人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十三章

 

妖怪の山の奥地に、新たなスポットが発見される。

最近になって認知されたこの地域には見たことのない新種の人形達が生息しており、噂を聞きつけた人形遣い達が続々と集結している。かく言う私のその1人。

 

 

“虹龍洞”と呼ばれたこの鉱山の周辺には今や沢山の人形遣い達が群がってしまい、これでは碌な捜索も出来やしない。

相も変わらず非効率で雑な探索な為、人形も警戒心が高まり中々姿を現さないでいる。こちらからすれば本当に邪魔で迷惑な連中だ。

 

だが、幸いにも準の奴はまだここに来ていないようだ。こういったところには真っ先に来そうなものなのだが……邪魔をする者がいないというのは探索において非常に助かる。

 

 

今回、私が狙いを付けたところは虹龍洞の内部。正直な話、現状そこにしか行けない。

そしてこの内部の構造はどのようになっているのか、それは未だに分からない状態となっている。理由は恐らく虹龍洞の内部は危険地帯だからだ。

話によればあの中は酸素が薄く、人間が来るところではないらしい。実際、そんな状態で野生の人形に襲われれば常人はひとたまりもない。

しかし、私にはこういう時の為の秘密兵器がある。それがこの「酸素吸引マシン」だ。

これは河童の技術で作られた、体内に酸素を送る機械。いつもは5cm程の小さなカプセルで収納している。こういうところを探索する為には欠かさない代物だ。これで酸素問題は心配いらない。

 

そしてここを探索する際、もう1つ注意しなければならないことがある。それは野生人形が襲い掛かって来ることへの対策だ。

洞窟は外の草むらとは違い、全体が人形のテリトリーとなっている。いつどこから襲われてもおかしくはない。そこで活躍するのがこの“勾玉”という市販されたマジックアイテムである。

 

“勾玉”はその名の通り、曲がった石の形をしている対人形用アイテムで、その効果は「人形をしばらくの間、寄せ付けなくする」というもの。

一見すると今回の私の目的には不都合であるが、これは正確に言うと人形自体が近付かなくなるという訳ではない。悪魔で使用者を守る“結界”を張るものであり、人形は普段通り襲い掛かってくる。

なのでこちらから人形へコンタクトを取るのであれば、特に何も問題はない。この「勾玉」というアイテムは所謂、いつか舞島さんに買って貰った「数珠」や「護符」の上位互換に当たるものだ。

夢の世界での経験上、これがあれば虹龍洞に生息する人形の攻撃を貰ってしまう心配もないだろう。数も無くなる心配がない程には十分にある。

 

私がカプセルを近くに投げると割れて煙を上げ、酸素吸引マシンが目の前に現れた。

そして勾玉を1つ使用し、自身の周囲に結界が張られたかを確認する。……数珠の時よりも遥かに強固な橙色の結界が、私を守ってくれているみたいだ。

よく見るとどことなく霊夢様が身を守る為に放つ結界に似ており、霊夢様に守られているという妄想が頭を支配して口から涎が垂れる。もしかして、霊夢様お手製だったり?

もしそうだとしたら、行商から買い占めた私の判断は間違っていなかったということだ。

 

 

思わぬところで士気が高まり、私は意気揚々と酸素吸引マシンを背負って虹龍洞の内部へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

中に入って真っ先に目に着いたのは、壁にある色取り取りの綺麗な宝石の塊。

流石、鉱山というだけあってここには様々な鉱石が埋まっている。一儲けくらいやろうと思えばいくらでも出来てしまいそうなくらい、ここには希少なお宝が沢山あるようだ。

しかし今回の目的はお金儲けではなく、ここに生息する人形探しだ。こんなものに目をくれている場合ではない。

 

「……ん?」

 

しばらく進んでいると、頭上に1つの小さな影があることに気付く。

上を見上げたら早速新種の人形が私に近寄って来ている。

 

 

『 名前:みすまる  種族:???  説明:??? 』

 

 

私はすかさず装着していたスカウターで人形の情報を確認する。

 

このスカウターは舞島さんが持っていたものとは別物で、玄武の沢で偶然出会った“にとり”という河童の妖怪から半ば無理矢理貰ったものだ。

ただ、「未だ判明されていない新種の人形を調査し、それをこちらへ提供すること」を条件付けられた為、この人形は是が日にも捕まえる必要がある。

スカウターを始め、軽やかな大ジャンプを可能にする「スーパージャンパー」、自力では行けない高所を登れる「のぼ~るアーム」、酸素の薄い場所もへっちゃらな「酸素吸引マシン」。

これらも全て、その条件に基づいて借りたものに他ならない。お陰でこの妖怪の山の移動はすごく楽になった。

 

しかし貰ったスカウターが旧型であるせいか、新種の人形は調べても名前しか分からないのがもどかしい。まぁ、無理矢理借りたのだから贅沢は言うまい。

このみすまる人形の特徴としては亜麻色の髪とあちこちに付けてある大量の勾玉、そして“陰陽玉”に座る形で乗っていることだろうか。

またしても霊夢様の使っている陰陽玉とそっくりで、もしかしたらこの虹龍洞にいらっしゃるのではないかという勝手な期待を寄せて辺りを見回す。が、当然いない。

溜息を吐きつつも気を取り直し、目の前のみすまる人形の観察を再開する。

 

どうやら闇雲に攻撃を仕掛けてくるような気性の荒い人形ではないらしく、先程から私の持つ何かに関心を持っているようだ。

人形の目先からある程度察し、試しにそれを左右に動かしていくとみすまる人形もそれにつられて動き出した。恐らく、私の持っているこの勾玉に興味を惹かれているのだろう。

数に余裕もあることだし、未使用の勾玉を試しにみすまる人形の差し出すと、驚きつつも喜んでそれを受け取った。

 

するとお礼なのか、今度はみすまる人形の方からアイテムを貰う。これは……魔力の欠片だ。

魔力の欠片は一般的に人形が落とすマジックアイテムだ……割には合わないが、ここは文句を言わずありがたく受け取っておこう。

勾玉は陰陽玉との関連性もあるし、それで関心を持っている可能性が高いだろうか?少なくとも、妖精や妖怪の類ではなさそうだ。

 

色々と考察をしていたその時、みすまる人形は手持ちに持っていたもう1つの勾玉を貰った方と交互に合わせて合体させた。

一体何をしているのかと疑問に思っていた次の瞬間、なんと光を帯びた2つの勾玉が1つの“陰陽玉”へと変化している。

 

 

「(なん……だと……)」

 

 

――衝撃の事実が発覚。

 

「みすまる」、“陰陽玉の制作者”だった。

 

 

博麗 霊夢ファンとして、この事実には度肝を抜かされた。

あの霊夢様の愛用している陰陽玉……まさか本人が制作したものではなかったとは。これは数ある私の霊夢様情報の中でも最新の情報だ。

ということは、このみすまるという人物は霊夢様と深い深い関連があるに違いない。思わぬ収穫だ。

 

新たな発見への感謝の意を込め、みすまる人形に合掌する。

それを見たみすまる人形は乗っている陰陽玉から降りて静かに目を閉じ、腕を後ろに組みながら感心するかのように頷いた。少々態度が偉そうだ。

……いや、実際にみすまるという人物が高貴な存在の可能性も?よく見ると裸足だし。

 

「ははぁ~~みすまるさま~~ありがたや~~」

 

今度はその場で跪き、崇める形でみすまる人形に感謝の意を伝えてみる。

するとみすまる人形の身体から後光が差し、神々しい姿へと変貌。これで確定した。信仰によって力が上昇する特徴は、間違いなく“神様”のものだ。

神様ということは、もしかすると物凄い力を秘めた人形なのかもしれない。私はこの出会いに運命を感じた。

 

 

 

しかし、このみすまる人形には重大な欠点がある。それは……

 

 

“金髪ではないこと”だ。

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、私の手持ち人形は“金髪であること”が必要条件となってしまっていた。げんげつ人形の趣味によって……

それに気が付いたのはつい最近。ルナ、アリス、クラピー、じゅんこ、すわこ……気が付けば、私の手持ちは皆揃って金髪だったのだ。

 

この妖怪の山に入って私がこれだと思って捕まえようとした金髪じゃない人形達は、げんげつ人形の手によってことごとく妨害されている。

夢の世界での一件以来、少しでも仲を深めようとはしているのだが中々上手くいかない。舞島さんのようにどんな人形とも心を通わせるのは、そう簡単ではないようだ。

最初の頃は素直に言うことを聞いてくれていたのに、一体どうしてだろうか?思えば、スタイルチェンジを果たしたくらいから露骨に態度が変わった気がする。

封印の糸から無理矢理出始めたのもその頃……今の私は、げんげつ人形の持つ力にふさわしい器ではないのだろうか。

 

言うことさえまともに聞いてくれれば間違いなく“最強”と呼ぶにふさわしい実力を兼ね備えているのに、私自身が未熟なせいでそれが叶わない。

今のげんげつ人形は完全にお荷物な状態……いるだけの存在となってしまっている。

 

 

しかし、今回ばかりは邪魔をさせる訳にはいかない。にとりとの約束がある。

手持ちに加えないにしても、調査の為には捕まえなければならない。……しかし、どうやってげんげつ人形を止めればいいのか?

 

私の今の人形達では、とてもじゃないがげんげつ人形に敵わない。げんげつ人形は私が一番最初に捕まえた人形であり、最も成長している。

比較的レベルが同一のルナ、アリス人形は「幻」に弱く、相性も不利。他のメンバーはまだ十分に育ち切っていない。

おまけに集弾、散弾両方での攻撃が可能。俊敏値もかなり高く、攻撃を当てるのも難しいと来た。

 

 

「……ッ!」

 

 

いけない。

 

どうして私はげんげつ人形を倒す方法を考えているのだろう。

仮にも私の人形だというのに……馬鹿な考えをしてしまった自分の目を覚ますべく、両手で頬をパチンと一発叩いた。

そんなことをしたって一時的な解決にしかならない。溝が深まることをしてしまうところだった。

 

……でも、本当にどうしたらいいのだろう?

 

今まで他人との関係で悩んだことなんて一度もなかった。自慢ではないが、持ち前の明るさで誰とでも仲良くなれると自負していたところがあった。

人形とも、今までと同じように接して仲良くなってきた。……げんげつ人形を除いて。

 

 

原因は何だろうか……やはり、妹の人形の件?元々、げんげつ人形は妹の人形を探しに一の道までわざわざ来ていたと考えられる。

そこに私と舞島が邪魔をしてきて、捕まって、こき使われて……やっと会えたと思ったら、また引き裂かれて。

 

そう考えると、恨みを買うのも当然だ。仕方がないではないか。

私は強い人形遣いになることばかりに気をとられ、人形の気持ちを一切考えていなかったのだから。

 

 

謝りたい。そして、改めて色々話したい。

 

でも、人形の言葉は私に分からないし、一体どうしたら……

 

「……あ」

 

あるではないか。人形と話せるアイテムが。初めてげんげつ人形と言葉を交わした、あの場所が。

 

 

 

 

 

 

折角出会えたみすまる人形と一旦お別れし、虹龍洞内部の外に出る。

今の状態では捕まえるとこも儘ならないことに気が付くのが遅れ、とんだ無駄足となってしまった。

 

 

しかし、これは私の越えなければない壁。

げんげつ人形としっかり話をする。それが今、真っ先にやらなければならない重大な任務だ。

 

その結果がどうなろうと、私はそれを受け入れなければならない。

 

 

……さて、今夜はどこで寝ようか?

 

 

 

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