人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十章

 

天狗の里へ無事到着したは良いものの、既にそこでは人形解放戦線による悪事が及んでいた。

商売道具を盗られた天狗達は正体の掴めない犯人に惑わされ、あろうことか身内に疑いをかけ合う始末。こうなることを狙っていたのだとしたら、妨害としては充分成功していると言えるだろう。

このような犯行を行う動機はまだ不明であるが、少なくとも人形解放戦線にとって何か都合の悪いものがこの天狗の里にあるのは間違いない。

 

個人的にはその“動機”を何としても突き止めていきたいところだが、今はこの窃盗事件を解決することが先決だ。

それにここは幻想郷唯一の“新聞”が作成されている場所……様々な情報がこの里には保管されている筈だ。ここになら「幻想郷縁記」にも載っていないような裏の情報もあると踏んでいる。

最初は成り行きだったが、この事件を解決すれば欲しい情報を射命丸 文を始めとした天狗達から聞くことも出来るだろう。

 

「それで、文さん。今回の窃盗事件の犯人は“光の三月精”で間違いはないんでしょうか?」

 

「先程仲間に聞いたところによると、彼女らは以前の河童のアジトを襲撃したメンバーの中に混じっていたそうです。まず間違いないかと」

 

その時、僕は工房で幹部のメディスンと戦っていたから気が付かなかったが、証拠としてはかなり有益な情報だ……流石は天狗といったところか。

だが、問題となるのはその三月精とやらをどうやって捕まえるかだろう。聞くところによれば相手は姿も見えず、足音などもしない。気配を悟られて逃げ足も速いと来た。

単独で探していてはまず見つけることは出来ない。

 

 

「 みんな!出てきて! 」

 

 

ここは僕の人形達にも捜索をして貰うことにしよう。人や妖怪には見えずとも、人形達になら何かを捉えられるかもしれない。

手持ちの入った全ての封印の糸から人形を出し、それぞれ手分けして捜索を開始した。ユキ、しんみょうまる、こがさ、メディスン、むげつ、けいき人形達と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜索を開始して約15分経過。

 

やはりそう簡単にはいかないようで、未だ三月精を見つけることは出来ずにいる。残念ながら人形達にも透明となっている人物の実体は掴めないようだ。

何処かに身を潜めているのだろうか?今は歩き回っていないのかもしれない。

 

そう思っているとユキ人形がこちらを呼んでいるのが見える。何かを発見したようだ。

急いで現場を確認すると、そこには1つの樽があった。どうやらここに誰かがいるのを感知したらしい。

サイズから考えると妖精3匹くらいならギリギリ入らなくもないし、いる可能性はあるだろう。

 

「一の道」で痛い目を見た経験を生かし、警戒しながら恐る恐る蓋を開けて中身を確認してみる。

 

「あ……」

 

1体の人形が弱弱しく、くまの出来た目でこちらを睨みつけたが、すぐに目を逸らす。

何か小さな機械を狭い空間で1人、ただひたすらにいじっている……人形の全容は暗くてよく見えない。

その孤独な姿にどこか既視感を感じた僕は、そっと蓋を閉じる。うん、何も見なかったことにしよう。そういう人形もいるよね。

 

ユキ人形は例の三月精を見つけられたのかと期待の眼差しでこちらを見ている。褒めて貰いたいのだろう。

僕は黙って笑顔でユキ人形の頭を撫で、改めて捜索を再開する。頭を撫でられたユキ人形は少々疑問に思いつつも、満足気だった。

 

 

 

 

 

 

合流したユキ人形と共にこちらも三月精を探し回っていると、通り過ぎていった井戸から何かが飛び出す。

敵かと事を構えるがその正体は三月精ではなく、またも人形だった。

 

「(な、何故そんなところから?)」

 

井戸から出てきたのは、ずぶ濡れとなったむげつ人形。

地上への帰還の際に華麗な着地を決め、日の光を浴びながら目を閉じ、天を仰いで愉悦感に浸っている。

何かとカッコつけたい性分らしく、見ていて退屈しない面白い子だ。

 

しかし、井戸にいるという発想はこちらにはなかった。

むげつ人形のその自信ありげな顔から多少の期待が膨み、三月精を見つけたのかと聞いてみると、むげつ人形は静かに微笑み右手を顔に乗せることで返答する。

……しかし、そこからは何も進展はない。むげつ人形は表情を変えず同じポーズをとり続け、そのまま固まってしまった。

 

しばらく静寂が続き、一迅の風が吹くとむげつ人形はくしゃみをした。どうやら体を冷やしてしまったらしい……ずぶ濡れだったのだから無理もない。

その様子を見てユキ人形が駆け寄り、むげつ人形をハグして体を温めてくれている。実に微笑ましい光景だ。

 

 

むげつ人形の質問に対する無言から察するに、井戸の中に三月精はいなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

探索を再開し、しばらく歩き回ると今度はしんみょうまる、こがさ、メディスン人形がこちらへと駆け寄って来た。

あのグループも何かを見つけたらしく、それを僕に伝えに来たのだろう。早速案内して貰い、現場へと急行する。

 

しんみょうまる人形達が見つけたのは、地面に残った足跡だった。

ここに住む天狗達の履いている特徴的な下駄とは違い、一般的な靴の形をしている。しかもそれが丁度3人分あることから、三月精のものの可能性はかなり高い。

 

「でかしたぞ!」

 

有益な証拠をつかんだ仲間達を称え、皆の頭を優しく撫でる。

その様子を見ていたユキ人形もどさくさに紛れて並んだので、騙されるフリをして撫でてあげる。欲張りさんだ。

 

 

3人分の足跡は見事に彼女らの通った道筋を示しているので、その跡を辿っていくと行き当たりに“3つ”の茂みが不自然にあることに気付く。

辺りに草木の生えていないこの場所に“3つ”の隠れるのに適した茂みがある……どう考えても怪しい。

 

「もしも~し?」

 

試しに気軽に声を掛けてみるが、返事はない。あくまで沈黙を貫くつもりなのか?

仕方がない。少々気が引けるが、強引な手を使させて貰おう。

 

「けいきさm……けいき!あの茂みに向かって 陰の気力!!」

 

胸元に抱き抱えてえているけいき人形に攻撃指示を出す。牽制で驚かしてみる作戦だ。

この子はまだ生まれたてで力も弱い。例え被弾しても大したダメージにはならないだろう。狙いもまだまだ正確に定まらないので全弾直撃はしない筈だ。

 

けいき人形の放った紅い弾幕が茂みに何発か当たったが、特に反応はない。

これは流石におかしいのでいないと判断し、茂みの中を手で直接漁ってみると、盗まれた天狗の商売道具を発見した。

やはり三月精がここを隠れ家として使っていたのは確かだが、今はまたどこかへ行ったらしい。

そして、その痕跡はもう足跡としては残っていない。流石にヤバいと気付いたのだろう。妖精はその羽で空を飛べる……今度ばかりは探し出すのは厳しそうだ。

 

三月精がいなかったことで気を落とす人形達だが、これは大きな収穫と言える。

何せ、犯人の隠れ家を見つけられたのだ。これを生かさない手はないだろう。

 

 

 

 

 

 

「う~ん……」

 

タブレットと睨めっこしながら指を激しく動かす。

もしかしたら人形のアビリティの中に透明の相手の実態を掴めるものがあるかもしれない。そう思い、現在調べているところだが……僕の手持ちの中にはいなさそうだ。

三月精を捕まえる作戦は閃いたものの、どうやって彼女らを計画通りに動かすかが問題となっている。人形達には引き続き探索をして貰っているものの、頭の悪い妖精でも下手な痕跡はもう残してはくれないだろう。

この作戦は三月精の動きを掴まなければ意味がなく、どこにいるのかを把握しておく必要があるのだ。

 

「……あ、けいき?お行儀が悪いよ?」

 

抱っこしていたけいき人形はまるで子供のように自分の親指をしゃぶっている。あんまりいい癖とは言えない。

それを聞いたけいき人形はそっぽを向き、ご機嫌斜めになってしまう。……もしかして甘えたいのだろうか?そういえば、今日けいき人形だけは撫でていないことに気付く。

僕が他の人形を撫でているのを見て、羨ましくなったのだろう。これは気が利いていなかった。

 

「今日の技はいつもより遠くに飛んでいたね。偉いぞ」

 

「…♪」

 

この人形を下さった袿姫様はこの子を大器晩成の人形と仰っていた。今はまだ小さな力だが、いずれは誰よりも強い人形となるポテンシャルを秘めているらしい。

だが、この子は生まれたばかりで戦い方も碌に知らない赤子同然の人形……責任も多く、苦労は多そうだ。子供を授かる人というのは、こういう気持ちなのだろうか。

しかし、けいき人形の嬉しそうな可愛いらしい顔を見たらそんな蟠りも吹き飛んでしまう。実を言うと慣れない山登りで体力も消耗していたのだが、この子の笑顔を見たら幾分マシになった。

因みに何故けいき人形を常に抱っこしているのかというと、この子はまだ歩くのが下手でよく転んでしまうからである。本当にまだ赤ちゃんのような人形なのだ。

 

撫で終わりご満悦なけいき人形は次にキョロキョロと辺りを見回し始める。生まれたばかりなら当然知らないこともいっぱいだ。見えるもの全てが新鮮なのだろう。

時々何かを追うように視線が反れているようだが、どうやら目の前を通り過ぎる蝶々を見ていたようだ。

ふと、けいき人形の手元にその蝶々が止まる……それは綺麗なモンシロチョウだった。初めて見る生物を不思議そうに観察する様子を静かに見守ってみると、けいき人形は大きく口を開けた。

 

「って駄目駄目ッ!!それは食べ物じゃないんだよ!?」

 

恐らく蝶々を食べようとしたけいき人形を慌てて止める。そうだった。赤ちゃんは何でも口に入れようとするんだった。

一連の騒動に驚いたモンシロチョウはその場から飛び去っていく……命拾いをしたものだ。

 

「あ!?ちょっと!?」

 

しかし諦め切れないのか、けいき人形は僕の胸元から離れてまで逃げるモンシロチョウを追いかけ始めた。

まさかそのような行動に出ることは予想出来ず、反応が遅れてしまう。何があの子をそこまで焚きつけるのだろうか?あまり美味しそうには見えないが……

 

けいき人形はモンシロチョウを口に入れるべく、ひたすらジャンプしながらそれを試みるが中々捕えることが出来ない。

そして、またもけいき人形の懸命な噛みつきが空を切ったこと思われたその時だった。

 

 

「  いっっったああああぁぁぁーーーーーーーーー!!??  」

 

 

見えない何かに噛みつき、そのままぶら下がるけいき人形の姿がそこにはあった。

そして同時に悲痛な叫び声が里中に響き渡る。

 

「 痛い痛い痛いッ!!もうっ!離れなさいッ!! 」

 

見えない何者かから地面に叩き付けられるけいき人形を慌てて拾い上げる。顔面にあざが出来、泣いてしまった。優しく撫でてやる。

だが、これは思わぬ幸運が訪れたようだ。

 

「な、何でここにいるのが分かったの!?あいつらには見えていない筈なのに」

 

「油断したわね……体制を整えた方がいいんじゃない?」

 

「うぅ、せっかく綺麗に手入れしたのに……歯形も着いてベトベト……もう最悪……私も帰りたい」

 

「よ、よし!一旦てっしゅーよ!」

 

誰にも聞こえないと思い、声を出している犯人の証言はこちらにバッチリ漏れていた。突然噛まれた衝撃で能力が切れ、そのまま使い忘れたのだろう。やはり、所詮は妖精だ。

思っていた形とは違ったが、運よく作戦通りの展開になってくれた。今回の功労者は間違いなく、けいき人形と言える。

 

 

ようやく尻尾を掴んだ。後は追い詰めるだけ……イタズラもここまでだ。

 

 

 

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