人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十四章

 

目を開け、辺りを見回すとそこは一面真っ暗な空間だった。

 

相変わらず、ここに来ると不安な気持ちにさせられる。

一度だけ興味本位で来たことのあるこの場所は、私にとってあまりいい思い出がない。

狂暴化した人形達に集団で襲われ、相棒だと思っていたげんげつ人形からは刺さる言葉を投げかけられた。……今でもよく覚えている。

 

しかし、新たな出会いや発見もあった。

クラウンピース、じゅんこ人形とはこの世界で出会い、今まで使っていなかったルナ人形の強みもここで理解することが出来た。

この子達は今やすっかり私の旅のパートナーだ。頼りにさせて貰っている。

 

だが今思えば、それもこれも全て“舞島さん”がいてくれたお陰だ。あの時は疑問に思う余裕すらなかったが、あの時どうして彼も夢の世界に来ていたのだろう?

「次に会った時はライバルだ」と宣言しておきながら余りにも早すぎる再会で、思い出すと可笑しくて笑みが零れてしまった。

 

 

「おやおや、誰かと思えばいつかのお嬢さんではありませんか。何やら1人で楽しそうですねぇ」

 

 

「 わひゃっ!!? 」

 

 

目の前に突如現れたドレミーに驚かされ、反射的に奇声を上げてしまった。その反応を見て、またしてもドレミーはクスクスと笑っている。

ここが真っ暗どころか音もしない虚無の空間だからか、より一層彼女の不意打ちには対応出来ない。

 

「もう!ドレミーさんビックリさせないでよ」

 

「いや失礼。良い反応をされるものですからつい……あぁそういえば、あなたの意見を参考に安眠枕を改良してみたところ、売れ行きが上がりましてね。とっても感謝しておりますよ♪」

 

「え?あぁそうなの?」

 

「夢の世界の人形達も、あなたと舞島 鏡介さんのお陰で随分と大人しくしてくれています。まぁ、統率をしていた人形がいなくなったというのもあるのでしょうけど」

 

どうやら以前私が聞かれた安眠枕の使い心地の内容を取り入れたようだ。思ったことをそのまま適当に言っただけなのだが、案外それが良かったらしい。

この夢の世界を仕切っているドレミー・スイートでさえ人形の暴走には一切手を出せないとなると、いかに人形という生き物に危険性があるかを実感する。

巷で噂の人形解放戦線など、人形を悪用する集団が現れるのも非情だが仕方のないことかもしれない。

 

「それで、今回はどのような用件でいらしたんです?また「第四槐安通路」にご用事で?」

 

「ううん、違うの。今日はちょっと人形と話がしたくてね」

 

「人形と?ほう、それはまた何故?」

 

「べ、別にいいでしょ何だって」

 

「あらあら、何やら言いにくい事情がおありのようで。大変ですねぇ」

 

本当は知っているくせに敢えて理由を尋ねる辺り、このドレミーという妖怪はいい性格をしている。

そのお尻から生えたユラユラとうっとおしい尻尾を引っ張ってやろうかと、手をワキワキさせてバレない程度の怒りを表現してみせた。

 

「まぁ冗談はさておき、そういうことでしたらこの間のお礼も兼ねてお力になりましょう。このような空間では落ち着いて話も出来ないでしょうからね」

 

「――!?」

 

ドレミーがそう口にしたその瞬間、空間に歪みを生じた。

 

そして気が付けば私は足が地についておらず、そのまま落ちていく。突然の大空からの急速落下に頭の処理が追い付かず、訳も分からない中で情けない悲鳴を上げた。

 

「いってらっしゃ~い」

 

風を切る音で微かにしか聞こえない呑気な声、そして腹立たしい表情で片手を振っているドレミーが落ちるにつれてだんだんと小さくなっていく。

私は一言の文句も言う余裕もなく、その光景を只々眺めていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

常人ならば助からないような強い衝撃を、その地面は優しく吸収してくれる。

その弾みで私の体は再び宙を舞い、着地してはまた弾みを繰り返すこと約30秒……ようやく止まってくれた。

 

「……な、なんだったのよもう」

 

案の定、体には一切の損傷は見当たらない。ここが夢の世界で良かったと心の底から安堵する。

着地の際、どことなくスイート安眠枕の感触に似た心地いい柔らかさがあったような気もするが、何もいきなりこんな体験させなくてもいいのではないだろうか。

おまけにあんな大きな悲鳴を上げて……思い出すだけで恥ずかしい。ここに私以外の人がいなくて良かった。

 

それにしてもここは……さっきまで青空の中にいたというのに、気が付いたらまた別の世界に来てしまったようだ。

今度は柔らかい桃色の雲の上に乗っていて、大きな甘い食べ物や動物のぬいぐるみ、手作り感のある星の飾りがたくさん上からぶら下がっている。

見れば見る程可愛らしく不思議な世界で、思わず見とれてしまった。

 

『いつまでボーっとしているのかしら?全く情けない』

 

「 ひょわッ!? 」

 

呆れたのような声が背後から聞こえ、またも反射的に奇声を発してしまう。

この声にも私は聞き覚えがあった。忘れもしない。

 

「……げんちゃん。また糸から出てきたの?」

 

『嫌な予感がしたからね。先に脱出しておいたの。……きっと今頃、他の人形達は伸びているんじゃないかしらね』

 

「え?………あっ!」

 

げんげつ人形の忠告から事情を察し、急いで人形達を封印の糸から出してあげる。

 

『うぅ……目が回る~~』

 

『き、気持ち悪い……』

 

『へへ、なかなかCrazyな体験だったゼ……うっぷ』

 

『……み、未知の冒険であった』

 

ルナ、アリス、クラウンピース、すわこ人形は私が空中で激しく弾み続けた影響をもろに受けてしまったようで、体調が悪くなっている。

この様子から察するに、人形達も封印の糸の中で激しく揺らされていたのだろう。申し訳ないことをした。

 

『はぁ、少しは私達のことも意識して貰いたいものね』

 

「ご、ごめんなさい……」

 

『それもこれは今に始まったことじゃない。あなたの無茶な移動に付き合わされる身にもなって欲しいわ』

 

げんげつ人形の言う通り、河童の発明品を貰ってからの私は今程じゃないが激しく動き回っていたかもしれない。

その度にこのような悲惨ことになっていたとなると、確かに今後気を付けるべきだろう。

 

『げんげつ、なにもそんなにキツく言うことはないでしょう?この子はまだ子供なのです。元気があるのは大変宜しいことだと思いますわ』

 

『じゅんこ、あんたは甘すぎるのよ。子供だからといっても限度はあるわ。しっかり躾をしないとね』

 

『そういうあなたは光ちゃんに意地悪をし過ぎです。私達のマスターは光ちゃんだという自覚が、げんげつにはあるのですか?』

 

『ふん、ないわねそんなもの。あんた達のような間抜けと一緒にしないでくれる?』

 

『……聞き捨てなりませんね』

 

げんげつ人形と言い争いになっているじゅんこ人形から赤黒い炎が大きく燃え広がった。

9本の尻尾のように揺らぐその炎には深い憎しみが込められていて、今にもげんげつ人形を襲おうとしている。

 

「――ッ!じゅんちゃん落ち着いて!?」

 

『光ちゃんどいて。そいつを殺せない。そして何より、光ちゃんを侮辱したわ』

 

「喧嘩はダメ!私なら大丈夫だから……それに、げんちゃんの言ってる事も間違ってなんかいない。後先を考えない未熟者なのはホントだもの」

 

『………光ちゃん』

 

こちらの言い分を聞いたじゅんこ人形は静かに炎を収め、大人しくなる。じゅんこ人形が時々げんげつ人形と喧嘩をしていた原因は、まさか私に対することだったのだろうか。

じゅんこ人形はいつも私を気遣ってくれる優しい人形だ。今回こうして人形の言葉を聞き、それをより一層感じることが出来た気がする。そして、げんげつ人形が私をどう思っているのかも改めて……

 

「げんちゃん。私、あなたのことをまだ何も知らないわ。私の何が気に入らないのかも……分からない。だから、教えて欲しいの」

 

『………』

 

「このままずっとげんちゃんと仲が悪いのは嫌なの。我儘なのは分かってる!……でも、お願い。出来ることなら“何でも”するからっ!」

 

『(光ちゃん……)』

 

じゅんこ人形が見守る中、私は勇気を振り絞りげんげつ人形に思いを伝えた。

緊張しているのか、調子が狂い裏声になってしまったことを恥ずかしながらも、げんげつ人形の回答を待つ。

 

『………いいわ。お望みとあらば遠慮なく言ってあげる』

 

「!」

 

『……何もそんな顔しなくても』

 

「え?あ、ごめん。えへへ」

 

どうやら嬉しさが顔に出ていたらしい。でも、話してくれるとは思っていなかったから無理もない。

やっとげんげつ人形のことを少しでも知れるとなると、感情が表に出てしまうのも仕方のないことではないか。

 

その様子を見て、「止めておけばよかった」という顔をしつつ溜息を吐いたげんげつ人形は渋々話を始める。

 

 

『私があなたを気に入らない1番の理由はね』

 

 

『 “どうしようもなくダサい”からよ 』

 

 

 

「……ほえ?」

 

 

 

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