユキ、何を言ってるんだ?だーくんって……?」

 

『……私のことを言ってるのさ』

 

むげつ人形の入った封印の糸を処分しようとした矢先、傍にいたユキ人形が必死にそれを止めさせた。

そういえば、ユキ人形がむげつ人形を仲間に迎え入れるように提案したことを思い出す。何か深い理由でもあると言うのだろうか?

 

『私があの山で死にかけていたのを、だーくんが魔力を注いで助けてくれたの』

 

「!…そうだったのか、君が」

 

『だーくんは私の命の恩人……だから力になってあげたいの。舞君、いいでしょ?』

 

成程、行方不明になっている間そんなことがあったらしい。そうなると、その時ユキ人形は永琳が仮定していた暴走状態だったのだろうか?

そうだとしたら、ユキ人形は戦闘中に魔力を使い果たし、山で行き倒れていたということになる。まさかそんなに危険な状態だったなんて……助けてくれたむげつ人形には感謝するべきだろう。

 

『勘違いしないでくれ。私はただ、こいつから感じた“負の力”に興味を持っただけ……そして、それは“外れ”だった』

 

「外れ……?」

 

そう言うとむげつ人形はユキ人形に向かい、“1つの宝石”を投げ渡した。それは紫色に光る小さなものであり、見たことのないアイテムだ。

ユキ人形自身もそのアイテムには見覚えがないらしく、手に持ちながらもその正体が分かっていない様子でいる。すると紫色の宝石はユキ人形の体内に溶け込むように入っていき、消えてしまう。

 

「な……!?」

 

『え!?ど、どういうこと!?』

 

『そいつはお前の体内に内蔵されていたマジックアイテムさ。私がお前に近付いたのは、そのアイテムの欲しさ故だった。……しかし、残念ながら私が持っていても効果は発揮しない仕組みらしい。だから返した。……もうお前には何の興味もない』

 

『…!』

 

 

『私には、力が必要なんだ。あいつに負けない力が……』

 

「それはもしかして、光ちゃんの“げんげつ人形”のことかい?」

 

『………あぁ、その通りだ。まさか人間の元に下っているとは思わなかったが、奴は以前よりも遥かに力が増しているようだった。だから、こんなところで呑気に遊んでいる場合ではない……悪いがな』

 

“力”……か。大方、その目的は復讐の為といったところであろう。

このまま僕と一緒にいることのは時間の無駄であり、何の得も得られない……そう思っての発言だったに違いない。

 

「いや、むげつ。寧ろ君はラッキーだったと思うよ」

 

『何?どういうことだ?』

 

『だーくん。どうして貴方のお姉さんはあそこまで大きな力を身に着けたと思う?』

 

『む、それは……分からない。もしや、あの少女に秘密が?』

 

「そう。人形が次の段階に進む為には、僕達人形遣いの力が必須なんだ。……薄々感じていたんじゃないのかい?自分の成長の限界に」

 

『!……確かに、ある日を境に全く技を習得出来なくなったが』

 

やはり、彼女自身もこれ以上の成長の見込みはないのは理解していたようだ。

スカウターで彼女の現在のステータスを確認した時、まだ彼女が「ノーマル」であることは既に分かっていた。

「スタイルチェンジ」を果たさない事には、人形の真の力は決して発揮されることはない……例え1人でどれだけ頑張ってもだ。

そういう意味では、むげつ人形がユキ人形と出会ったことは正に幸運だったと言える。

 

「このタブレットを使えば、僕は君をスタイルチェンジさせることが出来る。要は強くなれるんだ」

 

『………』

 

神妙な顔つき……しかしまだ疑っている。興味はあるが、葛藤している……そういった複雑が感情がむげつ人形から読み取れた。仕方がない。少し、タブレットの機能を見せるとしよう。

 

 

 

 

 

 

「スキルポイント」自体は流石今まで1人で鍛錬をしてきたおかげか、豊富に溜まっているようだ。これなら多少贅沢に使っても問題はない。

まずは彼女の持っている「スキルポイント」を使い、「能力の強化」をしてみることにした。

 

むげつ人形は「散弾」が高い人形みたいなので、まずはそこに「10」、試しに振ってみる。

 

『……ッ!?な、何だ!?力が……力が溢れる!?貴様、一体何をした!!?』

 

『うん、最初はビックリするよね~。気持ちは分かるよだーくん!』

 

『はぁ……はぁ……右腕が……疼くッ!封印が、解けてしまう!し、鎮まれぇ……!』

 

「一応、これがタブレットで出来ることの1つだよ」

 

たったの「10」でこの反応……何やらさっきからよく分からない発言をしているが、自分の力の増大に驚いているのは確かだ。ちょっと面白いので、今度は小刻みに「5」ずつ振ってみる。

 

『……ッ!?う、うわあああああぁぁぁーーーーーー!!?』

 

『だ、だーくーーーんッ!!?しっかりしてぇ!!』

 

「(……別にそこまで大きな変化はない筈なんだけどなぁ)」

 

その場で項垂れ始めるむげつ人形を、ユキ人形が懸命に呼びかけている。何だかこっちが悪いことした気分だ……いささかオーバーリアクション過ぎないか?

彼女の姉といい、「悪魔」というのは変な奴しかいないのだろうか?

 

だが、ここまで来ると色々試したくなってしまうものだ。

今度は彼女の持つ「アビリティ」を見てみよう。「アビリティの変更」からむげつ人形の持つアビリティをチェックすると、「残虐(ざんぎゃく)」、「闇の力(やみのちから)」というものを持っているらしい。

今は「闇の力」に登録されているので、今度はそれを「残虐」へと変更してみた。

 

『!!……今宵も、我が右腕は血を欲している。我に、生贄を捧げよ』

 

『だ、だーくん?何だか言ってることが怖いよ…?』

 

『ぐ……!私の中のもう1人の人格が……殺戮の衝動が……抑えられない!!ユキ、私を…殺してくれ。君を……傷つけたくない……』

 

『え、えぇ!?そんな……だーくんッ!!』

 

『 アビリティ:「残虐」 散弾が1.5倍になるが、拡散スキルの命中が0.8倍になる。』

 

……やはり、性格が変わるという項目は一切ない。ということは、あれは彼女の奇行の一種ということにいなる。彼女は中々に濃いキャラクターのようだ。

しかし、このままでは純粋なユキ人形は本当にむげつ人形を介錯しかねないので、アビリティを元の「闇の力」へと戻しておいた。

 

「とりあえず、これで信じて貰えたかな?僕らが使うこのタブレットの効能をさ」

 

『……どうやら、嘘ではないらしいな。この力があれば、奴にも対抗出来るやもしれん』

 

『 頼む、人間!私に……私に力をくれ!! 』

 

「………」

 

仰向けになりつつも、至って真剣なむげつ人形を無下には出来ない。

だが、この力を授けるべきか迷っている自分もいる。何故なら、今の彼女には「復讐」しかないからだ。

こちらとしては、復讐心を持ってこの力を振るうようなことをして欲しくはない。そんな子に育って欲しくはない。

だから、僕は彼女にある課題を出すことにした。

 

「分かった。でも、それには条件がある。君がその条件を飲むのなら、望み通りスタイルチェンジをしてあげるよ。その内容だけど……」

 

『……!わ、私にそのようなことをしろと言うのか?』

 

「出来ないと言うなら、この話は終わり。僕の仲間になるんだったら、この条件は絶対だからね」

 

『ッ……い、いいだろう』

 

「うん、分かった。これからよろしく頼むよ、むげつ!」

 

『……ふん、お前の方が余程悪魔だ』

 

「え?そ、そうかなぁ?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

〇月×日、午前08時06分

 

いよいよこの妖怪の山を登山することになった。

 

前に来た時に通せんぼをしていた動物霊はもういなくなっている。正直、少し安心した……今度会ったら何をされるか分かったものではない。

奴らにはすっかり騙されてしまったので、当分知らない人物の勧誘は懲り懲りだが、霊長園墳墓内部での人形バトル、そして袿姫様との出会いは僕の旅の記憶の中で鮮明に刻まれた。

あの一連の出来事は、この世界の暗い部分を知るいい経験だったのかもしれない。世の中そんなにうまい話はない……いつしか“因幡 てゐ”が言っていた言葉の意味が少し分かった気がした。

あの時、僕が死ななかったのは本当に運が良かったのだろう。助けられることを計算していた訳ではない。単に放っておけなかっただけで、後先考えずに夢中だった。僕はもう少し、自分を優先すべきなのかもしれない。

 

「おーい、鏡介ー!奇遇だなーー!」

 

「?」

 

誰かから声を掛けられる。聞き覚えのある声だ。

そこには直前の休憩所でばったり会った「浩一」が手を振ってこちらに向かって来ている姿が見える。

こちらも手を振り、軽く談笑を交えると、やがて一緒に妖怪の山を登っていく流れとなった。危険が伴うこの妖怪の山の道中で彼の存在はとても有難く、心身共にリラックスが出来たように思える。

 

「……へぇ、この山にはそんなにレアな人形がいるんですか?」

 

「あぁ。天人様の人形に仙人の人形、そしてこの山に聳え立つ「守矢神社」の神様の人形……より取り見取りさ」

 

人形遣いである浩一は各地の人形の生息に詳しく、今回も色んな話を聞くことが出来た。

僕はこの世界のことにはまだ疎く、当然人形の生息地なども全く知らないので大変勉強になる。しかし、詳しいからといってそのレアな人形達をゲットできるかはまた別の話で、浩一さんは相変わらずレア人形を1匹もゲットが出来ないでいるらしい。

彼のこの不幸体質を見ていると、自分が如何に恵まれているかを実感する。

 

「……そうだ!久々に人形バトルしないか?」

 

「え?」

 

「へへ、俺もあれから密かに特訓したんだ。腕試しにどうだ?」

 

浩一から突然、人形バトルを申し込まれる。

だが、その申し出はこちらとしても助かる提案だった。何故なら、こちらも新しい仲間の力を試してみたかったからである。

まさかこんなに早く実戦を行えるなんて、今日は運がいい。

 

「いいですよ。じゃあ、この橋の上でやりましょうか?」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 

 

 

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