人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十八章

 

 

中堅人形遣いの こういちが 勝負を仕掛けてきた!

 

 

この感じ……実に懐かしい。

 

彼と初めて会ったのは「一の道」。まだ仲間がユキ人形しかいない頃だった。

突然、彼から人形バトルを仕掛けられた時は慌てたものだ。特別苦戦するようなことはなかったものの、あのバトルの記憶は鮮明に残っている。

幻想入りした際に会った魔理沙を除けば、一番最初に遭遇した人形遣いだった。

彼の相棒であるナズーリン人形には久度となく助けられている。失せ物や人形探しに一役買ってくれた、僕にとってもありがたい存在だ。

もしかしたらユキ人形やしんみょうまる人形は少々戦いにくいかもしれない。

 

なので、こちらは今回その2体を除いた人形達で勝負を挑む。丁度、実力を計りたかったところでもあった。

 

 

「 よっしゃ行くぞ!まずはお前だ! きょうこ! 」

 

 

浩一の出した最初の人形は、緑髪で犬のような特徴を持つ人形だ。

両手に箒を持ち、やる気に満ちた元気のいい声を出している。気になることといえば、サングラスとロックな黒い服装をしていることくらいだろうか。

……よく見たら箒だと思っていたものの先端にはマイクが装着されている。な、何故そんなものを?

 

 

『 名前:きょうこ  種族:妖怪  説明:山から聞こえてきた声に山彦をする習性がある 』

 

 

スタウターで情報を確認するも、この外見についての言及は一切ない。元々こういう格好なのだろうか?

少々疑問は残るが、今は人形バトルの最中。こちらも最初の人形を出すとしよう。

 

 

「 行け! むげつ! 」

 

 

掲げた封印の糸が暗黒の物体となり、空へと飛翔した後に地面へ落下する。

発生した深淵から赤い瞳が怪しく光ると、不気味で恐ろしい笑い声を上げた。まるで危険な者を召喚してしまったかのような気持ちになる……伊達に“悪魔”ではないらしい。

やがて暗黒の物体は消え去り、むげつ人形が静かに佇む。……今回の登場は今までの誰よりも凝っていたような気が。

 

「むげつ人形か。これまた滅多にお目に掛れない奴を持ってるじゃねぇか」

 

「え、そうなんですか?」

 

「あぁ。少なくとも、この辺りじゃ見かけない。しかしそれにしても……中々個性的な人形だな。まぁ、人のことは言えんが」

 

浩一はこちらのむげつ人形を見て、素直な感想を述べる。確かに、そう思われても仕方のない人形だとは思う。

何せ佇み方や仕草の一つ一つもどこか変だし、いつの間にか体に包帯や眼帯を身に着けているからだ。スタイルチェンジの影響だろうか?その恰好はどこか痛々しい。

そういえば、スタイルチェンジの際に「闇」を残すようしつこく要求していたが……?

 

「えっと、どうか温かい目で見てやって下さい。そういう子なんです……」

 

「お、おう。そうだな!人形にもいろんな奴がいるもんだよな!うん!よし、じゃあそろそろ始めるぞ!」

 

 

 

 

 

 

「早速行くぜ! きょうこ 雷雲の瞳(らいうんのひとみ)!」

 

指示を受けたきょうこ人形はマイクに向かって声を荒げると、その振動で電気を帯びた弾幕が発生し、こちらへと飛ばした。

その速度は決して早くはないものの、弾幕同士が電気の束を連ねることで隙間のない広範囲な攻撃となっている……これをかわすのは容易ではなさそうだ。

 

「月の加護(つきのかご) だ!」

 

しかし、こちらにはそれに対抗出来る積み技がある。「月の加護」は散弾と散防を同時に上げる技だ。

そして「雷」はむげつ人形に等倍……そこまで大したダメージは受けないだろう。

 

天から降り注ぐ月光をその身に浴びたむげつ人形は、きょうこ人形の放った「雷雲の瞳」を真正面から食らう。

身体中から激しい痺れが伝わっているようだが、当のむげつ人形が苦しんでいる様子は一切ない。目論見通り、殆どダメージを負わずに済んだようだ。

 

「ダメージは少ない……か。だが、追加効果はしっかり貰ってくれたようだな!」

 

「!」

 

むげつ人形の様子を見てみると、体から微弱な電気が発生している。これは「麻痺」状態か?

成程、浩一の狙いはどちらかというとこの追加効果の方だったらしい。まんまとやられた。

 

「これでそいつの足は封したぜ!さぁ、ここからはこいつの時間だ!」

 

「「幻」に「音」は効果抜群!仮に他の属性で来ても、この距離なら対応出来るぜ!……貰った!」

 

浩一はこの有利な状況を作り出したことで勝ちを確信したようだ。

確かに、このままではむげつ人形が一方的にやられてしまう。本来ならばここで交代などをするべきなのだろう。

 

しかし、その必要はない。

 

 

「 むげつ! 正直者の大嘘(しょうじきもののおおうそ) だ! 」

 

 

「(!?な、何だその技?聞いたことないぞ…!?)」

 

 

こちらの技の指示に身構える浩一だが、特に何かが起こる様子はない。

唯一やったことといえば、むげつ人形がきょうこ人形に向かって指パッチンをしたくらいだ。

 

「……?な、何だかよく分からんが、そんな大した技ではなかったようだな!きょうこ ハウンドノイズ!」

 

浩一はきょうこ人形に攻撃指示を出すも、虚しく声が響いただけ。風が吹き、しばしの静寂となる。

疑問に思った浩一は同じ言葉を繰り返すも、結果は同じ。どうやらまだ、自分が何をされたのか理解出来ていないらしい。

 

「お、おいきょうこ、何やって……ッ!?」

 

不思議に思った浩一がきょうこ人形の方に目線を合わせると、そこには体が痺れて動けないでいるきょうこ人形の姿があった。

何が起こったのか分からず、うろたえ始めた隙をみすみす見逃す僕ではない。

 

「アンノウンフレア!」

 

指示を受けたむげつ人形は紫の光の玉を生成し、きょうこ人形へと飛ばした。

身体が痺れて動けないきょうこ人形はその攻撃を避けられるはずもなく、着弾と共に激しい閃光が発生する。

「アンノウンフレア」は威力のある「幻」属性の技だが、ただの攻撃ではない。「雷雲の瞳」の「麻痺」効果同様、もろに食らった者はその光に惑わされ、「混乱」してしまう追加効果がある。

スタイルチェンジの際に戻ってしまったアビリティ「残虐」の効果で命中率に難を抱えているむげつ人形だが、有利な状況さえ作ってしまえばそれも解決。

うん、これは良い戦いが出来たと思う。

 

光が収まると、目を回した状態でフラフラと千鳥足なきょうこ人形が……狙い通り、「混乱」状態になったようだ。

浩一は意識を取り戻すよう懸命に呼び掛けるも、一向に目を覚ます気配はない。……最早、こちらから手を出す必要もなさそうだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……成程なぁ。俺もまだまだ知識が足りなかったみたいだ。しっかしお前、しばらく見ない内に腕上げたなぁ」

 

「いえ、それほどでも……浩一さんこそ、以前よりもかなり強くなってますよ」

 

「何言ってんだ。俺の戦法をかる~く破っておいて謙遜すんなって」

 

先程の一戦で悟ったのか、今回の人形バトルは浩一の降参という形で幕を閉じることとなった。

あの時何が起こったのか種明かしをすると、浩一は納得と共に悔しそうなリアクションを取っている。賑やかな人だ。

詳しく調べてみると、「正直者の大嘘」はむげつ人形がかなり経験を積まなければ使うことの出来ない技らしい。今まで一人でストイックに鍛錬し続けてきたむげつ人形だからこそ、この技を覚えられたということだ。

因みにその効果は「自分の掛かっている状態異常を相手に移し、自分の状態異常を直す」というもの。戦況を一変出来る大技であることは先程の戦いで十分理解が出来た。

 

「今のお前なら、並の人形遣いなんて相手にならないだろうなぁ。それくらいには強いと思うぜ」

 

「えぇ?そ、それは言い過ぎじゃあ?」

 

「いやいや、これ結構マジで言ってるぜ?他の手持ちだって相当強くなってるみたいだし。……一体どんな鍛錬したらそんな強くなるんだって聞きたいくらいだぞ」

 

人里、永遠亭、紅魔館、玄武の沢、霊長園……色んな戦いがあったのは確かだが、強くなったという実感はあまりない。

というか、そんなことを気にしたことがなかった。何かと人形バトルをする機会が多いのは事実だが……

 

「……多分、鍛えられたのは僕が異変調査をしていることで名が広まっちゃったからでしょうね。天狗の人達が新聞ばらまいたりしているみたいですし」

 

「あぁ、それなら俺も見たぜ。……そういや、一緒に写ってた女の子は彼女か何かか?確か、前に一緒にいた子だよな?」

 

「――ッ!!」

 

そうだった。あの新聞には光との関係の捏造が書かれていたのだった。

今思うと腹立たしくなってきた……天狗の里に赴いた際には苦情の一つでも言ってやろうか。

とにかく、この誤解は至急解いておかねばならない。だがしかし、救急の為とはいえ光がやったことは事実なのが厄介だ。

下手な言い訳はかえって怪しまれてしまうだろう。

 

「……ダハハッ!そんな顔しなくって分かってるさ!あの天狗の書く記事なんざ全部信用しちゃいけない。まぁ、今後は気を付けるこった」

 

「うぐ……は、はい」

 

苦悩が顔に出ていたのだろう。浩一は事情を察してか、笑ってこの話題を早急に終わらせてくれた。これが大人の対応というものか。

何だか恥ずかしい気分だ……顔が熱い。人形バトルは勝てても、心理戦はまだまだ敵いそうにないな。

 

「それじゃあ俺は今から最近発見された“鉱山”にでも行くが、お前はどうする?」

 

「えーっと、僕は取り敢えず「天狗の里」に寄るつもりです」

 

「……おいおい、マジか?途中までは一緒だが……精々気を付けろよ?」

 

「えぇ。お気遣いどうも……」

 

事実、天狗の射命丸 文に言質を取られた以上、そこへ行かざるを得ないのだ。

もし約束を破れば、またありもしないことを記事に書かれることになりそうで怖い。彼女の機嫌を損ねる行為は極力しない方がいいだろう。

浩一の向かう予定の“鉱山”も少々気になるところだが、今はこちらが優先だ。

 

こうして僕は浩一の案内の元、険しい妖怪の山の中へ本格的に入っていくのだった。

 

 

 

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