人間と人形の幻想演舞 作:天衣
「ねぇ、スター?」
「なに?」
「気のせいだといいんだけどさぁ」
「うん」
「あたしたち、今すっごくピンチなんじゃないかしら?」
「……そうねぇ。四面楚歌……いや、八面楚歌ってかんじかしら」
「きっとあの人間がみっこくしたんだわ!一体どうしてこうなったの!?」
「ルナがドジふんじゃったから……かしら?」
「あ、あの人間の手に持ってた機械ぬすもうって言ったのはサニーじゃない!」
「え?」
「急にターゲットをあの人間に変えたのはサニーでしょ?わたしたちの作戦はあくまで天狗達の妨害だったのに!」
「えーっと……そ、そんなこと言ったっけなぁ?アハハハ」
「うーん、やっぱり今回の戦犯はサニーね。ルナのもはや救いようもないレベルのドジっぷりを一切考えなかったの?やるなら事前に相談して欲しかったわ」
「……あ、あたしがわるいって言うの……?」
「「 ………… 」」
「あたしは……あたしはわるくないわよ!だってリーダーが言ったんだもん……そうよ、リーダーがやれって!」
「こんなことになるなんて知らなかった!誰も止めようとしなかったでしょっ!あたしは悪くないっ!あたしは悪くないっ!!」
「……どうする?逃げようにもこんなに囲まれちてちゃこっそり抜け出すことできないし、あきめたほうがいいんじゃ……スター?」
「私は投降するわ。ここにいると、馬鹿な発言にイライラさせられる」
「な、なによ!?あたしは人形解放戦線をすくおうとしたのよ!?」
「……変わってしまったのね、サニー。幹部になってからのあなたは、まるで別人だわ」
「スター!ルナまで……!うぅ……どうしてよ!どうしてみんな私を責めるのよ!?」
***
行き当たりにある不自然な3つの茂みを四方八方取り囲み、様子を伺う。
取り囲んでいるのはこの里に住む天狗ほぼ全員である。こちらが隠れ場所を文に伝えたところ、瞬く間に広まっていったらしい。
まぁ元々そうなるように仕組んだのだが、こうも早く里全体に伝わっていくとは……流石は情報とスピートが売りの天狗だ。
こちらが思い描いていた作戦である隠れ場所への誘導、そしてそこから逃がさない為の包囲は見事成功したと言える。
とはいえ、散々盗みを働かされ殺気立った天狗達の圧は凄まじく、このままでは犯人である三月精が殺されかけない。
「文さん、皆には僕の旨を伝えてくれましたか?」
「えぇ。“あくまで包囲だけに集中し、攻撃などの一切の手出しは無用”ですね。勿論、伝えてありますとも。……しかし、どういったおつもりで?」
「それは、いずれお伝えします。今はちょっと言えません」
「ふむ……まぁいいでしょう。こちらは商売道具さえ帰ってくればいいですし」
ここに来た時の天狗達の怒りに満ちた表情を見た時から、このことはあらかじめ考えてはいた……そうしなければ折角のチャンスが水の泡になってしまうからだ。
僕の理想を叶える為には、人形解放戦線のメンバーと接触は必要不可欠になる。ここで死んでしまっては困るし、逃がすこともしたくはない。
さて、取り囲んではいるものの相手は人形解放戦線だ。どんな手段で対抗するかは予想出来ない。
人形バトルを正々堂々やるような集団ではないことを加味し、予め手持ちの人形達には臨戦状態になって貰っている。
出来ることなら戦わず、平和的に解決するのが望ましい。だが当の三月精はこの天狗の里で散々悪事を働いてしまった手前、そうは問屋が卸さないだろう。
「……―――!(誰か出てくる!)」
不自然に並んだ3つの茂みが揺れ、場に緊張が走る。
また透明になって逃げる、或いは人形などによる攻撃を仕掛けるのかと思われた彼女らの取った行動……それは余りにも拍子抜けなものだった。
黒髪の青い妖精と金髪の白い妖精は茂みから出て来るなり両手を挙げ、こちらに戦う意志のないことを示し始める。
その光景はさながら立て籠っている犯人が説得され、連行されていく刑事ドラマのような……違うところがあるとすれば、こちらからは特に何もしていないということ。一体どういう風の吹き回しだ?
「こんな不利な状況で抵抗するほど、私達もバカではないわ。こうさんこうさん~」
「うぅ…どうしてこんな目に」
黒髪の青い妖精の言うことから推察するに、彼女が「気配」を探る役割らしい。恐らく、逃げられないよう囲まれていることにいち早く気付いたのだろう。
それにしてはあまりにも潔すぎる気もするが、彼女は妖精にしては冷静な判断能力を持っているようだ。
一方、涙目になっている金髪の白い妖精にはどこか既視感があった。この自信のなさそうで大人しそうな感じは……思い出した。光の手持ちにいた「ルナ人形」だ。
成程、ということは彼女がそのオリジナルである「ルナチャイルド」ということか。よく見ると、月のような形をした綺麗な羽にはくっきりと歯形が付いている。
どうやらけいき人形が偶然噛みついたのは彼女だったらしい。……何と不憫な子なのだろうか。罪悪感が思わず芽生えてしまった。
「!」
ふと、この状況は不味いと判断し、急いで自分の手持ち人形達を封印の糸に戻した。見られてはいないだろうか?
―――大丈夫だ。
運が良かった……幸い、2人共正面を向いていなかったことから目撃は避けられたと思われる。
ここで見られしまったら、今後の活動がしにくくなってしまう。抵抗の意志はないようだし、見せていないものは極力見せないようにしなければ。
しかし妙だ。三月精は3人組の筈なのに、今ここにいるのは2人。
ということは、後1人がまだ茂みの中に潜んでいるということになる。もしや、まだ何か企んでいるのだろうか?
「茂みの中が気になるのなら、覗いてみるといいわ。そこに盗んだのが全部あるから」
黒髪の青い妖精はこちらにそう言い残し、天狗達によって2人は連行されていく。もう1人の妖精はまだ取り残されたままだ。
その言葉が誘導であることは明白だが、今更になって何かを仕掛けるにしても既に遅すぎるし、特別警戒はしなくても良さそうだ。
茂みに耳を澄ましてみると、何故か泣いている女の子の声が小さく聞こえてくる。
疑問に思いつつ、とりあえず茂みの中を漁ってみると金髪の赤い妖精が1人寂しく泣いていた。
文から聞いた話では仲良し3人組との話だったが?
ここで何があったのか状況が飲めず、只々困惑してしまう。喧嘩でもしたのだろうか?
「だ、大丈夫……?まぁ、元気出しなよ?」
憐みを感じ、思わず軽い励ましの言葉を金髪の赤い妖精に掛ける。
金髪の赤い妖精は顔を見上げ、こちらの存在に気付くなり怒りを募らせ……
「 う、うるさい!あんたに何が分かるの! 」
怒号を発する。何故怒られてたのだろうか……。
だが、彼女の気持ちは僕にも何となく分かる。僕も似たような経験があったからだ。
あの時の僕は後先も考えず、友達も出来ない子供だった。そのせいで学校にも、親にも迷惑をかけた。忘れてはならなかった、僕の戒め。
時が過ぎて、次第にそのことを忘れようとしていた。罪は決して消えないというのに。
「僕も……僕のせいで、友達たくさん傷つけてしまったから……だから君の気持ち……わかるんだ」
「 あなたなんかと一緒にしないでよ!あなたなんかと……うぅ…… 」
……しかし、今の金髪の赤い妖精には僕の言葉は届かなかった。
こうして天狗の里で起こった盗難事件は、意外とあっさり解決することとなった。
実体さえつかめば簡単だったというのもあるが、その実体を偶然とはいえ見事捉えてくれたけいき人形には感謝しなしればいけない。
「舞島さん。天狗の里を救って頂き、ありがとうございます」
「あ、いえそんな」
「それにしても迂闊でした。我々天狗がまさか妖精ごときに出し抜かれるとは……一生の不覚ですよ。まぁ、お陰でいい“被写体”はゲット出来ましたけどね。フフ、さてどうしてくれましょうか」
「……?」
「あぁ、こちらの話です。どうかお気になさらず」
文が何かを企んでいるようだが、今はそんなことよりも情報だ。
ここにしかないような情報が少しでも欲しい……今のこの状況なら、それも容易に聞き出せる筈だ。
「文さん、貴女が過去に書いた新聞を読ませて頂くことは可能ですか?」
「!えぇ、出来ますとも出来ますともッ!!もしや、「文々。新聞」の愛読者でしたか!?」
何故か嬉しそうに返答し、こちらの手をブンブンと握手されてしまう。そんなに喜ぶものなのだろうか?まぁいいか。
そういうことにしておいた方が話を進めやすそうだし、少々嫌ではあるがここは媚びを売っておこう。
「ちょっと調べたいことがあるんです。貴方の素晴らしい新聞なら、それが出来ると思いまして」
「お目が高いですねぇ!この「文々。新聞」、清く正しい情報が売りですので何でも仰ってください!」
前に見たこの人の新聞にも、その記事は存在した。それなりのスペースを使ってだ。
あの時は全く関心がなかったが、今はその情報こそ最も注目すべき内容である。
「“人形解放戦線”について取り上げた新聞……その全てを、見せて下さい」
愚かな“劣化複写(レプリカ)”サニー
原作演舞で粗末な扱いを受けるサニーミルク可哀そう可愛い